院長の健康情報コラム
診断・治療が難しい高齢者めまい
日本の不慮の事故の報告で多いのは、若者・中年では交通事故、高齢者では窒息、転倒・転落、溺死が問題になります。
溺死の多くは浴槽内への転倒・転落で起きていることから転倒・転落の割合はもっと多くなります。
高齢者の寝たきりの原因で多い大腿骨近位部骨折の74%は転倒が原因です。
20歳(100%)と比較すると70歳で筋持久力低下(30%)と平衡性の低下(20%)となります。
小脳の退行変性は40歳台から始まり加齢ともに加速し高齢者の平衡機能低下へ大きな影響力を持ちます。高齢者のめまいの年間有病率は若年者の約3倍です。
中枢神経、末梢受容器(内耳)の加齢による機能低下および筋力低下は誰にでもおこる現象です。
転倒対策は重要ですが、老人性平衡障害への有効な薬物療法や手術治療は存在しません。
有望なのは中枢前庭代償を促進させるリハビリと筋力増強のためのリハビリです。加齢変化のため前庭代償の発現が不十分となりリハビリの効果が十分に得られないこともあります。
めまいの訴えに対して漫然と抗めまい薬が処方されていることがありますが、基礎疾患が多い高齢者ではポリファーマシー(5剤以上で転倒リスク増加)となり薬害を起こすことも懸念されています。減薬の意識も大事です。
👉 診断・治療が難しい高齢者めまい
若い人は、良性発作性頭位性めまいを主に内耳からのめまいが多く、ほかには片頭痛・肩こり・貧血・自律神経症状・生理・心因性などを考えた対応が多くなります。
高齢者では、若い人のめまい疾患の他に、基礎疾患が多く、下記のような多くのふらつきの・めまいの原因となる脳心・内科領域疾患および薬剤性、運動器・筋力の低下による老年症候群を考えた対応が必要になり診断・治療が難しくなります。
内耳疾患も感知する感覚が衰え若い人のような回転性ではなく浮動性の訴えが多くなり診断を難しくします。暗所や起伏のあるところで転倒しやすくなる両側前庭機能障害を示す加齢性平衡障害も出現してきます。
『内科領域』
薬歴や病歴からめまい・ふらつきに関係する疾患や薬物を丁寧に確認して対応していきます。
➡ 様々なめまい・ふらつきに関与する多くの疾患
*脳卒中 :危険なめまいです。
*椎骨脳底動脈循環不全
*頸椎性
*くも膜下出血:4%はめまいで発症します。
*心疾患
*不整脈:労作時のめまい、動悸の有無の確認します。
*高血圧・動脈硬化
*脱水:梅雨から夏にかけては熱中症に注意
*食事摂取・栄養不良:嚥下機能障害・嗅覚障害が隠れていることあります。
*糖尿病:自律神経障害、起立性低血圧など出現することあります。
*起立性低血圧:入浴時や食後低血圧など、下半身から上半身への血液還流改善のため下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉:第二の心臓)を鍛えます。脳循環自己調節機能や自律神経調節中枢の機能低下が原因。
*認知症(レビー小体など)
*パーキンソン病
*アルコール中毒
*薬剤性:薬物投与より減らすことを意識して対応 ポリファーマシー(5剤以上で転倒リスク増加)と言います。
減薬についてはかかりつけ医と相談しての対応が必要です。
『老年症候群』
次の四つが重要です。
*フレイル(健常から要介護の中間段階:加齢による衰え全般)
*運動器機能低下・筋量低下のサルコペニア
*骨粗鬆症
*加齢性平衡障害(下記の内耳からのめまいで詳細記載)
*運動器機能低下・筋量低下のサルコペニア
今までの対策
【動的持久的運動】(有酸素運動:脂肪と糖を消費、心拍予備能60%を超えない程度が望ましい)
動的有酸素運動(散歩、早歩きなど)は血圧変動の程度が少なく、代謝・循環系の改善効果から今まで静的筋トレより適応な運動として勧められてきました。
最近は筋力維持、強化という点から、高齢者にも適切な強度の筋抵抗性運動(静的運動:スローな運動)であれば、動的運動と平行して指導することが求められています。
心拍予備能60%を超える運動は、血圧や血糖をあげるホルモンが上昇します。乳酸が蓄積して、二酸化炭素が過剰排泄となります。静的運動は血圧をあげますので息を止めないで行います。
これからは、有酸素運動に平行して
【静的運動(スローな運動)】
欠点は血圧をあげますので、レジスタンス運動時に力発揮が強まるときには、息を吐き、弱まるときには息を吸うことが基本です。
具体的には
スロースクワット(腰痛、糖尿病対策にも効果)
スロー腹筋
スロー片足引き上げ
スロー腕立て伏せ など
メリットとして
ゆっくりであっても筋肉が動き続けていると乳酸が分泌します。
乳酸が成長ホルモンの分泌を促します。成長ホルモンが筋肉肥大、骨や腱の代謝を促進し、また体脂肪の分解も促進します。
*骨粗鬆症
骨を強くし転倒を予防する運動
背筋運動
片足立ち
スクワット など行います。
運動は背筋運動、スクワット、壁で支え片足立ち、壁で支えヒールレイズ(かかと挙上)、水中歩行などのレジスタント運動を行います。食事は、バランスの良い3食を食べ、肉・魚・大豆・納豆・卵・牛乳・小魚・きのこ・鮭などタンパクやカルシウム・ビタミンD・ビタミンKをよく食べましょう。レジスタント運動で筋肉量を維持し、骨密度の減少に効果があります。ビタミンDを維持するには日光浴も大事です。肥満者は少しずつ減量を試みます。急な減量は、筋肉量の低下をもたらします。喫煙や過度の飲酒も骨粗鬆症を早めます。
➡日常生活での注意点
*急な立ち上がりや急に振り向くことを避ける
*階段の降りる時は手すりを使い慎重に
*両手フリーで歩行、荷物は背中に背負うか手押し車に入れる
*戸外では杖や手押し車を使用
*室内の障害物の整理、バリアフリー、トイレや廊下を明るく
高齢者の急性期は、脳血管障害によるめまいに注意した対応が必要です!!
*加齢性平衡障害
いままで高齢者で原因不明のふらつき・めまいに対して診断していた概念ですが、2019年に国際基準ができました。
軽度の両側前庭機能障害が出現します。
通常歩行では加齢性平衡障害の両側前庭機能障害者と健常者では差はみられず、歩行速度が速くなるほど歩行中枢が中心になり不安定歩行が出やすくなります。ゆっくり歩行は、視覚など感覚情報を利用して対応しています。暗所や起伏のあるところで転倒しやすくなります。
➡2019年に国際学会のバラニー学会で診断基準が示されたばかりです。
3ヶ月以上持続する前庭症状(めまい・ふらつき)少なくとも以下の二つを認めます。
- 姿勢のバランスあるいは不安定感
- 歩行障害
- 慢性の浮遊感
- 繰り返す転倒
加齢性平衡障害を診断しても、確立した治療法や予防法があるわけでなく今後の研究課題となっています。
☞ 実地診療では、従来通りの前庭リハビリ、サルコペニア対策(ウーキング、下肢の筋トレ)が重要と思われます。
*BPPV(良性発作性頭位性めまい)高齢でも最も多い内耳からの眩暈です。60歳以上では20~40歳の7倍高い発症率です。頭部外傷、メニエール病、前庭神経炎などの二次性に発症しやすく、骨粗鬆症との関連、全身疾患との合併が指摘されています。変形性頚椎症や腰痛の合併も多く検査や耳石置換療法が出来ないこともあります。高齢者ではBPPVを感知する感覚が衰えているため発見が遅れることがあります。
*メニエール病:中年で発症することが多い疾患ですが、最近、元気な高齢者が多くなり以前より高齢者で増加しています。若い人のように回転性ではなく、持続的浮遊感の訴えが多くなります。BPPVの併存のこともあり頭部挙上での就寝も考えます。
*前庭神経炎:30~60歳に好発
『心因性めまい』
長い人生の中、心身の不調、身近な人との離別・死別、生活環境の変化に対応できないなどの理由から、ストレスを感じる高齢者が増えています。ストレスは、心因性のめまいの引き金になりあらゆる病気に進展します。。
*不安症・うつ病・精神疾患に合併するめまい
*当初は内耳のめまいが、反復するうち心因性めまいへ変化することも多くあります
*若いときに前庭神経炎やめまいを伴う突発性難聴に罹患して70歳過ぎて脱代償(加齢で小脳のコントロールが低下)してめまいが出現するようになり、それに不安・抑うつなどの心因が合併して難治化している場合もあります。この場合、前庭リハビリを主に薬物療法を考えます。
参考資料
高齢者のめまいを治す:耳鼻咽喉科・頭頸部外科 2020:5
ホー吸入で薬効果をより良く実感:喘息・咳喘息の方へ
病気を改善させるには、薬の使い方や服用方法は重要です。
喘息・咳喘息やCOPDの治療では吸入器具を使います。器具に入っている薬を上手に、気管を経由して肺の奥まで運ぶ行為が必要になります。内服であれば、服用さえできれば薬の効果が期待できますが、器具を用いた場合、操作方法を覚え、実践できなければ薬の効果は期待できません。
喘息・咳喘息やCOPDの治療では、色々な吸入器具が使われていますので、クリニックで処方された器具に合った使用方法を学ぶ必要があります。院外薬局では、吸入指導が行われ処方薬をもらうことことになります。
吸入器具は認識できても、その中に入っている薬は目に見えないことがほとんどで、本当に吸入できているのか不安になります。匂いや味があれば吸入の実感がわきますが、匂いも味もわかりにくい吸入薬もあります。ただ吸入するだけでは効率よく薬が気管・肺まで到達していないこともわかってきました。
👉目に見えない吸入薬を、目で見えない口腔内から上手にのどの奥から気管・肺までどのように届けたらよいのでしょうか?
今までは、器具の使い方を覚えたら、息を吐いて吸う:単に吸うスー吸入でした。器具を口にくわえ、強く吸うかゆっくり吸うかして息を止めることが通常行われてきました。最近、今までのスー(吸う)ではなく口腔内の薬の通り道を考えた画期的なホー吸入が開発され吸入効果が45%から75%まで改善され薬の効果をより良く実感できるようになりました。
『目に見えない口腔内を、吸入するとき望ましい状況に変えるため、ホー吸入を以下の要領で行います』
*器具を口にくわえる前に、舌の位置を前方に移動して下げ、ホーと言いながらお薬の通り道を作ります。
*器具の吸入口を舌の先端の上にのせます。
*ホーをイメージして、のどの奥を広げ吸入します。
*お薬の通り道をまっすぐにするため吸入すると同時にアゴを上げ、首をのばして吸入します。
➡ 日本喘息学会の動画で、ホー吸入を学んでみましょう!! 活字より視覚的に学ぶ方がよくわかります。
各吸入製剤の解説はこちら➡ ホー吸入Ver.3 吸入操作ビデオ (jasweb.or.jp)
➡ 吸入器具には粉かエアロゾルのどちらかが入っています。
多彩な形状の何十種類もの吸入器具が存在していて、大きく分けてエアロゾル製剤と粉タイプに分けて理解しましょう
*エアロゾル製剤:pMDI ゆっくり大きく吸入するタイプ
喘息薬:フルティフォーム2剤、アドエア2剤、フルタイド、キュバール、オルベスコ、メプチンエアーなど
COPD薬:ビレーズトリ3剤 ビベスピ2剤
*粉タイプ:DPI 勢いよく大きく吸入するタイプ
喘息薬:アドエア2剤、レルベア2剤、テリルジー3剤、アニュイティ、エナジア3剤、アテキュラ2剤、シムビコート2剤、パルミコートなど
COPD薬:アノーロ2剤、エンクラッセ、ウルティブロ2剤、シーブリなど
➡ 吸入製剤の選び方
吸入者が、子供や高齢者など勢いよく吸入できない方はエアロゾル製剤を選びます。吸入に同調できない方は、筒状のスペーサー(3000円程度で購入)を用います。
勢いよく吸入できる方は、粉タイプまたはエアロゾル製剤を選びます。アルコール臭が合わない方は、粉タイプを選択します。
➡ 以下の従来からの吸入動画では、ホー吸入については述べられていません
それぞれの吸入器具の詳しい吸入方法は、アレルギー協会の吸入療法サポートチャンネル(通称 吸チャン)を参考にしてください
環境再生機構の吸入動画も参考になります。
➡ 吸入効果が得られないときにまず行うことは
*特にお子さんや高齢者は吸入手技がうまくできなくて効果を得られない事がよくあります。まず正しい吸入手技の確認をしましょう。お子さんに任せきりでは、うまくできていないことが多くあります。
*前述の色々な動画がネット上にアップされていますので、これらを利用するとお子さんや高齢者も理解が深まると思います。
*吸入効果が45%から75%まで改善され薬の効果をより良く実感できるようにするため、お子さんや高齢者もホー吸入を行いましょう。
診断がつきにくいめまい症:PPPD
英国の有症率報告では、高い順に疼痛、疲労感、めまいとなっています。日本の28年度国民生活基礎調査では、めまいの有訴率は女性:30% 男性:13% 70歳以上では女性4~5割、男性3割程度とめまいで悩んでいる方が多いのがわかります。
めまいの病気の中でも原因不明の『めまい症』と診断されているものが20~25%存在しています。
慢性めまい疾患は、脳腫瘍や脳血管病変以外画像診断では診断がつかず、中耳炎のように鼓膜をみればわかるわけでなく、採血検査でも原因がわかりません。心因性、血圧などの循環動態、自律神経の関与も多く、丁寧な問診と繰り返しの聴検・めまい検査などおこない,慎重に診断を進めていきます。中には月~年単位で長期に経過をみて診断されることもあります。
めまい疾患は複雑に絡み合い心因性めまい・内耳性めまい・めまい関連片頭痛・肩こりのふらつきなど重なっていることも多く余計に診断を難しくしています。
👉 今回は、2017年以降めまいの疾患概念として国際的にも統一されてきた慢性めまい疾患の一つのPPPDという病気の話です。
今まで原因不明のめまい症(20~25%)とされていた疾患の中にかなり含まれていると考えられています。PPPDの情報発信している新潟大学耳鼻咽喉科では、慢性めまいの23%はPPPDと診断されています。
PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)
『PPPDが、診断がつきにくい理由?』
◆世界的めまい学会のバラニー学会で診断基準がまとめられたのが最近の2017年のため耳鼻咽喉科医も含め医師に広く認知されていないため。
◆症状が3か月以上持続する機能性めまい疾患のため、3か月以上経過を見る必要があり、すぐに判断することが出来ないため。
その上、聴検・めまい検査・画像検査・採血などで特異的所見が無い。
◆PPPDは耳・脳・不安症・うつ病とは独立した疾患で、症状以外明らかな異常がない疾患。
◆症状と経過のみで診断をつけることが必要になるため。
診断基準は以下の5つの項目すべてを満たすことが必要。
A: 浮遊感,不安定感,非回転性めまいのうち一つ以上が,3カ月以上にわたってほとんど毎日存在する。
*症状は長い時間(時間単位)持続するが,症状の強さに増悪・軽減がみられることがある。
* 症状は1日中持続的に存在するとはかぎらない。
B: 持続性の症状を引き起こす特異的な誘因はないが,以下の3つの因子で増悪する。
*立位姿勢
*特定の方向や頭位に限らない,能動的あるいは受動的な動き
*動いているもの,あるいは複雑な視覚パターンを見たとき(陳列棚など)
C:この疾患は,めまい,浮遊感,不安定感,あるいは急性・発作性・慢性の前庭疾患,他の神経学的・ 内科的疾患,心理的ストレスによる平衡障害が先行して発症する。
* 急性または発作性の病態が先行する場合は,その先行病態が消失するにつれて,症状は基準Aのパ ターンに定着する。しかし,症状は,初めは間欠的に生じ,持続性の経過へと固定していくことが ある.
* 慢性の病態が先行する場合は,症状は緩徐に進行し,悪化することがある.
D: 症状は,顕著な苦痛あるいは機能障害を引き起こしている.
E: 症状は,他の疾患や障害ではうまく説明できない.
PPPDは先行疾患があり、その病態が無くってからめまい・ふらつきパターンに移行します、PPPDを発症させる頻度が高い先行する急性発作性病態は
*末梢や中枢性の前庭疾患(25~30%)
*前庭性片頭痛(15~20%)
*浮動感を示すパニック発作や不安(30%)
*脳震盪やむち打ち(10~15%)
*自律神経障害(7%)
などです。薬剤や不整脈によるめまい・浮遊感は3%以下とPPPDになりにくい。
➡めまいの原因で分類すると、各科の報告で異なります、概ね
➊耳から(30~50%)❷中枢(脳)から(10~20%)❸精神障害(10~20%)❹原因不明(10~20%) 他の原因が20~40%になるようです。
以下のように、PPPDは障害部位がはっきりせず、精神疾患ではない機能性めまいになります。
『非器質性めまいの国際分類』
※不安症に関連するめまい
※うつ病に関連するめまい
※転倒恐怖症
※めまいに関連する病気不安症
※前庭疾患,精神疾患とは独立した非器質性めまい疾患が、持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)
ポイント:
👉 平衡感覚は、①視覚 ②耳(前庭)③体(足などからの体性深部感覚)の三つの信号を小脳で統合してバランスをとっています。PPPDは目と体からの入力バランスの崩れ、脳の過敏状態と考えられています。
内耳・中耳が原因の耳の病気ではありません。
脳の過敏状態形成へ、心因、ストレス、環境要因、性格など考えられていますがはっきりわかっていません。
慢性のPPPDは、急性期の前庭機能の影響は3ヶ月で回復(前庭代償の完成)しますので3か月以上経過をみて判断します。
前庭疾患,精神疾患とは独立した非器質性めまい疾患ですが、心因性めまいや器質的前庭疾患が合併している場合もあります。
前庭めまい疾患で最も多い良性発作性頭位めまいは朝に起きやすいが、PPPDは昼夕方に症状が悪化しやすくなります。PPPD単独では、回転性めまいは認めません。PPPDは自然寛解が難しく症状の増悪軽快を長期に繰り返します。
治療:次の三つが重要です。
◆前庭リハビリ
◆抗うつ薬(SSRIなど)
◆認知行動療法
ですが、確立された治療法はありません。
◆前庭リハビリは、PPPD患者の内部感覚へ刺激を与えめまいへの順化を促します(行動療法)。
効果を得るには月単位(最低数ヶ月)で考えます。症状は一進一退することも多いことを理解して下さい。リハでめまいを誘発させ悪化させることもあります。
日本の医療制度では整形外科や脳疾患後のリハビリのように、保険診療になっていません。外来整形やリハビリ病院のようにST、PT、技師のようなパラメディカルスタッフの協力を得て治療することは出来ません。
耳鼻咽喉科では、医師の自助努力で、youtube など見て、自宅でできるように指導を行い対応しています。定期通院でモチベーションを維持します。
前庭リハ 日本耳鼻咽喉科学会 youtube
前庭リハ 新潟大学 YouTube
前庭リハ 東海大学 五島医師 YouTube
◆抗うつ薬は、観察研究で有効性が報告されていますが、吐き気、傾眠、めまい、ふらつきの問題や、やめる時も離脱症に注意が必要になります。アクチベーション症候群を生じることもあります。アクチベーション症候群とは、投与初期の2週間以内や増量期に起こりやすい不安、焦燥、不安、衝動性などの症状です。
PPPDは、めまいに対する過敏性が形成されているため慎重に服用を考えます。PPPDの前身の慢性めまい疾患への効果は50~70%程度、2~3ヶ月で効果がみられ少なくとも1年継続が推奨されています。精神疾患の有無に関係なく効果を認めるため、中枢セロトニン神経系への作用が関与していると考えられています。現在、慢性疼痛にたいして鎮痛作用を目的とした抗うつ薬投与が行われている考え方と同様と推測されています。うつ病ではないが、うつ病の病態に類似しています。
◆認知行動療法とは、ストレスな状況にいたる否定的な考え方(認知)に働きバランスよい適応的な考えをつくり、気持ちを楽にする精神療法です。
我々は、ダイエットを行う時、毎日体重を測定してなぜ体重が増えたかを考え悪い行動や食習慣を是正していくと思います。これと同じことを、こころの問題について行い、誤った考え方や物事のとらえ方を自分で気づき歪んだ認知を適応的な考えに変更して、気持ちを楽にする方法です。
めまいを目標に治療するのではなく、めまいで何が困っているかを考え二次的な問題点から治療対象としていきます。めまいで、不安・不眠があれば、不眠の治療から、めまいで外に出れないのであれば、少しずつ外出、買い物に行けるよな行動を考えていきます。

ひとつの方法として、毎日のめまい・ふらつきのため、不安を感じている方は多く毎日の腹式呼吸の習慣を身に着け心の安定をはかります。最初は2秒で鼻から吸い、4秒で口からはく、5秒で吸い10秒ではくまで、少しずつ長くしていきます。
~~本格的認知行動療法について:精神科~~
世界的に見ると,認知行動療法は精神療法の世界標準となっていますが、日本においては,普及が十分に進んでいません。
うつ病、強迫性障害、パニック障害、PTSD、社会不安障害、神経性過食症は、認知行動療法の保険適応となっていますが、取り決めが多く保険点数が低いこともあり実施施設は少ないようです。自費診療で行うところもあるようです。通常は、精神科・メンタルクリニックが行います。この治療のメリットは再発率が低く、精神薬のような副作用がないことです。
PPPDへの認知行動療法は短期的には効果をみとめるようですが、長期的にはこれからの検討課題となっています。
患者さんに、この病気の病態生理を理解してもらい認知行動療法の必要性を理解してもらうことから始まります。患者さん自身が自己観察を行い、めまいに対する過剰な恐怖など自覚することから始まるようです。
精神科の近藤医師は、第3世代認知行動療法の一つであるアクセプタンス&コミットメント・セラピーのPPPDへの効果を報告しています。3世代認知行動療法とは、瞑想を利用したマインドフルネスを利用してネガティブな考えをつかまえ受容し対応していくやり方のようです。行動療法として前庭リハと併用して行います。
認知行動療法は、精神科医が誰でもできるわけではないようで一定の研修と臨床経験を必要とするようです。
通常の内科や耳鼻咽喉科の外来で行えるものではありません(当院でもやっていません)。
まとめ:
この疾患PPPDは、何科に行けば治るというものではなく、めまいに精通した耳鼻咽喉科医・神経内科や認知行動療法に精通した精神科・心療内科医がPPPDの疾患を良く理解して対応することが重要になると思われます。
臨床心理士や理学療法士の協力を得ながら行うことが望ましいのですが、日本の保険医療制度では難しいのが現状です。日本めまい平衡医学会の『めまい相談医』総合病院から探されるのも方法です。
老年症候群、心因性めまい、薬剤性めまい、椎骨脳底動脈循環不全、外リンパろう、脳脊髄液減少症、上半規管裂隙症候群など慢性化しやすいめまい・ふらつきの原因をしっかり鑑別して行うことが前提です。
参考資料
*慢性めまい治療における認知行動療法と 前庭リハビリテーションの役割:近藤 真前 Jpn J Psychosom Med 58:517-523, 2018
*姿勢誘発めまい(PPPD)の診断基準:堀井 新 Equilibrium Res Vol.76(4) 316~322,2017
*めまいリハビリ 五島 史行 金原出版
増え続ける咳の患者さんたち
当院受診の患者さんの訴えで多いのは咳です
米国のインターネットでの3000人対象の調査では、過去1年間に85%が年1回以上、風邪をひいています。咽頭違和感40%、鼻閉・鼻汁それぞれ10%、咳の頻度は70%と最も多く長く続き、患者さんが最も煩わしく感じる症状の一つになっています。
社会が豊かになり寿命が長くなるにつれて、咳の患者さんが増えてきています。
100年前までは、日本人の寿命は、40歳前半で、戦後、医療水準の向上や衛生環境の改善と肉を食べる食習慣の変化もあり急に寿命が伸びだしました。70年前に50歳まで延び50年前には70歳を超え、2016年には男性81歳、女性87歳まで達しました。
以前は咳の原因として結核や感染症が主でしたが、現在は、アレルギー、生活習慣病、加齢に伴う咳が増加しています。
会議や発表、接客など咳を白眼視される機会が増え以前より受診するようになったのも患者数増加の原因となります。
最近は、学校やオフィスでのストレスによる心因性咳嗽も多くなっています。
関連HP:咳(吉 耳鼻咽喉科アレルギー科)に咳の総論と当院の方針は記載していますので参考にしてください。
👉 普通感冒による急性咳嗽の持続期間
病院で加療受けても、すぐに治ることは少なく長期加療となることもよくあります。
普通感冒による急性咳嗽の持続期間は平均18日との報告があります。
咳のガイドラインでも、急性咳嗽は3週間となっています。
小児場合は2週以内を急性とすることもあります。
このことは、普通感冒による感染症による咳は、自然放置しても3週間すれば治ることを意味しています。
咳のピーク(1週間以内)が過ぎたあとは、薬を使わず自然経過をみることも考えましょう。
☞医者の立場からは、肺炎、結核、肺癌、重症喘息、間質性肺炎、COPDの感染、心不全など危険な咳を見逃さないことに注意を払います。
高熱、胸痛、呼吸困難、血痰を伴う咳は精査を急ぐ必要があります。原因療法で、咳を改善させることを考えます。
☞患者さんの立場からは、夜も眠れない煩わしい咳をできるだけ早く止めてほしいことにあります。ここで対症療法として咳止めを使用することになるでしょう。
👉 湿性か乾性咳嗽かの区別の重要性
患者さんの咳が、からむ程度ではなく、容易に痰を出すことが出来るような湿性咳嗽なのか、痰を伴わない乾性咳嗽なのか考えて下さい。湿性咳嗽の場合、気道内にたまった痰を排出するための生体防御の咳で、咳の止め方は、咳止め薬ではなく去痰による痰の減量になります。咳を止めてしまうと気道内に咳が貯留し、肺炎の原因になりかねません。
喀痰の排出力は弱っている高齢者の湿性咳嗽には、咳止めは禁忌とされています。乾性咳嗽は咳そのものが問題なので症状がひどければ適切な咳止め薬が求められます。
【風邪薬にも使われる中枢性咳止めの問題点】
風邪薬の医療用や一般用の咳止めには、中枢性鎮咳薬、抗コリン作用薬、交感神経作用薬などが使用されています。
具体的には、
*市販の風邪薬 PL アストフィリン配合剤 クロフェドリンS カフコデN ブラコデ配合 コデイン散、などは麻薬性中枢性鎮咳薬のコデインまたは抗コリン作用が強い鼻水止めまたは交感神経作用のエフェドリンなどが入っています。
*メジコン、アストミン、フラベリック、アスベリン、フスタゾール、レスプレンなども非麻薬性中枢性鎮咳薬に該当します。
非麻薬性中枢性鎮咳薬の多数も、麻薬性中枢性鎮咳薬より軽い抗コリン作用を認めます。
抗コリン作用や交感神経作用薬が多いと、副作用も多くなります。フスタゾール、アスベリン、レスプレン、アストミンは副作用が弱い方に分類されていて、小児から使用されます。
➡ これら咳止めの具体的な問題点として
*咳は気道内の異物・痰を排出するために必要な生態防御反応です。咳止めにて咳を抑え過ぎると肺炎など感染症を助長することになります。
*2017年、小児12歳未満には、風邪薬の医療用や一般用の咳止めのコデインの使用制限が厚労省から公表され、2019年から禁忌となっています。小児では呼吸抑制や稀に死亡例の報告があります。
*抗コリン作用による口渇・咽喉頭の乾燥が問題です。咽頭・気道上皮が乾燥すると粘膜防御能が低下して細菌感染を助長します。次第に乾燥による咳を悪化させることもあります。
*抗コリン作用は胃や腸の運動を抑制して、便秘や胃食道逆流症を助長させ、咳の悪化の原因にもなります。
*嚥下機能障害のリスクを抱える高齢者の場合、誤飲性肺炎を生じさせることもあります。
*抗コリン作用薬は高齢男性の排尿障害、緑内障の悪化の可能性もあります。
*咳止めとして交感神経作用薬が含有されている薬が多く、血圧や心疾患を悪化させる可能性があります。
*上記の市販の風邪薬、PL、コデイン、クロフェドリンS, メジコン、カフコデN、ブラコデ配合、アストフィリン配合剤などは、薬の添付文書では車の運転禁止薬となっています。
☞ 漫然と咳止めを内服することは控えなければなりません。
👉 実際の診療で最も診断・治療が難しい時期は発症1~2週間から2か月以内の咳です。
受診する患者さんが多く、急性感染症の咳・感冒後遷延性咳嗽・非感染性咳など数多くの咳の原因が混在する時期です。
その上、すでに市販の風邪薬内服や前医での治療を受け、レントゲン、採血検査も行い、特に異常ないと言われても、咳・痰が持続する患者さんが多くいる時期となります。その中には、ステロイドの吸入療法も行っても改善しないと受診される方もいらっしゃいます。このような場合、薬の副作用(乾燥、胃食道逆流症)や、咳による腹圧からの胃食道逆流症悪化に伴う新たな咳などの治療過程で生じた咳の原因も含め、混在する多くの原因を見極めることが必要となります。
医師と患者さんとの共同作業が必要な時期です。
👉 2か月以上持続する咳について
2か月以上経つと結核、肺癌は別にして、感冒後遷延性咳嗽もなくなり、ウイルス性感冒、百日咳、マイコプラズマなどの感染症の原因は稀になってきます。2か月以上持続する慢性咳嗽の最も多い咳の原因は、非感染性の咳です。咳喘息、咳優位性喘息、副鼻腔気管支症候群(後鼻漏の咳も含む)、アトピー咳嗽(喉頭アレルギーも含む)そして生活習慣病の増加で最近増えてきた胃食道逆流症となります。
この中で最も多いのが咳喘息です。
『ポイント』
◆慢性咳嗽の治療で最も重要なことは、それぞれ単独の疾患でおこしていることもありますが、2~3疾患程度が相互に重なり合って咳の遷延化をまねいていることを考えた対応です。
◆診断的治療の必要性です:病歴・検査から治療前診断として疑い診断とし、特異的治療後の効果で治療後診断を行い、非特異的咳止めは控えます。聴診では、わからない咳喘息の診断の時に効果を発揮します。
慢性咳嗽の原因を治療する場合、これまでの縦割りの診療科の考えでは
*副鼻腔気管支症候群(後鼻漏の咳も含む)は耳鼻咽喉科または呼吸器内科
*咳喘息は呼吸器内科
*アトピー咳嗽(喉頭アレルギーも含む)は耳鼻咽喉科または呼吸器内科
*胃食道逆流症は消化器内科
*小児の場合は小児科となります。
今後は、長引く難治性の慢性咳嗽に関して縦割りの診療科ごとの対応ではなく、鼻・喉頭・気管・肺・胃食道の相互作用を考慮して対応していくことが重要です。
最近の診療科としては、アレルギー科があります、臓器別でなく臓器横断的対応することの必要性から出てきた診療科です。
上・下気道をひと続きの気道疾患『One airway, one disease』としてとらえ、耳鼻咽喉科・呼吸器科のアレルギー疾患を一つの気道の病気として対応していきます。
胃酸の逆流と耳・鼻・のど・咳
喘息患者でのアレルギー性鼻炎の合併は80%前後、アレルギー性鼻炎の10~20%に喘息の合併がみられ、合併率が高いだけでなく、喘息の悪化にも影響するなど関連が非常に深いものになっています。これをone airway, one diseaseと呼び、鼻などの上気道と肺の下気道をひとつの疾患群として治療する考えです。
人体の発生段階で、呼吸器の上皮、消化器、咽頭、耳管、中耳は、内胚葉に分類され、胎児の初めは咽頭・呼吸器・消化器は同じ組織に起源があります。実際の診療でも、咽頭・上下気道に胃・食道の影響が関わった病気が多数あり、多彩な症状をおこしていることがわかってきました。
食生活の欧米化にともない、胃食道逆流症(GERD)が増加しています。ある報告では、ここ40年の間に、日本人の胃酸を出す細胞が1.35倍増加していました。
げっぷや胸やけ以外の胃食道逆流症が関係する食道外症状としての上下気道・肺への影響がかなりみられます。具体的には、咳、喘息の悪化、小児の咳、高齢者での誤飲性肺炎への影響、のどの違和感、声がれなどが知られるようになり、これら以外にも耳痛、中耳炎、後鼻漏、副鼻腔炎、歯牙酸蝕、胸痛、睡眠障害なども報告されています。
胃食道逆流症は、喉頭酸逆流・呼吸器逆流を引き起こし、多彩な症状の原因になっています。
具体的には、のどの違和感、声がれ、咳、喘息や誤飲性肺炎への影響、中耳炎、副鼻腔炎、睡眠障害など様々な症状が出現します。
★胸やけ、酸っぱい物が上がってくる、げっぷが多いと自分は胃食道逆流症と判断することは比較的容易です。
長引く咳や突然の咳、のどの異常感、治りにくい喘息、風邪もひいてない突然の耳痛、睡眠障害、胸痛で胃食道逆流症が原因と考える方は少ないと思います。乳幼児も、未熟性のため逆流症は、咳・ゼーゼー・呼吸器感染の原因にもなります。痩せている方もストレスが関与する場合もあります。
肥満の方はもちろん、最近体重の増加が気になる方や腰背中が曲がってきた年配の方は、自分に関係していないか、そしてお子さんやご両親・祖父母に関係していないか考えてみましょう。
◆胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)とは
胃食道逆流により症状や合併症が引き起こされる疾患です。脂っこい料理を食べお酒を飲む人に多く、胸やけやげっぷなどの症状があります。
通常は胃液や胃の食べ物が食道に逆流しないようになっていますが、逆流防止機能障害があると生じます。食道粘膜は胃酸の刺激を防ぐ機能は備わっていません。食道裂孔ヘルニアはリスク因子です。
胃カメラで食道粘膜障害がないことを確認されると非びらん性胃食道逆流症(nonerosive reflux disease:NERD)と診断され、逆流症状を訴える患者の60~70%に認めます。生活の欧米化、ピロリ菌感染率低下、肥満の増加に伴い日本人の酸分泌は急速に増加しています。GERDの重症例では、食道狭窄・出血、バレット食道からの癌の発症もあります。
妊婦、乳幼児、肥満傾向、高齢者(背骨は曲がる亀背)、お酒飲みすぎる人、食べ過ぎる人、咳が長引く人、ベルトを締めすぎる、コルセット使用者、ストレスが多い人(NERD)など
☞腹圧がかかりやすいと起こります。一部にはストレスの関与もあります。
*Ca拮抗薬(降圧薬)テオフィリン(ぜんそく薬)硝酸薬
☞逆流を防止する下部食道括約筋を緩めます。
*抗コリン薬
☞消化管運動低下させ、胃酸がたまりやすくなります。
抗コリン薬の例:デパス セルシン 三環系抗うつ薬 抗精神病薬ブスコパン パーキンソン病薬 風邪薬 第一世代抗ヒスタミン薬 など
◆生活習慣の改善による対応
★お金をかけない肥満&健康対策:当院コラム
*過食を避ける 食後2~3時間就寝しない
*食後前屈み姿勢を避ける
*高脂肪食やアルコール・甘い物・コーヒー、ミント、柑橘類などを避ける
*就寝時頭部を15cmほど挙上し、上半身を少し上げて就寝する。挙上の仕方は、次のサイトも参考にしましょう。
*ベルトなど腹部の締め付けを避ける
*長時間の農作業などを避け、普段から背筋を伸ばすようにする
生活習慣の改善は、以下のPPIの治療と併用して効果を認めます。
◆治療は?
*PPI:プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾール)
作用には少し時間(5日ほど)がかかります。8週間投与。
PPIはモサプリドや六君子湯より改善効果が高いと考えられています。
非びらん性のNERDではPPIの効果は低くなります。ストレスの関与も疑います。
*PPIの併用治療
→PPI抵抗性NERDに酸抑制効果のアルロイドGの併用
→就寝前H₂ブロッカー(ガスターなど)の併用:
夜間の酸分泌抑制が不十分の場合に行うが、1週間で耐性ができ長期投与では効果減弱の可能性あり。
→六君子湯:PPIへの追加投与で上乗せ効果あり
→モサプリド:NERDやPPI抵抗性GERD)にはPPIにモサプリドの上乗せ効果あり
*P-CAB:タケキャブ タケプロン(ランソプラゾール)の改良版で、タケプロンより効果が早く酸性環境下でも安定性があり、作用持続が長く、タケプロンよりピロリ菌除去が高いなどの特徴がありますが薬価が高くなります。
『PPIの弊害』
*胃酸分泌抑制により腸管感染症のリスクがわずかに増大
*胃酸分泌低下による胃内細菌の増殖とその逆流物の肺への吸引で市中肺炎が増加する可能性が考えられますが、GERD自体が肺炎の危険因子でもあるので肺炎のリスクはわずかに増大
*PPIの骨代謝への影響とカルシウムの吸収障害により、服用1年以内は骨折のリスクはわずかに増大
*ランソプラゾールによる難治性下痢の可能性
◆様々な食道外症状(咽喉頭酸逆流・呼吸器逆流)とは
➡どのようにして食道外症状が起こるのか?
★胃酸がのどまで逆流しての直接症状と気道への微量誤嚥による咳。
★胃酸が食道周囲の神経を刺激し、のどの炎症を認めない間接症状と反射性の気道の迷走神経刺激での咳
上記の胃酸分泌による直接・間接症状で様々症状を引き起こします。
➡咳
咳は咽喉頭酸逆流と呼吸器逆流で生じます。
欧米では多く、食生活の欧米化により従来は少ないと考えられてきた胃食道逆流症(GERD)による慢性咳嗽は、日本でも増えています。食事中や食後、起床、上半身前屈、就寝直後、会話、体重増、飲酒といった咳症状の悪化があれば、疑う必要性があります。胸やけ、げっぷ、口腔内の酸味が無い場合も多く診断に苦慮する場合もあります。
夜間に咳が好発すときは、GERDと喘息また咳喘息の合併を疑います。肥満者は要注意です。
咳による膜圧の上昇や逆流防止機能の下部食道括約筋の緩みが胃食道の逆流をもたらし、それが食道から離れた気管気管支反射や微量誤嚥などにつながることでさらに咳を生じるという考え(咳と逆流の自己永続サイクル)があります。
治療:逆流症の治療(PPIなど)や生活指導で改善する報告もあれば効果が無かった報告もあり、PPIの効果は限定的です。
➡喘息への関与
結論:喘息患者ではGERDの保有率は高く、胸やけや呑酸、げっぷなど症状があり夜の呼吸器症状がある患者はPPI(プロトンポンプ阻害薬)を行います。GERDの症状がない方への投与は効果を認めません。
詳細:喘息患者ではGERDの保有率は45~71%と高く(一般日本人は6.6~37.6%)
GERDは喘息悪化の因子の一つです。GERD合併喘息では、経口ステロイドの投与回数が多く、不安やうつ状態を伴い夜間発作症状が強く出てきます。またコントロール不良の喘息患者のうち24%にサイレントGERDが存在する報告があります。
『GERDが関与する喘息の特徴』
*非アトピー性
*夜間に主に発作が増悪
*食後症状が悪化
*喘息治療に抵抗性
*胃酸分泌を抑制することにより症状が改善
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、逆流症状と夜の呼吸器症状がある患者に効果を認めます。逆流症状が無い喘息患者への効果は乏しいと言われています。PPIの8週間の投与で症状と検査の改善が認め報告があります。肥満者は注意しましょう。
当院コラム:肥満と喘息;ダイエットで喘息がなおる?
胃酸逆流の喉頭所見として、喉頭肉芽腫(通常片側)や喉頭の炎症・発赤・浮腫から声門下の炎症などを認めます。咽喉頭酸逆流の症状として、咳嗽・声がれ・咳払い・のどの異常感が胃酸逆流の影響で生じます。
対策:逆流症の治療(PPI)の効果は限定的です。
咽喉頭酸逆流では、弱酸~無酸の逆流による発症の場合あり、初期治療から増量や投与期間の延長を考える必要があります。無酸の逆流のことあり、PPIによる酸のコントロールだけでなく逆流そのものの改善を目的にモサプリドや六君子湯の併用や生活・食習慣の改善も考えます。
多くはありませんが、以下の症状、疾患との関連が報告されています。
➡中耳炎
結論:胃食道逆流症(GERD)が小児と成人の中耳炎へ関与する場合はありますが、小児では逆流症の治療では中耳炎への効果認めず、成人では逆流症の治療で一部に効果を認める報告があります。2015年GERDガイドラインでは、GERDと中耳炎の関与の報告のエビデンスは低く今後の検討が望まれるとなっています。
詳細:小児では2012年の海外の報告では、胃食道逆流症(GERD)が関与する慢性滲出性中耳炎は48.4%、反復性中耳炎では62.9%の関与とされています。3ヶ月の逆流症での治療では効果は認めていません。日本の小児の報告(上出)では、中耳炎のない耳痛や治療抵抗性中耳炎、両側の発熱がない鼓膜膨隆は疑うとあります。日本での成人の滲出性中耳炎への報告(曽根)では、GERDの関与が報告されPPIによる逆流症への治療と生活指導で中耳炎への効果も認めています。しかし2015年のGERDガイドラインでは、中耳炎との関係に関してエビデンスレベルは高くなく、因果関係は不明となっています。
➡副鼻腔炎
2013年の海外の大規模報告では、小児と成人共に慢性鼻副鼻腔炎の発病にGERDとの関連性の報告があり、副鼻腔炎術後の改善不良例にもGERDとの関連が指摘されています。しかし逆流症の治療で副鼻腔炎への効果があるかはまだ不明です。慢性鼻副鼻腔炎の難治例にはPPIなどの逆流症の治療の検討の余地はあります。
➡高齢者の誤飲性肺炎への関与
高齢者の女性に多く、腰椎後弯による前屈み姿勢や、骨粗鬆症による円背、食道裂孔ヘルニア、胃・食道切除の合併が原因となります。寝たきりの患者で食後2時間座位を保つと発熱の患者さんの割合が減る報告があり、GERDと嚥下性肺炎の関連が推測されます。
対策:逆流治療薬のPPIでは、胃酸分泌を抑えますが逆流自体を抑制しないので誤嚥性肺炎には無効です。食後2時間の座位やリクライニングでの上半身挙上を行うことが重要です。
新生児・乳児のGERD(嘔吐、溢乳)は2か月~1歳半までに自然治癒しますが、幼児期移行は、自然治癒は少なくなり、嘔吐、喘鳴、咳嗽、胸痛、呼吸器感染、嚥下障害などの原因となります。乳幼児喘息の難治例にGERDの合併があります。喉頭軟弱症は生後4~8か月をピークに12~18か月で寛解していきますが、難治例にはGERDの合併があります。呼吸器乳頭腫の発症・再発にGERDが大きく関与しています。
治療:おくびの励行 母乳ミルク・食事直後に臥位をとらない 食事を小分けにする、肥満児の減量、PPI、H₂ブロッカー
GERDによる夜間の逆流による睡眠障害は、PPI投与で改善します。
➡胸痛
GERDによる狭心痛と同じ痛みが生じることがありますが、PPIの効果は限定的。GERDと心虚血の関連も報告されています。
➡歯牙酸蝕・歯周炎
GERDが歯牙酸蝕の原因となる可能性があります。
➡睡眠時無呼吸症
閉塞性睡眠時無呼吸症(OSAS)の患者で夜間のGERDの発症が多く、反対に夜間のGERD症状を有する方は、OSAS症状を有するリスクが高くなります。
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