院長の健康情報コラム
あなたの副鼻腔炎は何タイプ?
副鼻腔炎は、風邪をひき鼻症状が強ければ、急性鼻副鼻腔炎として日常的にみられる病気です。40~50年以上前までは、長引く鼻副鼻腔炎は、蓄膿と呼ばれる慢性化膿性副鼻腔炎がほとんどでした。衛生環境や生活習慣の変化からアレルギーを主とした疾患が増加し、ここ20~30年間に、新型副鼻腔炎とよばれる難治性の好酸球性副鼻腔炎が急に増えてきています。ステロイド、抗菌剤の使用、高齢化に伴い糖尿病・悪性腫瘍の増加、免疫の低下によるカビが原因の副鼻腔炎も問題となっています。副鼻腔炎は、子どもに多い病気でなく、子供から成人・老人までだれもが罹患する病気と考えてください。
副鼻腔炎は、長引く咳、中耳炎の悪化、喘息など下気道の症状の悪化をもたらします。アレルギー性鼻炎や好酸球性副鼻腔炎は、喘息と関連します。(one airway, one diseaseと呼ばれます)好中球中心の炎症は副鼻腔気管支症候群として注目されています。
一般に、発症から4週間以内の鼻副鼻腔炎感染症を『急性』3か月以上持続すれば『慢性』とされます。
*日本耳鼻咽喉科学会HPから、次のサイトで基本事項は確認して下さい
👉 副鼻腔炎には様々な病態が存在しています。
鼻が悪くて、耳鼻咽喉科を受診して副鼻腔炎または蓄膿と言われたら次のどれに該当するか(➊ ❷ ❸)、担当医に聞いてみてください。真菌や歯性は、CTや歯科受診が必要になります。それぞれの病態に応じて、治療方針が変わります。
➊急性鼻副鼻腔炎
❷成人慢性鼻副鼻腔炎
*慢性副鼻腔炎(蓄膿)
*好酸球性副鼻腔炎(新型鼻副鼻腔炎)
*アレルギー性鼻副鼻腔炎(またはアレルギー性鼻炎に副鼻腔炎の併発)
*副鼻腔真菌症
*歯性上顎洞炎
❸小児慢性鼻副鼻腔炎
➡実際の診療では、風邪に伴う急性副鼻腔炎の反復と慢性鼻副鼻腔炎の急性増悪(急性副鼻腔炎の合併)での病院受診が多くみられます。
『疾患解説』
➊急性鼻副鼻腔炎
急性鼻副鼻腔炎は、誰もが経験する最も多い疾患で、副鼻腔の中を外から見えませんので、感冒の鼻症状が強い場合を想定して下さい。
感冒の一般的な自然経過は、まず微熱や倦怠感、咽頭痛を生じ、続いて鼻汁や鼻閉、その後に咳や痰が出てくるようになり、発症から 3日目前後を症状のピークとして、7~10日間で軽快していきます。咳は3週間ほど持続することがあります。
海外の報告では、ウイルス性感冒のうち、2%未満が細菌性鼻副鼻腔炎を合併し、鼻汁の色だけでウイルス性か細菌性か区別できないとされています。急性ウイルス性鼻副鼻腔炎は10日以内に自然治癒すると考えられています。急性鼻副鼻腔炎に関しては、細菌性鼻副鼻腔炎が疑わしい場合でも、抗菌薬投与の有無に関わらず、1 週間後には約半数が、2 週間後には約7 割の患者が治癒することが報告されています。また、抗菌薬を服用すると7~14 日目に治癒する割合は高くなるものの、副作用(嘔吐、下痢、腹痛)の発生割合も高く、抗菌薬投与は欠点が利点を上回る可能性があることが報告されています。
2017年抗微生物薬適正使用の手引き 第一版 (厚労省)では、
◆成人急性鼻副鼻腔炎は、
2010年急性鼻副鼻腔炎ガイドライン(日本鼻科学会)の方針に基づき
軽症は抗菌薬投与しない
中等症~重症は抗生剤使用:まずはアモキシリン5~7日間服用
◆小児急性鼻副鼻腔炎(学童期以降)は、
抗菌薬の投与を行わない。
(但し、遷延性または重症の場合を除く)
遷延性または重症例とは
①10 日間以上続く鼻汁・後鼻漏や日中の咳を認めるもの。
②39℃以上の発熱と膿性鼻汁が少なくとも 3 日以上続き重症感のあるもの。
③感冒に引き続き、1 週間後に再度の発熱や日中の鼻汁・咳の増悪が見ら れるもの。
上記の場合は、アモキシリン7~10日間服用となっています。
*2010年急性鼻副鼻腔炎ガイドライン(日本鼻科学会)では、小児も成人同様に中等症~重症は抗生剤使用となっていますので、2017年抗微生物薬適正使用の手引き(厚労省)では、耐性菌対策を考慮した内容になっています。
❷成人慢性鼻副鼻腔炎
以下の疾患のすべてに共通することは、慢性炎症による副鼻腔自然口の狭窄または閉塞で生じますので、難治で高度な場合は、外科的には内視鏡下鼻内副鼻腔手術では自然口を開大して副鼻腔粘膜の正常化を期待することです。アレルギー鼻炎が合併する場合は、抗アレルギー薬、ステロイド点鼻、免疫療法などの保存的治療が中心になります。
☞ 慢性鼻副鼻腔炎(好中球の炎症が中心)
風邪から細菌感染を起こし慢性化すると発症します。
日本発症の非抗菌作用によるマクロライド抗生剤の少量長期療法(3ヶ月程度)を日本ではよく行われています。最近は欧米でも慢性鼻副鼻腔炎の治療としてガイドラインに紹介されてきています。日本ではマクロライドの使用が海外に比べ極端に多く、この治療は、耐性菌対策(AMR)に逆行する治療となりますので、適応を厳選することが重要です。急性増悪時は、抗菌作用を期待して通常の抗生剤を一時的に使用します。保存的加療で効果がない難治例は手術適応となります。
☞ 好酸球性副鼻腔炎
(新型鼻副鼻腔炎:好酸球の炎症が中心)
粘り気のある鼻水が特徴で、嗅覚障害、鼻ポリープが多発します。白血球の一種でアレルギーの病気を起こすと増える好酸球が副鼻腔粘膜に増加してきます。ダニ・スギアレルギーなどの獲得免疫とは違う、自然免疫の関与が考えられています。以前の慢性鼻副鼻腔炎より難治で、手術を行っても再発が多くみられます。
治療は、ステロイドや抗ロイコトリエン薬が主になります。一部の重症例は指定難病として認定されている病気です。難治性の好酸球性中耳炎、気管支喘息、アスピリン喘息などが、多くの症例で合併します。
☞ アレルギー性鼻副鼻腔炎
(アレルギー性鼻炎に合併した副鼻腔炎)
ステロイド点鼻や抗ヒスタミン薬による保存的治療が主となります。上顎洞陰影が、びまん性のタイプに抗ヒスタミン薬にマクロライド療法併用の効果を認める報告もあります。
☞ 副鼻腔真菌症
(CT精査が必要)
侵襲型と非侵襲型が存在し、骨破壊を伴い頭蓋内・眼窩内合併を伴う侵襲型は稀。
非侵襲型は、①真菌塊性と②アレルギー性があります、どちらも副鼻腔の片側発症がほとんどですので腫瘍との鑑別が必要になります。
①最も多いのは真菌塊性の副鼻腔炎で、服薬の効果は乏しく手術加療となります。無症状で偶然に画像診断で見つかることもあります。
②アレルギー性真菌性副鼻腔炎:通常は片側発症のアレルギー性真菌性副鼻腔炎が両側発症すると、前述の好酸球性副鼻腔炎との鑑別が難しくなります。手術加療が第一選択で、術後ステロイド使用します。欧米に多く20代の若い人に多い疾患です。アトピーや喘息の合併を多く認めます。最近の報告では、日本人の鼻茸の真菌を調べると、好酸球性副鼻腔炎の中で、多くのアレルギー性真菌性副鼻腔炎が混ざっていると言われています。
*疾患説明は次のサイトで確認を➡日本口腔外科学会:歯性上顎洞炎
歯根の慢性炎症が原因で、上顎洞炎を起こす病態です。最近は、コーンビームCTの導入で診断が容易になってきました。治療していない齲歯(虫歯)が原因となることは減り、歯科治療後の歯が原因となることが多くなっています。インプラント後の歯性上顎洞炎も認められます。
治療:
従来の歯科治療、原因歯の抜歯の他に、内視鏡下副鼻腔手術で、歯やインプラントを抜去せず症状を改善させる治療も選択肢になっています。
子どもは風邪をひきやすいため、自然変動が激しく、増悪と寛解を繰り返します。小児における慢性鼻副鼻腔炎の病態は、成人のそれとはかなり異なっているため,同一の疾患として取り扱うべきではないと考えられています。また、アレルギー性鼻炎の合併が多く同時に治療をすすめます。
8~10歳ごろから自然治癒傾向が認められ、以前の報告では、思春期ごろには約50%は自然治癒すると言われています。実際には、もっと多くの方が自然治癒しているように思われます。副鼻腔炎は改善しても、ダニなどによるアレルギー性鼻炎の改善は、思春期になってもあまり認めず、アレルギー性鼻炎や花粉症の治療が中心に変わっていきます。最近では、ダニ・スギの舌下免疫療法が、体質改善として注目されています。
このように小児の場合、保存的治療が主で、鼻茸による鼻閉が高度な場合などが手術適応になります。
小児へのマクロライド抗生剤の少量長期療法(2か月)も一定の効果を認めるようですが、子供はすぐに風邪をひき急性増悪を繰り返すため、鼻漏の消失や副鼻腔陰影の消失を目標にすると投薬終了の決定が困難になります。このため、抗生剤の長期服用に対して親御さんが心配されることも多く経験します。
👉 手術適応
中鼻道が狭く保存的治療で改善しないもの
中鼻道に大きな鼻茸(鼻ポリープ)
副鼻腔真菌症
難治な好酸球性副鼻腔炎(術後再発も多いと理解して下さい)
2016年から国を挙げて行われている薬剤耐性菌対策(AMR)は、
次のサイトで確認して下さい➡ AMR: かしこく治して、明日につなぐ(厚労省)
ガイドラインや指針は、作成者により変わってくるものです。
*2010年急性鼻副鼻腔炎ガイドライン(日本鼻科学会)は耳鼻咽喉科の専門医や教授が作成していて、
鼻かみ回数や鼻汁の量が、抗生剤の使用判断となる重症度に強く反映された内容です。
*2017年抗微生物薬適正使用の手引き 第一版 厚労省(急性鼻副鼻腔炎)は、感染症専門医が作成したもので、
発熱、症状の経過や持続時間が重要視された内容です。
2010年急性鼻副鼻腔炎ガイドライン(日本鼻科学会)では、軽症:1-3 中等症:4-6 重症:7-8となり、スコア4以上が抗生剤の適応となります。重症度分類スコアリングでは、臨床的に重要な発熱、症状持続、発症後5日程度での悪化のことは含まれていません。
鼻汁・後鼻漏が中等量あれば4点、頻回な鼻かみで2点、咳がある1点合計7点:重症となり、高用量の抗生剤の使用となります。鼻汁・後鼻漏が中等量で4点となり、疾患分類中等症では常用量の抗生剤の適応となります。
学童のお子さんでは、アレルギー性鼻炎の合併も多く、風邪をひけば上記3つはよくみられる症状ですので、2010年急性鼻副鼻腔炎ガイドライン(日本鼻科学会)の基準では、風邪の学童のほとんどに抗生剤を使用することになりかねません。
2017年抗微生物薬適正使用の手引き 第一版 厚労省(小児急性鼻副鼻腔炎)は発熱、症状の経過や持続時間が重要視された内容ですので、耐性菌対策として進んだ内容になっています。
急性中耳炎の治療の変化:治療から予防へ
最近、急性中耳炎への鼓膜切開の回数が、急に減ってきています。鼓膜切開は重症急性中耳炎に行うことがあります。
小児疾患全般では、鹿児島県の小児入院患者数が2005年9万人から2014年6万人へ減少しています。細菌性ヒブ髄膜炎は、鹿児島で年間10~12人発症が、今はゼロとなりました。厚労省の報告でも、小児入院患者数が1999年からは2011年には65%に減少、同時期の小児人口の減少は95%程度ですので、全国的にも小児入院患者数が減少は明らかな状態です。外来患者数が減っているわけではないようですので、重症の患者さんが減って、外来で通院対応できるようになったと考えられます。呼吸器疾患では、小児喘息の患者さんの入院が、吸入ステロイドの普及で減少し、小児肺炎の入院が減っているようです。
急性中耳炎の詳細は次のサイトを見てください⇒日本耳鼻咽喉科学会HP; 耳疾患:中耳炎・外耳炎 急性中耳炎Q&A
👉 なぜ小児感染症(急性中耳炎、肺炎など)が、良い方向へ急に変わってきたのか? 次の2点(ワクチン接種の普及と新規抗生剤の開発)が重要です。
❶ワクチン接種が世界標準に近づき、小児感染症は治療から予防(ワクチンの効果)へ移行
生後2か月からのワクチン接種が始まり、2013年にヒブ(Hib)、小児肺炎球菌が、任意から定期接種となり、その後も水ぼうそう、B型肝炎、HPVも定期接種化し、生後5か月にBCG接種とその他多数のワクチンが世界標準に近づいてきました。
毎年のインフルエンザワクチン接種の浸透、高齢者の肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの助成、最近では青年層への無料風疹検査と風疹ワクチンの助成で、今後ますます感染症の治療は予防へと変化していくと言えるでしょう。
ワクチン予防に関してもっと知りたい方は、次のサイトを見てください⇒子どものVPD
ヒブ(Hib)により、インフルエンザB型菌(Hib)による髄膜炎、喉頭蓋炎が殆ど消失しています。肺炎球菌ワクチンにより乳幼児による侵襲性肺炎球菌感染症(肺炎、中耳炎、髄膜炎)を減少させています。
以前のPCV7肺炎球菌ワクチンの導入により,急性中耳炎受診数や鼓膜切開、鼓膜換気チューブ留置術の減少が日本および欧米からも報告されています。現在は血清型を多くしたPCV13肺炎球菌ワクチンのため、薬剤耐性を含めた肺炎球菌による急性中耳炎への効果がさらに期待されています。
【問題点】
その反面、ヒブ(Hib)ワクチンで抑止できない無莢膜型のインフルエンザ菌による中耳炎の相対的増加と、PCV13肺炎球菌ワクチンに含まれていない血清型の急性中耳炎の増加(血清置換)が認められます。
今後は、無莢膜型のインフルエンザ菌による難治例と肺炎球菌の血清置換への対応が求められています。
日本では未承認のSynflorix(肺炎球菌10価と無莢膜型インフルエンザ菌)ワクチンがありますが、無莢膜型インフルエンザ菌に対しては評価が低いようです。
❷新しい抗生剤の開発と薬剤耐性対策(AMR)
新しい抗生剤の開発で、入院直前または鼓膜切開直前の状態の感染症例が、入院せず、外科的治療をせずとも対応可能となってきました。
ここ10年の間に、乳幼児に適応がある次の強力な抗生剤が日本で販売されました。
◆クラバモックスドライシロップ2010年5月保険で使用開始
適応:中耳炎 気管支炎 扁桃炎 皮膚感染 リンパ節炎 膀胱炎 腎盂腎炎
◆オゼックス(トスフロキサシン)細粒2010年1月保険で使用開始
適応:肺炎 中耳炎
◆オラペネム細粒2009年8月保険で使用開始
適応:肺炎 中耳炎 副鼻腔炎
クラバモックスは、欧米でもよく使用される薬ですが、下痢が問題となります。オゼックス細粒とオラペネム細粒は、欧米では小児に使用されていない薬です。
日本でも、肺炎球菌ワクチンの効果により、肺炎球菌の感受性はある程度改善してきましたが、欧米より薬剤耐性菌の問題が多く残されています。難治な肺炎球菌(PRSP)や難治なインフルエンザ菌(BLNAR,BLPACR)などに対してオゼックス細粒とオラペネム細粒が日本では使用されるようになりました。
欧米では、難治なインフルエンザ菌はBLPARのためクラバモックスで効果を認めますが、日本の難治なインフルエンザ菌(BLNAR,BLPACR)は、クラバモックスの効果は低く、セフジトレンピボキシル(メイアクト)細粒の倍量投与(小児の中耳炎、副鼻腔炎、肺炎に適応)やオゼックス細粒またはオラペネム細粒やロセフィンの点滴加療となります。
👉 ワクチン効果と新薬による治療で、難治性の肺炎や中耳炎を対応しているのが今の日本の現状です。
日本での薬剤耐性菌の問題は、乳幼児の集団保育や長期にわたる過去の抗生剤の使用に問題があったとも考えられます。
添付文書上で、
オゼックスは、『耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、疾病の治療上必要 な最小限の期間の投与にとどめること』オラペネムは、オゼックスと上記同様の項目の他に、『カルバペネム系抗生物質の臨床的位置づけを考慮した 上で、本剤の使用に際しては、他の抗菌薬による治療 効果が期待できない症例に限り使用すること』となっています。安易な使用は慎まなければいけない薬となっていて、乱用すると日本の薬剤耐性菌の問題はもっと深刻な状態となります。
【抗生剤クライシス】
経口カルバペネム系抗生剤(オラペネム)の乱用は、耐性菌への切り札的存在であるカルバペネム系注射剤の耐性化を招き、患者を救える薬がなくなることを意味します。
👉 AMR運動(薬剤耐性対策アクションプラン)
薬が効かないバイキンの話;小学生用(youtube;厚労省AMR)
AMRの詳細は次のサイトを確認を:かしこく治して明日につなぐ:AMR厚労省
抗生剤の不適正使用による薬剤耐性菌の増加とそれに伴う感染症の増加が、国際社会の大きな課題の一つに挙げられています。不適正な抗生剤使用に対して対策が講じられなければ、2050年には全世界で年間1000万人が、薬剤耐性菌により死亡することが推測されています。2016年4月日本では薬剤耐性対策アクションプラン(AMR)が策定され、
『2020年の人口千人あたりの 一日抗菌薬使用量を 2013年の水準の 3分の 2に減少させる』こと等が設定され手引き書も作成されています。
➡ 抗生剤の適正使用のために:中耳炎ガイドラインの欧米と日本の違い
日本小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版(詳細は前のサイトを確認して下さい)
症状・2歳未満・鼓膜所見から重症度分類(鼓膜所見を重視)
◆軽症:3日間経過観察⇒アモキシリン常用量3~5日⇒アモキシリン高用量またはクラバモックス
◆中等症:アモキシリン高用量3~5日⇒クラバモックスorセフジトレン高用量orアモキシリン高用量+鼓膜切開(服用3~5日)
◆重度:アモキシリン高用量+鼓膜切開orクラバモックス+鼓膜切開orセフジトレン高用量+鼓膜切開(服用3~5日)⇒感受性を考慮して抗菌薬変更;
クラバモックス+鼓膜切開orセフジトレン高用量+鼓膜切開orオラペネム常用量+鼓膜切開orトスフロキサシン(オゼックス)+鼓膜切開(服用3~5日)
小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版では、中等症の改善が悪い場合や重度の中耳炎の鼓膜切開の適応について、耳鼻咽喉科以外の医師のことも考え『鼓膜切開が可能な環境では実施を考慮』と緩和された内容になりました。耳鼻咽喉科関連学会が作成しているため、以前は、主に耳鼻咽喉科医を想定した内容でした。
アメリカ小児科学会急性中耳炎ガイドライン:2014年(6ヶ月~12歳が対象)(詳細は前のサイトを確認して下さい)
*重症急性中耳炎とは、39度以上または強い耳痛または2日以上持続する耳痛
◆軽症片側急性中耳炎(6ヶ月~2才)⇒抗生物質または経過観察2~3日で悪化時抗生剤
◆軽症両側急性中耳炎(6ヶ月~2才)⇒抗生物質
◆軽症片側・両側急性中耳炎(2才以上)⇒抗生物質または経過観察2~3日で悪化時抗生剤
◆重症片側・両側急性中耳炎(6ヶ月以上)⇒抗生物質
◆耳漏ありの急性中耳炎(6ヶ月以上)⇒抗生物質
*鼓膜所見で中耳炎の診断を行いますが、詳細な鼓膜所見をもとに、日本のように重症度分類へは反映されていません。主に小児科・家庭医を対象としているため、症状、年齢、片側・両側を重視した対応となっています。
*抗生物質は、アモキシリンの高用量⇒クラバモックス⇒セフトリアキソン点滴
ペニシリンアレルギーには、3世代セフェム(セフポドキシムなど)を推奨
*鼓膜穿刺(細菌同定)・鼓膜切開は抗生剤の効果が無い場合の代替え治療の一つとしてあります。
➡ 鼓膜切開について
小児急性中耳炎を何科がみるか?
日本では、耳鼻咽喉科が診察することが多いとも思いますが、欧米では、小児科や家庭医が診察することが多く、外科的治療が必要な場合に耳鼻咽喉科へ紹介となることが多いようです。本邦での薬剤耐性化の問題や欧米との医療体制の違いもあります。最近では本邦でも、小児急性中耳炎を耳鼻咽喉科医より小児科医や家庭医がみることが多くなっているようです。
小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版では、中等症の改善が悪い場合や重度の中耳炎の鼓膜切開の適応について、耳鼻咽喉科以外の医師のことも考え『鼓膜切開が可能な環境では実施を考慮』とオプション的な内容になっています。最近のワクチンの普及と抗生剤の新薬の効果もあり、鼓膜切開や鼓膜換気チューブ挿入が減少してきています。小児急性中耳炎に対して、欧米同様に、日本でも、初期治療は小児科医や家庭医で対応して難治例は耳鼻咽喉科へ紹介することが多くなると思われます。
◆切開時の疼痛・不快・身体的拘束や少し大きい幼児では、ストレスで次回から病院恐怖となる恐れがあり。
◆鼓膜切開を行っても、発症から3週間後(Kaleida1991Pediatrics)や
最終的な治療成績に差をみとめない(宇野2008)。
◆本邦報告で難治性反復性中耳炎への発症頻度低下へ有意な効果は認められていない(Nomura 2005)
⇒鼓膜切開のメリット
◆重症例の鼓膜膨隆が強く耳痛・発熱が高度な例には早期の改善を認める。
うまくいけば、お子さんが、翌日には解熱し夜よく眠れるようになります。
◆切開直後の耳漏から原因菌の検索と細菌の減量を行えますので、耐性菌対策の一つになります。
👉益・不利益をよく理解していただき、担当医と相談上、鼓膜切開を行うか判断することになります。
⇒鼓膜換気チューブ術の効果について
(乳幼児の抑制は難しく、病院での麻酔下の対応になることもあります)
難治性反復性中耳炎(3回/6ヶ月、4回/1年)に対して、6ヶ月以内の減少の効果はあるが、長期の効果は認められていません。
*2歳未満
*受動喫煙
*母乳栄養なし(特に6ヶ月まで)
*集団保育
*鼻副鼻腔炎の合併
👉上記因子は、難治化を招きますので、ご家庭で対応できることは考えてみてください。ウイルス性の発熱や風邪で、安易に抗生剤を使用しないことです。
➡患者さんに理解していただきたいこと
◆日本には、薬剤耐性菌の多くの問題があること。
◆今の日本では、欧米で使用されないオゼックスやオラペネムを使って小児難治性感染症に対応していること。
◆これらの抗生剤を使わなくても対応できるように、適正な抗生剤使用を目的としたAMR運動が、2016年から国を挙げて行われています。
風邪やウイルス感染で安易な抗生剤使用はしない事。
考えようあなたのクスリ薬剤耐性(youtube)
医学的正しい手洗い(AMR 厚労省)
◆急性中耳炎の抗生剤使用について
*適切な薬剤
*必要な場合に限り
*適切な量と期間
使うことを医師も患者さん側も考えること
◆患者さんも甘い飲みやすい薬より、適切な薬の処方に理解していただく。
◆症状や重症度によっては、抗生剤を使用しないで経過を見る事を理解してもらう。
◆肺炎球菌、インフルエンザウイルスワクチンなど必ず受けましょう。
参考資料:PCV13普及後の小児急性中耳炎に関する疫学的検討 日耳鼻 121:887-898、2018
肥満と喘息:ダイエットで喘息が治る?
➡ 肥満は万病のもと
肥満が生活習慣病、血管の病気、睡眠時無呼吸症など全身に影響を及ぼすことはご存知だと思います。その他にも関節の疾患、月経異常、不妊、癌の発症にも関連しているとことがわかってきました。脂肪細胞から分泌される生理活性物質のバランスの崩れが原因と考えられています。
*閉経後の乳がん
*大腸がん
*肝がん
は肥満との関連がほぼ確実とされています。
➡ 肥満と喘息の関連
肥満とアレルギーとの関連では、喘息に関して、肥満が女性の喘息を悪化し、中年女性では特に顕著、また肥満でアトピー性皮膚炎の重症者が多くなると報告されています。
アレルギー性鼻炎は喘息のリスクファクターですので、アレルギー性鼻炎がある肥満の中年女性は喘息が悪化しやすいと考えられます。最近では、喘息を類似した気道疾患の集合体ととらえ,観察可能な症状・兆候により分類(フェノタイプ分類)されています。今後は、単なる重症度から治療方針を決めるのではなく、このフェノタイプ分類に基づいて適正な治療が進められるようになると期待されています。実際には、下記の病態が重なっていることもあります。
【喘息フェノタイプ】
『好酸球増加タイプ』
⇒早期発症アレルギー性 アトピー型(IgE高値):乳幼児期から発症して、子どもさんや若い人に多く、ダニの関与が高い。 アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎の合併が多い。
⇒後期発症好酸球性 非アトピー型:成人発症 好酸球性副鼻腔炎合併 自然免疫が関与します。
⇒アスピリン喘息 非アトピー型:成人女性に多い 嗅覚障害・好酸球性副鼻腔炎合併 ロイコトリエンが関与します。
⇒運動誘発性:アスリート喘息、通常の喘息のコントロールと抗ロイコトリエン薬が効果を発揮します。気道粘膜の脱水と冷却、気道上皮損傷による気道過敏性の亢進が出現。
『非好酸球性タイプ』
⇒肥満性:中年女性に多く、しばしば重症化します。主に内臓脂肪が関与し、ダイエットが重要です。
⇒好中球性:喫煙者に多く、しばしば重症化します。大気汚染や好中球性の慢性鼻副鼻腔炎が関与が考えられ、マクロライドの効果が期待されています。
ステロイド抵抗性で、現在、生物学的製剤に適応はなく、リモデリングによる気流制限が高度な場合は気管支熱形成術が適応されます。
👉 喘息・咳喘息がある方は、自分は上記のどれに該当するか考えてみましょう。上記が重なることもあります。
➡ 肥満喘息
非アトピー型で好酸球が増加せず、直接的なアレルギーが介在しない機序が考えられ、喘息の一般治療薬のステロイド吸入療法の効果が低いと言われています。肥満対策が重要です。日本人の報告では、好酸球が上昇している報告もあります。
『肥満喘息発症メカニズム』
最近、脂肪細胞は、生理活性物質の分泌臓器と考えられるようになってきています。
⇒脂肪細胞からの生理活性物質
*レプチン増加やアディポネクチンの低下による気道過敏症の亢進
*PAI-1増加による気道リモデリング
*TNF-α増加による慢性炎症悪化と気道過敏性の亢進
等の分泌物質が関与しています。
⇒肥満による肺機能低下
⇒運動不足による気道過敏性の亢進(運動は気道過敏性へ効果の報告あり)
⇒肥満や睡眠時無呼吸症による胃食道逆流症
⇒うつ
なども関与します。
【脂肪細胞からの生理活性物質のその他の機能】
*TNF-α・・血糖値を上昇 PAI-1・・血液を固まりやすくする
*レプチン・・食欲抑制 アディポネクチン・・血糖値や血圧を下げる、癌細胞増殖の抑制
*脂肪が過剰にたまった脂肪細胞では、アディポネクチンを減少させます
➡ 肥満対策
日本ではBMI25以上となっていますが、ダイエットの必要性は、内臓脂肪型肥満かどうか生活習慣病に伴う肥満かどうかを考えることが重要です。高齢者の場合のダイエットによる痩せすぎは、サルコペニア(筋肉萎縮・減少)をまねき骨折からの寝たきりなど、病気を発症しやすくなります。東アジア人は、食べ物からのエネルギーを皮下脂肪ではなく内臓脂肪としてためやすく、女性より男性のほうが内臓脂肪としてたまりやすくなります。欧米人は、皮下脂肪にたまりやすいため、欧米での肥満はBMI30以上となっています。
👉 以下の脂肪の種類により、健康効果が異なりますので、自分はどのタイプかを確認してみましょう。
『肥満の種類』
内臓脂肪型肥満:喘息 高血圧 糖尿病 脂質異常症と関連
異所性脂肪: 脂肪肝(肝がんが進行)、脂肪筋(糖尿病へ進行)、脂肪膵(糖尿病へ進行)
ダイエットにより内臓脂肪と異所性脂肪から減少し、皮下脂肪の減少は1年以上かかりますので、根気よく続けます。
『ダイエットの方法』
◆肥満タイプの確認方法
⇒おなかに軽く力を入れ、へそまわりの肉をつかめるかどうかチェックします。つかめる人は皮下脂肪型肥満
⇒簡易的には、へそ周りの腹囲 男性85cm以上 女性90cm以上の方は、内臓脂肪型肥満されていますが、ウエストでの評価は相関が低く、腹部CTでの評価が必要と言われています。
内臓脂肪型肥満は、3~6ヶ月で体重3%減らす、皮下脂肪型肥満は、6~12か月で体重の3~5%減らす目標達成すれば、また3%ダイエットを試みます。
◆毎日体重測定:なぜ体重が増加したのか毎日考えます。
◆リバウンド対策:
*筋肉は糖を取り込む作用がありエネルギーを多く消費するので、筋肉量を増やしながらできる運動を勧めます。
インターバル速歩, 自転車こぎ, 水中歩行など筋肉が落ちない運動を行います。
*急激な減量をしない事
極端な食事制限で大幅に体重を減らすと、脂肪だけでなく筋肉量が減ります。筋肉量が減ると消費エネルギー量が減り、糖質や脂質がたまりやすくなり、痩せにくくなります。
*糖質制限ダイエット
*地中海式ダイエット
*時間栄養学ダイエット
(お金をかけない肥満&健康対策:当院コラムを参考に対策を)
◆肥満喘息への効果
ダイエットで肥満の改善に伴い、脂肪細胞からの悪い生理活性物質の減少、肺機能の改善、胃食道逆流症の改善などで喘息症状の改善が期待できます。
参考資料
アレルギー疾患のすべて;日本医師会雑誌、 今日の健康 2019-1
アレルギー 日本アレルギー学会 67(9)1248-1256,2018
鼻と眩暈と熱中症:暑さ対策は大丈夫?
平成から令和への10連休のGWがはじまりました。体を少しずつ暑さに慣らして、夏の熱中症対策を始める時です。
下記の『予防対策』を考えた対応を毎日心がけ、下記の『暑さ指数』を毎日確認してその日の行動を考え、熱中症に遭遇すれば下記の『現場対応』を行います。
環境省の下記のサイトが良くできていますので、まず見てください。
【現場対応】サイト
現場で、意識を確認して、なければ救急車、あれば水が飲めるか試みます。意識があれば、日陰・涼しい場所に移動して、服を緩め、水と塩またはスポーツドリンクをとらせ冷やします。頸部や脇の下を氷嚢,なければ自動販売機の冷えたペットボトル飲料水などで冷やします。
熱中症は、環境、からだ、行動が原因で起こします。
*環境:高温、多湿、風が弱い、エアコン無い部屋、閉め切った部屋、熱波
*からだ:肥満、高齢、小児、脱水、体調不良、糖尿病、心疾患など
*行動:慣れない運動、長時間の屋外作業、水分不足、スポーツ(登山、野球、マラソン、剣道、バレー、バスケットなど)
【暑さ指数:WBGT】サイト(気温、湿度、輻射・日射を考慮した指数)
温度計の指標とは異なります。 暑くなれば毎日確認をしましょう!
👉 熱中症対策で最も重要なことは、①良い汗をかき気化熱で深部体温を下げること、②皮膚からの熱放散が上手にできる事です。
そのためには、脳は熱に弱く脳の体温調整機能を低下させないよう脳の温度を40度前後以上ならないようにしなければいけません。
熱中症には、次の分類があります。
◆労作性熱中症:
若い人に多く、運動や労働と関連し,自宅外で急に発生
高齢者に多く、運動とは関係なく加齢変化と基礎疾患が関連して、徐々に進行して自宅の寝室、リビング、トイレで多く発生, 30度以上ではエアコンの使用が重要となります。若い人の労作性熱中症は、熱中症対策、啓発活動で減少してきていますが、高齢者の非労作性熱中症は近年増加していて、重症度が高く死亡例が多くなっています。
6月になり梅雨明け後急に気温が高くなると熱中症の方が増えてきます。暑熱馴化とは、暑くなっても体温調整がうまくでき、良い汗をかけるように前もってすることです。慣れていない人が、夏の肉体労働を開始すると3日以内の熱中症発生が多いことがわかっていますので、産業医療では、1週間以上まえから、仕事に少しずつ慣らしてから行うようになってきています。
👉 高率よい暑熱馴化の方法
インターバル速歩と運動後のコップ一杯の牛乳で、効率よい暑熱馴化を行います。高齢者ではサルコペニア(筋肉萎縮)対策にもなります。
◆インターバル速歩:
少しきつめの早歩き3分、ゆっくり3分歩行を交互に30分、週に4日以上1~2週間行うと効果が期待できます。若い人は、1週間程度から効果が出るようです。
詳しくは次の環境省youtubeを4分から見てください。環境省:夏を健康に過ごすための体つくり(youtube)
上記運動を5か月持続すれば、筋力増加、体力増加20%、高血圧、糖尿、肥満が20%改善する報告があります。
次の環境省youtubeで詳細が確認できます。環境省:暑さに強い体つくり(youtube)
運動後に糖質とタンパク(牛乳など)を摂取すると体内血漿量とアルブミンが増加して、体温調整能と下肢筋力増加に効果があり、下肢から心臓への循環量の増加が期待できます。末梢血液量の増加による皮膚からの熱放散や脳の体温調整機能低下予防にも役立ちます。日常の水分摂取も、利尿作用があるカフェイン、アルコール飲料は避け、水や麦茶を推奨。
➡ふらつき・めまいと熱中症
1度:熱中症初期 ふらつき・めまい・たちくらみ(脳への一次的な血流不足)
こむら返り・足のつり(脱水によるナトリウム不足)、気分不快、手足のしびれ
2度:頭痛、吐き気、虚脱感、倦怠感、軽い意識障害(熱疲労)すぐに病院へ搬送
3度:重度 高体温、意識障害、痙攣 (熱射病)すぐに救急搬送
めまい・ふらつきは熱中症の初期症状のため、見逃さないようにしないといけません。
労作性熱中症の場合は、発生環境からすぐに熱中症によるめまいと疑うことができますが、非労作性の熱中症で、自宅発症の高齢者の場合は、熱中症のふらつきを鑑別するのが難しくなります。少し暑くなってのふらつきは常に熱中症を想定した対応・鑑別が必要です。
脳は熱に弱く、熱中症では、脳を冷却して脳のダメージを防ぎ、体温調整機能を低下させないようにすることは重要です。加齢変化による、汗のかける部位の変化でも、若いころは足も含め汗をかけますが、加齢により体内の水分量がなくなるにつれて、下肢から上方に、徐々に汗がかけなくなります。顔や頭部の汗は、年をとっても低下しません。脳の冷却のための合理的な変化がおきています。
汗以外に、脳を冷却するには、頸動脈からの血流で脳を冷やすため、頸部、鼠径部、脇の下に氷嚢などで冷却を試みます。その他には頭部を外から冷やすこと以外ありません。今まで、鼻呼吸の脳の冷却装置としての役割は、あまり報告されていません。体温調節中枢は間脳の視床下部にあります。視床下部は、頭部の外からより、鼻の副鼻腔の一つの蝶形骨洞が外部と最も近い場所です。最近では、脳外科にて、間脳下垂体の手術は、内視鏡を使い鼻の蝶形骨洞を経由して手術が行われます。鼻と脳は数ミリの骨など隔てられているだけですので、鼻からは最も合理的なアプローチとなります。
鼻呼吸による鼻粘膜からの体温調節中枢の深部脳への直接的な冷却や鼻粘膜からの眼角静脈を通しての脳の選択的冷却システムが報告されています。鼻粘膜の鼻汁を利用した気化熱による冷却も考えられます。鼻呼吸による、体温調節中枢がある深部脳の冷却がもっと注目されてよいように思われます。
熱中症予防対策として、鼻の病気があれば治療して鼻呼吸を保ち、少し冷たい加湿した空気を鼻から奥に送ってあげることも対応の一つと考えられます。
➡ 熱中症おこしやすい方と疾患や要因
高齢者:皮膚温度感覚や体温調節機能の低下、基礎疾患による発汗障害や放熱障害
お子さん:発汗機能に未熟性や体の割に体表面積が大きく外部の影響を受けやすい
肥満:脂肪は熱放射を妨げます
体調不良:体温調節機能の低下
脱水状態:
糖尿病:自律神経障害による発汗・体温調節障害、多尿、薬による脱水
二日酔い:アルコールによる利尿作用
心疾患:心機能低下による体内循環量の低下や利尿薬の影響
高血圧症:日頃から塩分摂取制限、利尿薬の影響
精神疾患:無関心・自発性低下による暑熱環境回避をしない、薬の影響 体重増加
*風邪薬
*古いタイプの抗ヒスタミン薬
*咳止め
*トラベルミン(酔い止め)
*精神薬
*抗うつ薬
*パーキンソン病薬
脳内ドーパミン不足を補うため拮抗作用のあるアセチルコリンを抑制するため抗コリン作用の薬を使用
*頻尿薬
*腹痛薬など
上記のことに気を付けながら、温暖化による夏の暑さを乗り切りましょう!
参考資料:ヒトの選択的脳冷却機構とその医学;永坂 鉄夫 日生気誌 37:3-13,2000
騒音と難聴:そのスマホの音量で大丈夫?
➡騒音と難聴の変遷
現在は、周囲に色々な音があふれる時代です。高度経済成長の時代には、工場・造船や建築現場の騒音と難聴が問題となっていました。
歴史的には、Bernardino Ramazziniが『パン職人と製粉職人の病気;1700年』『銅細工師の病気;1713年』で騒音性難聴を記載しています。
最近では、産業構造の変化や労働安全衛生法による職場管理がされるようになり、工場・造船や建築現場の騒音は減少していますが、『レジャー騒音』として、スポーツイベント、パチンコ店、カラオケ、ライブ音楽、コンサート、スマホなどの携帯音楽プレーヤーと難聴が問題となっています。
また、環境騒音は、脳卒中、心疾患、不眠、めまいなどさまざまな病気の原因となることがわかってきて、『埋もれた公害』と考えられています。
➡WHOの警告:スマホでの長時間・大音量の音楽で 若者の半数が難聴の危険性
2019年2月12日にWHOは、スマホなど携帯音楽プレーヤーを、長時間・大音量の音楽を聞き続けると回復不能な聴覚障害(騒音性難聴:慢性音響性聴覚障害)になる恐れがあると発表しました。若いときから長時間、大音量にさらされていると、ダメージが蓄積して30代や40代の早い時期に老人性難聴を発症することがあります。
現状では、12~35歳の若者の半数近い11億人が難聴になる危険性が高いと警告しました。
『スマホの安全利用の目安:WHOの提言』
◆成人80dB 小児75dB 週に40時間まで
◆大音量聴取で自動的に音量を下げる機能
◆コンサート会場やイベントでの耳栓利用や会場での音量規制
~周囲の音量の例~
50dB: 小さな声、静かな事務所
65dB:エアコン
70dB: 普通に大きな声、高速走行中の自動車内、騒々しい事務所、
80dB:かなり大きな声、大声で、30cm以内で会話可能
走行中の電車内、パチンコ店内 街頭騒音
90dB: 怒鳴り声、会話成り立たず、カラオケ店内、直近の犬の鳴き声
100dB: 地下鉄車内、電車が通るときのガード下、ドライヤー,コンサート会場
110dB: 直近のクラクションの音、コンサート会場
120dB: 飛行機のエンジンの近く、落雷 救急車のサイレン
👉 学生さんが、バスや電車の通学でスマホの音楽を聴いていて周囲から聞こえるようであれば90dB以上ありますので危険領域と考えて下さい。
~騒音難聴ガイドライン(1992年)および国際労働機関によると~
80dB以上の作業場では、音量の測定
85dB以上では、必要な場合は耳栓またはイヤーマフ
90dB以上では、耳栓またはイヤーマフを使用
115dB以上では、耳の音量保護具なしでは立ち入り禁止
140dB以上は、立ち入り禁止
となっています。
👉 騒音難聴ガイドラインでは、カラオケ店やコンサート会場、ライブ音楽会場は耳栓が必要となります。
音量と許容基準時間(日本産業衛生学会、Hearwell, Enjyoy life: 日本耳鼻咽喉科学会HP)
音量 dB | 許容基準時間 | 場所や物 |
60 | リスクなし | イヤホンの適音量 |
75 | リスクなし | 掃除機 |
85 | 8時間 | 街頭騒音 |
88 | 4時間 | カラオケ店内 |
91 | 2時間 | カラオケ店内 |
94 | 1時間 | |
100 | 15分 | ドライヤー コンサート |
110 | 28秒 | コンサート ライブ音楽 |
👉 カラオケ店内、コンサート会場、ライブハウスは音量の許容範囲を超えやすい場所です。長時間の滞在は控えましょう。耳傍でのドライヤー使用も注意です。
2018年10月WHO欧州支部は、欧州地域での環境騒音に対するガイドラインを打ち出しました。Hearwell, Enjyoy life: 日本耳鼻咽喉科学会HP
レジャー騒音(スポーツイベント、パチンコ店、カラオケ、ライブ音楽、コンサート、スマホなどの携帯音楽プレーヤーなど)に対する提言として70dB基準を推奨しています。
70dBというと1mの距離の相手となんとか会話ができるレベルの騒音です。つまり、隣の人の声が確認できないほどの大音量にさらされると、難聴のリスクが高まるとWHOは結論づけています。
➡音響性聴覚障害とHidden hearing loss
強大音による難聴には、聴力の回復が困難なものと(NIPTS)と一過性低下ですむもの(NITTS)があります。近年、回復可能なNITTSでも、内有毛細胞に関する50%程度の機能障害がわかってきました。80%のシナプス障害がでるまで、聴力は正常を示すため、隠れた難聴(hidden hearin loss)と呼ばれています。このhidden hearin lossは、加齢性難聴でも生じていると考えられています。
ロックコンサート(100~120dB)、ピストル、爆発音(130dB~)などのすごく大きな音で、急性に起こる感音性難聴を音響外傷(急性音響性聴覚障害)と呼び、スマホの音楽、パチンコ店、工場の機械音(85dB~)などの長時間・大音量で生じる慢性音響性聴覚障害を騒音性難聴と言います。
耳慣れない言葉で、剣道難聴があります。竹刀による打撃による衝撃で2000Hz、竹刀の打撃音で4000Hzあたりの聴覚低下を起こすことが報告されています。
(徳島大学耳鼻咽喉科HPより)
難聴は、骨導を通してチェーンソーなどの振動でも生じます。
急性の感音性難聴の音響外傷は、早期にステロイドなど治療をおこない一部は回復の可能性がありますが、慢性に生じる騒音性難聴は、不可逆的で一度起こすと回復しません。
騒音職場では、1日8時間労働を行い、5~15年の経過で徐々に難聴が発生し進行します。騒音性難聴は、最もよく知られた職業性疾病の一つです。
➡ 音で、どうして難聴が生じるのか?
声で相手のイメージをいだいたり、歌で励まされ感動を覚えたりもします。
音は大脳でとらえた人の感覚すなわち感覚量だから心に響きますが、感覚量だけなら物理的な耳の障害は引き起こしません。
音は感覚量で、物理的に存在するのは音波です。
音波は、空気の膨張と圧縮により発生する縦波で、力学的エネルギーを持つ物理量です。
慣習的に、人は『音を聞く』といっていますが、これは『音波を聞く』ということになります。物理量の音波は、内耳の蝸牛障害を起こします。
初期は耳鳴り(キー、ミーンなど高音)が出現しますので、耳鳴りが自覚するときは早めの耳鼻咽喉科受診を勧めます。耳鳴りは内耳損傷のサインです。
人間の可聴域は20~20000Hzと言われ、これ以上の音は超音波と呼ばれます。
高周波とは15000Hz~20000Hzの可聴域を指し、『キーン』という音として聞こえます。
40代では15000Hz、50代では12000Hz~の高周波は、ほとんど聞こえないと言われています。
◆高周波のモスキート音で聞こえ年齢をチェックしてみましょう。
会話域は500Hz~2000Hz、騒音性難聴の初期聴力低下の参考値は3000~6000Hzの聴力を参考にしています。
➡ 騒音と難聴対策
職場での難聴対策は、職場管理がされるようになり、産業構造の変化から騒音難聴は減少していて、騒音性難聴の労災申請では昭和62年がピークで平成25年では1/4まで減少しています。産業医がいない、小規模職場での騒音問題は、把握できていません。
職場では、腰痛を筆頭に整形外科疾患が増加、癌、うつ・精神障害、生活習慣病による疾患が増加しています。
今後はレジャー騒音と車・交通機関・飛行機などの環境騒音が、問題となります。
◆スマホ難聴対策には、前述のWHOの提言をもとに実行されことが望まれます
◆音楽は60%の音量で聞くこと
◆音楽や大きな音の楽器演奏を聴かない日を設ける
誰でも普通にかなり大きな音を長時間、耳元で聞けば軽度の難聴が出現しますが、一日もすれば回復することが殆どであまり自覚することはありません。毎日、長期間・大音量を聞くと障害が遷延しますので、音楽や大きな音の楽器演奏を聴かない日を設ける事です。
◆パチンコ店、コンサート、ライブ音楽、スポーツイベントでは、耳栓利用が望まれます
会話可能な耳栓(JIS二種)もあります。
◆お酒を飲んで長時間・大音量を聞かない事(内耳障害を起こしやすくなる報告あり)
~防音保護具の種類~
80dbの騒音に晒されている場所において、NRRが30dbの耳栓やイヤーマフを使用すれば、体感的には50dbの騒音に低減できるということです、NRRが30以上のものを選びましょう。NRR(noise reduction rating)
耳栓(プラスチック、ウレタン、シリコン、スポンジ)
一種 低音から高音まで遮音 騒音の大きい場所で使用
二種耳栓は、騒音職場で、会話が必要な場所またはコンサートやスポーツイベントで使用
耳覆い(イヤーマフ)
工場の現場では蒸せやすくなります。
*拾った音の音量制限するもの
*騒音下での、無線通話できるもの
*外部騒音を検出して逆位相で打ち消すもの
など開発されています。
➡ 騒音性難聴担当医の役割の変化
日本耳鼻咽喉科学会では、昭和の高度成長期に、職場の騒音難聴と労災申請対策として、騒音難聴担当医制度が発足されました。鹿児島県に10名、全国には900余名の耳鼻咽喉科専門医が騒音性難聴担当医の役割を担っています。
職場での聴覚管理がなされるようになり、また産業構造の変化から、騒音職場での騒音性難聴の労災申請は減少してきています。
今後は、さまざまな疾患の原因となる環境騒音や将来的に若者の難聴リスクとなるレジャー騒音対策が社会的問題となっています。
騒音性難聴担当医も毎日の診療の中で、レジャー騒音にたいしての啓発活動の取り組みが求められます。
参考資料
第23回日耳鼻産業・環境保健講習会 講演集
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