院長の健康情報コラム
乳幼児の病気は鼻から!!
『赤ちゃんの鼻呼吸の重要性』
生まれたばかりの赤ちゃんは、口呼吸がうまくできず鼻が詰まると母乳やミルクが飲めず大変です。新生児は周囲がぼんやりとしか見えていません。お母さんの匂いを頼りに母乳を求めていきますので、赤ちゃんの鼻呼吸は生命線とも言えます。薬の効果が期待できないことが多く専門医での処置も必要になります。
『乳幼児の風邪症状』
乳幼児の時期は、よく風邪をひきます。ぐったり感が強い、呼吸苦がある、顔色が悪いは緊急性がある兆候です。
通常は風邪をひいても鼻風邪程度で熱は1~3日程度持続し、元気はあります。鼻水、鼻閉、咳、痰は1~2週間ほど持続して自然治癒することがほとんどです。但しこの年齢では、風邪をひきやすく何度も同じような症状を反復します。風邪をひいても、うまく病気と付き合えば免疫力がついてお子さんの自然治癒力は高まり自分で乗り越えることが出来るようになります。
『鼻と子供の病気』
中耳炎、目ヤニ、ゼーゼー、持続する咳痰、いびき、無呼吸、口呼吸、咽頭扁桃炎と併発する発熱は、鼻と関連して起こすことが多い疾患や症状です。
鼻の奥には、中耳とつながる耳管(上咽頭に開口)、目とつながる鼻涙管(下鼻道に開口)が鼻へ開口しているため、鼻の炎症や菌・ウイルスが中耳や眼に波及していきます。
鼻副鼻腔炎の鼻汁は鼻の奥から後鼻漏として咽喉頭へ流れ込み、咳・痰・ゼーゼーが出てきます。また上気道が悪いと下気道の気管・気管支・肺にも影響が及ぶため、ゼーゼーや治りにくい咳痰が持続し、肺炎も併発することもあります。
鼻の奥の上咽頭粘膜の腫脹(アデノイド肥大)は生理現象として3~6歳ごろは大きくなるため、通常の鼻炎をおこすだけで、いびき、無呼吸、口呼吸が夜間になると顕著になります(睡眠時無呼吸症)。口呼吸があれば、のどからの発熱が起こしやすくなります。
子供の睡眠時無呼吸症は、夜間の症状の他には、昼間の傾眠は少なく、多動、体重増加不良、おねしょなど大人と違う症状が出現してきます。
➡感染源は?
パパ、ママ、兄弟姉妹、保育園、幼稚園からもらう事がほとんどですので、家族も同時に治療を行い、集団生活を少し休めば治りも早くなります。
➡診断は? 子供さんは動くので容易ではありません
採血では全身の炎症反応や肝臓・腎臓などの臓器の異常は確認できても、耳、鼻、のど、喉頭、上咽頭アデノイドの状態は、局所を直接見て確認しないとわかりません。子どもの場合は協力が難しく診断は容易ではありません。レントゲンなど画像検査は動くため大人のようにはできません。
上咽頭アデノイドや喉頭の確認は、抑制してのファイバースコープが必要になることもあります。中耳の確認も耳垢除去を顕微鏡下に行なわないとわからないとこともよくあります。じっとしてくれないので多人数で抑制して行うこともあります。全身状態、顔色、声の状態、喉頭、肺の音も確認が必要です。
鼻の吸引処置を行うと同時には鼻水の性状や鼻の粘膜の状態を確認します。鼻粘膜が腫れて悪いのか、鼻汁貯留が問題なのか、水様、膿性、粘調な鼻汁かを確認すると薬の選択の参考になります。
➡お子さんの病気が治りにくいときに、鼻関連では次のことを考えます!!コラムも参考に
コラム ①鼻と子供の中耳炎 ②お子さんの中耳炎の疑問に答えます
自分から耳痛の訴えは2歳ごろまでは難しく、機嫌が悪い、耳に手がいく、目ヤニなど参考にします。
*咳痰が持続するとき➡鼻副鼻腔炎の合併による後鼻漏
*ゼーゼー咳痰が治らないとき➡アレルギー性鼻炎および鼻副鼻腔炎の合併、アトピー体質があることも多い
コラム ①鼻と秋の喘息 ②お子さんの喘鳴は何タイプ
*目ヤニが持続するとき➡鼻副鼻腔炎・中耳炎の合併
*いびき・無呼吸・口呼吸・夜間体動・おねしょ➡鼻副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、上咽頭炎、アデノイド扁桃肥大の合併
コラム 睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
*よく風邪をひき、熱を出す➡口呼吸があり、鼻副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎・アデノイド扁桃肥大の合併
➡治療は?
薬や処置・鼻洗が通常行われます。保存的治療で改善悪い時、鼓膜切開や病院でのアデノイド切除や扁桃摘出、鼓膜チューブ挿入など行うことがあります。
👉 耳・はな・のどの専門医である耳鼻咽喉科では、耳・はな・のどの奥を見てしっかり診断を行い、治療を考え、必要な場合は奥の画像や動画を用いて説明を行っています。
ホー吸入で薬効果をより良く実感:喘息・咳喘息の方へ
病気を改善させるには、薬の使い方や服用方法は重要です。
喘息・咳喘息やCOPDの治療では吸入器具を使います。器具に入っている薬を上手に、気管を経由して肺の奥まで運ぶ行為が必要になります。内服であれば、服用さえできれば薬の効果が期待できますが、器具を用いた場合、操作方法を覚え、実践できなければ薬の効果は期待できません。
喘息・咳喘息やCOPDの治療では、色々な吸入器具が使われていますので、クリニックで処方された器具に合った使用方法を学ぶ必要があります。院外薬局では、吸入指導が行われ処方薬をもらうことことになります。
吸入器具は認識できても、その中に入っている薬は目に見えないことがほとんどで、本当に吸入できているのか不安になります。匂いや味があれば吸入の実感がわきますが、匂いも味もわかりにくい吸入薬もあります。ただ吸入するだけでは効率よく薬が気管・肺まで到達していないこともわかってきました。
👉目に見えない吸入薬を、目で見えない口腔内から上手にのどの奥から気管・肺までどのように届けたらよいのでしょうか?
今までは、器具の使い方を覚えたら、息を吐いて吸う:単に吸うスー吸入でした。器具を口にくわえ、強く吸うかゆっくり吸うかして息を止めることが通常行われてきました。最近、今までのスー(吸う)ではなく口腔内の薬の通り道を考えた画期的なホー吸入が開発され吸入効果が45%から75%まで改善され薬の効果をより良く実感できるようになりました。
『目に見えない口腔内を、吸入するとき望ましい状況に変えるため、ホー吸入を以下の要領で行います』
*器具を口にくわえる前に、舌の位置を前方に移動して下げ、ホーと言いながらお薬の通り道を作ります。
*器具の吸入口を舌の先端の上にのせます。
*ホーをイメージして、のどの奥を広げ吸入します。
*お薬の通り道をまっすぐにするため吸入すると同時にアゴを上げ、首をのばして吸入します。
➡ 日本喘息学会の動画で、ホー吸入を学んでみましょう!! 活字より視覚的に学ぶ方がよくわかります。
各吸入製剤の解説はこちら➡ 吸入操作ビデオ (jasweb.or.jp)
ホー吸入 Ver.2 youtube
➡ 吸入器具には粉かエアロゾルのどちらかが入っています。
多彩な形状の何十種類もの吸入器具が存在していて、大きく分けてエアロゾル製剤と粉タイプに分けて理解しましょう
*エアロゾル製剤:pMDI ゆっくり大きく吸入するタイプ
喘息薬:フルティフォーム2剤、アドエア2剤、フルタイド、キュバール、オルベスコ、メプチンエアーなど
COPD薬:ビレーズトリ3剤 ビベスピ2剤
*粉タイプ:DPI 勢いよく大きく吸入するタイプ
喘息薬:アドエア2剤、レルベア2剤、テリルジー3剤、アニュイティ、エナジア3剤、アテキュラ2剤、シムビコート2剤、パルミコートなど
COPD薬:アノーロ2剤、エンクラッセ、ウルティブロ2剤、シーブリなど
➡ 吸入製剤の選び方
吸入者が、子供や高齢者など勢いよく吸入できない方はエアロゾル製剤を選びます。吸入に同調できない方は、筒状のスペーサー(3000円程度で購入)を用います。
勢いよく吸入できる方は、粉タイプまたはエアロゾル製剤を選びます。アルコール臭が合わない方は、粉タイプを選択します。
➡ 以下の従来からの吸入動画では、ホー吸入については述べられていません
それぞれの吸入器具の詳しい吸入方法は、アレルギー協会の吸入療法サポートチャンネル(通称 吸チャン)を参考にしてください
環境再生機構の吸入動画も参考になります。
➡ 吸入効果が得られないときにまず行うことは
*特にお子さんや高齢者は吸入手技がうまくできなくて効果を得られない事がよくあります。まず正しい吸入手技の確認をしましょう。お子さんに任せきりでは、うまくできていないことが多くあります。
*前述の色々な動画がネット上にアップされていますので、これらを利用するとお子さんや高齢者も理解が深まると思います。
*吸入効果が45%から75%まで改善され薬の効果をより良く実感できるようにするため、お子さんや高齢者もホー吸入を行いましょう。
医師が勧めるスギ花粉情報2023
➡ 鹿児島県医師会 花粉情報 九州地区のスギ、ヒノキ花粉 手間がかかる従来の方法で測定 信頼性が高いデータです。週末は休みです。
➡ 日本気象協会 花粉情報 週刊予報 PM2.5 天気などと総合的に判断できる情報満載。
➡ ウエザーニュース 花粉情報 ポールンロボによる機械で測定するためリアルタイムで情報提供 当日のWeb症状アンケートも記載されます。
ウエザーニュースのポールンロボの問題点:ポールンロボは花粉状粒子を測定しています。ヒノキ花粉との判別はつきません。ポールンロボは粒子径30~40μmの粒子をレーザー光で測定しているとのことです。スギ花粉の粒子径が約30μm、イネ科花粉が約20~40μm、スギ花粉飛散時期の数値は、スギ花粉はカウントしていると思われます。ただし黄砂粒子は5~10μmですが、粒子間付着で粒子が複数個固着している場合には 黄砂もカウントするようです。南九州の場合は、火山灰粒子も数値に影響を与えると思われます。
マスクで発症予防:小学生スギ花粉症
マスク着用は、コロナ禍(3年経過)になって当たり前の光景になっています。
新型コロナ弱毒化とワクチンの普及及び罹患者の増加から、最近では(2023年1月)、以前と違い
*屋外では2mの距離が確保され会話がなければ、マスク不要
*屋内では、距離が保たれ会話がない場合を除きマスク着用が推奨
*2歳未満はマスク着用推奨なし、 *2歳以上就学前はマスク着用を一律には求めない
*体育、部活動の最中、登下校の際もマスク着用は推奨されていません。
感染対策の視点からは、屋外では原則マスクはいらないということです。
鹿児島では、2月から3月にかけてスギ花粉症の時期が来ます。九州北部、本州ではその後もヒノキ花粉が問題となります。マスク着用は、スギ花粉対策として常識で、ガーゼなどインナーマスクをすれば効果が増加することもわかっています。
最近、コロナ禍になっての小学生でマスク着用の2万人以上の大規模調査(福井大学耳鼻咽喉科)の結果、マスクを着用することで、花粉症になる人が、毎年の半分以下に減少することがわかってきました。
今後は、花粉飛散時は花粉症の方だけでなく
👉 スギ花粉症を発症していない方も発症予防のためには、花粉飛散時期の屋外でのマスク着用を検討してみましょう。 感染対策の視点からは少し逆行することになります。花粉症増加率が最も高い年代の5歳から思春期までの方は、少し考えてみてください。
➡福井大学耳鼻咽喉科 スギ花粉症対策室を参考に
スギ花粉の20年間の年齢別増加率
有病率の比較:年齢層別・20年間隔の比較
*乳幼児(0~4歳)2019年3.8% 20年前の約2倍
*子供(5~9歳)2019年30.1% 20年前の4倍 小学生の増加率が顕著
*年長・思春期(10~19歳)2019年49.5% 20年前の2.5倍 最も多い年齢層(中高生)
*成人(20~59歳)2019年45~48% 20年前の約2倍
*中高年(60~60歳)2019年36.9% 20年前の3.5倍
*高齢者(70歳~)2019年20.5% 20年前の約4倍 高齢化による増加
『コメント』
スギ花粉症は、20年前は20%程度の成人の有病率でしたが、2019年の成人では約50%弱となっています。5歳程度の小学生からの増加が顕著で、中高年から高齢者の増加率も多くなっています。中年以降の増加はより若い年齢で発症した人たちの加齢による移行と思われます。増加の主体はより若い世代にあります。鹿児島の場合、2019年で、有病率は18.2%程度で、全国の中でも少ない県になっています。
年少から思春期および若い世代の増加に抑制をかけないと今後もっと増加すると思われます。スギ花粉症の自然寛解率は12%程度(10年間:20-40歳)と低い報告ですので本質的な対応が早急に必要とされています。
内服やレーザー治療、高価な注射薬ゾレアでは、急増するスギ花粉症やダニによる鼻炎患者さんの症状は抑えられても、体質を変えませんので患者数の増加を抑制できません。薬・外科治療などは対症療法です。本質的には、スギに感作されないようにする、または体質改善や環境要因の改善が必要です。体質改善を期待するには、舌下免疫療法ですが,効果を期待するには数年以上必要です。
👉 簡単で誰にでもできる、マスク着用で小学生のスギ花粉症の発症を予防する試みが注目されています。
アレルギー体質で、今後スギ花粉症の発症が心配な方は、鹿児島の場合、2月中旬から3月下旬ごろまで、屋外でのマスクの着用を検討してみましょう。病院の検査で、スギ感作(すでにスギ抗体があり)が判明しているが発症はしてない方も試みましょう。
アレルギーと無縁のような方もスギ花粉症だけ起こす場合もあります。
いつ頃から飛散するかは、気象庁の飛散予測で確認してください。2023年鹿児島は、2月14日 福岡は2月8日となっています。花粉飛散量は前年の夏の日照時間に相関するので、今年は昨年より多くなると予想されています。いつから飛散するかは、昨年の11,12月の気温と今年の1月2月の気温が左右します。今から寒波が持続すれば飛散時期は遅くなります。
(当院花粉関連コラム紹介)
➡花粉飛散情報の変化&知っておくこと20220306
➡早くから始めるスギ花粉症治療:初期療法(鹿児島)20220206
➡急増するスギ花粉症にどうする?(舌下免疫療法:After コロナ)20210903
➡花粉症に新たな治療薬(ゾレア)20200128(当院ではゾレア治療行っていません)
➡舌下免疫療法(スギ、ダニ)20190414
➡自分で行うスギ花粉対策(黄砂 PM2.5)20190127
意識しないとわからない嗅覚障害:sniff & smell
健康で幸せな生活が送るためには、自分の健康に関心を持ちことから始まります。
生活習慣病や癌は、自分では知らずに少しずつ進行するため検診や人間ドックを定期的に受けて確認する必要性があります。中年近くになるにつれ自分の健康に関心を持つようになり、定期的に検査を受けてみようと考える人が増えてきます。
においを感じることができなくなる嗅覚障害は,その先の豊かな生活や人生の選択肢を奪ってしまうこともありますが、生活習慣病、癌、脳血管疾患に比べると、主婦、料理人の一部の人を除き関心がもたれることが少なかった領域です。
➡子どもでは、匂いがしない訴えを自ら発することは少なく気づかれていないことがあります。
➡高齢者では、フレイル(虚弱 筋力低下)、食欲低下、うつ傾向の原因として嗅覚障害が見落とされていることもあります。
米国の報告では、65歳以上の検査による報告で50%以上に嗅覚障害を認めた報告がありますが、同国のアンケート調査では、65歳以上で数%の嗅覚障害の報告です。つまり、多くの高齢者は、自分に嗅覚障害がある事に気づいていない可能性があります。
日本でも男女ともに50歳代から徐々に嗅覚が低下し,その後年代が進むに連れてその低下度が大きくなることを報告されています。
コロナ禍となり、後遺症として関心を集め、嗅覚障害が急に意識されるようになっています。
◆嗅覚障害のメカニズムと治療可能な障害は?
治療可能な嗅覚障害は、二種類に分けられ、
鼻の通気障害に対する治療(①気導性)と、
嗅粘膜の嗅細胞再生(②嗅神経性)に対する治療です。
鼻の通気には鼻の前方からと、風味と関係する鼻の後方から通気が重要になります。
①気導性
花粉症、アレルギー性鼻炎、鼻風邪、副鼻腔炎などの鼻の通気障害の治療は、鼻粘膜腫脹が改善すればよくなるため、薬の使用または鼻風邪・副鼻腔炎が自然に改善しても数週間以内に匂いが戻ります。鼻ポリープや副鼻腔の炎症が強く閉塞が強い時は、長期に治療を要し手術加療が必要になることもあります。一部には嗅神経性の要素が混ざっていることもあり治療が難しくなることもあります。
②嗅神経性
嗅粘膜の嗅神経へ影響する感冒後嗅覚障害や新型コロナ後の嗅覚障害は、嗅細胞再生が必要になるため、数ヶ月から数年以上かかり、中には改善しないこともあります。加齢性・外傷性の嗅覚障害は、改善は難しくなりますが、一部の方は回復可能な嗅神経障害の要素は入っていることもあり、治療を試す価値はあります。中枢性の要素が大きいと改善は難しいでしょう。この嗅神経嗅覚障害の改善目的に嗅覚刺激法は世界的に注目されています。
認知症やパーキンソン病関連の③中枢性嗅覚障害などは、中枢疾患の早期診断として注目されていますが、現時点では、治療対象ではありません。加齢性は、嗅細胞の減少と中枢性の両方の関与が考えられますので、嗅細胞の減少に対しては治療可能となります。
『風味と新型コロナについて』
食事の風味は嗅覚が7割、味覚は3割といわれており、呼気(呼吸ではく息)によってにおいが鼻の後ろから運ばれて嗅粘膜を通ります。このように、鼻の後方からの空気の流れ方は、におう・味わう という動作において重要な意味を持ち、食欲とも関連しています。
食べ物や飲み物を口に入れた際に感じる『香り』や『味わい』が『風味』です。風味は特有の味わいに香りを含めたものです。ワインを例えると口の中に広がる香りで、口の中から鼻に抜けていく香りをイメージしてみましょう。ハーブやスパイスで、食べ物に風味を加えることも可能です。このように、鼻の後方からの空気の流れも風味、嗅覚、味わいに大きく関与しています。
鼻を摘んで比べて食べると風味、味わいのことがよくわかります。新型コロナの味覚障害の60~70%程度は、風味障害と報告されています。
50代の中年女性に多い感冒後嗅覚障害より、30代に多い新型コロナ後の嗅覚障害の方が、同じ嗅神経性嗅覚障害ですが、はるかに回復は早いと報告されています。
*新型コロナ:9割程度は半年以内に回復しています。大半は数ヶ月以内の回復が多い
*感冒後嗅覚障害:軽症では半年程度で回復することもありますが、中~高度の障害では数年以上、3年で60%程度の回復の報告があり。若年者の方が高齢者より回復が早い報告があります。
現在の新型コロナに対する治療は、以前からある感冒後嗅覚障害への治療が応用されています。
◆子供の嗅覚障害
子どもは、匂いがしない訴えを自分から発することは少なく気づかれにくい。
➡大学嗅覚味覚専門外来:子供の受診はわずか(産業医大:嗅覚味覚外来報告)
患者比率では子供はほとんどいない
嗅覚障害は50歳ごろから多くなり、特に女性が多い。味覚より嗅覚障害の方が女性の割合が多くなる。10~20代は、嗅覚障害の女性が少し増加するが10歳未満受診は全体の中ではわずかである。
➡嗅覚障害の原因比率:嗅覚障害の原因疾患は子供の鼻の病気に多い (産業医大)
副鼻腔炎21% アレルギー性鼻炎 7%(気導性) 感冒後35%(嗅神経)頭部外傷性9%(一部嗅神経性) 不明22% 認知症1% 先天性2% アルツハイマー パーキンソンなど
幼稚園・学童のこどもに多い、風邪、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎による嗅覚障害は多くの子供も罹患しているはずです。子供の場合、嗅覚の訴えで病院を受診するほど困ってないか、自ら匂わないと訴えることが少ないため、親も含め嗅覚障害に気づいていない可能性があります。
子供の風邪や副鼻腔炎は繰り返すが、大多数は回復も早く、10歳以降は、風邪や副鼻腔炎は、起こしにくくなります。アレルギー性鼻炎は大人まで持続しますが、大多数は薬でコントロール可能ですので、持続的な嗅覚障害は、少ないのかもしれません。
『子供の嗅覚障害で注意すべきは、稀な先天性嗅覚障害』
先天性嗅覚障害の診断においては問診における「生来においを 感じない」との訴えが重要。また先天性嗅覚脱失症例は臭いに対する概念がなく,自身の嗅覚症状に気付くのが容易でなく、そのため発見が遅れる場合も珍しくありません。
よく知られたKallmann症候群は中枢性性腺機能低下症と嗅覚異常を中核症状とする先天性疾患で,男性では停留精巣,小陰茎,二次性徴の欠如,女性では思春期遅発症,二次性徴の欠如がみられる。その発症頻度は,出生男子の 1万人に1人,出生女子の5万人に1人とされているようです。
性腺機能異常を伴う先天性嗅覚障害の診断は比較的容易ですが,性腺機能異常を伴わない場合では 幼少時の副鼻腔炎,頭部外傷等の後天的要因による嗅覚障害を否定することは難しく,先天性嗅覚障害 の診断は容易ではありません。MRIにて嗅球,嗅索,嗅溝の低形成あるいは無形成を確認します。2次成長が認められない場合は,ホルモン補充 療法が必要です。
◆新型コロナと嗅覚障害
新型コロナウイルス感染症(COVID―19)患者の多くが嗅覚障害の自覚症状を有するため,嗅覚障害の診断と治療の重要性がクローズアップされてきました。以前のデルタなどの比べオミクロンは嗅覚・味覚障害の訴えは減少していますが、無くなってはいません。
新型コロナによる発生メカニズムもわかってきました。嗅粘膜上皮においては ACE2 受容体と TMPRSS2 の発現を認めるのは、におい分子と結合する成熟嗅細胞ではなく,主に支持細胞 。COVID―19 感染では鼻腔の嗅裂粘膜の明らかな腫脹を認めない場合、嗅粘膜上皮の支持細胞障害により二次性に嗅細胞が減少し嗅神経性嗅覚障害を合併している可能性が考えられます。
新型コロナの嗅覚障害では、嗅神経性で治りにくい印象ありましたが、オミクロンでは副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎の合併での嗅覚障害も多く認め治療で数週間以内に回復することも多くあります。嗅神経性の要素が強い方は症状は持続しています。今までの報告では数ヶ月以内の回復が多く、6ヶ月以上持続する方は少ないと考られれていますが、一部の方は長期に持続しますので、従来からある感冒後嗅覚障害に準じる治療(漢方や嗅覚刺激法)が適応されます。
◆匂いがしないと何が困る?
*食品腐敗に気づかない
*危険なガス漏れ、火事になる煙に気づかない
*食事がまずく、食べ物、植物の香りがわからず豊かな生活が送れない
*調理の味付けができない、塩分・糖分の過剰摂取の恐れ
*嗅覚・食欲低下から高齢者はフレイル、筋力低下、うつ傾向になる可能性
*子供さんは、食育教育で本来の嗅覚味覚がわからないまま行われる可能性
『食育について』
食育と嗅覚・味覚:食育とは食事をめぐる教育のこと。 食に関する正しい知識・適切な食習慣を子どものうちから身につけることです。生活習慣病・肥満を予防するため、よく噛むこと、不規則な食事は控え、バランス良い食事をとる。食物アレルギー教育。学校給食での地場産物の活用、米飯給食の充実。食文化の継承など掲げられています。学校での食育のプログラムに、子供の嗅覚・味覚は問題ないのかの視点の記載は見かけないようです。
👉 嗅ぐ習慣の必要性 sniff & smell
犬はヒトの5000~1億倍嗅覚が優れているといわれています。散歩中は、いつも地面を嗅いでいます。これは犬の情報収集と好奇心のためのようです。
我々も犬までとはいかなくても、毎日の生活の中でもっと嗅ぐ(sniff)習慣を身に着けるとことで嗅覚障害の回復に役立つことがわかってきました。
『嗅覚刺激法(olfactory training)について』
ドイツの耳鼻咽喉科医が開発した異なる種類の嗅素を嗅ぐ治療法です。レモン、ローズ、ユーカリ、クローブを朝、夕15秒程度嗅ぐ治療を3ヶ月以上持続します。日本では馴染みのない嗅素もあり、日本式は現在、大学などで開発中です。現在、嗅覚刺激法は、日本での保険適応はありません。
九州の大学で唯一嗅覚・味覚外来を持つ北九州の産業医大では、湿布、材木、ココナッツ、バニラを使用して行われているようです。全国的に、国立長寿医療研究センターなど他の大学との日本式嗅覚刺激法の効果の共同研究がこの方法で進行しています。
以下のYoutube を参考にしてみてください。レモン、ローズ、ユーカリ、クローブを、毎日朝夕嗅ぎ、3ヶ月以上行います。
市販の精油を直接嗅ぐのは刺激が強いので、市販の精油(レモン、ローズ、ユーカリ、クローブ)を使い水彩紙と褐色瓶を利用した方法をわかりやすく説明しています。水彩紙の代わりのコットンで代用できます English。
はじめての嗅覚トレーニングセットとして、4000円弱 1ヵ月分で市販されています。褐色ボトル付きです。継続希望の方は4個リフィル用も2600円程度で購入できます。
馴染みのある、特色ある異なる香りを嗅ぐことが大事です。
基本的な現在世界的に行われている嗅覚刺激法を参考にすれば、柑橘系、花の香り、木の香りなどの香りのアロマなど選ぶとよいと思われます。
アロマなどが手元にない方は、
身近な方法では、自分にとって馴染みのある好きな香りを選ぶ方法で始めて良いと思います。朝食では、コーヒー、納豆、レモン、味噌汁、かつおだしや昆布だしの汁ものなど、自分流の匂いを考えて良いでしょう。カレー、イタリア料理のバジル・オレガノなどのハーブやスパイス、ニンニク料理など、工夫をすれば匂いはいくらでも見つけることは出来ます。庭や公園で、季節の花や草木を意識して嗅ぐ、香水、肩こり腰痛あれば手持ちの湿布を嗅ぐこともできます。但し、嗅ぐ物の匂いの程度によっては、匂いの強さが足りないこと、治療としての規則性や再現性が問題です。
匂いがまったくしなくても、そのものがどんな匂いだったかを思い出して嗅いでみましょう。
海外の報告では、週3回汗をかくような運動も嗅覚障害の予防に役立つようです。
2017年に書いた【においと学習効果】の当院コラムも参考にしてください。コロナ前の嗅覚障害が、今ほど注目されていなっかた時に書いています。
『においを楽しむ対策』
*鼻の病気にならないようにする
*意識してにおいを嗅ぐ習慣を
*定期的な運動
*タバコは止める
*料理の盛り付けの色合いなど工夫してにおいを意識すること
参考資料
123回日本耳鼻咽喉科学会総会 2022年4月
嗅覚障害ガイドライン2017年
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