院長の健康情報コラム
よくわかる風邪の漢方
風邪(かぜ)の語源は、東洋医学(特に中医学)にあります。約2000年前の中国にウイルスや細菌感染の考えは無く、六つの外邪(風 寒 熱 燥 湿 暑)の侵入が感冒の原因と考えられていました。
この中で、風邪はふうじゃと呼び、風邪が最も多くの疾患を引き起こす要因で、ほかの邪と結びつき春以降には風熱(ふうねつ)や風湿(ふうしつ)、秋には風燥(ふうそう)、冬には風寒(ふうかん)(傷寒)として感冒を発症していきます。
◆漢方薬は、その人の体質にあわせ、漢方医学的な病態(証)を判断し治療法の
選択を行い、感冒時はそれぞれの外邪に合わせた対応と同時に、その人の抗病反応を考慮して処方を選択していきます。
病名は手掛かりとして参考にする程度となります。
◆西洋薬では、病名を基準に治療方針が決まります。
発熱や痛みに対しては、対症療法として解熱剤や痛み止めなど使用するわけですが、胃潰瘍の有無は確認しても体質・体力を考慮することはありません。
今回は、皆さんになじみのエキス剤での説明と、
わかりやすい症状や痰、鼻汁の特徴と本人の体力・体質で解説しています。
関連HP 漢方処方 かぜ症候群 咳 (吉 耳鼻咽喉科アレルギー科)
関連ブログ 台風と気象病
漢方診療の実際は、舌診、脈診、腹診やその人の外見的特徴や声の性状・においなど
四診(望・聞・問・切)から情報を得て証を判断し治療をすすめます。
~感冒~
【風寒(傷寒)感冒】悪寒や寒気を強く感じる状態
皆さんがご存知の葛根湯やインフルエンザで有名な麻黄湯は、寒くなり冬にはやるの風寒(傷寒)の漢方です。
急性発熱性疾患は、中国の古典『傷寒論』では、進行順番は、太陽(発熱・頭痛・悪寒)⇒少陽(悪心・咳痰・胸脇苦満)⇒
陽明(口渇・腹満・便秘)⇒太陰(腹満・下痢・寒)⇒少陰(寒・下痢・倦怠感)⇒厥陰(手足冷感・激しい下痢・胸苦しさ)となっています。 感冒の経過を説明したものです。
『傷寒論』は約1800年前の感染症マニュアルで、当時考えられた処方(葛根湯、麻黄湯、桂枝湯、麻黄附子細辛湯など多数)が、現代医学にも使用されていて、中医学や漢方を学ぶ古典のバイブルとなっています。
*急性の発熱で汗が出ないとき(無汗)に、頸部のこわばりがあれば葛根湯、
関節痛や筋肉痛が強ければ麻黄湯を選択していきます。
発汗後(自汗)は桂枝湯を使用します。このかぜの初期を太陽病期と呼びます。
本来冷えがあり元気がない虚弱者には、麻黄附子細辛湯を用います。
👉 冷え症の長引くかぜの咳嗽には、胃弱の方も多く麻黄附子細辛湯+桂枝湯または桂枝加朮附湯(もっと冷えが強い)または桂枝加厚朴杏仁湯を(咳がもっとひどい)合方し、胃の保護も行い対応します。心理的ストレスにも効果があります。必ず、熱いお湯に溶かすか白湯にて温服します。服用後はお粥など温かいものとること、毛布や布団にくるまり体を冷やさない事です
麻黄湯・葛根湯には麻黄(エフェドリン含有)が含まれ、高血圧、不整脈、狭心症、前立腺肥大の方は慎重な服用が望まれます。
温める生薬を多く使います(温性解表剤)ので、寒い冬の感冒に、効果を特に発揮しますが、
現代では、暑い夏でも、クーラーや冷蔵庫の使用などで、冷えた環境や冷えた食物が多く
一年を通して使用しています。
寒気と咽頭痛が強いとき葛根湯と桔梗石膏を一緒に内服します。
インフルエンザなど強力な風寒で発熱、悪寒、筋肉痛、関節痛がひどいときは、
麻黄湯と越婢加朮湯(大青竜湯)を併用します。
喉が渇き、顔が真っ赤になり嘔吐するような咳は、
越婢加朮湯と半夏厚朴湯(越婢加半夏湯)を併用します。
発熱、悪寒、頸部のこわばり、筋肉痛、関節痛以外に咳嗽、呼吸困難、口渇、嘔気など
呼吸器や上腹部症状まで幅広く悪い時は、大正時代のスペインかぜのウイルス肺炎に応用された葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏(柴葛解肌湯)を一緒に内服します。
*風邪の初期から4~5日以上経過して、体表面や鼻から少し奥に病気が進行し、上腹部・呼吸器症状が出現してきます。具体的には、寒気と熱感が交互に出現、嘔気、咳、痰、胸痛、横隔膜周囲の不快感に移行すれば小柴胡湯およびその関連漢方を使います。これを少陽病期と呼びます。
少陽病期の乾いた咳は、小柴胡湯と麦門冬湯
少陽病期の湿性咳、喉の違和感、喘鳴は、小柴胡湯と半夏厚朴湯(柴朴湯)
少陽病期の口渇・粘ちょう痰・咳・喘息と体質改善は、小柴胡湯と麻杏甘石湯、冷え水様痰では小柴胡湯と小青竜湯の併用
少陽病期の体力充実、便秘傾向、胃食道逆流関与の湿性咳・喘息は、大柴胡湯や大柴胡湯と半夏厚朴湯の併用
少陽病期の体力低下、痩せ、動悸、寝汗、食欲不振の咳は、柴胡桂枝乾姜湯、冷えや喘息あれば柴胡桂枝乾姜湯と麻黄附子細辛湯の併用
など痰の性質や咳の状態、体質・体力により色々な組み合わせを考えます。
【風熱感冒】悪寒はわずかで体に熱を感じ咽頭痛・口渇がある状態
春以降に温かくなり、風邪の初期で、高熱、口渇、咽頭痛、熱感が主で悪寒は軽度な感冒は風熱感冒(温病)と呼び、市販薬の銀しょう散が適応となります(辛涼解表剤)。体を冷やす生薬を使います。
医療用のエキス剤の種類は多くありませんが、
発熱・咽頭痛では小柴胡湯加桔梗石膏や咳や喘息の時は麻杏甘石湯を使用します。
現在は季節に関係なく使用します。
☞ 普段から風邪を引き易く、体力がなく胃が弱い方で、悪寒・高熱・咽頭痛・熱感など強くない方の長引く普通感冒には参蘇飲があります。約900年前の宋の時代にできた漢方薬です。胃薬・鎮咳去痰薬・悪心や腹部膨満感への薬・元気を補う薬など含まれ、葛根・蘇葉も含有されているので肩こりや関節痛・筋肉痛にも効果があります。
強い症状には、効果なく、咳がひどければ麻黄湯、頭痛には川きゅう茶調散、発熱には小柴胡湯、下痢には五苓散を一緒に内服すると効果を高めます。
◆感冒の数日後から咳がひどくなり、眠れず長期に持続するため多くの患者さんがいらっしゃいます。西洋薬の咳止め服用では効果ないことも多く、治療が難しくなります。
~咳~
【風寒咳】水溶性の鼻汁や痰は薄く白く口渇はない状態
薄い白い咳・痰で水溶性鼻汁、ゼーゼー、悪寒や頭痛の時、小青竜湯、悪寒や頭痛はない咳で、胃弱の方は苓甘姜味辛夏仁湯を使用します。
風寒感冒の咳について、『傷寒論』では、太陽病期(発熱・悪寒)の4~5日後、少陽病期(咳・痰・悪心)に移行し咳が多くなります。詳細は前述の風寒感冒少陽病期で説明していますので参照して下さい。
【風熱咳】黄色い粘ちょう痰で口渇がある状態
咳・痰や喘息に麻杏甘石湯
慢性の咳や黄色い粘ちょう痰の場合、清肺湯を使用します。咳はひどいとき、麻杏甘石湯と清肺湯を併用します。
【風燥咳】カラ咳で秋・冬の空気の乾燥する時期に好発
かぜの後期のカラ咳の時に、麦門冬湯 ストレス・自律神経失調あれば四逆散や加味逍遥散を併用
婦人の疲れた時のカラ咳の時に、滋陰至宝湯
老人の口が乾燥するときの咳に、滋陰降火湯を使用します。腎陰虚の六味丸と併用すれが効果を高めることもあります。
【風湿咳】痰が白く量が多い
胸から咽頭がつかえ、痰が多い咳の時、半夏厚朴湯 食欲を高めながら治す場合、六君子湯を使用します。
●咳の問診で、漢方では、鼻汁・痰の質と口渇の有無はとても重要な要素となります。
◆2017年11月21日に『林 修 の今でしょう』の番組で
風邪の漢方の話がありました。
体格にあった漢方を、風邪をひいたかなと思ったらすぐに服用する内容でした。
麻黄湯⇒がっちり体型
葛根湯⇒中肉中背
桂枝湯⇒中肉中背~痩せ
麻黄附子細辛湯⇒細目、年配
完全に風邪になったら西洋の風邪薬を服用するという話でした。
【放送内容の問題点と詳細解説 】
●虚実を考え、体型・体格・体質で抗病反応を考慮して、漢方を決めることは、
わかりやすい説明で漢方使用目安になります。これは日本漢方の考え方で重視されています。
実際の診療では、虚実が変わり抗病反応も変化していることもあり、
インフルなど外邪(ウイルス毒素)が強い場合、細目で痩せの方でも脈診などを参考に体力に配慮して、がっちり体型用の麻黄湯を処方することもあります。このときは早めに消化機能など補う生薬(補剤)を与え、体力をサポートします。
●放送の通り、ゾクゾク感、悪寒、発熱があるときすぐに服用することは重要です。
必ず、熱いお湯に溶かすか白湯にて温服します。服用後はお粥など温かいものとること、毛布や布団にくるまり体を冷やさない事です。
服用後発汗が無ければ、早めに追加服用し、発汗したら服用をやめます。
急性の発熱で、汗が出ない風邪のとき、麻黄湯・葛根湯は発汗療法を目的とするため
西洋の風邪薬や抗生剤のように1日3回決まった時間に何日も服用したりすることはありません。病状に合わせて1日単位で処方を変えていくこともあります。
●完全に風邪になったら西洋の風邪薬を服用すると説明がありました。
漢方だけでもある程度対応できますが、細菌感染の場合、抗生剤は効果が高く漢方と抗生剤の併用はよく行います。
しかし西洋薬は、熱、せき、水様鼻汁それぞれ単独には、漢方よりシャープに効かせることが可能ですが問題点も多くあります。
西洋薬は、熱を下げ過ぎ免疫を落とし病気を遷延させたり、鼻水を止めすぎ喉が乾燥し細菌感染を助長したり、高齢者では咳を止めすぎ誤飲性肺炎の原因となることもあります。
西洋の風邪薬は必要最小限でやめる事が重要です。
具体的には、39度で、ぐったりしていたら解熱剤で38度前後に落として、それ以上は使用せず、熱は免疫を高めるため、自然にさげることを心がけましょう。
咳止めも、夜間に眠れないような咳の時は使い睡眠をとり、体力の消耗を防ぎましょう。
飲水は十分おこない、抗生物質は、本当に必要な時はしっかり内服します。
関連HP:漢方処方(吉 耳鼻咽喉科アレルギー科)
関連ブログ:台風と気象病
食事と良質な睡眠
今朝4度、寒くなりました。
朝の目覚めの良さは、一日の最も重要な出来事です。
厚労省の報告では、現在、約2割の方が睡眠に関する問題で悩んでいて、不眠が一ヶ月以上持続している方は10人に1人の割合と報告されています。
ネコを飼っている方は、気持ちよく眠るネコの姿に癒される経験をされる事があるかと
思います、またネコを飼っていない方も【岩合 光昭の世界のネコ歩き】の番組で、
幸せそうな寝姿を見かけることも多くなっています。
この番組は、人はもちろんネコの視聴率も高い番組です。
おとなのネコの睡眠は14時間程度、その90%はレム睡眠(体は休み、脳は覚醒し夢を見る状態)で熟睡のナンレム睡眠(脳が休む状態)は10%に過ぎません。
元来狩りの生活をしていた名残のためです。
人間の場合は、80%はナンレム睡眠で、良質な熟睡感を得られる睡眠です。
ネコはすぐに危険に反応できるように、良質な睡眠で寝ているわけではありません。
人間は、外敵などすぐに危険に反応する必要はほとんどないため、本来なら良質なナンレム睡眠を得られるはずですが、ストレスなど内因性の問題が不眠原因の一つとなります。
睡眠薬や安定剤の服用による睡眠は、依存性の問題があります。
良質な睡眠を得るには、生活や日常の食事の中でどうすればよいか考えてみましょう。
『睡眠に重要な三つの要素』
① メラトニン(睡眠ホルモン:脳内の松果体から分泌される神経ホルモン)
② セロトニン(生理活性物質:体内では消化管90%、中枢2% )
消化管のセロトニンは脳に入らないのでトリプトファンから摂取することが重要
③ トリプトファン(必須アミノ酸:食事から摂取)
◆トリプトファン(食材から)合成 ⇒ セロトニン 分解 ⇒ メラトニン
睡眠ホルモンのメラトニンを就寝時に生成することが重要、
上記の要領でメラトニンが体内で分泌されます。
【メラトニン】
睡眠ホルモン:メラトニンは、起床後16時間ほどすると分泌が増加し、体内時計が乱れると抑制されます。またメラトニンは60歳ごろには10代の1/10ほどに減少し不眠を生じやすくなります。
◆起床と共に朝日を浴びましょう。体内時計がリセットされます。
同時にバランス良い朝食で、腸管の末梢時計遺伝子を活性させ肥満や疾病リスクを減少させます。
関連ブログ:日の出と良質な睡眠
【セロトニン】
精神の安定に重要な物質で幸せホルモンとも呼ばれています。
◆太陽光を浴びる
◆リズミカルな運動
で効果的に生成を促します。
【トリプトファン】
豊富な食材
豊富:納豆 肉 赤身魚 ソバ アーモンド
やや豊富:ヨーグルト 牛乳 白米 食パン
ビタミンB6(腸内細菌から合成:サンマ、豚ヒレ、バナナ)
やマグネシウム(豆腐、大豆、ひじき)と共に摂取すると効率よくセロトニンに
合成されます。
トリプトファンの脳内への輸送体は他の筋肉構成アミノ酸(BCAA)も輸送するので、
トリプトファンの脳内輸送効率を上げるには、白米など糖質と同時に摂取すると糖質摂取によりインスリンが上昇し筋肉構成アミノ酸を筋肉内へ取り込み、トリプトファンの脳内輸送効率を上げます。
◆トリプトファン豊富な食材をビタミンB6、マグネシウムや糖質と共に食べましょう。
関連ブログ:日の出と良質な睡眠
鼻と子供の中耳炎
寒くなると、鼻水がでて、後鼻漏と共に、次第に咳が出てきます。
夜に眠れないようになると喘息(関連ブログ:鼻と秋の喘息)が出ていることもあります。
同時に鼻水が鼻の奥にたまり続けると、お子さんたちは中耳炎となり耳痛・発熱がでて、
機嫌が悪く寝つきが悪くなります。目ヤニも悪化することもあります。
特に、乳幼児は未熟性のため大人より顕著に、鼻からの影響が出てきます。
今週末は、全国的に冬将軍が到来し、南国鹿児島も寒波の予報が出ていますので、
当院では感冒からの鼻炎と中耳炎の患者さんの増加が予想されます。
今回、乳幼児のお子さんたちが中耳炎にかかりやすく難治化する原因を
三つあげてみました。
【子どもの中耳炎の悪化因子】
◆耳管の未熟性(耳管とは鼻の奥から中耳につながる管のことで、耳抜きをする場所です)
◆未熟な免疫
◆感染と薬剤耐性
耳管の未熟性
乳幼児の耳管は成人の1/2の短さで、また太く水平のため鼻の奥の感染が耳管を経由して中耳に感染を起こしやすくなっています。学童のころになると成人に近い耳管構造となり、中耳への感染が波及しにくくなります。
未熟な免疫
赤ちゃんは母体から胎盤を経由してもらった免疫を持って生まれますが、5~6ヶ月頃には尽きてしまい風邪を引き易くなります。かぜを予防するIgG免疫グロブリンは、2~4歳で上昇しはじめ15歳で成人並みになります。
感染と薬剤耐性
免疫が十分でない5~6ヶ月頃からサークルや集団保育に参加することが多くなり、
周囲から風邪のウイルスや細菌をもらいやすくなります。
集団保育のお子さんたちは、風邪をひく機会が多く、そのたびに抗生剤を服用する機会が
多くなり、必然的に薬剤耐性菌が子どもたちを介して広がっていきます。
【子どもの中耳炎への対策】
上記の3因子で、クリニックでできることは
◆未熟な免疫に対して免疫を活性化することです。具体的には、
*プレベナー13(肺炎球菌ワクチン)やインフルエンザワクチンなどを
しっかり受けること。
*漢方で免疫を高めます。漢方で中耳炎の難治化をふせぐ報告が出てきました。
*最近では、ワクチンでも効果なく、IgG2免疫グロブリン低下例の難治性中耳炎には
人免疫グロブリン注射も選択可能となっています。
◆感染と薬剤耐性にたいして、適切に抗菌薬の使用をすること。
*安易に通常の風邪や発熱に対して抗生剤を使わない事ですが、実際の診療では
最も難しいところです。抗菌薬の乱用は、薬剤耐性の拡大をまねきます。
中耳炎の難治化や薬剤耐性のリスクの一つに1か月以内の抗菌薬の治療の既往が
あげられています。
*鼻・副鼻腔炎の治療を行い、鼻の奥から中耳炎への感染を防ぐこと。
また鼻処置・鼻洗で鼻の奥の、特に上咽頭の原因となる細菌(悪玉菌)の減量をはかり、
いわゆる善玉菌の常在菌との共存を図ることです。
関連ブログ:鼻と秋の喘息 寒暖差アレルギー も参考にしてください。
スマホと診療活用
紅葉 吉野公園 2017年11月5日
秋も深まり、吉野・川上地区では少しずつ紅葉が見ごろとなってきています。
吉野公園の散策路には楓やイチョウの紅葉がみられるようになりました。
さて、若者のスマホ保有は90%以上となり、小学生高学年は60%、
シニア世代でも50%に達してきました。
👉 今回は皆さんに最も身近な、医療でのスマホ利用の一アイデアを話したいと思います。
既に診察では、蕁麻疹や皮疹の写真を持参される患者が増えてきています。
2015年に厚労省からの通達がでて、遠隔診療が少しずつ始まってきているところですが、通常診療には、まだほど遠い状況です。
しかし、そう遠くないうちに、スマホなどを利用して、糖尿病や高血圧の慢性疾患や、
へき地診療、在宅医療では、今後普及していくと思われます。
当院は、遠隔医療になじまない急性疾患や局所診断・処置・治療が必要な患者さんが多く、
まだ積極的な取り組みはしていません。
【診察に役立つスマホの身近な利用の仕方】
●皮膚科領域では蕁麻疹や皮疹の撮影
蕁麻疹は診察時には消失していることが多いため利用価値があります。
●小児の夜間の咳の状態の録画
百日咳の特徴的な咳(レプリーゼ):
短い連続した咳が「コンコンコン」と5~10回発作的に続く「スタカット」、
その後「ヒィー」と息を吸い込む「ウープ」と呼ばれる発作を繰り返します。
この繰り返しを「レプリーゼ」と呼んでいます。
このレプリーゼは夜間に増悪することが特徴です。
夜間に悪化するので自宅でのスマホ動画撮影が有効と思われます。
成人の百日咳の咳は、このような特徴的な咳は認めないことが多いのですが、
咳は夜間に増悪します。
●小児の睡眠時無呼吸症の録画
幼児の睡眠時無呼吸症の検査は難しく、当院では睡眠中のスマホなどによる
ビデオ撮影を勧めています。
具体的なやり方は、当HP:疾患について:睡眠時無呼吸症を参考にしてください。
●痰や便の性状など、持参するのが難しい物もスマホ写真が役に立ちます。
●薬手帳を忘れる方は多く、スマホで多数の薬を記載した紙を撮影すれば
クリニックに行くときや、本人の急変時にも持病を推測することが可能となり、
迅速な対応につながります。
このほかにも皆さまのアイデアで利用価値がひろがります。
個人情報に配慮した対応はいつも心掛けましょう。
秋の花粉とキウイ&スパイスアレルギー
食べたものが原因で食物アレルギーが起こると考えるのが一般的と思われます。最近では、成人の食物アレルギーでは、食べなくても起こる食物アレルギーが多くなっています。花粉・食物アレルギー症候群【Pollen-food-allergy syndrome:PFAS】と言います。口腔内に限局したアレルギーを生じるので口腔アレルギー症候群とも呼ばれます。
👉 まず【花粉-食物アレルギー症候群】について勉強してみましょう。
口腔アレルギー症候群とは、果物や生野菜を摂取後15分以内に口腔内違和感、口唇腫れ、口周囲蕁麻疹などを呈するアレルギー症状のことです。
通常、アナフィラキシーは起こしません。
稀に喘息、アナフィラキシーまで至る場合があります。
特定の果物・野菜に交叉反応性を示す花粉に対する花粉症を持った
成人に発症します。このような病態を花粉・食物アレルギー症候群とも呼ばれます。
最近、花粉症の低年齢化とともに学童からおこすことも多くなっています。
◆発症機序(少し理解するのが難しくなります)
次の二つの機序が重要です。
食物アレルギーではありませんが、蜂アレルギーは、まず、蜂に刺され感作(感作抗原)が起こり、次に同じもの(誘発抗原)が蜂から体内にはいると激しい反応を起こします。
食物アレルギーのエビ、イクラ、ソバ、ピーナッツなどのアレルギーも同様に、原因物質(感作抗原)で感作され、同じ原因物質(誘発抗原)が体内にはいると激しい反応を生じます。
感作抗原と誘発抗原は同じです、このような食物アレルギーの場合、クラス1食物アレルギーと呼びます。
【花粉・食物アレルギー症候群は、感作抗原と誘発抗原が違います。両方に類似の構造を持つタンパク質を含むため生じます】
>花粉・食物アレルギー症候群は、鼻や気道に原因になるタンパクを含む花粉が付着し感作が起こり、類似のタンパクを持つ食べ物を食べると口腔内を主に反応を起こします。
これをクラス2食物アレルギーと呼んでいます。花粉と食べ物は別物です。
通常、加熱や消化酵素に弱い特徴のため、口腔内に限局した症状となります。
●花粉-食物アレルギー症候群の頻度:
メロン、パイナップル、キウイ、モモ、リンゴの順で果物に多くスギ花粉関連のトマトは8番目、モモ・リンゴは、シラカバ(北海道)やハンノキ(その他の日本)と関係します。
●主な秋の花粉はヨモギとブタクサです
*ヨモギと交叉反応を示す野菜・果物
セリ科(セロリ、パセリ、ニンジン)ウルシ科(マンゴー)スパイス、キウイ、ピーナッツ、リンゴ、
ヨモギの場合花粉・食物アレルギー症候群は約40%合併します。
*ブタクサと交叉反応を示す野菜・果物
ウリ科(メロン、スイカ、キュウリ、ズッキーニ、カンタロープ)、バナナ
◆キウイは11~12月が旬、ヨモギと関連します。
キウイはニュージーランドからくると思っている方もいらっしゃると思いますが、
日本産が多く出回っています。愛媛、福岡、和歌山が日本のベスト3の生産地です。
世界では1位中国、2位イタリア、3位がニュージーランドで、収穫時期が違うため
ニュージーランドのイメージが強くなっています。
日本は世界の9番目で、ニュージーランドの約十分の一程度の収穫量です。
キウイは、ヨモギ:秋の花粉の他に、シラカンバ(北海道)・ハンノキ・
イネ科(オオアワガエリ:兎の餌になるチモシーのこと:初夏)・ラテックスと関係します。
◆メロンはブタクサと関連します。ほかには、カモガヤ、ラテックスと関連します。
◆スパイスアレルギー:
スパイスは野菜・果物でないため、注意が必要です。
秋の花粉のヨモギや北海道の春の花粉のシラカバ花粉症と関連します。
日本には少ないのですが、中央ヨーロッパに多く、ヨモギ花粉症にセロリアレルギーの
合併が多く認められ、セロリ・ニンジンやスパイスとの関連も認めます。
小児に少なく、女性に多く認めます。
セロリは生と調理後も反応が少なくありません。
(セロリ・ニンジン・ヨモギ・スパイス症候群)
北欧や北海道では(セロリ・ニンジン・シラカバ・スパイス症候群)として
スパイスアレルギーに関与します。重症化しやすく、アナフィラキシーに進展することがあります。
例:カレーピラフ接種後のジョギング中にアナフィラキシー出現など報告があります。
◆その他:PFASの中でアナフィラキシーに進展しやすい健康食品があります:豆乳です。日本ではハンノキ・シラカバ花粉の患者さんがソイラテ・豆乳を飲んでアナフィラキシーを起こした報告があります。
加工度が高い、納豆、みそ、醤油では起こりません。豆乳は液体のため吸収が早く起こしやすい面があります。
(関連ブログ)
・秋の花粉症とセイタカアワダチソウ 2017-10-21
・コスモスと秋の花粉 2017-10-27