院長の健康情報コラム
増え続ける咳の患者さんたち
昨日から、鹿児島市川上町は雪、今朝-2.5度、昨日朝は積雪2cm、今日は薄化粧程度でした。
『今回は、当院受診の患者さんの訴えで多い咳の話です』
米国のインターネットでの3000人対象の調査では、過去1年間に85%が年1回以上、風邪をひいています。咽頭違和感40%、鼻閉・鼻汁それぞれ10%、咳の頻度は70%と最も多く長く続き、患者さんが最も煩わしく感じる症状の一つになっています。社会が豊かになり寿命が長くなるにつれて、咳の患者さんが増えてきています。
100年前までは、日本人の寿命は、40歳前半で、戦後、医療水準の向上や衛生環境の改善と肉を食べる食習慣の変化もあり急に寿命が伸びだしました。70年前に50歳まで延び50年前には70歳を超え、2016年には男性81歳、女性87歳まで達しました。以前は咳の原因として結核や感染症が主でしたが、現在は、アレルギー、生活習慣病、加齢に伴う咳が増加しています。
会議や発表、接客など咳を白眼視される機会が増え以前より受診するようになったのも患者数増加の原因となります。
最近は、学校やオフィスでのストレスによる心因性咳嗽も多くなっています。
関連HP:咳(吉 耳鼻咽喉科アレルギー科)に咳の総論と当院の方針は記載していますので参考にしてください。
👉 普通感冒による急性咳嗽の持続期間
病院で加療受けても、すぐに治ることは少なく長期加療となることもよくあります。
普通感冒による急性咳嗽の持続期間は平均18日との報告があります。
咳のガイドラインでも、急性咳嗽は3週間となっています。
小児場合は2週以内を急性とすることもあります。
このことは、普通感冒による感染症による咳は、自然放置しても3週間すれば治ることを意味しています。
咳のピーク(1週間以内)が過ぎたあとは、薬を使わず自然経過をみることも考えましょう。
☞医者の立場からは、肺炎、結核、肺癌、重症喘息、間質性肺炎、COPDの感染、心不全など危険な咳を見逃さないことに注意を払います。
高熱、胸痛、呼吸困難、血痰を伴う咳は精査を急ぐ必要があります。原因療法で、咳を改善させることを考えます。
☞患者さんの立場からは、夜も眠れない煩わしい咳をできるだけ早く止めてほしいことにあります。ここで対症療法として咳止めを使用することになるでしょう。
👉 湿性か乾性咳嗽かの区別の重要性
患者さんの咳が、からむ程度ではなく、容易に痰を出すことが出来るような湿性咳嗽なのか、痰を伴わない乾性咳嗽なのか考えて下さい。湿性咳嗽の場合、気道内にたまった痰を排出するための生体防御の咳で、咳の止め方は、咳止め薬ではなく去痰による痰の減量になります。咳を止めてしまうと気道内に咳が貯留し、肺炎の原因になりかねません。
喀痰の排出力は弱っている高齢者の湿性咳嗽には、咳止めは禁忌とされています。乾性咳嗽は咳そのものが問題なので症状がひどければ適切な咳止め薬が求められます。
【中枢性咳止めの問題点】
風邪薬の医療用や一般用の咳止めには、中枢性鎮咳薬、抗コリン作用薬、交感神経作用薬などが使用されています。
具体的には、
*市販の風邪薬 PL アストフィリン配合剤 クロフェドリンS カフコデN ブラコデ配合 コデイン散、などは麻薬性中枢性鎮咳薬のコデインまたは抗コリン作用が強い鼻水止めまたは交感神経作用のエフェドリンなどが入っています。
*メジコン、アストミン、フラベリック、アスベリン、フスタゾール、レスプレンなども非麻薬性中枢性鎮咳薬に該当します。非麻薬性中枢性鎮咳薬の多数も、麻薬性中枢性鎮咳薬より軽い抗コリン作用を認めます。
抗コリン作用や交感神経作用薬が多いと、副作用も多くなります。フスタゾール、アスベリン、レスプレン、アストミンは副作用が弱い方に分類されていて、小児から使用されます。レスプレンは口渇の副作用記載を認めません。
➡ これら咳止めの具体的な問題点として
*咳は気道内の異物・痰を排出するために必要な生態防御反応です。咳止めにて咳を抑え過ぎると肺炎など感染症を助長することになります。
*2017年、小児12歳未満には、風邪薬の医療用や一般用の咳止めのコデインの使用制限が厚労省から公表され、2019年から禁忌となります。小児では呼吸抑制や稀に死亡例の報告があります。
*抗コリン作用による口渇・咽喉頭の乾燥が問題です。咽頭・気道上皮が乾燥すると粘膜防御能が低下して細菌感染を助長します。次第に乾燥による咳を悪化させることもあります。
*抗コリン作用は胃や腸の運動を抑制して、便秘や胃食道逆流症を助長させ、咳の悪化の原因にもなります。
*嚥下機能障害のリスクを抱える高齢者の場合、誤飲性肺炎を生じさせることもあります。
*抗コリン作用薬は高齢男性の排尿障害、緑内障の悪化の可能性もあります。
*咳止めとして交感神経作用薬が含有されている薬が多く、血圧や心疾患を悪化させる可能性があります。
*上記の市販の風邪薬、PL、コデイン、クロフェドリンS, メジコン、カフコデN、ブラコデ配合、アストフィリン配合剤などは、薬の添付文書では車の運転禁止薬となっています。フラベリック、アストミン、アスベリン、レスプレン、フスタゾールには車の運転禁止項目はありません。
☞ 漫然と咳止めを内服することは控えなければなりません。
👉 実際の診療で最も診断・治療が難しい時期は発症1~2週間から2か月以内の咳です。
受診する患者さんが多く、急性感染症の咳・感冒後遷延性咳嗽・非感染性咳など数多くの咳の原因が混在する時期です。
その上、すでに市販の風邪薬内服や前医での治療を受け、レントゲン、採血検査も行い、特に異常ないと言われても、咳・痰が持続する患者さんが多くいる時期となります。その中には、ステロイドの吸入療法も行っても改善しないと受診される方もいらっしゃいます。このような場合、薬の副作用(乾燥、胃食道逆流症)や、咳による腹圧からの胃食道逆流症悪化に伴う新たな咳などの治療過程で生じた咳の原因も含め、混在する多くの原因を見極めることが必要となります。
医師と患者さんとの共同作業が必要な時期です。
👉 2か月以上持続する咳について
2か月以上経つと結核、肺癌は別にして、感冒後遷延性咳嗽もなくなり、ウイルス性感冒、百日咳、マイコプラズマなどの感染症の原因は稀になってきます。2か月以上持続する慢性咳嗽の最も多い咳の原因は、非感染性の咳です。咳喘息、副鼻腔気管支症候群(後鼻漏の咳も含む)、アトピー咳嗽(喉頭アレルギーも含む)そして生活習慣病の増加で最近増えてきた胃食道逆流症となります。この中で最も多いのが咳喘息です。
『ポイント』
◆慢性咳嗽の治療で最も重要なことは、それぞれ単独の疾患でおこしていることもありますが、2~3疾患程度が相互に重なり合って咳の遷延化をまねいていることを考えた対応です。
◆診断的治療の必要性です:病歴・検査から治療前診断として疑い診断とし、特異的治療後の効果で治療後診断を行い、非特異的咳止めは控えます。
慢性咳嗽の原因を治療する場合、これまでの縦割りの診療科の考えでは
*副鼻腔気管支症候群(後鼻漏の咳も含む)は耳鼻咽喉科または呼吸器内科
*咳喘息は呼吸器内科
*アトピー咳嗽(喉頭アレルギーも含む)は耳鼻咽喉科または呼吸器内科
*胃食道逆流症は消化器内科
*小児の場合は小児科となります。
今後は、長引く難治性の慢性咳嗽に関して縦割りの診療科ごとの対応ではなく、鼻・喉頭・気管・肺・胃食道の相互作用を考慮して対応していくことが重要です。最近の診療科としては、アレルギー科があります、臓器別でなく臓器横断的対応することの必要性から出てきた診療科です。上・下気道をひと続きの気道疾患『One airway, one disease』としてとらえ、耳鼻咽喉科・呼吸器科のアレルギー疾患を一つの気道の病気として対応していきます。NHKのドクターGでも注目されている総合内科の視点や、全体を見て各臓器をとらえていく東洋医学的視点も必要と考えています。
参考図書:
危険な咳・そうでない咳の見分け方(文光堂)
喘息・アレルギーVol29,No1 2016:4 (メディカルレビュー社)
咳嗽に関するガイドライン2版 日本呼吸器学会
関連ブログ:鼻と秋の喘息、 よくわかる風邪の漢方
関連HP:咳、 かぜ症候群、 アレルギー、 漢方処方(吉 耳鼻咽喉科アレルギー科)
認知症と耳鼻咽喉科&補聴器
日の出・新年 吉野公園 2018年1月2日(クリックで拡大)
2018年・新年あけましておめでとうございます。
今回は、高齢化と共に社会問題にもなりつつある認知症と難聴の話です。
認知症といえば、病院での物忘れ外来など専門病院での治療のイメージがあると思います。
受診する科としては、神経内科や脳神経外科が連想されるでしょう。
世界的な権威ある医学誌に、意外にも最も重要な認知症の悪化因子が、
中年期の聴力低下であることが報告されました。
今後、認知症への耳鼻咽喉科医の貢献が多いに期待されます。
その内容とは:
2017年7月世界的な医学雑誌Lancetに、
教育レベルの低さ(15歳以降に教育を受けていない)に加え、
中年期(45歳以上65歳未満)の聴力低下、高齢期(65歳以上)の喫煙
高血圧、肥満、さらに、抑うつ、運動不足、社会的孤立、糖尿病の9つの因子について対策を講じることで、認知症の35%は予防できることが示されました。
特に認知症予防で重要なのは
◆中年期の聴力低下
◆教育レベルの低さ
◆高齢期の喫煙の3つであることも分かりました。
中年期の聴力低下例を全て治療することで9%
15歳以降も全ての人が教育を継続できるようにすることで8%
全ての高齢者が禁煙することで5%減らせると推定されました。
執筆者のLivingston氏は『認知症の危険因子は若い時から高齢になるまで生涯を通じてみられ、それらによって脳の変化は症状が出現する何年も前から始まる』と説明。
こうした危険因子を念頭に置いた広範なアプローチを認知症の予防策に取り入れることの必要性を示しています。
👉 一般の方は、認知症の言葉はよく聞くが、具体的にどういう病気かはわからない方も多いので、ここで少し認知症について勉強してみましょう。現在、世界の認知症患者数は約4700万人、2050年までにその3倍に相当する1億3100万人に増えると予測されています。
日本では、2012年の発症者は462万人で、2025年には約700万人と推計されています。65歳以上の高齢者の5人に1人は認知症発症者となります。
総じて認知症といっても、様々な病型があり、その混合型も多く、加齢変化と共に他の疾患も加わるため一層複雑になっていきます。
最も多いアルツハイマー病は認知症全体の35%で、亡くなるまでの自然経過は10年ほどです。2~3年程度で、初期、中期、後期となり、後期の最後は、全介助で無言・無動のまま亡くなることになります。
典型的な物忘れや時間・場所・人物がわからなくなるのは発症数年後の中期ごろとなり、
初期は、典型的な認知症状はわかりにくく日常生活は何とか自立しているため、加齢変化、高齢者うつ、パーキンソン病、
精神疾患、不眠症、自律神経症状などと鑑別が難しくなります。
最近、独居老人が多いこともあり、この初期の段階では、自己判断で認知症の診断がついていないまま、神経内科、脳神経外科、精神神経科、かかりつけ医だけでなく、整形外科、耳鼻咽喉科、眼科、泌尿器科など様々な科をわたりあるく可能性があります。
受診した科のどの医師・看護師も、認知症の正しい知識を持ち、早期の段階で専門医へ紹介し、しっかりした診断のもとかかりつけ医にて継続加療していくことが我々医療従事者の重要な役割となっています。
残念ながら、認知症を治す薬はなく、薬を内服しても経過を大きく変えることはできません。
医者が加療にてできることは、物忘れ、意欲低下、興奮、異常行動、徘徊、不眠など中核症状・周辺症状を少しでも和らげ遅らせることです。そして、家族・介護者の負担を少しでも軽くし、本人の生きがいやできることを少しでも長く続けられることが目的となります。
このように、10年近くの長い経過の中で、医者ができることはわずかしかなく、
ホームケアや看護・介助の役割がたいへん重要となります。
医師・看護師・薬剤師・介護士・看護助士・医療事務そして家族とのチーム医療での対応を考えることが最も大切なことです。
最近では、認知症患者の交通事故や徘徊は社会問題にもなっていて、一般の人、コンビニの店員の方々も含めた社会的見守りも必要になっています。
👉 2017年12月6日の『NHKのガッテン』にて認知症と難聴とその対策が紹介されました。
要点は:
●耳の毛(内耳の有毛細胞)が抜けることが難聴の原因で、高音から生じやすい。
●一度抜けると再生は難しい。
●脳が周囲の音の欠けた情報をカバーするので、中高年の難聴を本人は気づきにくい。
●音の脳への入力が減ると認知機能低下・うつ・意欲低下をまねく。
●難聴対策として、内耳の血流を減少させないことが大事。
●難聴放置による認知症発症危険度:難聴;軽度1.89倍 中度3倍 高度4.9倍
●具体的難聴対策は、有酸素運動、生活習慣病の改善、騒音対策、補聴器活用が重要。
●騒音対策として、ヘッドフォンで60分以上聴かない、ボリュームを60%にする。
●補聴器を活用することで難聴だけでなく、コミュニケーションが改善し、
うつ傾向や意欲低下を改善できる。
●補聴器に耳と脳が慣れるのに三ヶ月必要(フィッティング、脳の聴覚トレ)、
耳鼻咽喉科の補聴器相談医に相談。
まずは耳鼻咽喉科専門医とご相談することをお勧めいたします。
👉
今回のLancetの報告だけでなく、補聴器装用の認知機能への有効性が多数報告されています。
実際のところ、認知機能が低下した高齢者への補聴器装用に関して多くの問題が出てきます。
認知機能低下者では、補聴器試聴の半分が、補聴器購入行ない、その半分が安定的に補聴器装用可能であった報告もあります。つまり購入を考えた人の1/4しか補聴器がうまく使用できていないことになります。
認知機能正常な高齢者と認知機能が低下した高齢者は区別して対応していくことが求められています。
問題点:
■認知機能低下者は、言葉の聞き取りが悪く、難聴への補聴器の効果は限定的です。
■本人の難聴への自覚が乏しく、補聴器装用の意思が乏しいので買っても使わなくなる。
■補聴器操作が困難で、紛失のリスクが高い。家族の介助が必要となる。
■認知機能良好な高齢者とくらべ、補聴器適応のための聴力評価が難しい。
■両耳装用より片耳装用の方が、効果を認めることがあり、両耳装用の適応は慎重に行う。
■十分な試聴期間と耳鼻咽喉科医が介入した医学的聴覚トレーニングで認知機能への効果を期待。
■耳垢がたまりやすく、耳垢の上から補聴器装用することが多くなる。
補聴器店だけでの購入より、補聴器相談医と相談しての検討をお勧めいたします。
関連HP:
参考図書:
*Dementia prevention,intervention,and care.
Lancet (London, England). 2017 Jul 19; pii: S0140-6736(17)31363-6.
*日耳鼻会報 120:692-697、707-713; 2017.5
においと学習効果
五感(聴覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚)の中で、耳鼻咽喉科では、聴覚、嗅覚、味覚の三つの分野を担っています。
最も多い訴えは聴覚に関するもので、次に嗅覚、味覚の順番になります。
普段の生活では、嗅覚を意識していない方が多く、動物や人間の赤ちゃんにとってはすぐ生命活動と結びつく重要なものとなります。
嗅覚低下は、高齢になると、意欲、筋力低下、食欲不振につながり健康寿命を短くする原因になり、
認知症の早期症状のマーカーとしても注目されています。
鼻が悪くなると、風味がわからなくなり、味覚障害をまねき、料理をする主婦や料理人の方にとっては、毎日の料理の味付けに影響し大変な問題となります。
料理をしない方も、香りがわからず、おいしい料理を味わえない状態となり人生の楽しみを失うことになります。
2004年に匂いの分野で米国人にノーベル賞が受賞され、
香水やアロマセラピーを中心に研究が盛んになっています。
日本アロマ環境協会のホームページでは、ストレス、不眠、認知症、生理痛、片頭痛、美容など様々な研究報告が記載されています。
👉 今回は、嗅覚障害は学習すれば回復の可能性があるという話をしたいと思います。
狩り、食べ物の峻別、敵・味方の判別など生きるため、
犬の嗅覚は人間の数千から百万倍程度の香りの認識能力を持ち、
ネコは嗅覚を利用して狩りはせず、犬より劣るものの、
においで食べ物をかぎ分け、ネコの鼻風邪で鼻が利かなくなると、食欲が落ち大好きな魚さえ食べなくなることもあります。
*ネコの鼻風邪と食欲低下
【赤ちゃんの嗅覚について】
赤ちゃんはママの匂いが大好きです。匂いの情報処理を行う嗅球は受胎6週で働き始め、20週で嗅覚細胞が出来上がり、自分の回りの羊水の匂いがわかるようになります。
母親が食べたり嗅いだりしたものの臭気を運ぶ分子は胎盤を通って赤ちゃんに届き、赤ちゃんは周囲の環境の匂いがわかるようになります。
出生後すぐから敏感に嗅ぎ分けるのが母親の母乳の匂いです。
新生児の五感の中で最も発達しているのは嗅覚です。
視力はまだ弱いので、嗅覚を頼りに母親の胸を探し当て初乳に備えます。
嗅覚は赤ちゃんの生命線となります。
母親のアロマセラピーは、赤ちゃんにとって、母の匂いをわからなくするので控えましょう。
【においの学習効果について】
◆新生児・乳児の赤ちゃんの鋭い嗅覚は数年後には大人と同じレベルまで、落ちていきます。
その後、人間の嗅覚は20~30歳でピークを迎え徐々に衰えていくと考えられています。
幼児になると、色々な食べものや周囲の環境のにおいの違いの学習が重要となり、学習を通じて嗅覚を少しずつ発達させていくようです。
◆嗅覚を職業や趣味にしているソムリエの方は、匂いと飲み物を学習することにより、
普通の人より優れた匂いとその記憶の能力を得ることが出来るようになります。
~匂いと記憶・感情~
脳の中で記憶に関する海馬と、嗅の神経と関連して情動反応の処理と記憶の調節を行う扁桃体は近接していて、においと記憶・感情は密接な関係があります。
皆さんも昔懐かしい匂いと共に昔の記憶が思い出される経験(フラッシュバック)をされることがあると思います。
最近では、嗅覚は、認知症の早期症状のマーカーとしても注目されています。
◆NHKのガッテン(2017年11月22日放送)
匂いのトレーニング(学習効果)の話がありました。
高齢者の体験談をもとに、嗅ぐ力が衰えると、
●覇気がない
●時間がゆるむ
●筋肉量が減る
●虚弱体質になる
●地域活動への参加が減る
これらは、においがわからないと風味と味わいが落ち、食欲が低下するため悪循環に陥った結果です。
さらに嗅覚は、喜怒哀楽などの感情とも深く結びついていたり、記憶や空間を認識する力とも関係していたりするため、思いがけない影響につながると考えられています。
~~治療について、ガッテンからのアドバイス~~
~日常生活で、食べ物や草花など、身の回りのにおいを
『何のにおいか意識しながら』嗅ぐだけで、
においセンサー(嗅神経細胞)の数が増え、脳内回路のネットワークが強まると考えられています。
例えば、 キッチンで『これはリンゴだな』と思いながら、嗅ぐ。
食事の時『みそ汁のおいしいにおい』と思いながら嗅ぐ。
仕事の合間にも『コーヒーのいい香り』と思いながら嗅ぐ。
習慣づけていれば嗅覚低下の予防になりますし、一度衰えても、嗅覚が回復することが期待されています~
実際の放送では、二人の高齢者がでて、保険適応でない研究用の特殊なにおいの芳香浴を毎日1年以上行い、嗅覚が回復した内容となっていました。
この治療法の詳しい内容の説明はありませんでしたので、以下に説明いたします。
この方法は耳鼻咽喉科学会でもここ数年紹介されてきた治療法と思われます。
下記のドイツの研究グループによって臨床応用されている方法と思います。
文献:Hummel T, et al: Effects of olfactory training in patients with olfactory loss. Laryngoscope 2009; 119:496-499.
鼻疾患を持たない方を対象に、4種類の香り(バラ、ユーカリ、レモン、クローブ)を1年間、1日2回15秒ずつ嗅ぐと嗅覚の上昇が認められたというものです。
最近2015年には、東大耳鼻咽喉科グループの動物実験の基礎研究でも、嗅覚刺激が嗅神経障害後の神経再生とその維持に重要であると証明されてきています。
問題点:この治療法は保険適応外です。
今後保険適応になれば別ですが、一年以上持続することが必要なアロマセラピーで、高価な精油を1年間買い、一般の高齢者が自分で行うのは難しいと思われ、
ガッテン流の『身の回りの匂いを何の匂いか意識しながら常日頃から嗅ぐ』方法が望ましいと思われます。
☞ 食べ物・飲み物や花など意識して嗅ぐことで、以前の匂いを回復する嗅覚神経細胞の再生を促すと考えられています。
神経再生が少しでも促されるとと、本来と違うにおいを感じることになります(錯嗅)。
少しでもにおえば、においを言葉で表現してみると脳の活性化につながるでしょう。
☞ 今回の話は、鼻疾患を認めないにおいの神経細胞の再生と脳内ネットワークに関する話でした。
外傷や感冒後の嗅神経性嗅覚障害に効果があると考えられています。
実際の診療では、下記の鼻の中のにおい分子の通過による障害(気導性嗅覚障害)が大半です。
嗅覚障害の最も多い原因は、急性鼻炎・副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎・好酸球性副鼻腔炎など鼻疾患が最も多く、
通常治療を根気よく持続すれで改善の可能性があります。
まずは耳鼻咽喉科を受診してみてはどうでしょうか。
参考図書:
Newsweek special issue 0歳からの教育 2016年2月15日 第1刷
日本耳鼻咽喉科学会会報 2016.11
よくわかる風邪の漢方
風邪(かぜ)の語源は、東洋医学(特に中医学)にあります。約2000年前の中国にウイルスや細菌感染の考えは無く、六つの外邪(風 寒 熱 燥 湿 暑)の侵入が感冒の原因と考えられていました。
この中で、風邪はふうじゃと呼び、風邪が最も多くの疾患を引き起こす要因で、ほかの邪と結びつき春以降には風熱(ふうねつ)や風湿(ふうしつ)、秋には風燥(ふうそう)、冬には風寒(ふうかん)(傷寒)として感冒を発症していきます。
◆漢方薬は、その人の体質にあわせ、漢方医学的な病態(証)を判断し治療法の
選択を行い、感冒時はそれぞれの外邪に合わせた対応と同時に、その人の抗病反応を考慮して処方を選択していきます。
病名は手掛かりとして参考にする程度となります。
◆西洋薬では、病名を基準に治療方針が決まります。
発熱や痛みに対しては、対症療法として解熱剤や痛み止めなど使用するわけですが、胃潰瘍の有無は確認しても体質・体力を考慮することはありません。
今回は、皆さんになじみのエキス剤での説明と、
わかりやすい症状や痰、鼻汁の特徴と本人の体力・体質で解説しています。
関連HP 漢方処方 かぜ症候群 咳 (吉 耳鼻咽喉科アレルギー科)
関連ブログ 台風と気象病
漢方診療の実際は、舌診、脈診、腹診やその人の外見的特徴や声の性状・においなど
四診(望・聞・問・切)から情報を得て証を判断し治療をすすめます。
~感冒~
【風寒(傷寒)感冒】悪寒や寒気を強く感じる状態
皆さんがご存知の葛根湯やインフルエンザで有名な麻黄湯は、寒くなり冬にはやるの風寒(傷寒)の漢方です。
急性発熱性疾患は、中国の古典『傷寒論』では、進行順番は、太陽(発熱・頭痛・悪寒)⇒少陽(悪心・咳痰・胸脇苦満)⇒
陽明(口渇・腹満・便秘)⇒太陰(腹満・下痢・寒)⇒少陰(寒・下痢・倦怠感)⇒厥陰(手足冷感・激しい下痢・胸苦しさ)となっています。 感冒の経過を説明したものです。
『傷寒論』は約1800年前の感染症マニュアルで、当時考えられた処方(葛根湯、麻黄湯、桂枝湯、麻黄附子細辛湯など多数)が、現代医学にも使用されていて、中医学や漢方を学ぶ古典のバイブルとなっています。
*急性の発熱で汗が出ないとき(無汗)に、頸部のこわばりがあれば葛根湯、
関節痛や筋肉痛が強ければ麻黄湯を選択していきます。
発汗後(自汗)は桂枝湯を使用します。このかぜの初期を太陽病期と呼びます。
本来冷えがあり元気がない虚弱者には、麻黄附子細辛湯を用います。
👉 冷え症の長引くかぜの咳嗽には、胃弱の方も多く麻黄附子細辛湯+桂枝湯または桂枝加朮附湯(もっと冷えが強い)または桂枝加厚朴杏仁湯を(咳がもっとひどい)合方し、胃の保護も行い対応します。心理的ストレスにも効果があります。必ず、熱いお湯に溶かすか白湯にて温服します。服用後はお粥など温かいものとること、毛布や布団にくるまり体を冷やさない事です
麻黄湯・葛根湯には麻黄(エフェドリン含有)が含まれ、高血圧、不整脈、狭心症、前立腺肥大の方は慎重な服用が望まれます。
温める生薬を多く使います(温性解表剤)ので、寒い冬の感冒に、効果を特に発揮しますが、
現代では、暑い夏でも、クーラーや冷蔵庫の使用などで、冷えた環境や冷えた食物が多く
一年を通して使用しています。
寒気と咽頭痛が強いとき葛根湯と桔梗石膏を一緒に内服します。
インフルエンザなど強力な風寒で発熱、悪寒、筋肉痛、関節痛がひどいときは、
麻黄湯と越婢加朮湯(大青竜湯)を併用します。
喉が渇き、顔が真っ赤になり嘔吐するような咳は、
越婢加朮湯と半夏厚朴湯(越婢加半夏湯)を併用します。
発熱、悪寒、頸部のこわばり、筋肉痛、関節痛以外に咳嗽、呼吸困難、口渇、嘔気など
呼吸器や上腹部症状まで幅広く悪い時は、大正時代のスペインかぜのウイルス肺炎に応用された葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏(柴葛解肌湯)を一緒に内服します。
*風邪の初期から4~5日以上経過して、体表面や鼻から少し奥に病気が進行し、上腹部・呼吸器症状が出現してきます。具体的には、寒気と熱感が交互に出現、嘔気、咳、痰、胸痛、横隔膜周囲の不快感に移行すれば小柴胡湯およびその関連漢方を使います。これを少陽病期と呼びます。
少陽病期の乾いた咳は、小柴胡湯と麦門冬湯
少陽病期の湿性咳、喉の違和感、喘鳴は、小柴胡湯と半夏厚朴湯(柴朴湯)
少陽病期の口渇・粘ちょう痰・咳・喘息と体質改善は、小柴胡湯と麻杏甘石湯、冷え水様痰では小柴胡湯と小青竜湯の併用
少陽病期の体力充実、便秘傾向、胃食道逆流関与の湿性咳・喘息は、大柴胡湯や大柴胡湯と半夏厚朴湯の併用
少陽病期の体力低下、痩せ、動悸、寝汗、食欲不振の咳は、柴胡桂枝乾姜湯、冷えや喘息あれば柴胡桂枝乾姜湯と麻黄附子細辛湯の併用
など痰の性質や咳の状態、体質・体力により色々な組み合わせを考えます。
【風熱感冒】悪寒はわずかで体に熱を感じ咽頭痛・口渇がある状態
春以降に温かくなり、風邪の初期で、高熱、口渇、咽頭痛、熱感が主で悪寒は軽度な感冒は風熱感冒(温病)と呼び、市販薬の銀しょう散が適応となります(辛涼解表剤)。体を冷やす生薬を使います。
医療用のエキス剤の種類は多くありませんが、
発熱・咽頭痛では小柴胡湯加桔梗石膏や咳や喘息の時は麻杏甘石湯を使用します。
現在は季節に関係なく使用します。
☞ 普段から風邪を引き易く、体力がなく胃が弱い方で、悪寒・高熱・咽頭痛・熱感など強くない方の長引く普通感冒には参蘇飲があります。約900年前の宋の時代にできた漢方薬です。胃薬・鎮咳去痰薬・悪心や腹部膨満感への薬・元気を補う薬など含まれ、葛根・蘇葉も含有されているので肩こりや関節痛・筋肉痛にも効果があります。
強い症状には、効果なく、咳がひどければ麻黄湯、頭痛には川きゅう茶調散、発熱には小柴胡湯、下痢には五苓散を一緒に内服すると効果を高めます。
◆感冒の数日後から咳がひどくなり、眠れず長期に持続するため多くの患者さんがいらっしゃいます。西洋薬の咳止め服用では効果ないことも多く、治療が難しくなります。
~咳~
【風寒咳】水溶性の鼻汁や痰は薄く白く口渇はない状態
薄い白い咳・痰で水溶性鼻汁、ゼーゼー、悪寒や頭痛の時、小青竜湯、悪寒や頭痛はない咳で、胃弱の方は苓甘姜味辛夏仁湯を使用します。
風寒感冒の咳について、『傷寒論』では、太陽病期(発熱・悪寒)の4~5日後、少陽病期(咳・痰・悪心)に移行し咳が多くなります。詳細は前述の風寒感冒少陽病期で説明していますので参照して下さい。
【風熱咳】黄色い粘ちょう痰で口渇がある状態
咳・痰や喘息に麻杏甘石湯
慢性の咳や黄色い粘ちょう痰の場合、清肺湯を使用します。咳はひどいとき、麻杏甘石湯と清肺湯を併用します。
【風燥咳】カラ咳で秋・冬の空気の乾燥する時期に好発
かぜの後期のカラ咳の時に、麦門冬湯 ストレス・自律神経失調あれば四逆散や加味逍遥散を併用
婦人の疲れた時のカラ咳の時に、滋陰至宝湯
老人の口が乾燥するときの咳に、滋陰降火湯を使用します。腎陰虚の六味丸と併用すれが効果を高めることもあります。
【風湿咳】痰が白く量が多い
胸から咽頭がつかえ、痰が多い咳の時、半夏厚朴湯 食欲を高めながら治す場合、六君子湯を使用します。
●咳の問診で、漢方では、鼻汁・痰の質と口渇の有無はとても重要な要素となります。
◆2017年11月21日に『林 修 の今でしょう』の番組で
風邪の漢方の話がありました。
体格にあった漢方を、風邪をひいたかなと思ったらすぐに服用する内容でした。
麻黄湯⇒がっちり体型
葛根湯⇒中肉中背
桂枝湯⇒中肉中背~痩せ
麻黄附子細辛湯⇒細目、年配
完全に風邪になったら西洋の風邪薬を服用するという話でした。
【放送内容の問題点と詳細解説 】
●虚実を考え、体型・体格・体質で抗病反応を考慮して、漢方を決めることは、
わかりやすい説明で漢方使用目安になります。これは日本漢方の考え方で重視されています。
実際の診療では、虚実が変わり抗病反応も変化していることもあり、
インフルなど外邪(ウイルス毒素)が強い場合、細目で痩せの方でも脈診などを参考に体力に配慮して、がっちり体型用の麻黄湯を処方することもあります。このときは早めに消化機能など補う生薬(補剤)を与え、体力をサポートします。
●放送の通り、ゾクゾク感、悪寒、発熱があるときすぐに服用することは重要です。
必ず、熱いお湯に溶かすか白湯にて温服します。服用後はお粥など温かいものとること、毛布や布団にくるまり体を冷やさない事です。
服用後発汗が無ければ、早めに追加服用し、発汗したら服用をやめます。
急性の発熱で、汗が出ない風邪のとき、麻黄湯・葛根湯は発汗療法を目的とするため
西洋の風邪薬や抗生剤のように1日3回決まった時間に何日も服用したりすることはありません。病状に合わせて1日単位で処方を変えていくこともあります。
●完全に風邪になったら西洋の風邪薬を服用すると説明がありました。
漢方だけでもある程度対応できますが、細菌感染の場合、抗生剤は効果が高く漢方と抗生剤の併用はよく行います。
しかし西洋薬は、熱、せき、水様鼻汁それぞれ単独には、漢方よりシャープに効かせることが可能ですが問題点も多くあります。
西洋薬は、熱を下げ過ぎ免疫を落とし病気を遷延させたり、鼻水を止めすぎ喉が乾燥し細菌感染を助長したり、高齢者では咳を止めすぎ誤飲性肺炎の原因となることもあります。
西洋の風邪薬は必要最小限でやめる事が重要です。
具体的には、39度で、ぐったりしていたら解熱剤で38度前後に落として、それ以上は使用せず、熱は免疫を高めるため、自然にさげることを心がけましょう。
咳止めも、夜間に眠れないような咳の時は使い睡眠をとり、体力の消耗を防ぎましょう。
飲水は十分おこない、抗生物質は、本当に必要な時はしっかり内服します。
関連HP:漢方処方(吉 耳鼻咽喉科アレルギー科)
関連ブログ:台風と気象病
食事と良質な睡眠
今朝4度、寒くなりました。
朝の目覚めの良さは、一日の最も重要な出来事です。
厚労省の報告では、現在、約2割の方が睡眠に関する問題で悩んでいて、不眠が一ヶ月以上持続している方は10人に1人の割合と報告されています。
ネコを飼っている方は、気持ちよく眠るネコの姿に癒される経験をされる事があるかと
思います、またネコを飼っていない方も【岩合 光昭の世界のネコ歩き】の番組で、
幸せそうな寝姿を見かけることも多くなっています。
この番組は、人はもちろんネコの視聴率も高い番組です。
おとなのネコの睡眠は14時間程度、その90%はレム睡眠(体は休み、脳は覚醒し夢を見る状態)で熟睡のナンレム睡眠(脳が休む状態)は10%に過ぎません。
元来狩りの生活をしていた名残のためです。
人間の場合は、80%はナンレム睡眠で、良質な熟睡感を得られる睡眠です。
ネコはすぐに危険に反応できるように、良質な睡眠で寝ているわけではありません。
人間は、外敵などすぐに危険に反応する必要はほとんどないため、本来なら良質なナンレム睡眠を得られるはずですが、ストレスなど内因性の問題が不眠原因の一つとなります。
睡眠薬や安定剤の服用による睡眠は、依存性の問題があります。
良質な睡眠を得るには、生活や日常の食事の中でどうすればよいか考えてみましょう。
『睡眠に重要な三つの要素』
① メラトニン(睡眠ホルモン:脳内の松果体から分泌される神経ホルモン)
② セロトニン(生理活性物質:体内では消化管90%、中枢2% )
消化管のセロトニンは脳に入らないのでトリプトファンから摂取することが重要
③ トリプトファン(必須アミノ酸:食事から摂取)
◆トリプトファン(食材から)合成 ⇒ セロトニン 分解 ⇒ メラトニン
睡眠ホルモンのメラトニンを就寝時に生成することが重要、
上記の要領でメラトニンが体内で分泌されます。
【メラトニン】
睡眠ホルモン:メラトニンは、起床後16時間ほどすると分泌が増加し、体内時計が乱れると抑制されます。またメラトニンは60歳ごろには10代の1/10ほどに減少し不眠を生じやすくなります。
◆起床と共に朝日を浴びましょう。体内時計がリセットされます。
同時にバランス良い朝食で、腸管の末梢時計遺伝子を活性させ肥満や疾病リスクを減少させます。
関連ブログ:日の出と良質な睡眠
【セロトニン】
精神の安定に重要な物質で幸せホルモンとも呼ばれています。
◆太陽光を浴びる
◆リズミカルな運動
で効果的に生成を促します。
【トリプトファン】
豊富な食材
豊富:納豆 肉 赤身魚 ソバ アーモンド
やや豊富:ヨーグルト 牛乳 白米 食パン
ビタミンB6(腸内細菌から合成:サンマ、豚ヒレ、バナナ)
やマグネシウム(豆腐、大豆、ひじき)と共に摂取すると効率よくセロトニンに
合成されます。
トリプトファンの脳内への輸送体は他の筋肉構成アミノ酸(BCAA)も輸送するので、
トリプトファンの脳内輸送効率を上げるには、白米など糖質と同時に摂取すると糖質摂取によりインスリンが上昇し筋肉構成アミノ酸を筋肉内へ取り込み、トリプトファンの脳内輸送効率を上げます。
◆トリプトファン豊富な食材をビタミンB6、マグネシウムや糖質と共に食べましょう。
関連ブログ:日の出と良質な睡眠
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