院長の健康情報コラム
車の運転と薬:飲んで大丈夫?
米国では、薬による死亡が1994年全死亡原因の4番目になっていて、できるだけ薬は最小限にすることが望まれています。また米国では2013年の事故死の一番は、麻薬などの過量服用死です。
日本でも、各疾患ごと、多数の薬があり、高齢で多疾患を抱える場合、多くの薬を内服することになり5~6種以上の薬内服で副作用の出現が多くなるポリファーマシーが問題となっています。
薬と運転に関しては、道路交通法第66条に「何人も、過労、病気、薬物 の の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で車両 等を運転してはならない。」と記載され、薬の副作用等によって正常な運転 ができない状態で運転することを禁止しています。
車の運転事故ベスト5
1) 安全不確認
2) 脇見運転
3) 動静不注視
4) 漫然運転
5) 運転操作不適
これらはどれも、人の集中力低下により生じる可能性があります。
疲れ、睡眠不足、考え事、スマホ運転、脱法ドラッグなどの影響の他にも風邪薬や医療用の薬による眠気や注意力低下が関与する可能性も考えらています。
平成25年5月29日、「医薬品服用中の自動車運転等の禁止等に関する患者への説明について」徹底するようにという厚生労働省の指導文書が出ています。
我々医療機関でも、皆さんへの車の運転と薬の問題点に関して、以前よりも患者さんにわかりやすい説明求められています。
👉
当院でも薬の処方時に薬局と協力しながら、今より一層わかりやすく説明していきたいと思っています。
今回のコラムを通して、車の運転と薬について、参考にして頂ければ幸いです
車とお酒については、厳格な取り締まりやアルコール検査もあり皆さんも注意されますが、薬と車の運転に関しては、事故をしてわかる以外確認の方法がありません。
運転者自身が、お酒と車の問題と同様に、お薬と車の運転に関しての問題点を認識していただくことが第一歩となります。
また、公共交通・トラック・タクシー会社の上司の方々、家族の方も薬の特性を知って服用管理を協力・指導していくことも大事です。
下記のHPの中で、自動車運転で服用を避けるまたは注意する薬一覧がありますので参考にしてください。
◆愛媛大学附属病院薬剤部資料:自動車運転などの禁止・注意の記載ある薬一覧
実際の服用に関しては、その患者さんにとって必要な薬は異なり、薬剤師または担当医と相談の上に判断して下さい。
当院で処方する機会が多い薬の一覧を、添付文書の中で車の運転での➊避ける❷翌朝も含め避ける❸注意する❹記載なしに関してまとめてみました。
分類 | 薬品名 | 避ける | 翌朝も含め避ける | 注意する | 記載なし |
抗ヒスタミン薬 | クラリチン | 〇 | |||
アレグラ | 〇 | ||||
デザレックス | 〇 | ||||
ビラノア | 〇 | ||||
エバステル | 〇 | ||||
アレジオン | 〇 | ||||
タリオン | 〇 | ||||
アレサガテープ | 〇 | ||||
アレロック | 〇 |
ザイザル | 〇 | ||||
ニポラジン | 〇 | ||||
ポララミン | 〇 | ||||
ジルテック | 〇 | ||||
PL顆粒 | 〇 | ||||
アタラックス | 〇 | ||||
アゼプチン | 〇 | ||||
ザイザル点鼻 | 〇 | ||||
ナゾネックス点鼻 | 〇 | ||||
アラミスト点鼻 | 〇 |
フルナーゼ点鼻 | 〇 | ||||
セレスタミン | 〇 | ||||
ペリアクチン | 〇 | ||||
抗ロイコトリエン薬 | オノン | 〇 | |||
キプレス | 〇 | ||||
抗生物質 | ジスロマック | 〇意識障害を注意 | |||
クラビット | 〇意識障害を注意 | ||||
ジェニナック | 〇意識障害を注意 | ||||
ミノマイシン | 〇 | ||||
アベロックス | 〇 |
咳止め | コデイン | 〇 | |||
メジコン | 〇 | ||||
レスプレン | 〇 | ||||
禁煙補助薬 | チャンピックス | 〇 | |||
鎮痛薬 | ボルタレン | 〇 | |||
ロキソニン | 〇 | ||||
カロナール | 〇 | ||||
セレコックス | 〇 | ||||
ポンタール | 〇 | ||||
ソランタール | 〇 |
肩こり薬 | テルネリン | 〇 | |||
ミオナール | 〇 | ||||
睡眠・精神薬 | ロゼレム | 〇 | |||
ベルソムラ | 〇 | ||||
マイスリー | 〇 | ||||
ルネスタ | 〇 | ||||
ジェイソロフト | 〇 | ||||
パキシル | 〇 | ||||
レクサプロ | 〇 | ||||
サインバルタ | 〇 |
トレドミン | 〇 | ||||
イフェクサー | 〇 | ||||
リーゼ | 〇 | ||||
メイラックス | 〇 | ||||
レキソタン | 〇 | ||||
セディール | 〇 | ||||
グランダキソン | 〇 | ||||
デパス | 〇 | ||||
レンドルミン | 〇 | ||||
スルピリド | 〇 |
神経痛薬 | リリカ | 〇 | |||
消化器薬 | ナウゼリン | 〇 | |||
プリンペラン | 〇 | ||||
抗ウイルス薬 | タミフル | 〇 | |||
ゾビラックス | 〇 | ||||
バルトレックス | 〇 | ||||
アシクロビル | 〇 | ||||
糖尿病薬 | メトグルコ | 〇低血糖 | |||
グラクティブ | 〇低血糖 | ||||
グリメピリド | 〇低血糖 |
循環器薬 | アジルバ | 〇 | |||
アムロジン | 〇 | ||||
ブロプレス | 〇 | ||||
カルデナリン | 〇 | ||||
カプトリル | 〇 | ||||
シェーグレン病薬 | サラジェン | 〇夜間の運転 | |||
サリグレン | 〇夜間の運転 | ||||
片頭痛薬 | ゾーミック | 〇 | |||
妊婦&授乳と薬:飲んで大丈夫?
薬は通常の人にとっても、作用があれば副作用もあるとお考えください。
妊婦・授乳婦さんは、それ以上の問題点が多くあり服用は慎重になります。
◆妊婦と薬のリスクと授乳の時の服用の危険度は違います
妊婦と薬の使用は慎重に対応する必要がありますが、授乳と薬では、妊婦で服用できる薬の他に、多くの薬の服用ができます。
授乳は人工乳よりメリットが多く、授乳と服用を両立できることがほとんどです。
👉 まず妊娠と薬について学びましょう!!
◆流産と奇形の自然発生率
流産の自然発生率15%前後
奇形の自然発生率3%前後(ベースラインリスク)
奇形と流産のほとんどは自然経過の中で起こっています。
薬剤の奇形への影響0.02%程度
奇形の中で薬が原因の奇形は1~2%
薬が原因の奇形は、てんかんの患者さんが、催奇形性が明らかな抗てんかん薬などを使用したまま妊娠継続するしかない場合がほとんどです。
催奇形性のはっきりした薬以外が原因となる確率は非常に低いものと考えられています。
◆妊娠の時期と薬の影響は異なります
*妊娠3週まで(最終月経の初日から計算します)
この時期は、薬による奇形の影響は出ません。
薬による有害な影響があった場合は、着床しないか流産の結果となります。
不妊治療中であれば、担当の産婦人科医と相談して服用して下さい。
*妊娠4週~15週
特に4週~7週は重要臓器ができる絶対過敏期(催奇形性に対して最も過敏な時期)
8~15週は薬に対する過敏性は低下する時期です。
*16週~分娩まで
催奇形性の心配はなくなりますが、胎児毒性が問題となります。
胎児毒性とは、お腹の赤ちゃんの発育や機能に悪影響が及ぶことを言います。
服用するとそのほとんどは胎盤を通過し、お腹の赤ちゃんにも届いてしまします。
妊娠初期より妊娠後期に服用すると出やすくなります。
~~催奇形性が明らかな薬(妊娠4週~15週で問題)~~
●高リスク(25%<)
サリドマイド、
男性ホルモン、
蛋白同化ホルモン(筋肉増強剤です;医療用ステロイドとは違います)
●中リスク(10~25%)
ワーファリン、
チョコラA
●低リスク(10%>)
抗てんかん薬
メトトレキセート(リウマチ)
メルカゾール(バセドウ)
リーマス(躁鬱)
抗ガン薬
アルコール:4週~7週でアルコール摂取は奇形の可能性があります。
~~胎児毒性のリスクのある主な薬と物質(妊娠16週~分娩)~~
タバコ➡胎児発育不全、早流産など起こします
アルコール➡胎児性アルコール症候群を起こします。 禁酒を!
カフェイン➡胎児の発達に影響します。コーヒー1日2杯まで、WHO推奨摂取量300mgまで
ヨード(イソジンガーグル、のどぬーるスプレー)
非ステロイド性抗炎症薬(ボルタレン、ロキソニン、イブなど)➡鎮痛解熱は、アセトアミノフェンが第一選択
メルカゾール、ベンゾジアゼピン系抗不安・睡眠薬、降圧薬の大多数
◆健康志向妊婦さんの落とし穴;チョコラAとイソジンガーグル
*チョコラA(ビタミンA,レチノール)
妊娠初期のビタミンAの多量服用が奇形の発言率を高めることがわかっています。
摂取上限は2700µgRAE/日、推奨量は妊婦では650~780µgRAE/日、
一般的には食事からの摂取で十分と言われています。
マルチビタミンにも含有されていることがあり注意して下さい。
レバーやウナギにも多く含まれているため、妊娠15週までは控えましょう。
不足もよくありませんので、緑黄色野菜や果物に含まれるβ―カロテンから摂取するようにしましょう。
β―カロテンは、体内でビタミンAが不足した場合に、必要な分だけビタミンA変換されるため過剰摂取の心配はありません。
*ヨード(イソジンガーグル、のどぬーるスプレー)
ヨードは甲状腺ホルモンの主原料で、日本人の成人の摂取上限量は3.0mg/日、妊婦は2.0㎎/日です。
海藻を多く摂取する日本人の食生活では、ヨードの欠乏はあまりみられません。
妊娠中の過剰摂取は、新生児の一過性甲状腺機能低下症(クレチン症)を引き起こすと言われています。
イソジンうがい薬:3うがいを1日3回すれば5.0mg/日のヨード負荷となり過剰になります
のどぬーるスプレー:1回2~3噴霧を2回~5回/日すれば、5~19mg/日のヨード負荷となり過剰です。
◆お勧めの栄養素は?
葉酸:
妊娠一ヶ月以上まえから妊娠12週までの期間は、二分脊椎などの予防のため食品(緑黄色野菜に葉酸が多い)の他に葉酸のサプリを0.4mg/日の摂取を推奨されています。
カルシウムとビタミンD:
妊娠中期から後期にかけて積極的に摂取します。
胎児の骨形成に重要で、妊婦のイライラ、高血圧、腰痛予防にもなります。
鉄:
妊娠中期以降、鉄の必要量は、非妊時の月経が無いときの3倍程度に増加するため食品以外にも貧血予防のため、サプリでの摂取も推奨されますが、大量摂取での肝機能障害のこともあり、1日上限40mgまでにします。
◆妊婦さんと風邪、花粉症、片頭痛、感染症、喘息、消化器症状、不眠、アトピー、ヘルペスでの薬の注意点
➡解熱鎮痛薬はアセトアミノフェンを使用します。妊娠初期の発熱は、先天奇形との関連が報告されていますので、積極的に使用します。ボルタレン、ロキソニン、イブなどは胎児毒性として、動脈管収縮の報告があります。プロスタグランジン合成阻害しない塩基性のソランタールも使えます。唯一のアセトアミノフェンでの問題は、ADHD,多動、自閉症が言われていますが結論は出ていません。低用量アスピリンだけは、抗リン脂質抗体症候群、妊娠高血圧症候群の予防で使用されます。尿路結石など激しい痛みにはペンタゾシンを屯用で使います。トラマドールは使いません。
➡片頭痛の痛み止めもアセトアミノフェンを使います。妊娠中は片頭痛が改善するため薬を使わなくなります。予防薬のミグシス、バルプロ酸は禁止、必要な場合はβ遮断薬のプロプラノロールを使います。日本頭痛学会HP(サイト)から
➡感染症では、妊婦さんはハイリスク患者となります。セフェム系、ペニシリン系、マクロライド系、クリンダマイシンは使用可能となっています。アモキシリン・クラブラン酸(オーグメンチン、ユナシン)は予防的長期使用で胎児壊死性腸炎増加が指摘されていますので、最小限の使用にします。外来点滴はセフトリアキソンにします。風邪の時のうがいについて、水やお茶で効果がある事がわかっています。問題が多いイソジンうがいを使う必要はありません。またインフルエンザ予防にはうがいの効果は疑問視されています。手洗いが最も重要で、咳エチケットとしてマスクを使用します。漢方は比較的安全に使えます。麻黄含有の葛根湯などの長期使用は控えます。
➡妊婦のインフルエンザ感染は、ハイリスクとなり、インフルエンザワクチンは、妊婦の全時期で、接種を推奨されています。インフルエンザ薬のリレンザはアメリカFDAのカテゴリーB(ヒトでの危険性の証拠はない)タミフルはカテゴリーC(危険性を否定することが出来ない)吸入薬のイナビルも使用できます。担当医の判断ですが、タミフルが治療と予防投与ともに使われることが多いと思います。妊婦さんは、重症化しやすく治療を優先した対応が望まれます。チメロサール含有インフルエンザワクチンのチメロサールは極少量のため胎児への影響はないとされています。懸念されていた自閉症との関連も否定されています。注射のラピアクタも使用可能ですが、添付文書で動物実験での流産・早産の記述あります。妊婦にインフルエンザワクチン接種することにより生後6ヶ月児のインフルエンザ罹患率を減少させます。
➡花粉症では、インタールなどの外用薬から使用します。血管収縮剤の点鼻は、子宮収縮の可能性があります。歴史が長いポララミンを屯用で使用することもあります。改善なければ、クラリチン、アレグラなど最小限で内服します。
妊娠中は妊娠性鼻炎を起こしやすくなります。
➡咳止めはメジコンを使います。激しい咳の持続は、切迫早産の原因になりかねません。
➡喘息について、妊娠による喘息症状の変化は、増悪、不変、改善が1/3ずつと言われています。発作による母児の低酸素血症が問題となりますので、自己判断で中止せず、妊娠前と同様にぜんそく薬は、吸入ステロイドを主に使用します。妊娠の時期により、喘息の状態は異なり、24週~36週で最も悪化して、37週~40週で症状の改善がみられる報告もあるようです。薬できちんとコントロールすれば、妊娠中の悪化は多くないようです。
悪化時に、ステロイド薬の服用が必要なことがあります。プレドニゾロンは、胎盤で代謝され不活化するので胎児への影響は少ないと言われています。
妊娠初期のプレドニゾロンの服用で、動物実験で口蓋裂のリスク上昇の報告がありますが、人での因果関係ははっきりしません。
妊婦の流早産を予防するウメテリンは、子宮筋選択性β2刺激薬です。喘息の吸入、内服、テープや麻黄湯、葛根湯、麻杏甘石湯、五虎湯なども喘息や風邪で服用する漢方にもβ刺激作用の成分があり注意が必要です。
➡便秘では、漢方の生薬の大黄、芒硝は控え、桂枝加芍薬湯、小建中湯などから使用します。西洋薬では、酸化マグネシウム、刺激性下剤では、ピコスルファートナトリウム(ラキソベロン)が推奨されています。
健康食品のアロエは避けます。羊水中へ胎便の排出を促すことがあります。
➡吐き気では、小半夏加茯苓湯、プリンペランを使用。
➡胃薬・胃潰瘍では、ガスターを使用。
➡不眠は睡眠指導を行い、漢方(桂枝加竜骨牡蛎湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、加味逍遥散、酸棗仁湯、帰脾湯、抑肝散)で対応します。 妊娠後期に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の連用で新生児薬物離脱症候群(一過性傾眠、呼吸機能低下)を生じることがあります。
➡アトピーでのステロイド外用の軟膏・クリーム使用について、ほとんど体内に吸収されません。
タクロリムス軟膏やニキビのディフェリンゲルは添付文書では、妊婦は禁止となっています。
➡帯状疱疹・ヘルペスでは、パラシクロビル、アシクロビル、内服・外用・点滴いずれも使用可能です。
◆妊婦とステロイドの使用についてまとめ
ステロイド外用軟膏および、その他の外用ステロイドの吸入、点眼、点鼻も用量の範囲では、ほとんど体内に吸収されません。特に、最近販売された点鼻の吸収はほとんどありません。
ステロイドホルモンの中で、プレドニゾロンは、胎盤で代謝され不活化するので胎児への影響は少ないと言われています。
妊娠初期のプレドニゾロンの服用で、動物実験で口蓋裂のリスク上昇の報告がありますが、人での因果関係について、はっきりしません。
◆妊娠時に控える漢方
妊娠の時も漢方は使いやすい薬として認知されていますが、妊娠初期の過敏期はどの薬も控えた方が望ましく、大黄、牡丹皮、桃仁、紅花、牛膝、芒硝を含む桂枝茯苓丸、桃核承気湯、通導散などの強い駆お血剤は控えた方がよいといわれています。
◆授乳と薬
薬の添付文書には、
『母乳中へ移行する可能性があるので使用中の授乳は避けさせること』
とほとんどの添付文書に記載あり、この通りに従うとほとんどの授乳婦は、薬が服用できないことになります。
実際は、服用できる薬のほうが多く、世界的に啓発活動が行われ、日本では国立成育医療センター、各県の薬剤師会が、資料を提供して皆さんや医療従事者に啓発活動を行っています。
~愛知県薬剤師会HPより;母乳の大切さ~
赤ちゃんにとってのメリット
・栄養のバランスが最適で、牛乳によるアレルギーがない
・消化・吸収・排泄がよく、内臓の負担が少ない
・認知機能の発達
・免疫の獲得
・肥満、高コレステロール血症、糖尿病、高血圧などの発症リスクの低減
お母さんにとってのメリット
・乳がん、卵巣がんなどの発生を減少
・骨粗鬆症、関節リウマチ、糖尿病の発生を減少
・月経再開を遅らせ、貧血を予防
・体重を落とし、産後の肥満を防止
社会にとってのメリット
・赤ちゃんとお母さんの疾患発生率を減少することで、医療費の削減につながる
お母さんが、服用したお薬のほとんどは母乳の中に分泌されますが、その量はお母さんが服用した量の1%以下で、たいていの場合、薬を使いながら母乳育児を継続できます。
国立成育医療センターのHPでは、授乳に適さない薬として
アミオダロン(抗不整脈薬)コカイン(麻薬)ヨウ化ナトリウム(放射性ヨウ素)だけになっています。
その他に適さない薬としては、抗ガン剤、免疫抑制剤などの限られた薬になります。
➡服用のタイミング
服用の母乳中の薬の濃度が最高になるのは服用後2~3時間後なので、お母さんが服用直前または直後に授乳すれば、赤ちゃんへの影響を最小にすることが出来ます。
*インフルエンザ薬(リレンザ、タミフル、イナビル)風邪薬、抗生剤、アレルギー薬、イブ・ロキソニンなどほとんどの薬を内服可能です。
*エリスロシンは肥厚性幽門狭窄症を認めた報告があり、生後一か月は回避します。
*クロラムフェニコールやテトラサイクリン系は推奨されません。
*授乳とプレドニゾロン服用について、添付文書では授乳は避けるですが、
米国小児科学会では、通常授乳で服用可能、Medicattion and Mothers’ milkでは比較的安全、
大分県薬剤師会の母乳とくすりハンドブックでは、40㎎/日以上または長期服用では授乳まで4時間以上あけるとなっています。
つまりプレドニゾロン30mg/日以下であれば授乳中の服用は問題ないことになります。
*片頭痛のトリプタンは24時間あけて授乳します。
➡飲酒は母乳分泌を減らしますので、飲酒後2時間して授乳して下さい。
➡タバコは、お母さんの血中ニコチン濃度の1.5倍~3倍の濃度で母乳へ移行し、母乳分泌量を減らします。赤ちゃんの前では絶対に吸わないことです。
◆それぞれの薬の服用にいて役に立つホームページ
妊婦と薬 主な薬の危険度;お薬110当番
授乳と薬の適する薬;国立成育医療センターHP
大分県薬剤師会 母乳とくすりのハンドブック2010年版
愛知県薬剤師会;妊娠・授乳と薬
参考資料 上記のホームページ、 妊娠・授乳と薬の知識/村島 温子など 医学書院、大分県薬剤師会;母乳と薬ハンドブック2017年
自分で行うスギ花粉対策(黄砂・PM2.5)
2月中旬以降から3月頃までは、スギ・ヒノキ花粉症の患者さんが急に多くなります。人によっては、4~5月初旬まで持続します。どうしたら症状が出ずにすむのか、セルフケアを中心にまとめてみました。
◆一般的な自分で行う花粉予防は、ネットで検索すればたくさん出てきます。
花粉症ナビ:自分でできる花粉症対策(サイト)をまず見てください。よくまとまっています。
根本的な対応は、➊体質を変えて治すこと、❷花粉に遭遇しない事です。
体質を変えることは、今回はのべません。薬物治療は対象療法ですので、担当医と相談してください。2月頃から花粉症初期療法の服用も考えましょう。花粉症に遭遇しない事を中心に、特に気を付けていただきたい事を説明します。花粉症が出るかどうかは、個人によって違い、居住地域と生活・遊び・仕事などの行動範囲で異なります。
➡ 自称花粉症
病院で診断を受けた人は良いのですが、自称花粉症の方が多くいらっしゃいます。クリニックでも、検査希望せず、本人の花粉症の診断の申告で、治療を開始して、数年たって検査をしたら、スギ花粉症ではなかった方も時々みかけます。スギ・ヒノキ花粉症ではなく、老人性鼻炎・寒暖差による鼻炎、ダニアレルギーの季節的な悪化、イネ科花粉などスギ花粉症以外の疾患であることがあり、このような方には2月から4月の花粉症対策は必要ありません。症状があれば、薬での一時的な対症療法となります。鹿児島では少ないですが、東北以北に居住歴ある方は、ハンノキ・シラカバ花粉をスギ花粉と間違えることがあります。
報告では、自称花粉症の4~5人に1人は、本当はスギ・ヒノキ花粉症ではない方がいらっしゃるようです。
花粉飛散に一致して、鼻や眼の症状があり、採血での特異的IgE陽性または皮膚テストが陽性であれば、ほぼ間違いなくスギ・ヒノキ花粉と考えます。
➡ 避花粉地(スギヒノキ花粉が飛ばない地域)と行動指針
避花粉地は、外国、北海道、沖縄、奄美大島、八丈島、小笠原諸島、長崎県的山大島です。スギ・ヒノキ花粉シーズン中は、一度出かけてみてはいかがでしょうか。鹿児島に近い種子島は、スギ林はありますが、地形の関係からか、患者さんからの話では、症状が出にくいと聞きます。
◆2008年の花粉症有病率が高い県は 全国平均26.5%
➊山梨(44.5%)❷高知❸埼玉❹栃木❺静岡❻岐阜❼奈良❽三重・・・東京(32.1%)と続きます。関東地方が最も多く、次に関西、四国、中国地方が多くなります。
◆2008年の花粉症有病率が低い県は
➊北海道(2.2%)❷沖縄❸宮崎(8.2%)❹鹿児島(12.1%)❺岩手❻青森❼島根❽熊本(13.6%)と続きます。北部九州の有病率は中間程度です。宮崎と鹿児島は、沖縄と北海道を除いて最も少ない県の一つになります。 東北も少ない地域です。
◆2007年のスギ人工林比率が高い県は、
➊宮崎(38%)❷秋田❸徳島❹大分(30%)❺奈良❻福井❼富山❽山形と続きます。九州では宮崎、大分がスギが多い県となります。
◆2007年のスギ人工林比率が低い県は、
➊沖縄(0%)❷北海道❸香川(2%)❹大阪❺長野❻山梨(6%)❼広島❽岡山・・・・東京(11%)・・・・鹿児島(17%)と続きます。
香川は、スギ人工林比率が非常に低い県ですが、他の関西四国地区とほぼ同じように有病率(21.5%)は高く、周辺県からの風向きの影響が考えられます。県単位のスギ人工林比率と有病率は比例せず、宮崎は最もスギ人工林比率が高く(38%)、有病率は低率(8.2%)です。山梨、東京、埼玉などは、スギ人工林比率は低いが、有病率は高率です。
👉スギが多いから花粉症になり易いわけではない!!
『花粉症有病率の悪化関連因子』
排気ガス、地表面のアスファルト、気温、日照時間や降水量(花粉は夏の日射量が多く、降水量が少ないほど飛散量が多くなるといわれる)風向き、樹齢(30年以上で花粉量増加)などが有病率には関係してきます。単純に、その地域にスギが多いからスギ花粉症になり易いわけではありません。
鹿児島からは、北部九州や関東に出かける時は十分な予防が必要です。スギ人工林比率が高い大分、宮崎に出かける時も注意して下さい。
➡ 天気予報・花粉症情報をまめに確認する
花粉飛散情報の要注意日(花粉症ナビから)
1:天気が晴れまたは曇り
2:最高気温が高い
3:湿度が低い
4:やや強い南風が吹き、その後北風に変化したとき
5:前日が雨
以上から、前日または当日の未明まで雨で、その後天気が急に回復して晴れ、南風が吹いて気温が高くなる日が要注意日となります(日本気象協会作成)1日のうち飛散の多い時間帯(午後1時~3時頃 夕方午後5時~7時頃《注:地域によって差があります》)の外出もなるべく控えましょう。
👉 花粉飛散予報がシーズンになると、ネットやテレビで配信されますが、クリニックでの実際の花粉症悪化による受診患者数などから判断すると、花粉予報は、当たっていないこともあります。
上記の花粉飛散情報の要注意日を覚えて、毎日の天気予報から、自分で判断した方がよいこともあります。
下記のほぼリアルタイムで発信される花粉情報が、信頼が高いので、飛散シーズンは毎日数回、出かける場所も含めて確認しましょう。
◆九州各県は、国立福岡病院発信の花粉情報 (サイト)スギとヒノキ別々に確認できます。
➡ 外出時の注意点と眼と鼻のセルフケア
帽子・メガネ・マスク・マフラーを身につけて。コートもツルツルした素材を選びましょう。ウールは控えます。花粉症は、目と目の周囲の皮膚、そして鼻に症状が強く出ますので、眼鏡とマスクの選択が重要です。
◆めがね:
プラスチックの覆いがサイドパネルとして一体化した眼鏡が効果的です。結膜上の花粉数は、花粉症眼鏡で35%、通常眼鏡で58%に減少させます。飛散時期は、コンタクトレンズは控え、眼鏡を使用します。
➡ 市販点眼液の使用法
セルフケアとして、通常点眼液に含有されるベンザルコニウム塩化物などの防腐剤による角膜上皮障害が問題となるため、防腐剤無添加の市販の人工涙液での頻回点眼を勧めます。人工涙液点眼で洗眼効果は十分あります。冷蔵庫で冷やしてから点眼すると症状緩和効果が高まることがあります。
カップ式洗浄器具は、眼周囲の皮膚の汚れや皮膚に付着したアレルゲンをかえって眼表面に接触させることになりますので使用には注意して下さい。具体的には、市販の人工涙液の点眼(ソフトサンティア、ロートソフトワン点眼)または点眼型洗眼型ウエルウオッシュアイを、薬用点眼液の使用前に使います。花粉を洗い出した後に、市販の薬用点眼(抗ヒスタミン)を使用すれば効果が高まります。
ガーゼより鼻にフィットした不織布マスクが効果的。鼻内花粉数は、花粉症マスクで16%、通常マスクで29%に減少させます。鼻洗いも効果がありますが、鼻閉がひどい時は控えて下さい。ぬるま湯で0.9%の生理食塩水(500mlの水に4.5g程度の食塩を添加)で行ってください。
◆ワセリン(プロペト)
外国では、鼻の入り口に塗ると効果があるようです。
➡ 花粉症セルフケア3原則
➊花粉をもちこまない:眼鏡 マスク 帽子 ポリエステル系上着使用 ウールは控える。
❷花粉を排除:
手洗い、うがい、洗顔、鼻と眼の洗い、帰ればシャワーまたは入浴をして洗髪もします。洗顔と洗髪は、スギ花粉皮膚炎である上・下眼瞼炎の予防にもなります。
❸花粉を室内にまき散らさない:
外に洗濯物・ふとんを干さないで部屋干しまたは乾燥機使用、どうしても外に干したければ朝早めに行います。窓を閉める、空気清浄器を使用。
初期療法開始時期
抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬は、花粉飛散予測日または症状が少しでも現れた時点で服用。鼻噴霧ステロイドも初期療法として、シーズン中の鼻と眼症状ともに効果認めます。
➡ 忘れてはいけない黄砂飛来とPM2.5 (特に九州北部と西日本)アレルギーの方だけでなく健康者にも目の痒み・咳・くしゃみ・喉の違和感などを生じさせます。
スギ・ヒノキ花粉症と同時期に問題となる黄砂・PM2.5情報にも気を配り、花粉症と同様のセルフケアが必要になります。PM2.5は粒子が小さく、通常のマスクでの防御は限られますので、外出を控える事が大事です。黄砂・PM2.5は花粉症の増悪因子と考えられています。下記のHPで2~5月は確認してみましょう。
*気象庁PM2.5分布 鹿児島(サイト)
*九州大学 黄砂とPM2.5 黄砂とPM2.5を同時に確認(サイト)
*気象庁黄砂分布 大気と地表別々表示 動画表示あります。(サイト)
中国大陸内陸部の砂漠で風によって上空に巻き上げられた土壌・鉱物粒子が東アジア広範囲に飛来して、大気中に浮遊あるいは降下する現象。日本では4月をピークに2~5月に観測日数の9割が観察されます。スギ・ヒノキ花粉飛散と同時期のため、黄砂粒子は,アレルギー反応を誘発し、花粉症と喘息の増悪に関与する可能性が指摘されています。黄砂はその他にも、皮膚炎、急性心筋梗塞、脳梗塞への影響が報告されています。
◆PM2.5:
微小粒子状物質(PM2.5)2.5µm以下の粒子で、スギ花粉の大きさは30µm程度に比べると、PM2.5は非常に小さいため肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器系(肺がん、喘息など)や循環器系へ影響を与えます。花粉の粒子は大きいため、鼻など上気道で、主に症状が出現します。中国大陸の都市部からの飛来と自国の自動車・工場・タバコ・火山灰なども関与します
『PM2.5の生成について』
➊物の燃焼による直接排泄(焼却炉、喫煙、火山、自動車など)されるもの
❷環境大気中の化学反応により生成されるもの
があります。
『花粉症との関係』
PM2.5の一部であるディーゼル排気粒子が、鼻アレルギーおよびアレルギー結膜炎を悪化させる報告があります。
『黄砂との関係』
日本へ飛来する黄砂粒子は4µm程度が主で、2.5µm以下の粒子も含まれているため、PM2.5濃度も上昇することがあります。西日本を中心に、我が国へ流入してくる可能性があります。
『PM2.5の人への健康障害のメカニズム』
➊DNA損傷 ❷酸化ストレスの亢進 ❸炎症性サイトカインの産生亢進
が考えられています。
PM2.5日平均濃度が10µm/m³上昇するごとに循環器系死亡1.2%~2.7%増加、呼吸系死亡0.8~2.7%増加することが認められています。
👉 PM2.5の基準値として以下の基準がありますので、活動の基準にしてください。
1日平均値
70µm/m³以上:不要不急の外出、屋外での長時間の激しい運動を控える。
35µm/m³以下:健康を保護する上で望ましい基準
参考資料 環境による健康リスク;日本医師会 花粉症の都道府県別有病率HP 厚生労働省;花粉症特集HP
kyowa kirin 花粉症ナビHP 環境省;PM2.5に関する情報HP
自分で行う医学的ボイトレ(音声治療)
今回は、自分で行う声がれ対策(声の衛生)の続きで、『音声障害』と『音声治療』の話です。
➡ 音声治療とは
『音声治療』とは、望ましくない発声行動を変えて、声がれなどの音声障害を、時間をかけて治療していくことです。
『音声障害』は、声帯(声の乱用、誤用)、呼気(呼気不足)、聴覚(難聴)、ホルモン(変声期、性同一障害)心因に関連しておこります。
主に声帯と呼気に関連した疾患で、声の乱用や誤用が原因となる機能的異常が、音声治療の対象です。喉頭癌は対象外です。
➡ 歌がうまくなるために行う『ボイトレ』と『音声治療』の違いについて
ボイトレとは、ボイストレーニングの略で、ボイストレーナーが行います。
『音声治療』では、望ましくない発声行動により生じた声がれなどの音声障害を、医療行為として言語聴覚士などが治療していく行為です。歌がうまくなるために行うボイトレとは目的が違います。クリニック・病院の音声外来では、医師が薬物治療、手術、声の衛生生活指導を行い、医師の指示のもと共同しながら言語聴覚士が、実際の音声治療と声の衛生指導を行います,『音声治療』と『ボイトレ』は目指す目的と一部の方法は違いますが、やり方の基本は似たところが多く、音声治療は医学的なボイストレーニング『医学的ボイトレ』と考えてください。
望ましい発声行動は、こころを豊かにする
毎日のコミュニケーション、日常会話から仕事の接客、講演、そして趣味の合唱団、カラオケ、楽しみで歌うことなど、生活をしていくうえで声を使わないことは考えられません。
英語の発声にも、音声治療で必要な腹式呼吸を必要とします。
最近では、高齢者の誤飲性肺炎予防にもカラオケ、朗読を積極的にすすめます。
望ましい発声行動で話すことは、相手に好印象をあたえ、自分にとっての自信にもつながります。
イライラしたり怒っていては、腹式呼吸で共鳴が効いた落ち着いた良い声は出せません。腹式呼吸でゆっくり深呼吸すれば落ち着かせることも可能です。良い発声を行い、音楽やコミュニケーションをとおして心豊かな生活をもたらしましょう。
【音声外来について】
『音声外来』とは、
耳鼻咽喉科医師と言語聴覚士が共同して、声をよく使う職業人(教師、インストラクター、アナウンサー、歌手など)から一般の人までの声の問題を、専門に治療をおこなう所です。ネットで検索すると、東京、大阪、京都、福岡など都会には、音声外来がでてきますが、地方では、あまり見かけません。
専門の音声外来のプログラムでは、施設により異なりますが、言語聴覚士が担当して、週に1回30~60分通院して、自主訓練を行いながら音声治療を行います。数ヶ月程度通院して行うようです。報告によると、治療開始6週まではドロップアウト率は20%程度ですが、それ以上長期になると終了を待たずに、ドロップアウト率は60%程度に達するとようです。患者さんは『とりあえず音声治療を試してみよう』と考えますが、効果が実感できずにドロップアウトにつながって行くようです。
習慣化した望ましくない発声行動を、望ましい発声行動に再度習慣化することは簡単ではないと理解して下さい。
👉
当院も含めて通常の耳鼻咽喉科クリニックでは、言語聴覚士がいないため専門の音声外来と同じことは出来ません。
たとえ言語聴覚士がいても音声障害を専門とする言語聴覚士は、日本では全体の1%にも満たないようですので、しっかりとした音声外来ができるところは限られています。今回は、望ましい発声行動を導く考え方や方法論を学んでいただき、自分で行動をおこして時間をかけて、自分の間違った発声行動を変えていくきっかけにしてください。今回紹介する方法は、言語聴覚士を必要とする方法も多くありますが、自分で行える方法もありますので、自分で考え無理せずチャレンジしてみましょう。Youtubeなどの動画を参考に行うとイメージがわきやすくなります。
☞ 音声治療の包括的訓練
(望ましい発声行動を導く考え方と方法論)
発声の生理を包括的に捉えることを基本として、
➊ 呼吸(腹式呼吸で気流発声)
❷ 発声(喉頭負荷を軽減)
❸ 共鳴(鼻腔・咽頭共鳴を促進)のバランスを整え、内喉頭筋の緊張を調整することで、
声帯振動を正常化することを目的とした包括的訓練を行います。
これが、皆さんに行ってほしい訓練の考え方です。
その他に、声帯の緊張を緩めたり、声帯閉鎖を強化する症状対処的訓練がありますが、
近年では症状対処的訓練のみでの効果は乏しいことが報告されています。
本来音声は日常会話において行われるべきものであるので、症状対処的に限局して行うより包括的訓練のほうが一般的になってきています。症状対処的訓練と包括的訓練を組み合わせて行い、そして各個人の音声障害の背景を分析した声の衛生指導を行うことで発声機能の改善が期待されます。
☞ 耳鼻咽喉科医師による病態の正確な把握
(音声障害出現でまず第一に行うことです)
➊音声治療を行う上で、留意点として、声がれなどの症状に対して音声治療の適応と限界の確認、癌の可能性がないかなどの病態を正確に把握することです。
❷ 音声治療の適応があれば、何が問題かを把握して適切な治療法を選択することです。
❸ アナウンサー、歌手、音楽教師の声に対する要求はかなり高いものになりますので、
声に対する要求度に応じた目標を明確にすることです。
声を使う職業人は、専門の音声外来受診(言語聴覚士またはボイストレーナーが実際の指導を行う)が望ましいことがあります。
保険外診療のこともありますので確認して下さい。
具体的には、耳鼻咽喉科医師による以下の正確な病態把握を行います。
*タバコ・食事・生活習慣・胃食道逆流症・ストレスに問題がないか
*鼻呼吸障害・口呼吸はないか(鼻腔・上咽頭・副鼻腔の診察)
*声帯粘膜障害や喉頭の癌などの形態異常がないか(内視鏡)
*発声時の咽喉頭症状や状態はどうか(内視鏡、喉頭ストロボ)
*癌、動脈瘤、中枢疾患による声帯麻痺はないか(内視鏡、胸部・頭部などの画像診断)
*仕事(教師、インストラクターなど)・生活・環境の中で発声行動に問題がないか
*腹式呼吸は行われているか
*胸式呼吸や喉に力を入れたのど詰め発声ではないか
*高齢者では、筋力や体重減少、会話の減少、家族内孤立、独居、周りに話す人がいるか
☞ 音声訓練の実際
腹式呼吸:声は腹式呼吸と腹圧による気流発声から始まります。
腹式呼吸は、英語の発声、発音にも通じますので、子供のころから意識させるようにして下さい。
犬のあえぐような呼吸と発声も参考になります。
腹式呼吸基本臥位youtube
松永敦耳鼻咽喉科医師による腹式呼吸・喉下げ・ベルカント YouTube ボイトレセミナーの一部です。
松永敦耳鼻咽喉科医師による腹式と胸式呼吸・母音発声YouTube 腹式呼吸は肩をあげずに行います。
松永敦耳鼻咽喉科医師による腹式呼吸・母音発声と顎の使い方YouTube
Dr Dの英語の発声腹式呼吸YouTube
セラの英語の発声とドッグブレスYouTube
症状対処的訓練(症状に応じて、音声そのものを変える訓練です)
➊ 声帯の緊張を緩め、軟らかい声を出すために身体の自然な反応を利用する方法
対象:筋緊張性発声障害MTD(内外喉頭筋の過度な緊張が原因、のどに力が入り過ぎです)
疾患と背景:
下記の病気と関係して起こり事も多く薬物療法と組み合わせて行うこともあります。
*胃食道逆流症による喉頭肉芽腫(PPIなどの胃薬併用)
*鼻疾患による後鼻漏に刺激による声帯炎(鼻疾患の治療併用)
*不適切な発声習慣による声帯炎、声帯結節
*心理的背景の関与(心理療法の併用)
診断:
発声時の内視鏡による喉頭声帯所見で判断します。
医学的タイプでは下記の分類の報告あります。
タイプ1:声門後部の間隙 タイプ2:両仮声帯の接近
タイプ3:声門上部構造の前後方向の接近 タイプ4:声門上部構造の前後方向の閉鎖
方法:どうしたら喉の緊張が取れるか
*あくびため息法
咽頭の奥を広くして喉を下げながら息を吸い、ため息のように息を吐き、吐き出す息に声をのせながら単語から文へと発声時間を長くします。咽頭共鳴を促進します。
あくびで喉の奥を広げ、広げたイメージで普通の会話へ発展させます。赤ちゃんが大きな声で泣けるのもこの喉の使い方で行っています。
*咀嚼法
ガムなどを噛みながら発声し、声帯の緊張を緩和する方法です。慣れたら噛んでいるつもりになって軟らかい発声を目指します。
*喉頭マッサージ: 喉を高く固定して緊張した声を出している場合、外喉頭筋(胸骨甲状筋)のマッサージを行います。胸骨甲状筋が唯一のど下げる筋肉で、のどぼとけの下から胸骨に伸びる筋肉です。喉が高いと高音になり緊張した状態を作ります。胸骨甲状筋を使い喉を下げて歌うと、秋川 雅史『千の風になって』のように低い伸びのある声に変化します。あくびため息の状態に近づきます。
*ストロー発声:気流の流れを意識して、腹式呼吸でのどは意識せず発声することを学びます。この方法は、最近注目されていますので、あとで詳細に述べます。
❷ 声門閉鎖の強化 対象:声帯萎縮 高齢者で多く、声門間に隙間ができるため、かすれた力がない声になります。
最近では、下記の包括的訓練である生理的発声法の音声機能拡張訓練(VFE)で治療を行います。
日本で以前まで行われていたプッシング法は、非生理的発声で過緊張発声を助長するため、現在世界的には行われないようになってきています。
包括的訓練(前述の対処的訓練よりこちら最近は主流です)
一連のプログラムとして行う方法で、個人で行うには限界があります。
プログラムとして行うには言語聴覚士を必要とします。
腹式呼吸で気流発声➡喉頭の内外筋を調整し喉頭負荷を軽減➡鼻腔・咽頭共鳴を促進
腹圧に始まり胸腔⇒喉頭⇒共鳴腔に至る一連の気流の流れとして発声を捉えていきます。
音色は音の波形の違いで、共鳴周波数で決まります。
キーワードは共鳴と気流の流れです。以下に訓練の流れを示します。
➊ 気流:後述のストロー発声で気流の流れを意識します。
❷ 咽頭を開き口唇を狭く逆メガホンで、声帯への負担を軽減します。喉を下げるイメージで行います。
次の音声機能拡張訓練(VFE)へつなげていきます。
❸ VFE(音声機能拡張訓練)(vocal function exercise)
喉頭の筋力向上とバランスの調整を目指し、発声持続や高低、大小の発声を組み合わせた訓練を行います。
*発声持続練習
*音階上昇
*音階下降
*特定の高さでの発声持続練習
など通院と自主訓練を行います。
音声訓練を日常生活へ導く生理的発声法の訓練です。
❹ レゾナント(共鳴)法:
喉に負担をかけない効率よく響く声(レゾナントボイス)を得るために、鼻の奥や口唇周囲の振動の感覚の認識を重視して行います。
ハミングを使って鼻腔咽頭共鳴を促進させ発声法の習得を導きます。
振動のブルブルする感じのような身体内部感覚に焦点を置き、のどを逆メガホンにするイメージで行います。喉をさげて行います。
共鳴に重点を置いた訓練は、喉頭に負担をかけず、すべての機能性の喉頭疾患に効果があります。
singでハミング ハミング(動画)by IVANA
松永敦耳鼻咽喉科医師 ハミングと音程 YouTube
松永敦耳鼻咽喉科医師リラックスと共鳴YouTube 体の力を抜き共鳴腔を広げ腹式呼吸発声。
◆治療プログラムの進め方の一例
(京都大学耳鼻咽喉科 平野 滋 2015 日耳鼻 から)
声の衛生指導
筋緊張緩和のストレッチ
腹式呼吸で気流を意識
基本となるレゾナントボイスの練習
レゾナントボイスによる詠唱
徐々に大きく徐々に小さく発声(メッサディボーチェ)
レゾナントボイスによる会話へ進展
👉
包括的訓練は、言語聴覚士やボイストレーナーの指導で行う訓練が多く、自分で行うには難しく感じると思います。
前述の『ストロー発声』は、簡単で自分でも行え、音声拡張訓練への応用ができます。
【ストロー発声の詳細】
日本では、まだ普及していませんが、簡単で自分でも行えるお勧めの方法です。英国の歌手 サムスミス(Sam Smith) が声帯出血をこの方法で治療したようです。
◆ボイストレーナーko(カナダ在住)ストロー発声YouTube
歌う前のウオームアップに効果あります。
◆Vocal Straw Exercise Dr. Titze 動画(英語)youtube
2006年、Dr Titzeが提唱した訓練プログラムは,ストロー発声での音 階の上昇・下降,同じく連続した強弱をつけたストロー 発声,さらにストロー発声による歌唱からなっています。
●『BS―NHK からだの秘密;声はストレッチで若返る』放映HP(2018年6月26日)にて、ストロー発声について紹介がありました。
内容:
ストローを用い『ウー』と唇が振動するように声を出します。口の中を広げ声のストレッチ効果あります。腹式呼吸で、声の上げ下げ1日50回ストロー発声、5~10秒持続させ訓練します。番組では2週間行います。声帯結節 声帯麻痺 声帯萎縮 MTD(筋緊張性発声障害)の効果の報告ありますが、すべてに効果はなく、声帯結節の改善には1年以上必要すると報告されています。
参考資料
◆実践 音声治療マニュアル インテルナ出版 城本 修 訳 ◆音声障害診療ガイドライン2018金原出版
◆図解 やさしくわかる言語聴覚障害 ナツメ社 ◆音声障害 平野 滋 日耳鼻学会誌 118~273、 2015
◆チューブ発声法による声帯振動への影響 音声言語医学56:180~185 2015
◆音声障害のリハビリテーション 城本 修 日耳鼻 121;193~200、2018
自分で行う声がれ対策(声の衛生)
2019年、新年おめでとうございます。最近、急に寒くなり空気が乾燥し声がかれやすくなる時期です。『今回は声のケアの話』です。
一時的な声がれは、心配いりません。2週間以上持続する場合や、反復する声がれは、専門医での精査が必要です。癌が隠れていることがあります。まずは耳鼻咽喉科専門医での精査をお勧めいたします。40歳以上の喫煙習慣がある男性と中高年、高齢者の方は用心してください。
メタボや食事の生活習慣に問題がある声がれが、最近増えています、胃食道逆流症による声がれ(喉頭肉芽腫)です。声の衛生以外に食事・生活習慣の改善が急務となります。
高齢の方や声を使わない老人の声がれには、声帯萎縮が進行していて、嚥下機能低下、筋力低下(フレイル、サルコペニア)、唾液分泌低下(ドライマウス)の確認が必要です。
誤飲性肺炎のハイリスクとなりますので、声の衛生以外の対応が必要です。
当院HP;自宅でできる誤飲性肺炎予防、自宅でできるドライマウス対策も参考にしてください。
当院HP:『声がれ』治療の流れを記載しています。
加齢や生活習慣による声帯萎縮や喉頭肉芽腫の診断は耳鼻咽喉科専門医受診が必要です。
◆声帯炎: 声帯の炎症 話過ぎや風邪の時に出現
これが持続すると下記へ移行しやすくなります。
*声帯ポリープ: 片側 血豆になることもあります。
*声帯結節: 両側 声帯のたこ(ペンだこ様) 習慣的に声を使う人 教師、歌手、アナウンサー、保育士に多い
*ポリープ様声帯: 声帯全体のむくみがあり、お酒とたばこを吸う更年期以降の女性に多い
◆喉頭がん: 声がれが、2週間以上持続するときは精査が必要 特に40歳以上の喫煙習慣がある男性はハイリスクです。
*反回神経麻痺:肺がん、甲状腺がん、食道がん、動脈瘤、縦郭腫瘍などが原因で、喉頭以外から生じる反回神経麻痺による声がれもあります。
◆声帯萎縮: 加齢と会話の減少で起こります。出しやすい声で『アー』発声持続時間が男性15秒未満 女性12秒未満は疑います。65歳以上の7割程度の方がいると報告されています。
◆喉頭肉芽腫:生活習慣病として最近増加が著しい胃食道逆流症が関連して生じ、のどに負担がかかりすぎると起こしやすくなります。
~~自分で行う声の衛生(声がれ対策)➡健康な声を保つための注意事項~~
重要なことは以下の二つです。音声治療(声がれのリハビリ)を行う前段階としても重要です。
●加湿:喉を乾燥させない、声帯粘膜の保護に重要。
●喉に負担をかけない:
音声治療では、喉頭は意識しないで、肺の気流と鼻腔と咽頭共鳴の促進を意識します。
ベルヌーイ効果など声の出る仕組みとやわらかい声帯粘膜の重要性を理解すると、上記のことがもっと理解できるようになります。
声帯粘膜は乾燥に弱く、良い声帯の動き(数百回/秒)を得るには、肺からの気流と声門下加圧が重要(腹式呼吸)で、喉は力を抜き意識しないで発声することが大事です。
👉 加湿は、1体内 2局所の口腔と口頭 3環境を考えて対応します。
1体内脱水に気を付けます、脱水や夏の熱中症の時の水分補給、利尿作用があるお酒やカフェイン飲料を控える、高血圧・心不全の利尿剤による影響を最小限にします。
2局所の乾燥には、水分をまめに補給、食事を30回噛み唾液を促します。
鼻呼吸(加湿、加温、粘膜免疫、除菌機能あり)を意識します。
口呼吸では、朝は口腔乾燥になります。必要な方には夜間マスクを使用します。
唾液分泌は、刺激で出やすくなるので、夜間は唾液分泌が低下します。
イライラすると交感神経が働き、口が渇き易くなりますので、穏やかに生活しましょう。
飴をなめる時は、一口水を含みます。
3秋から冬にかけて湿度が低くなり空気が乾燥し、同時に寒くなるためエアコン、石油ファンヒーターなどの暖房による影響で室内での乾燥がさらにひどくなります。加湿器を使用し、温度設定を控えめにして、濡れタオル・洗濯物を干すなど対応します。
👉 喉の負担をかける発声・環境・食事生活習慣を控える。
*大声、ささやき声を避ける、ささやき声も喉に負担となります。
*運動時の発声を控える。
スポーツの時の気合をいれるため、『サー、ヨシ、エイ』などです。
*大声を出す時は、マイクやメガホンを使用する
*かぜの時大声を出さないで声・のどを休める
*騒音化では話さない
*タバコやホコリを避ける
*早口や力んだ発声を控え、楽なリラックスした姿勢で話す。
*激しい咳や咳払いには水を飲みます、咳は喉を傷めます。
*胃食道逆流が疑われる時は、食事・生活習慣を見直します。痩せている方も、起こしますので注意しましょう。
👉 喉の衛生にとって避けた方が望ましい薬
*鼻水や風邪薬:抗ヒスタミン薬、抗コリン作用のため乾燥
*降圧剤の一部:利尿薬による乾燥
*安定剤、抗精神薬、眠剤の一部:抗コリン作用による乾燥、喉頭筋緊張の異常
*抗パーキンソン病薬の一部:抗コリン作用のため乾燥
*ぜんそく薬の吸入ステロイド:声帯粘膜の器質的変化 カビによる喉頭炎
*ステロイド内服: 音声ピッチの低下
*抗凝固薬、抗血小板薬:血液サラサラのため声帯血種
それぞれの薬の必要性については、担当医と相談してください。
参考図書
米国耳鼻咽喉科学会『声がれ』ガイドラインHP 音声障害ガイドライン2018:金原出版 図解;やさしくわかる言語聴覚障害:ナツメ社 東京医療センター;感覚器センターHP
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