院長の健康情報コラム
急性中耳炎の治療の変化:治療から予防へ
最近、急性中耳炎への鼓膜切開の回数が、急に減ってきています。鼓膜切開は重症急性中耳炎に行うことがあります。
小児疾患全般では、鹿児島県の小児入院患者数が2005年9万人から2014年6万人へ減少しています。細菌性ヒブ髄膜炎は、鹿児島で年間10~12人発症が、今はゼロとなりました。厚労省の報告でも、小児入院患者数が1999年からは2011年には65%に減少、同時期の小児人口の減少は95%程度ですので、全国的にも小児入院患者数が減少は明らかな状態です。外来患者数が減っているわけではないようですので、重症の患者さんが減って、外来で通院対応できるようになったと考えられます。呼吸器疾患では、小児喘息の患者さんの入院が、吸入ステロイドの普及で減少し、小児肺炎の入院が減っているようです。
急性中耳炎の詳細は次のサイトを見てください⇒日本耳鼻咽喉科学会HP; 耳疾患:中耳炎・外耳炎 急性中耳炎Q&A
👉 なぜ小児感染症(急性中耳炎、肺炎など)が、良い方向へ急に変わってきたのか? 次の2点(ワクチン接種の普及と新規抗生剤の開発)が重要です。
❶ワクチン接種が世界標準に近づき、小児感染症は治療から予防(ワクチンの効果)へ移行
生後2か月からのワクチン接種が始まり、2013年にヒブ(Hib)、小児肺炎球菌が、任意から定期接種となり、その後も水ぼうそう、B型肝炎、HPVも定期接種化し、生後5か月にBCG接種とその他多数のワクチンが世界標準に近づいてきました。
毎年のインフルエンザワクチン接種の浸透、高齢者の肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの助成、最近では青年層への無料風疹検査と風疹ワクチンの助成で、今後ますます感染症の治療は予防へと変化していくと言えるでしょう。
ワクチン予防に関してもっと知りたい方は、次のサイトを見てください⇒子どものVPD
ヒブ(Hib)により、インフルエンザB型菌(Hib)による髄膜炎、喉頭蓋炎が殆ど消失しています。肺炎球菌ワクチンにより乳幼児による侵襲性肺炎球菌感染症(肺炎、中耳炎、髄膜炎)を減少させています。
以前のPCV7肺炎球菌ワクチンの導入により,急性中耳炎受診数や鼓膜切開、鼓膜換気チューブ留置術の減少が日本および欧米からも報告されています。現在は血清型を多くしたPCV13肺炎球菌ワクチンのため、薬剤耐性を含めた肺炎球菌による急性中耳炎への効果がさらに期待されています。
【問題点】
その反面、ヒブ(Hib)ワクチンで抑止できない無莢膜型のインフルエンザ菌による中耳炎の相対的増加と、PCV13肺炎球菌ワクチンに含まれていない血清型の急性中耳炎の増加(血清置換)が認められます。
今後は、無莢膜型のインフルエンザ菌による難治例と肺炎球菌の血清置換への対応が求められています。
日本では未承認のSynflorix(肺炎球菌10価と無莢膜型インフルエンザ菌)ワクチンがありますが、無莢膜型インフルエンザ菌に対しては評価が低いようです。
❷新しい抗生剤の開発と薬剤耐性対策(AMR)
新しい抗生剤の開発で、入院直前または鼓膜切開直前の状態の感染症例が、入院せず、外科的治療をせずとも対応可能となってきました。
ここ10年の間に、乳幼児に適応がある次の強力な抗生剤が日本で販売されました。
◆クラバモックスドライシロップ2010年5月保険で使用開始
適応:中耳炎 気管支炎 扁桃炎 皮膚感染 リンパ節炎 膀胱炎 腎盂腎炎
◆オゼックス(トスフロキサシン)細粒2010年1月保険で使用開始
適応:肺炎 中耳炎
◆オラペネム細粒2009年8月保険で使用開始
適応:肺炎 中耳炎 副鼻腔炎
クラバモックスは、欧米でもよく使用される薬ですが、下痢が問題となります。オゼックス細粒とオラペネム細粒は、欧米では小児に使用されていない薬です。
日本でも、肺炎球菌ワクチンの効果により、肺炎球菌の感受性はある程度改善してきましたが、欧米より薬剤耐性菌の問題が多く残されています。難治な肺炎球菌(PRSP)や難治なインフルエンザ菌(BLNAR,BLPACR)などに対してオゼックス細粒とオラペネム細粒が日本では使用されるようになりました。
欧米では、難治なインフルエンザ菌はBLPARのためクラバモックスで効果を認めますが、日本の難治なインフルエンザ菌(BLNAR,BLPACR)は、クラバモックスの効果は低く、セフジトレンピボキシル(メイアクト)細粒の倍量投与(小児の中耳炎、副鼻腔炎、肺炎に適応)やオゼックス細粒またはオラペネム細粒やロセフィンの点滴加療となります。
👉 ワクチン効果と新薬による治療で、難治性の肺炎や中耳炎を対応しているのが今の日本の現状です。
日本での薬剤耐性菌の問題は、乳幼児の集団保育や長期にわたる過去の抗生剤の使用に問題があったとも考えられます。
添付文書上で、
オゼックスは、『耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、疾病の治療上必要 な最小限の期間の投与にとどめること』オラペネムは、オゼックスと上記同様の項目の他に、『カルバペネム系抗生物質の臨床的位置づけを考慮した 上で、本剤の使用に際しては、他の抗菌薬による治療 効果が期待できない症例に限り使用すること』となっています。安易な使用は慎まなければいけない薬となっていて、乱用すると日本の薬剤耐性菌の問題はもっと深刻な状態となります。
【抗生剤クライシス】
経口カルバペネム系抗生剤(オラペネム)の乱用は、耐性菌への切り札的存在であるカルバペネム系注射剤の耐性化を招き、患者を救える薬がなくなることを意味します。
👉 AMR運動(薬剤耐性対策アクションプラン)
薬が効かないバイキンの話;小学生用(youtube;厚労省AMR)
AMRの詳細は次のサイトを確認を:かしこく治して明日につなぐ:AMR厚労省
抗生剤の不適正使用による薬剤耐性菌の増加とそれに伴う感染症の増加が、国際社会の大きな課題の一つに挙げられています。不適正な抗生剤使用に対して対策が講じられなければ、2050年には全世界で年間1000万人が、薬剤耐性菌により死亡することが推測されています。2016年4月日本では薬剤耐性対策アクションプラン(AMR)が策定され、
『2020年の人口千人あたりの 一日抗菌薬使用量を 2013年の水準の 3分の 2に減少させる』こと等が設定され手引き書も作成されています。
➡ 抗生剤の適正使用のために:中耳炎ガイドラインの欧米と日本の違い
日本小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版(詳細は前のサイトを確認して下さい)
症状・2歳未満・鼓膜所見から重症度分類(鼓膜所見を重視)
◆軽症:3日間経過観察⇒アモキシリン常用量3~5日⇒アモキシリン高用量またはクラバモックス
◆中等症:アモキシリン高用量3~5日⇒クラバモックスorセフジトレン高用量orアモキシリン高用量+鼓膜切開(服用3~5日)
◆重度:アモキシリン高用量+鼓膜切開orクラバモックス+鼓膜切開orセフジトレン高用量+鼓膜切開(服用3~5日)⇒感受性を考慮して抗菌薬変更;
クラバモックス+鼓膜切開orセフジトレン高用量+鼓膜切開orオラペネム常用量+鼓膜切開orトスフロキサシン(オゼックス)+鼓膜切開(服用3~5日)
小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版では、中等症の改善が悪い場合や重度の中耳炎の鼓膜切開の適応について、耳鼻咽喉科以外の医師のことも考え『鼓膜切開が可能な環境では実施を考慮』と緩和された内容になりました。耳鼻咽喉科関連学会が作成しているため、以前は、主に耳鼻咽喉科医を想定した内容でした。
アメリカ小児科学会急性中耳炎ガイドライン:2014年(6ヶ月~12歳が対象)(詳細は前のサイトを確認して下さい)
*重症急性中耳炎とは、39度以上または強い耳痛または2日以上持続する耳痛
◆軽症片側急性中耳炎(6ヶ月~2才)⇒抗生物質または経過観察2~3日で悪化時抗生剤
◆軽症両側急性中耳炎(6ヶ月~2才)⇒抗生物質
◆軽症片側・両側急性中耳炎(2才以上)⇒抗生物質または経過観察2~3日で悪化時抗生剤
◆重症片側・両側急性中耳炎(6ヶ月以上)⇒抗生物質
◆耳漏ありの急性中耳炎(6ヶ月以上)⇒抗生物質
*鼓膜所見で中耳炎の診断を行いますが、詳細な鼓膜所見をもとに、日本のように重症度分類へは反映されていません。主に小児科・家庭医を対象としているため、症状、年齢、片側・両側を重視した対応となっています。
*抗生物質は、アモキシリンの高用量⇒クラバモックス⇒セフトリアキソン点滴
ペニシリンアレルギーには、3世代セフェム(セフポドキシムなど)を推奨
*鼓膜穿刺(細菌同定)・鼓膜切開は抗生剤の効果が無い場合の代替え治療の一つとしてあります。
➡ 鼓膜切開について
小児急性中耳炎を何科がみるか?
日本では、耳鼻咽喉科が診察することが多いとも思いますが、欧米では、小児科や家庭医が診察することが多く、外科的治療が必要な場合に耳鼻咽喉科へ紹介となることが多いようです。本邦での薬剤耐性化の問題や欧米との医療体制の違いもあります。最近では本邦でも、小児急性中耳炎を耳鼻咽喉科医より小児科医や家庭医がみることが多くなっているようです。
小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版では、中等症の改善が悪い場合や重度の中耳炎の鼓膜切開の適応について、耳鼻咽喉科以外の医師のことも考え『鼓膜切開が可能な環境では実施を考慮』とオプション的な内容になっています。最近のワクチンの普及と抗生剤の新薬の効果もあり、鼓膜切開や鼓膜換気チューブ挿入が減少してきています。小児急性中耳炎に対して、欧米同様に、日本でも、初期治療は小児科医や家庭医で対応して難治例は耳鼻咽喉科へ紹介することが多くなると思われます。
◆切開時の疼痛・不快・身体的拘束や少し大きい幼児では、ストレスで次回から病院恐怖となる恐れがあり。
◆鼓膜切開を行っても、発症から3週間後(Kaleida1991Pediatrics)や
最終的な治療成績に差をみとめない(宇野2008)。
◆本邦報告で難治性反復性中耳炎への発症頻度低下へ有意な効果は認められていない(Nomura 2005)
⇒鼓膜切開のメリット
◆重症例の鼓膜膨隆が強く耳痛・発熱が高度な例には早期の改善を認める。
うまくいけば、お子さんが、翌日には解熱し夜よく眠れるようになります。
◆切開直後の耳漏から原因菌の検索と細菌の減量を行えますので、耐性菌対策の一つになります。
👉益・不利益をよく理解していただき、担当医と相談上、鼓膜切開を行うか判断することになります。
⇒鼓膜換気チューブ術の効果について
(乳幼児の抑制は難しく、病院での麻酔下の対応になることもあります)
難治性反復性中耳炎(3回/6ヶ月、4回/1年)に対して、6ヶ月以内の減少の効果はあるが、長期の効果は認められていません。
*2歳未満
*受動喫煙
*母乳栄養なし(特に6ヶ月まで)
*集団保育
*鼻副鼻腔炎の合併
👉上記因子は、難治化を招きますので、ご家庭で対応できることは考えてみてください。ウイルス性の発熱や風邪で、安易に抗生剤を使用しないことです。
➡患者さんに理解していただきたいこと
◆日本には、薬剤耐性菌の多くの問題があること。
◆今の日本では、欧米で使用されないオゼックスやオラペネムを使って小児難治性感染症に対応していること。
◆これらの抗生剤を使わなくても対応できるように、適正な抗生剤使用を目的としたAMR運動が、2016年から国を挙げて行われています。
風邪やウイルス感染で安易な抗生剤使用はしない事。
考えようあなたのクスリ薬剤耐性(youtube)
医学的正しい手洗い(AMR 厚労省)
◆急性中耳炎の抗生剤使用について
*適切な薬剤
*必要な場合に限り
*適切な量と期間
使うことを医師も患者さん側も考えること
◆患者さんも甘い飲みやすい薬より、適切な薬の処方に理解していただく。
◆症状や重症度によっては、抗生剤を使用しないで経過を見る事を理解してもらう。
◆肺炎球菌、インフルエンザウイルスワクチンなど必ず受けましょう。
参考資料:PCV13普及後の小児急性中耳炎に関する疫学的検討 日耳鼻 121:887-898、2018
鼻と眩暈と熱中症:暑さ対策は大丈夫?
平成から令和への10連休のGWがはじまりました。体を少しずつ暑さに慣らして、夏の熱中症対策を始める時です。
下記の『予防対策』を考えた対応を毎日心がけ、下記の『暑さ指数』を毎日確認してその日の行動を考え、熱中症に遭遇すれば下記の『現場対応』を行います。
環境省の下記のサイトが良くできていますので、まず見てください。
【現場対応】サイト
現場で、意識を確認して、なければ救急車、あれば水が飲めるか試みます。意識があれば、日陰・涼しい場所に移動して、服を緩め、水と塩またはスポーツドリンクをとらせ冷やします。頸部や脇の下を氷嚢,なければ自動販売機の冷えたペットボトル飲料水などで冷やします。
熱中症は、環境、からだ、行動が原因で起こします。
*環境:高温、多湿、風が弱い、エアコン無い部屋、閉め切った部屋、熱波
*からだ:肥満、高齢、小児、脱水、体調不良、糖尿病、心疾患など
*行動:慣れない運動、長時間の屋外作業、水分不足、スポーツ(登山、野球、マラソン、剣道、バレー、バスケットなど)
【暑さ指数:WBGT】サイト(気温、湿度、輻射・日射を考慮した指数)
温度計の指標とは異なります。 暑くなれば毎日確認をしましょう!
👉 熱中症対策で最も重要なことは、①良い汗をかき気化熱で深部体温を下げること、②皮膚からの熱放散が上手にできる事です。
そのためには、脳は熱に弱く脳の体温調整機能を低下させないよう脳の温度を40度前後以上ならないようにしなければいけません。
熱中症には、次の分類があります。
◆労作性熱中症:
若い人に多く、運動や労働と関連し,自宅外で急に発生
高齢者に多く、運動とは関係なく加齢変化と基礎疾患が関連して、徐々に進行して自宅の寝室、リビング、トイレで多く発生, 30度以上ではエアコンの使用が重要となります。若い人の労作性熱中症は、熱中症対策、啓発活動で減少してきていますが、高齢者の非労作性熱中症は近年増加していて、重症度が高く死亡例が多くなっています。
6月になり梅雨明け後急に気温が高くなると熱中症の方が増えてきます。暑熱馴化とは、暑くなっても体温調整がうまくでき、良い汗をかけるように前もってすることです。慣れていない人が、夏の肉体労働を開始すると3日以内の熱中症発生が多いことがわかっていますので、産業医療では、1週間以上まえから、仕事に少しずつ慣らしてから行うようになってきています。
👉 高率よい暑熱馴化の方法
インターバル速歩と運動後のコップ一杯の牛乳で、効率よい暑熱馴化を行います。高齢者ではサルコペニア(筋肉萎縮)対策にもなります。
◆インターバル速歩:
少しきつめの早歩き3分、ゆっくり3分歩行を交互に30分、週に4日以上1~2週間行うと効果が期待できます。若い人は、1週間程度から効果が出るようです。
詳しくは次の環境省youtubeを4分から見てください。環境省:夏を健康に過ごすための体つくり(youtube)
上記運動を5か月持続すれば、筋力増加、体力増加20%、高血圧、糖尿、肥満が20%改善する報告があります。
次の環境省youtubeで詳細が確認できます。環境省:暑さに強い体つくり(youtube)
運動後に糖質とタンパク(牛乳など)を摂取すると体内血漿量とアルブミンが増加して、体温調整能と下肢筋力増加に効果があり、下肢から心臓への循環量の増加が期待できます。末梢血液量の増加による皮膚からの熱放散や脳の体温調整機能低下予防にも役立ちます。日常の水分摂取も、利尿作用があるカフェイン、アルコール飲料は避け、水や麦茶を推奨。
➡ふらつき・めまいと熱中症
1度:熱中症初期 ふらつき・めまい・たちくらみ(脳への一次的な血流不足)
こむら返り・足のつり(脱水によるナトリウム不足)、気分不快、手足のしびれ
2度:頭痛、吐き気、虚脱感、倦怠感、軽い意識障害(熱疲労)すぐに病院へ搬送
3度:重度 高体温、意識障害、痙攣 (熱射病)すぐに救急搬送
めまい・ふらつきは熱中症の初期症状のため、見逃さないようにしないといけません。
労作性熱中症の場合は、発生環境からすぐに熱中症によるめまいと疑うことができますが、非労作性の熱中症で、自宅発症の高齢者の場合は、熱中症のふらつきを鑑別するのが難しくなります。少し暑くなってのふらつきは常に熱中症を想定した対応・鑑別が必要です。
脳は熱に弱く、熱中症では、脳を冷却して脳のダメージを防ぎ、体温調整機能を低下させないようにすることは重要です。加齢変化による、汗のかける部位の変化でも、若いころは足も含め汗をかけますが、加齢により体内の水分量がなくなるにつれて、下肢から上方に、徐々に汗がかけなくなります。顔や頭部の汗は、年をとっても低下しません。脳の冷却のための合理的な変化がおきています。
汗以外に、脳を冷却するには、頸動脈からの血流で脳を冷やすため、頸部、鼠径部、脇の下に氷嚢などで冷却を試みます。その他には頭部を外から冷やすこと以外ありません。今まで、鼻呼吸の脳の冷却装置としての役割は、あまり報告されていません。体温調節中枢は間脳の視床下部にあります。視床下部は、頭部の外からより、鼻の副鼻腔の一つの蝶形骨洞が外部と最も近い場所です。最近では、脳外科にて、間脳下垂体の手術は、内視鏡を使い鼻の蝶形骨洞を経由して手術が行われます。鼻と脳は数ミリの骨など隔てられているだけですので、鼻からは最も合理的なアプローチとなります。
鼻呼吸による鼻粘膜からの体温調節中枢の深部脳への直接的な冷却や鼻粘膜からの眼角静脈を通しての脳の選択的冷却システムが報告されています。鼻粘膜の鼻汁を利用した気化熱による冷却も考えられます。鼻呼吸による、体温調節中枢がある深部脳の冷却がもっと注目されてよいように思われます。
熱中症予防対策として、鼻の病気があれば治療して鼻呼吸を保ち、少し冷たい加湿した空気を鼻から奥に送ってあげることも対応の一つと考えられます。
➡ 熱中症おこしやすい方と疾患や要因
高齢者:皮膚温度感覚や体温調節機能の低下、基礎疾患による発汗障害や放熱障害
お子さん:発汗機能に未熟性や体の割に体表面積が大きく外部の影響を受けやすい
肥満:脂肪は熱放射を妨げます
体調不良:体温調節機能の低下
脱水状態:
糖尿病:自律神経障害による発汗・体温調節障害、多尿、薬による脱水
二日酔い:アルコールによる利尿作用
心疾患:心機能低下による体内循環量の低下や利尿薬の影響
高血圧症:日頃から塩分摂取制限、利尿薬の影響
精神疾患:無関心・自発性低下による暑熱環境回避をしない、薬の影響 体重増加
*風邪薬
*古いタイプの抗ヒスタミン薬
*咳止め
*トラベルミン(酔い止め)
*精神薬
*抗うつ薬
*パーキンソン病薬
脳内ドーパミン不足を補うため拮抗作用のあるアセチルコリンを抑制するため抗コリン作用の薬を使用
*頻尿薬
*腹痛薬など
上記のことに気を付けながら、温暖化による夏の暑さを乗り切りましょう!
参考資料:ヒトの選択的脳冷却機構とその医学;永坂 鉄夫 日生気誌 37:3-13,2000
騒音と難聴:そのスマホの音量で大丈夫?
➡騒音と難聴の変遷
現在は、周囲に色々な音があふれる時代です。高度経済成長の時代には、工場・造船や建築現場の騒音と難聴が問題となっていました。
歴史的には、Bernardino Ramazziniが『パン職人と製粉職人の病気;1700年』『銅細工師の病気;1713年』で騒音性難聴を記載しています。
最近では、産業構造の変化や労働安全衛生法による職場管理がされるようになり、工場・造船や建築現場の騒音は減少していますが、『レジャー騒音』として、スポーツイベント、パチンコ店、カラオケ、ライブ音楽、コンサート、スマホなどの携帯音楽プレーヤーと難聴が問題となっています。
また、環境騒音は、脳卒中、心疾患、不眠、めまいなどさまざまな病気の原因となることがわかってきて、『埋もれた公害』と考えられています。
➡WHOの警告:スマホでの長時間・大音量の音楽で 若者の半数が難聴の危険性
2019年2月12日にWHOは、スマホなど携帯音楽プレーヤーを、長時間・大音量の音楽を聞き続けると回復不能な聴覚障害(騒音性難聴:慢性音響性聴覚障害)になる恐れがあると発表しました。若いときから長時間、大音量にさらされていると、ダメージが蓄積して30代や40代の早い時期に老人性難聴を発症することがあります。
現状では、12~35歳の若者の半数近い11億人が難聴になる危険性が高いと警告しました。
『スマホの安全利用の目安:WHOの提言』
◆成人80dB 小児75dB 週に40時間まで
◆大音量聴取で自動的に音量を下げる機能
◆コンサート会場やイベントでの耳栓利用や会場での音量規制
~周囲の音量の例~
50dB: 小さな声、静かな事務所
65dB:エアコン
70dB: 普通に大きな声、高速走行中の自動車内、騒々しい事務所、
80dB:かなり大きな声、大声で、30cm以内で会話可能
走行中の電車内、パチンコ店内 街頭騒音
90dB: 怒鳴り声、会話成り立たず、カラオケ店内、直近の犬の鳴き声
100dB: 地下鉄車内、電車が通るときのガード下、ドライヤー,コンサート会場
110dB: 直近のクラクションの音、コンサート会場
120dB: 飛行機のエンジンの近く、落雷 救急車のサイレン
👉 学生さんが、バスや電車の通学でスマホの音楽を聴いていて周囲から聞こえるようであれば90dB以上ありますので危険領域と考えて下さい。
~騒音難聴ガイドライン(1992年)および国際労働機関によると~
80dB以上の作業場では、音量の測定
85dB以上では、必要な場合は耳栓またはイヤーマフ
90dB以上では、耳栓またはイヤーマフを使用
115dB以上では、耳の音量保護具なしでは立ち入り禁止
140dB以上は、立ち入り禁止
となっています。
👉 騒音難聴ガイドラインでは、カラオケ店やコンサート会場、ライブ音楽会場は耳栓が必要となります。
音量と許容基準時間(日本産業衛生学会、Hearwell, Enjyoy life: 日本耳鼻咽喉科学会HP)
| 音量 dB | 許容基準時間 | 場所や物 |
| 60 | リスクなし | イヤホンの適音量 |
| 75 | リスクなし | 掃除機 |
| 85 | 8時間 | 街頭騒音 |
| 88 | 4時間 | カラオケ店内 |
| 91 | 2時間 | カラオケ店内 |
| 94 | 1時間 | |
| 100 | 15分 | ドライヤー コンサート |
| 110 | 28秒 | コンサート ライブ音楽 |
👉 カラオケ店内、コンサート会場、ライブハウスは音量の許容範囲を超えやすい場所です。長時間の滞在は控えましょう。耳傍でのドライヤー使用も注意です。
2018年10月WHO欧州支部は、欧州地域での環境騒音に対するガイドラインを打ち出しました。Hearwell, Enjyoy life: 日本耳鼻咽喉科学会HP
レジャー騒音(スポーツイベント、パチンコ店、カラオケ、ライブ音楽、コンサート、スマホなどの携帯音楽プレーヤーなど)に対する提言として70dB基準を推奨しています。
70dBというと1mの距離の相手となんとか会話ができるレベルの騒音です。つまり、隣の人の声が確認できないほどの大音量にさらされると、難聴のリスクが高まるとWHOは結論づけています。
➡音響性聴覚障害とHidden hearing loss
強大音による難聴には、聴力の回復が困難なものと(NIPTS)と一過性低下ですむもの(NITTS)があります。近年、回復可能なNITTSでも、内有毛細胞に関する50%程度の機能障害がわかってきました。80%のシナプス障害がでるまで、聴力は正常を示すため、隠れた難聴(hidden hearin loss)と呼ばれています。このhidden hearin lossは、加齢性難聴でも生じていると考えられています。
ロックコンサート(100~120dB)、ピストル、爆発音(130dB~)などのすごく大きな音で、急性に起こる感音性難聴を音響外傷(急性音響性聴覚障害)と呼び、スマホの音楽、パチンコ店、工場の機械音(85dB~)などの長時間・大音量で生じる慢性音響性聴覚障害を騒音性難聴と言います。
耳慣れない言葉で、剣道難聴があります。竹刀による打撃による衝撃で2000Hz、竹刀の打撃音で4000Hzあたりの聴覚低下を起こすことが報告されています。
(徳島大学耳鼻咽喉科HPより)
難聴は、骨導を通してチェーンソーなどの振動でも生じます。
急性の感音性難聴の音響外傷は、早期にステロイドなど治療をおこない一部は回復の可能性がありますが、慢性に生じる騒音性難聴は、不可逆的で一度起こすと回復しません。
騒音職場では、1日8時間労働を行い、5~15年の経過で徐々に難聴が発生し進行します。騒音性難聴は、最もよく知られた職業性疾病の一つです。
➡ 音で、どうして難聴が生じるのか?
声で相手のイメージをいだいたり、歌で励まされ感動を覚えたりもします。
音は大脳でとらえた人の感覚すなわち感覚量だから心に響きますが、感覚量だけなら物理的な耳の障害は引き起こしません。
音は感覚量で、物理的に存在するのは音波です。
音波は、空気の膨張と圧縮により発生する縦波で、力学的エネルギーを持つ物理量です。
慣習的に、人は『音を聞く』といっていますが、これは『音波を聞く』ということになります。物理量の音波は、内耳の蝸牛障害を起こします。
初期は耳鳴り(キー、ミーンなど高音)が出現しますので、耳鳴りが自覚するときは早めの耳鼻咽喉科受診を勧めます。耳鳴りは内耳損傷のサインです。
人間の可聴域は20~20000Hzと言われ、これ以上の音は超音波と呼ばれます。
高周波とは15000Hz~20000Hzの可聴域を指し、『キーン』という音として聞こえます。
40代では15000Hz、50代では12000Hz~の高周波は、ほとんど聞こえないと言われています。
◆高周波のモスキート音で聞こえ年齢をチェックしてみましょう。
会話域は500Hz~2000Hz、騒音性難聴の初期聴力低下の参考値は3000~6000Hzの聴力を参考にしています。
➡ 騒音と難聴対策
職場での難聴対策は、職場管理がされるようになり、産業構造の変化から騒音難聴は減少していて、騒音性難聴の労災申請では昭和62年がピークで平成25年では1/4まで減少しています。産業医がいない、小規模職場での騒音問題は、把握できていません。
職場では、腰痛を筆頭に整形外科疾患が増加、癌、うつ・精神障害、生活習慣病による疾患が増加しています。
今後はレジャー騒音と車・交通機関・飛行機などの環境騒音が、問題となります。
◆スマホ難聴対策には、前述のWHOの提言をもとに実行されことが望まれます
◆音楽は60%の音量で聞くこと
◆音楽や大きな音の楽器演奏を聴かない日を設ける
誰でも普通にかなり大きな音を長時間、耳元で聞けば軽度の難聴が出現しますが、一日もすれば回復することが殆どであまり自覚することはありません。毎日、長期間・大音量を聞くと障害が遷延しますので、音楽や大きな音の楽器演奏を聴かない日を設ける事です。
◆パチンコ店、コンサート、ライブ音楽、スポーツイベントでは、耳栓利用が望まれます
会話可能な耳栓(JIS二種)もあります。
◆お酒を飲んで長時間・大音量を聞かない事(内耳障害を起こしやすくなる報告あり)
~防音保護具の種類~
80dbの騒音に晒されている場所において、NRRが30dbの耳栓やイヤーマフを使用すれば、体感的には50dbの騒音に低減できるということです、NRRが30以上のものを選びましょう。NRR(noise reduction rating)
耳栓(プラスチック、ウレタン、シリコン、スポンジ)
一種 低音から高音まで遮音 騒音の大きい場所で使用
二種耳栓は、騒音職場で、会話が必要な場所またはコンサートやスポーツイベントで使用
耳覆い(イヤーマフ)
工場の現場では蒸せやすくなります。
*拾った音の音量制限するもの
*騒音下での、無線通話できるもの
*外部騒音を検出して逆位相で打ち消すもの
など開発されています。
➡ 騒音性難聴担当医の役割の変化
日本耳鼻咽喉科学会では、昭和の高度成長期に、職場の騒音難聴と労災申請対策として、騒音難聴担当医制度が発足されました。鹿児島県に10名、全国には900余名の耳鼻咽喉科専門医が騒音性難聴担当医の役割を担っています。
職場での聴覚管理がなされるようになり、また産業構造の変化から、騒音職場での騒音性難聴の労災申請は減少してきています。
今後は、さまざまな疾患の原因となる環境騒音や将来的に若者の難聴リスクとなるレジャー騒音対策が社会的問題となっています。
騒音性難聴担当医も毎日の診療の中で、レジャー騒音にたいしての啓発活動の取り組みが求められます。
参考資料
第23回日耳鼻産業・環境保健講習会 講演集
車の運転と薬:飲んで大丈夫?
米国では、薬による死亡が1994年全死亡原因の4番目になっていて、できるだけ薬は最小限にすることが望まれています。また米国では2013年の事故死の一番は、麻薬などの過量服用死です。
日本でも、各疾患ごと、多数の薬があり、高齢で多疾患を抱える場合、多くの薬を内服することになり5~6種以上の薬内服で副作用の出現が多くなるポリファーマシーが問題となっています。
薬と運転に関しては、道路交通法第66条に「何人も、過労、病気、薬物 の の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で車両 等を運転してはならない。」と記載され、薬の副作用等によって正常な運転 ができない状態で運転することを禁止しています。
車の運転事故ベスト5
1) 安全不確認
2) 脇見運転
3) 動静不注視
4) 漫然運転
5) 運転操作不適
これらはどれも、人の集中力低下により生じる可能性があります。
疲れ、睡眠不足、考え事、スマホ運転、脱法ドラッグなどの影響の他にも風邪薬や医療用の薬による眠気や注意力低下が関与する可能性も考えらています。
平成25年5月29日、「医薬品服用中の自動車運転等の禁止等に関する患者への説明について」徹底するようにという厚生労働省の指導文書が出ています。
我々医療機関でも、皆さんへの車の運転と薬の問題点に関して、以前よりも患者さんにわかりやすい説明求められています。
👉
当院でも薬の処方時に薬局と協力しながら、今より一層わかりやすく説明していきたいと思っています。
今回のコラムを通して、車の運転と薬について、参考にして頂ければ幸いです
車とお酒については、厳格な取り締まりやアルコール検査もあり皆さんも注意されますが、薬と車の運転に関しては、事故をしてわかる以外確認の方法がありません。
運転者自身が、お酒と車の問題と同様に、お薬と車の運転に関しての問題点を認識していただくことが第一歩となります。
また、公共交通・トラック・タクシー会社の上司の方々、家族の方も薬の特性を知って服用管理を協力・指導していくことも大事です。
下記のHPの中で、自動車運転で服用を避けるまたは注意する薬一覧がありますので参考にしてください。
◆愛媛大学附属病院薬剤部資料:自動車運転などの禁止・注意の記載ある薬一覧
実際の服用に関しては、その患者さんにとって必要な薬は異なり、薬剤師または担当医と相談の上に判断して下さい。
当院で処方する機会が多い薬の一覧を、添付文書の中で車の運転での➊避ける❷翌朝も含め避ける❸注意する❹記載なしに関してまとめてみました。
| 分類 | 薬品名 | 避ける | 翌朝も含め避ける | 注意する | 記載なし |
| 抗ヒスタミン薬 | クラリチン | 〇 | |||
| アレグラ | 〇 | ||||
| デザレックス | 〇 | ||||
| ビラノア | 〇 | ||||
| エバステル | 〇 | ||||
| アレジオン | 〇 | ||||
| タリオン | 〇 | ||||
| アレサガテープ | 〇 | ||||
| アレロック | 〇 |
| ザイザル | 〇 | ||||
| ニポラジン | 〇 | ||||
| ポララミン | 〇 | ||||
| ジルテック | 〇 | ||||
| PL顆粒 | 〇 | ||||
| アタラックス | 〇 | ||||
| アゼプチン | 〇 | ||||
| ザイザル点鼻 | 〇 | ||||
| ナゾネックス点鼻 | 〇 | ||||
| アラミスト点鼻 | 〇 |
| フルナーゼ点鼻 | 〇 | ||||
| セレスタミン | 〇 | ||||
| ペリアクチン | 〇 | ||||
| 抗ロイコトリエン薬 | オノン | 〇 | |||
| キプレス | 〇 | ||||
| 抗生物質 | ジスロマック | 〇意識障害を注意 | |||
| クラビット | 〇意識障害を注意 | ||||
| ジェニナック | 〇意識障害を注意 | ||||
| ミノマイシン | 〇 | ||||
| アベロックス | 〇 |
| 咳止め | コデイン | 〇 | |||
| メジコン | 〇 | ||||
| レスプレン | 〇 | ||||
| 禁煙補助薬 | チャンピックス | 〇 | |||
| 鎮痛薬 | ボルタレン | 〇 | |||
| ロキソニン | 〇 | ||||
| カロナール | 〇 | ||||
| セレコックス | 〇 | ||||
| ポンタール | 〇 | ||||
| ソランタール | 〇 |
| 肩こり薬 | テルネリン | 〇 | |||
| ミオナール | 〇 | ||||
| 睡眠・精神薬 | ロゼレム | 〇 | |||
| ベルソムラ | 〇 | ||||
| マイスリー | 〇 | ||||
| ルネスタ | 〇 | ||||
| ジェイソロフト | 〇 | ||||
| パキシル | 〇 | ||||
| レクサプロ | 〇 | ||||
| サインバルタ | 〇 |
| トレドミン | 〇 | ||||
| イフェクサー | 〇 | ||||
| リーゼ | 〇 | ||||
| メイラックス | 〇 | ||||
| レキソタン | 〇 | ||||
| セディール | 〇 | ||||
| グランダキソン | 〇 | ||||
| デパス | 〇 | ||||
| レンドルミン | 〇 | ||||
| スルピリド | 〇 |
| 神経痛薬 | リリカ | 〇 | |||
| 消化器薬 | ナウゼリン | 〇 | |||
| プリンペラン | 〇 | ||||
| 抗ウイルス薬 | タミフル | 〇 | |||
| ゾビラックス | 〇 | ||||
| バルトレックス | 〇 | ||||
| アシクロビル | 〇 | ||||
| 糖尿病薬 | メトグルコ | 〇低血糖 | |||
| グラクティブ | 〇低血糖 | ||||
| グリメピリド | 〇低血糖 |
| 循環器薬 | アジルバ | 〇 | |||
| アムロジン | 〇 | ||||
| ブロプレス | 〇 | ||||
| カルデナリン | 〇 | ||||
| カプトリル | 〇 | ||||
| シェーグレン病薬 | サラジェン | 〇夜間の運転 | |||
| サリグレン | 〇夜間の運転 | ||||
| 片頭痛薬 | ゾーミック | 〇 | |||
妊婦&授乳と薬:飲んで大丈夫?
薬は通常の人にとっても、作用があれば副作用もあるとお考えください。
妊婦・授乳婦さんは、それ以上の問題点が多くあり服用は慎重になります。
◆妊婦と薬のリスクと授乳の時の服用の危険度は違います
妊婦と薬の使用は慎重に対応する必要がありますが、授乳と薬では、妊婦で服用できる薬の他に、多くの薬の服用ができます。
授乳は人工乳よりメリットが多く、授乳と服用を両立できることがほとんどです。
👉 まず妊娠と薬について学びましょう!!
◆流産と奇形の自然発生率
流産の自然発生率15%前後
奇形の自然発生率3%前後(ベースラインリスク)
奇形と流産のほとんどは自然経過の中で起こっています。
薬剤の奇形への影響0.02%程度
奇形の中で薬が原因の奇形は1~2%
薬が原因の奇形は、てんかんの患者さんが、催奇形性が明らかな抗てんかん薬などを使用したまま妊娠継続するしかない場合がほとんどです。
催奇形性のはっきりした薬以外が原因となる確率は非常に低いものと考えられています。
◆妊娠の時期と薬の影響は異なります
*妊娠3週まで(最終月経の初日から計算します)
この時期は、薬による奇形の影響は出ません。
薬による有害な影響があった場合は、着床しないか流産の結果となります。
不妊治療中であれば、担当の産婦人科医と相談して服用して下さい。
*妊娠4週~15週
特に4週~7週は重要臓器ができる絶対過敏期(催奇形性に対して最も過敏な時期)
8~15週は薬に対する過敏性は低下する時期です。
*16週~分娩まで
催奇形性の心配はなくなりますが、胎児毒性が問題となります。
胎児毒性とは、お腹の赤ちゃんの発育や機能に悪影響が及ぶことを言います。
服用するとそのほとんどは胎盤を通過し、お腹の赤ちゃんにも届いてしまします。
妊娠初期より妊娠後期に服用すると出やすくなります。
~~催奇形性が明らかな薬(妊娠4週~15週で問題)~~
●高リスク(25%<)
サリドマイド、
男性ホルモン、
蛋白同化ホルモン(筋肉増強剤です;医療用ステロイドとは違います)
●中リスク(10~25%)
ワーファリン、
チョコラA
●低リスク(10%>)
抗てんかん薬
メトトレキセート(リウマチ)
メルカゾール(バセドウ)
リーマス(躁鬱)
抗ガン薬
アルコール:4週~7週でアルコール摂取は奇形の可能性があります。![]()
~~胎児毒性のリスクのある主な薬と物質(妊娠16週~分娩)~~
タバコ➡胎児発育不全、早流産など起こします
アルコール➡胎児性アルコール症候群を起こします。 禁酒を!
カフェイン➡胎児の発達に影響します。コーヒー1日2杯まで、WHO推奨摂取量300mgまで
ヨード(イソジンガーグル、のどぬーるスプレー)
非ステロイド性抗炎症薬(ボルタレン、ロキソニン、イブなど)➡鎮痛解熱は、アセトアミノフェンが第一選択
メルカゾール、ベンゾジアゼピン系抗不安・睡眠薬、降圧薬の大多数
◆健康志向妊婦さんの落とし穴;チョコラAとイソジンガーグル
*チョコラA(ビタミンA,レチノール)
妊娠初期のビタミンAの多量服用が奇形の発言率を高めることがわかっています。
摂取上限は2700µgRAE/日、推奨量は妊婦では650~780µgRAE/日、
一般的には食事からの摂取で十分と言われています。
マルチビタミンにも含有されていることがあり注意して下さい。
レバーやウナギにも多く含まれているため、妊娠15週までは控えましょう。
不足もよくありませんので、緑黄色野菜や果物に含まれるβ―カロテンから摂取するようにしましょう。
β―カロテンは、体内でビタミンAが不足した場合に、必要な分だけビタミンA変換されるため過剰摂取の心配はありません。
*ヨード(イソジンガーグル、のどぬーるスプレー)
ヨードは甲状腺ホルモンの主原料で、日本人の成人の摂取上限量は3.0mg/日、妊婦は2.0㎎/日です。
海藻を多く摂取する日本人の食生活では、ヨードの欠乏はあまりみられません。
妊娠中の過剰摂取は、新生児の一過性甲状腺機能低下症(クレチン症)を引き起こすと言われています。
イソジンうがい薬:3うがいを1日3回すれば5.0mg/日のヨード負荷となり過剰になります
のどぬーるスプレー:1回2~3噴霧を2回~5回/日すれば、5~19mg/日のヨード負荷となり過剰です。
◆お勧めの栄養素は?
葉酸:
妊娠一ヶ月以上まえから妊娠12週までの期間は、二分脊椎などの予防のため食品(緑黄色野菜に葉酸が多い)の他に葉酸のサプリを0.4mg/日の摂取を推奨されています。
カルシウムとビタミンD:
妊娠中期から後期にかけて積極的に摂取します。
胎児の骨形成に重要で、妊婦のイライラ、高血圧、腰痛予防にもなります。
鉄:
妊娠中期以降、鉄の必要量は、非妊時の月経が無いときの3倍程度に増加するため食品以外にも貧血予防のため、サプリでの摂取も推奨されますが、大量摂取での肝機能障害のこともあり、1日上限40mgまでにします。
◆妊婦さんと風邪、花粉症、片頭痛、感染症、喘息、消化器症状、不眠、アトピー、ヘルペスでの薬の注意点
➡解熱鎮痛薬はアセトアミノフェンを使用します。妊娠初期の発熱は、先天奇形との関連が報告されていますので、積極的に使用します。ボルタレン、ロキソニン、イブなどは胎児毒性として、動脈管収縮の報告があります。プロスタグランジン合成阻害しない塩基性のソランタールも使えます。唯一のアセトアミノフェンでの問題は、ADHD,多動、自閉症が言われていますが結論は出ていません。低用量アスピリンだけは、抗リン脂質抗体症候群、妊娠高血圧症候群の予防で使用されます。尿路結石など激しい痛みにはペンタゾシンを屯用で使います。トラマドールは使いません。
➡片頭痛の痛み止めもアセトアミノフェンを使います。妊娠中は片頭痛が改善するため薬を使わなくなります。予防薬のミグシス、バルプロ酸は禁止、必要な場合はβ遮断薬のプロプラノロールを使います。日本頭痛学会HP(サイト)から
➡感染症では、妊婦さんはハイリスク患者となります。セフェム系、ペニシリン系、マクロライド系、クリンダマイシンは使用可能となっています。アモキシリン・クラブラン酸(オーグメンチン、ユナシン)は予防的長期使用で胎児壊死性腸炎増加が指摘されていますので、最小限の使用にします。外来点滴はセフトリアキソンにします。風邪の時のうがいについて、水やお茶で効果がある事がわかっています。問題が多いイソジンうがいを使う必要はありません。またインフルエンザ予防にはうがいの効果は疑問視されています。手洗いが最も重要で、咳エチケットとしてマスクを使用します。漢方は比較的安全に使えます。麻黄含有の葛根湯などの長期使用は控えます。
➡妊婦のインフルエンザ感染は、ハイリスクとなり、インフルエンザワクチンは、妊婦の全時期で、接種を推奨されています。インフルエンザ薬のリレンザはアメリカFDAのカテゴリーB(ヒトでの危険性の証拠はない)タミフルはカテゴリーC(危険性を否定することが出来ない)吸入薬のイナビルも使用できます。担当医の判断ですが、タミフルが治療と予防投与ともに使われることが多いと思います。妊婦さんは、重症化しやすく治療を優先した対応が望まれます。チメロサール含有インフルエンザワクチンのチメロサールは極少量のため胎児への影響はないとされています。懸念されていた自閉症との関連も否定されています。注射のラピアクタも使用可能ですが、添付文書で動物実験での流産・早産の記述あります。妊婦にインフルエンザワクチン接種することにより生後6ヶ月児のインフルエンザ罹患率を減少させます。
➡花粉症では、インタールなどの外用薬から使用します。血管収縮剤の点鼻は、子宮収縮の可能性があります。歴史が長いポララミンを屯用で使用することもあります。改善なければ、クラリチン、アレグラなど最小限で内服します。
妊娠中は妊娠性鼻炎を起こしやすくなります。
➡咳止めはメジコンを使います。激しい咳の持続は、切迫早産の原因になりかねません。
➡喘息について、妊娠による喘息症状の変化は、増悪、不変、改善が1/3ずつと言われています。発作による母児の低酸素血症が問題となりますので、自己判断で中止せず、妊娠前と同様にぜんそく薬は、吸入ステロイドを主に使用します。妊娠の時期により、喘息の状態は異なり、24週~36週で最も悪化して、37週~40週で症状の改善がみられる報告もあるようです。薬できちんとコントロールすれば、妊娠中の悪化は多くないようです。
悪化時に、ステロイド薬の服用が必要なことがあります。プレドニゾロンは、胎盤で代謝され不活化するので胎児への影響は少ないと言われています。
妊娠初期のプレドニゾロンの服用で、動物実験で口蓋裂のリスク上昇の報告がありますが、人での因果関係ははっきりしません。
妊婦の流早産を予防するウメテリンは、子宮筋選択性β2刺激薬です。喘息の吸入、内服、テープや麻黄湯、葛根湯、麻杏甘石湯、五虎湯なども喘息や風邪で服用する漢方にもβ刺激作用の成分があり注意が必要です。
➡便秘では、漢方の生薬の大黄、芒硝は控え、桂枝加芍薬湯、小建中湯などから使用します。西洋薬では、酸化マグネシウム、刺激性下剤では、ピコスルファートナトリウム(ラキソベロン)が推奨されています。
健康食品のアロエは避けます。羊水中へ胎便の排出を促すことがあります。
➡吐き気では、小半夏加茯苓湯、プリンペランを使用。
➡胃薬・胃潰瘍では、ガスターを使用。
➡不眠は睡眠指導を行い、漢方(桂枝加竜骨牡蛎湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、加味逍遥散、酸棗仁湯、帰脾湯、抑肝散)で対応します。 妊娠後期に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の連用で新生児薬物離脱症候群(一過性傾眠、呼吸機能低下)を生じることがあります。
➡アトピーでのステロイド外用の軟膏・クリーム使用について、ほとんど体内に吸収されません。
タクロリムス軟膏やニキビのディフェリンゲルは添付文書では、妊婦は禁止となっています。
➡帯状疱疹・ヘルペスでは、パラシクロビル、アシクロビル、内服・外用・点滴いずれも使用可能です。
◆妊婦とステロイドの使用についてまとめ
ステロイド外用軟膏および、その他の外用ステロイドの吸入、点眼、点鼻も用量の範囲では、ほとんど体内に吸収されません。特に、最近販売された点鼻の吸収はほとんどありません。
ステロイドホルモンの中で、プレドニゾロンは、胎盤で代謝され不活化するので胎児への影響は少ないと言われています。
妊娠初期のプレドニゾロンの服用で、動物実験で口蓋裂のリスク上昇の報告がありますが、人での因果関係について、はっきりしません。
◆妊娠時に控える漢方
妊娠の時も漢方は使いやすい薬として認知されていますが、妊娠初期の過敏期はどの薬も控えた方が望ましく、大黄、牡丹皮、桃仁、紅花、牛膝、芒硝を含む桂枝茯苓丸、桃核承気湯、通導散などの強い駆お血剤は控えた方がよいといわれています。
◆授乳と薬
薬の添付文書には、
『母乳中へ移行する可能性があるので使用中の授乳は避けさせること』
とほとんどの添付文書に記載あり、この通りに従うとほとんどの授乳婦は、薬が服用できないことになります。
実際は、服用できる薬のほうが多く、世界的に啓発活動が行われ、日本では国立成育医療センター、各県の薬剤師会が、資料を提供して皆さんや医療従事者に啓発活動を行っています。
~愛知県薬剤師会HPより;母乳の大切さ~
赤ちゃんにとってのメリット
・栄養のバランスが最適で、牛乳によるアレルギーがない
・消化・吸収・排泄がよく、内臓の負担が少ない
・認知機能の発達
・免疫の獲得
・肥満、高コレステロール血症、糖尿病、高血圧などの発症リスクの低減
お母さんにとってのメリット
・乳がん、卵巣がんなどの発生を減少
・骨粗鬆症、関節リウマチ、糖尿病の発生を減少
・月経再開を遅らせ、貧血を予防
・体重を落とし、産後の肥満を防止
社会にとってのメリット
・赤ちゃんとお母さんの疾患発生率を減少することで、医療費の削減につながる
お母さんが、服用したお薬のほとんどは母乳の中に分泌されますが、その量はお母さんが服用した量の1%以下で、たいていの場合、薬を使いながら母乳育児を継続できます。
国立成育医療センターのHPでは、授乳に適さない薬として
アミオダロン(抗不整脈薬)コカイン(麻薬)ヨウ化ナトリウム(放射性ヨウ素)だけになっています。
その他に適さない薬としては、抗ガン剤、免疫抑制剤などの限られた薬になります。
➡服用のタイミング
服用の母乳中の薬の濃度が最高になるのは服用後2~3時間後なので、お母さんが服用直前または直後に授乳すれば、赤ちゃんへの影響を最小にすることが出来ます。
*インフルエンザ薬(リレンザ、タミフル、イナビル)風邪薬、抗生剤、アレルギー薬、イブ・ロキソニンなどほとんどの薬を内服可能です。
*エリスロシンは肥厚性幽門狭窄症を認めた報告があり、生後一か月は回避します。
*クロラムフェニコールやテトラサイクリン系は推奨されません。
*授乳とプレドニゾロン服用について、添付文書では授乳は避けるですが、
米国小児科学会では、通常授乳で服用可能、Medicattion and Mothers’ milkでは比較的安全、
大分県薬剤師会の母乳とくすりハンドブックでは、40㎎/日以上または長期服用では授乳まで4時間以上あけるとなっています。
つまりプレドニゾロン30mg/日以下であれば授乳中の服用は問題ないことになります。
*片頭痛のトリプタンは24時間あけて授乳します。
➡飲酒は母乳分泌を減らしますので、飲酒後2時間して授乳して下さい。
➡タバコは、お母さんの血中ニコチン濃度の1.5倍~3倍の濃度で母乳へ移行し、母乳分泌量を減らします。赤ちゃんの前では絶対に吸わないことです。
◆それぞれの薬の服用にいて役に立つホームページ
妊婦と薬 主な薬の危険度;お薬110当番
授乳と薬の適する薬;国立成育医療センターHP
大分県薬剤師会 母乳とくすりのハンドブック2010年版
愛知県薬剤師会;妊娠・授乳と薬
参考資料 上記のホームページ、 妊娠・授乳と薬の知識/村島 温子など 医学書院、大分県薬剤師会;母乳と薬ハンドブック2017年


















