院長の健康情報コラム
インフル関連Q&A2020
今年の冬は、新型コロナとインフルの同時流行が予測されるため、10月1日から高齢者(65歳以上)と60~65歳未満の心臓や腎臓、呼吸器に重い持病がある人からの早めの接種が呼びかけられ、高齢の方からの問い合わせが多くなっています。強制ではありませんが、厚労省は、それ以外の人は10月後半まで待つように呼びかけています。9月17日には、日本小児科医会から優先接種順にたいする問題点が指摘されました。
子どもの場合、①一ヶ月程度あけての2回接種のスケジュールのため早めの流行時には間に合わない恐れがあります ②乳幼児の脳症など子供も高齢者と同様に重症化することもあります ③インフル流行時は、子供の集団保育や学校での流行による家族内感染から高齢者への感染が多くみられます。子供のインフル流行を抑えることは高齢者のインフル対策にも重要です。
インフルワクチン効果出現まで2週間かかります。ワクチンの効果持続期間は約5か月と言われていていますが、添付文書では3ヶ月で有効予防水準が78.8%、5か月で50.8%に減少します。流行ウイルスとワクチンの抗原性が一致すれば3ヶ月維持され、インフルの基礎免疫を持っていれば3ヶ月過ぎても維持されとなっています。基礎免疫がなければ、効果の持続期間はさらに一ヶ月短縮されます。
10月初旬の1回接種では、インフルピークの1月中旬から3月末まで効果が十分期待できない可能性もあります。その年・地域によっては、早い場合は11~12月頃から流行することもあり、通常13歳以上は1回接種のため、各自判断して接種時期を決めないといけません。
*R1年度インフルQ&A厚労省(サイト)
*インフルワクチン予防接種(吉 耳鼻咽喉科アレルギー科;サイト)
*インフルエンザ出席停止早見表(学校関係)
【 インフルエンザワクチン関連Q&A】
➊インフルワクチン接種後効果が出るまでの期間は?
❷ワクチン効果の期間は?
❸妊婦や授乳婦の方にインフルエンザワクチンは接種可能か?
❹ワクチン効果はどの程度か?
❺卵アレルギーの人は接種可能か?
❻熱性けいれんやてんかんがあれば接種できるか?
【インフルウイルス・検査・薬・対応のQ&A】
➊妊婦や授乳婦の方に抗インフルエンザ薬は使用可能か?
❷インフルエンザの検査は発症すぐにできるのか?
❸抗インフルエンザ薬の予防投与は保険が効くのか?
❹希望があればだれでも予防投与できるのか?
❺新薬ゾフルーザの処方になぜ警鐘がならされるのか?
❻抗インフルエンザ薬による異常行動はどうなっているのか?
❼うがいでインフルエンザを予防できるか?
❽マスクでインフルエンザを予防できるか?
❾手洗いでインフルエンザを予防できるか?
❿部屋の換気は重要か?
👉 インフルエンザワクチン関連Q&A 解説
➊インフルワクチン接種後効果が出るまでの期間は?
2週間必要
❷ワクチン効果は?
約5か月
添付文書の【薬効薬理】では、3ヶ月で有効予防水準が78.8%、5か月で50.8%に減少します。流行ウイルスとワクチンの抗原性が一致すれば3ヶ月維持され、インフルの基礎免疫を持っていれば3ヶ月過ぎても維持されるとなっています。基礎免疫がなければ、効果の持続期間はさらに一ヶ月短縮されます。
❸妊婦や授乳婦の方にインフルエンザワクチンは接種可能か?
妊婦全時期および授乳婦で推奨される:
妊婦にインフルエンザワクチン接種することにより生後6ヶ月児のインフルエンザ罹患率を減少させます。
チメロサール含有インフルエンザワクチンのチメロサールは極少量のため胎児への影響はないとされています。懸念されていた自閉症との関連も否定されています。
~産科診療ガイドライン2017より~
❹ワクチン効果はどの程度か?
インフルワクチン効果は、重症化予防に効果があり、ウイルス侵入防御はなく、発病阻止効果は低い:
高齢者(65 歳以上)を対象に、インフルエンザワクチンの発病阻止効果は34〜55%、インフルエンザを契機 とした死亡阻止効果は82%と報告されています。乳幼児のインフエルエンザワクチンの有効性に関しては、報告によって多少幅がありますが、概ね20~60%の発病防止効果があったと報告されています。
現在のワクチン皮下注射では、分泌型IgAは誘導せず、血清IgG抗体を上昇させます。血清IgG抗体は、分泌型IgAのような鼻・口腔・気管での侵入を防ぐ効果や交差防御効果はありませんが、生体内でのウイルス活性を弱める効果がありますので感染後の症状発現予防や重症化予防は期待できます。
ワクチン製造に使用されたウイルス株と異なるウイルス株が流行すると、現在の不活化ワクチンの効果は期待できません。その年の流行インフルウイルスが製造ワクチンのウイルス株とすこし異なると、ワクチンを打っても効果があまり期待できない年があるのはそのためです。現在のインフルワクチンは重症化予防に効果が高いと考えて下さい。
日本のインフルエンザ予防接種ガイドライン2018年版では、『卵白抗体陽性でも、卵加工食品を食べても無症状である者では、接種後の鶏卵アレルギーによる重篤な副反応の報告はない』となっています。
米国では、米国アレルギー・喘息・免疫学会(ACAAI)は2017年12月19日、『卵アレルギーのある人でもインフルエンザワクチンの接種は安全であり、医療従事者が接種前に卵アレルギーの有無を確認する必要もない』とする診療指針を発表しています。これまでは、卵アレルギーの人への接種は、専門施設で行うことが推奨されていました。
卵アレルギーによるアナフィラキシーの経験があれば慎重な対応が望まれます。
1994年の予防接種法改正前までは、けいれん後一年は、予防接種は禁止でした。
現在は、過去にけいれん既往者は、接種要注意者として接種可能となりましたが、
添付文書には接種可能者の具体的記載はありません。
◆日本小児神経学会推奨基準(熱性けいれんを既往にもつ小児に対して)
接種基準
1) 熱性けいれんと診断された場合は 最終発作から 2~3カ月の観察期間をおけば
保護者に対し 個々の予防接種の有用性 副反応(発熱の時期やその頻度 他)などについての十分な説明と 同意に加え具体的な発熱時の対策(けいれん予防を中心に)や 万一けいれんが出現したときの対策を指導する条件のもとで接種が可能である。
2) 長時間けいれん(15分以上発作が持続)の既往例は 小児科専門医あるいは,小児神経専門医が診察し その指示のもとに施行する。
➊妊婦や授乳婦の方に抗インフルエンザ薬は使用可能か?
妊婦の人に対して、インフルエンザ薬のリレンザはアメリカFDAのカテゴリーB(ヒトでの危険性の証拠はない)タミフルはカテゴリーC(危険性を否定することが出来ない)吸入薬のイナビルも使用できます。妊婦さんは、重症化しやすく治療を優先した対応が望まれます。注射のラピアクタも使用可能ですが、添付文書で動物実験での流産・早産の記述あります。授乳婦に対しても問題なく使用可能。
~産科診療ガイドライン2017より~
*妊婦&授乳と薬:飲んで大丈夫?(当院コラム:サイト)も参照して下さい。
インフルエンザの迅速検査キットは、
- イムノクロマト法(従来法)と
- 銀増幅装置を使用した超高感度イムノクロマト法(富士ドライケム)
の二種類あります。
従来法は、発症12時間前は、症状があっても陰性と判定とされてしまうことがあります(偽陰性)。発熱直後は、一晩様子をみて明日以降の検査を勧められことがあるのも偽陰性が生じる可能性があるためです。富士ドライケムは、発症6時間以内では、従来法と較べ陽性率が高いことが報告されています。6時間以降は従来法と較べ差はありません。
*富士ドライケム:技術資料(サイト)
*施行医療機関検索(サイト)
発熱後6時間以内の発症すぐの検査は、富士ドライケムの方が従来法より陽性確率は高いようです。従来法のキットは、目視の判定のため、薄く出た場合の判定に迷うことがありますが、富士ドライケムは+または-で出ますので、迷うことはありません。
但し、検査の精度はキットの性能だけに依存するのではなく、検体の取り方も重要な要素です。発症6時間以内の従来法の検査でも、臨床および局所所見が強い方は、陽性確率は高いと思われます。
❸抗インフルエンザ薬の予防投与は保険が効くのか?
自費となります。費用はそれぞれの医療機関・薬局および抗ウイルス薬の種類でも異なります。
❹希望があればだれでも予防投与できるのか?
添付文書では:
予防に用いる場合には、
『原則として、インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者である下記の者を対象とする』となっています。
感染者に接触後、2日以内に投与を開始します。
*高齢者(65歳以上)
*慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者
*代謝性疾患患者(糖尿病等)
*腎機能障害患者
* 1歳未満の患児(低出生体重児、新生児、乳児)に対する安全性及び有効性は確立していない。
誰にでも投与すると耐性ウイルスを広げる危険性があります。
❺新薬ゾフルーザの処方になぜ警鐘がならされるのか?
2018年の抗インフルエンザ薬で最も投与されたのは新薬ゾフルーザのようです。1回の内服で治療が済むことがメリットの薬です。
➡日本感染症学会からは、12歳未満には耐性ウイルスの問題のため慎重投与が提言されています。
➡2018~2019年、ゾフルーザを処方した医師1580人のうち12.0%が,発熱などの症状が遷延した症例を経験しているようです。
~日経メディカル2019年9月3日から~
➡タミフルとゾフルーザの比較で、ゾフルーザ投与群は、二次性細菌性肺炎が多く、入院率も高率であった報告もあります。高リスク群でこの傾向が多く認めています。
~日経メディカル2019年10月4日から~
➡ゾフルーザの半減期は4日程あり、副作用が出たときは長期に体内に残るリスクがあります。
➡ゾフルーザは、タミフルが効かない場合や重症化が懸念される患者にも投与できるため、耐性ウイルスを広げないことが重要です。
❻抗インフルエンザ薬による異常行動はどうなっているのか?
抗インフルエンザウイルス薬の服用と異常行動との因果関係は不明
タミフルの10代への投与が原則中止されていましたが、2018年から投与再開の通知が、厚労省から出ています。
インフルエンザにかかった時には、抗インフルエンザウイルス薬を服用していない場合でも、同様の異常行動が現れること、 服用した抗インフルエンザウイルス薬の種類に関係なく、異常行動が現れること、が報告されています。以上のことから、インフルエンザにかかった際は、抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無や種類にかかわらず、異常行動に対して注意が必要です。
インフルエンザにかかり、自宅で療養する場合は、抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無や種類によらず、少なくとも発熱から2日間は、保護者等は転落等の事故に対する防止対策を講じて下さい。
<転落等の事故に対する防止対策の例>
(1)高層階の住居の場合
・ 玄関や全ての部屋の窓の施錠を確実に行う
(内鍵、補助錠がある場合はその活用を含む。)
・ ベランダに面していない部屋で寝かせる
・ 窓に格子のある部屋で寝かせる(窓に格子がある部屋がある場合)
(2)一戸建ての場合(1)に加え、できる限り1階で寝かせる
~H30年度インフルQ&A厚労省から~
❼うがいでインフルエンザを予防できるか?
風邪には、水うがいで、40%の予防効果が報告され、イソジンうがいでは、10%程度のようです。イソジンが、のど粘膜細胞や細菌叢に影響を与えることが原因と推測されています。インフルエンザは、20分以内に鼻・のどの粘膜から侵入するため、うがい効果はありません。
❽マスクでインフルエンザを予防できるか?
マスクの性能に依存します。不織布マスクは、保温、保湿効果で増殖予防とのどの保護効果あり。マスクはくしゃみ・咳による飛散予防効果(咳エチケット)がありますが、マスクによるウイルスの侵入予防は限られます
❾手洗いでインフルエンザを予防できるか?
手洗いは、接触感染予防の基本です。
石鹸と流水での手洗いによる物理的除去はすべてのウイルスに効果を認めます。インフルウイルスは、消毒用エタノールで効果を認めます。
❿部屋の換気は重要か?
部屋の換気は、飛沫核(空気)感染予防の基本です。
インフルエンザは、密閉、低温、乾燥の条件がそろうと、部屋にいるだけで感染します。いったん付近のものに付着した後、乾燥して水分を含まない微粒子(直径5/1000mm)の感染を飛沫核感染と言います。2µ以下の飛沫核は長時間空中をただよう事ができるため、同じ部屋に一緒にいるだけでも感染します。部屋の換気は重要です。
新型コロナ流行以降、エアロゾル感染と換気の重要性が、皆さんの感染対策の日常に浸透しています。
頸部痛の落とし穴:甲状腺疾患
発熱・咽頭痛・頸部痛は耳鼻咽喉科外来ではよくある訴えです。
扁桃炎、咽頭喉頭炎、リンパ節炎が最も多い原因ですが、見逃していけない緊急疾患の急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、喉頭浮腫など、咽頭所見、頸部触診、声の質の変化や開口障害、吸気性喘鳴などの有無を手掛かりに診断をすすめます。
前頚部圧痛があれば甲状腺疾患をみのがしてはいけません。
風邪症状と重なることもあり、頸部触診をしっかり行い甲状腺疾患を疑い頸部エコーを行うことが重要です。
『頸部痛を示す甲状腺疾患』
*亜急性甲状腺炎:
甲状腺の頸部痛の75%(今回のテーマ)
*甲状腺のう胞内出血
*急性化膿性甲状腺炎:
90%は左側発症 先天性下咽頭梨状窩ろうが原因の細菌感染です。
*無顆粒球症:
バセドウ病に対してメルカゾール服用時、特に3ヶ月以内に生じます。
*甲状腺癌(未分化癌、悪性リンパ腫):稀
*橋本病急性増悪: 稀
『亜急性甲状腺炎』
上記の中で最も多いのが亜急性甲状腺炎です。
頸部の自発痛・圧痛(頸部痛は移動することあり)に加え38度台の発熱、甲状腺の腫脹、甲状腺中毒症状(動悸、発汗過多、息切れ、倦怠感、体重減少など)認めます。
どんな人でも発症する可能性があります。
先行する咽頭炎、風邪症状の後に発症することが多いため、ウイルス感染の関与が疑われています。バセドウ病、無痛性甲状腺炎の次に多い甲状腺中毒症状(機能亢進)を呈する疾患です。
臨床で最も重要なのが
①丁寧な頸部触診と
②同時に頸部エコーにて疑います。
甲状腺エコー検査所見:疼痛部に一致して境界不明瞭な低エコー領域を認めます。
③血液検査(WBC CRP FT4 TSH)でほぼ診断が可能です。甲状腺抗体が強陽性例は橋本病急性増悪を疑います。
治療:
運動は避けてできるだけ安静、
軽症はNSAID(イブ、ロキソニンなど)
ステロイド゙内服の効果が高く数日中には痛みが軽減します。
ステロイド減量を急ぐと再燃しますのでゆっくり行います。通常プレドニン20mg程度から開始、1~2週間で5mgづつ減量10mg以降は4週ごとに5mg減量して中止します。永続的低下症の可能性や1.1%に甲状腺乳頭癌の合併の報告もあるため症状経過以後も半年程度は経過をみます。
経過:
頸部の自発痛・圧痛(頸部痛は移動することあり)に加え38度台の発熱、甲状腺の腫脹、甲状腺中毒症状(動悸、発汗過多、息切れ、倦怠感、体重減少など)で発症します。
初期にはこのように典型的な症状を確認できず、最初は発熱、咽頭頸部痛の症状しか気づかず、感冒の診断で抗菌薬や風邪薬を処方されることはよくあります。
20歳以上がほとんどで高齢者でも出現します。甲状腺専門病院では受診までの期間の平均は19日(0~87日)ですので最初はわからないことが多くあります。
参考資料
甲状腺疾患を極める 伊藤病院 新興医学出版社
気づきにくい甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は一般外来患者の2%程度に認められ、加齢とともに増加します。診断される年齢では30~40代が多く、その多くを占める橋本病(慢性甲状腺炎)の男女比は1:5で女性に多い疾患です。橋本病は女性の10~20人に1人の頻度で認められるといわれています。
自覚症状は無いか特異的な症状は無いため甲状腺の自己抗体が陽性化した時期が明確でない場合がほとんどです。
疲れやすい、冷え性、肌荒れ、更年期障害、認知症、うつ病、便秘症、自律神経障害などとして診療を受けていることもあります。他覚的症状のむくみは進行しないとわかりにくく頸部の甲状腺腫大も痛みは無いためかなり大きくならないと気づきにくいものです。びまん性の甲状腺腫を認めないものを含めると、成人女性の8.5%、成人男性の4.2%に認められるとの報告もあります。
最近は検診のオプションで甲状腺機能採血、エコー(10分程度:被ばく無し)を行うところもありますが、通常の職員検診の項目には入っていません。
橋本病で自己抗体が陽性の場合、不妊と流産と有意な関連があることが示されています。妊娠18~20週までは、脳神経の発達に必要な甲状腺ホルモン(T4)は母体由来であるため妊婦さんが甲状腺機能低下であれば、赤ちゃんの精神遅滞や認知機能への影響が考えられます。これは海外からの報告が多く、日本では海藻を好んで食べる食文化があるため、海外と比べると少ない可能性があるとも考えらえています。
☞☞ 特に思春期以降の女性は、少しでも疑えば甲状腺機能を測定することを推奨します。
『他覚症状』
むくみ(下肢やまぶた:進行しないとでない)
甲状腺腫大(前頚部下方の腫脹:腫大がわかりにくい)
『自覚症状』
初期には症状なし
寒がり
易疲労感(疲れやすい)
皮膚の乾燥
月経異常
肩こり
筋力低下
便秘
体重増加
抑うつ
忘れっぽい
声がれ
徐脈
慢性疲労
運動不足
冷え性
肌荒れ乾燥
更年期障害
うつ病
認知症の初期
声の病気
便秘症
肩こり症
自律神経失調
◆甲状腺機能低下の妊婦さんは
*赤ちゃんの精神遅滞
*流早産、妊娠高血圧のリスク
◆不妊
◆動脈硬化
◆コレステロールの上昇
◆冠動脈疾患
【診断】
スクリーニング
甲状腺機能採血(TSH,FT4, FT3、FT4は日内変動が少ない)と
甲状腺の腫れをエコーで確認します。
精査
疑わしい疾患に応じて
甲状腺自己抗体(TgAb, TPOAb、TRAbなど)
腫瘍マーカー(サイログロブリンなど)
を追加依頼します。
低下症の場合、総コレステロール、CPK,AST,ALTが上昇することもあり。
エコー検査で
びまん性(全体に大きい)結節性(腫瘤を疑う)
に応じて対応が違います。
結節性の場合は穿刺細胞診やTSH抑制あればシンチグラムなど専門病院紹介の可能性があります。
【治療】
低下症はチラージンの服用
それぞれの病態に応じて対応
【薬物やヨウ素欠乏又は過多の影響】
ヨウ素欠乏による甲状腺機能低下はアフリカ内陸部などのヨウ素欠乏地域で認められます。日本では海産物の摂取が多く、ヨウ素摂取量はむしろ必要以上のため稀です。
ヨード摂取過多の場合も一過性甲状腺機能低下症の可能性があります。
*ヨウ素を含んだ健康食品の過剰摂取
*炭酸リチウム(躁鬱、躁病の薬)
*インターフェロン
等の薬剤のため、低下症をきたすことがあります。
【潜在性甲状腺機能低下症:微妙な低下症】
甲状腺機能は正常、TSHが基準値以上に増加しています。3~6%程度で認め、女性に多く加齢とともに増加します。
治療方針は、各個人で異なります。通常は、定期のTSHの測定で経過観察です。
*血中TSH>10µlU/mL
*赤ちゃん希望
*50歳以上の女性
*80歳未満
*甲状腺自己抗体陽性
*甲状腺低下症の症状あり
*甲状腺術後、放射線治療の既往あり
など参考に対応します。
参考資料
甲状腺疾患を極める(伊藤病院) 新興医学出版
若い人にも稀ではない耳閉感:低音障害感音難聴
難聴と言えば高齢の方の加齢変化と思われる方が多いでしょう。
実は、乳幼児から高齢者まで耳閉感・難聴の病気は誰もが罹患する可能性があります。
若い人でも稀ではありません。
難聴には治る可能性が高い病気と、治すのが難しい病気が存在します。
【伝音性難聴】
治る可能性が高い難聴の疾患は外耳と中耳に病変がある伝音性難聴です。
*耳垢栓塞
*中耳炎
*鼓膜損傷・穿孔
*耳管機能障害(耳抜き不良など)
などが該当します。
【急性感音難聴】
内耳と聴神経・脳に原因がある場合、感音難聴と総称され治すのが難しい病気です。
*突発性難聴
*急性低音障害型感音難聴(今回のテーマ)
*メニエール病
*音響外傷
*ムンプス難聴(おたふくと難聴:当院コラム)
*外リンパろう(診断が難しい)
*聴神経腫瘍(MRI必要)
*特発性両側性感音難聴
*若年発症型両側性感音難聴(難病指定:遺伝子の確認)
など多数存在し、突発性難聴、音響外傷、急性低音障害型感音難聴の急性期では回復の可能性があることもあります。外リンパろう、聴神経腫瘍では手術が適応となる場合もあり、難聴が進行して回復しないときは補聴器を検討します。
【慢性感音難聴】には、
騒音性難聴、老人性難聴、先天性難聴があり薬で治すのが困難な疾患です。
補聴器、人工内耳などの適応を考えます。騒音性難聴やスマホ難聴は予防が肝心です。
☞☞ 若い人にも稀ではない耳閉感・難聴は、
耳閉感・難聴で、外来受診が多い疾患は、上記の耳垢・中耳炎などの伝音性難聴と
感音難聴では、若い20~40歳代にかけて多い急性低音障害型感音難聴です。
若年女性に多い病気です(女性は男性の2~3倍)。
『今回は、外来で多い急性低音障害型感音難聴の話です』
発症頻度は人口10万人あたり40~60人と急性感音難聴を来す疾患の中で最も多いと考えられています。30代での発症が多く女性は男性の2~3倍です。
軽い場合は2~3日で改善することもあり病院受診しないこともあるため、実際はもっと多い印象です。
突発性難聴は40~70代で増加します。難聴を伴うメニエール病は30~50代に多く最近は高齢発症が増加していますので、若い人に多い急性感音難聴は急性低音障害型感音難聴が大半です。
◆症状:
低音域の難聴を特徴として、自覚症状は耳閉感が最も多く、耳鳴、難聴、自分の声が響くなどの症状を認め、通常めまいは認めませんが、軽いめまい感を訴える場合もあります。
原因は不明ですが、近年内リンパ水腫の関与が指摘されています。通常は一側性ですが両側のこともあります。
◆難聴の特徴として:
*短期的には予後良好例が多い
*長期的には反復、再発例が多い
*長期間経過していても回復する例がある
*自然治癒する例も少なくない
◆メニエール病・突発性難聴との鑑別:
病態としてメニエール病と同じ内リンパ水腫が想定され、その一部はメニエール病に移行します。急性低音障害型感音難聴の反復例は、めまいを伴わない蝸牛型メニエール病に該当します。めまいや眼振が確認されればメニエール病を疑います。急性低音障害型感音難聴は、軽いめまい感を訴える場合もあります
初期の低音障害型の突発性難聴との鑑別は、経過の中で中高音の聴力の変化で判断します。
◆治療:
ステロイド剤、浸透圧利尿剤(イソソルビド)、ATP、漢方(五苓散、当帰芍薬散・・)など使用します。
メニエール病はストレスとの関与が強く、急性低音障害型感音難聴も同様にストレス、不眠、疲労、自律神経や気象と関連することもあります。
台風と気象病(当院コラム)も参考にしてください。
参考資料
急性感音難聴 診療の手引き2018年版 日本聴覚医学会
診断が難しい高齢者めまい
日本の不慮の事故の報告で多いのは、若者・中年では交通事故、高齢者では窒息、転倒・転落、溺死が問題になります。溺死の多くは浴槽内への転倒・転落で起きていることから転倒・転落の割合はもっと多くなります。高齢者の寝たきりの原因で多い大腿骨近位部骨折の74%は転倒が原因です。6月20日のニュースでは、長野で75歳の高齢者が自転車で転倒して、その後自宅で、外傷性くも膜下出血で亡くなっています。
20歳(100%)と比較すると70歳で筋持久力低下(30%)と平衡性の低下(20%)となります。小脳の退行変性は40歳台から始まり加齢ともに加速し高齢者の平衡機能低下へ大きな影響力を持ちます。高齢者のめまいの年間有病率は若年者の約3倍です。中枢神経、末梢受容器(内耳)の加齢による機能低下および筋力低下は誰にでもおこる現象です。
老人性平衡障害への有効な薬物療法や手術治療は存在しません。
有望なのは中枢前庭代償を促進させるリハビリと筋力増強のためのリハビリです。加齢変化のため前庭代償の発現が不十分となりリハビリの効果が十分に得られないこともあります。前庭リハビリは耳鼻咽喉科専門医またはめまい相談医(サイト:全国673名、鹿児島では6名認定)に相談しましょう。
めまいの訴えに対して漫然と抗めまい薬が処方されていることがありますが、基礎疾患が多い高齢者ではポリファーマシー(5剤以上で転倒リスク増加)となり薬害を起こすことも懸念されています。減薬の意識も大事です。
👉 診断が難しい高齢者めまい
若い人は、良性発作性頭位性めまいを主に内耳からのめまいが多く、ほかには片頭痛・肩こり・貧血・自律神経症状・生理・心因性などを考えた対応が多くなります。
高齢者では、若い人のめまい疾患の他に、基礎疾患が多く、下記のような多くのふらつきの・めまいの原因となる脳心・内科領域疾患および薬剤性、運動器・筋力の低下による老年症候群を考えた対応が必要になり診断が難しくなります。
内耳疾患も感知する感覚が衰え若い人のような回転性ではなく浮動性の訴えが多くなり診断を難しくします。暗所や起伏のあるところで転倒しやすくなる両側前庭機能障害を示す加齢性平衡障害も出現してきます。
『内科領域』
薬歴や病歴からめまい・ふらつきに関係する疾患や薬物を丁寧に確認して対応していきます。
➡ 様々なめまい・ふらつきに関与する多くの疾患
*脳卒中 :危険なめまいです。
*椎骨脳底動脈循環不全
*頸椎性
*くも膜下出血:4%はめまいで発症します。
*心疾患
*不整脈:労作時のめまい、動悸の有無の確認します。
*高血圧・動脈硬化
*脱水:梅雨から夏にかけては熱中症に注意
*食事摂取・栄養不良:嚥下機能障害・嗅覚障害が隠れていることあります。
*糖尿病:自律神経障害、起立性低血圧など出現することあります。
*起立性低血圧:入浴時や食後低血圧など、下半身から上半身への血液還流改善のため下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉:第二の心臓)を鍛えます。脳循環自己調節機能や自律神経調節中枢の機能低下が原因。
*認知症(レビー小体など)
*パーキンソン病
*アルコール中毒
*薬剤性:薬物投与より減らすことを意識して対応 ポリファーマシー(5剤以上で転倒リスク増加)と言います。
減薬についてはかかりつけ医と相談しての対応が必要です。
『老年症候群』
次の四つが重要です。
*フレイル(健常から要介護の中間段階:加齢による衰え全般)
*運動器機能低下・筋量低下のサルコペニア
*骨粗鬆症
*加齢性平衡障害(下記の内耳からのめまいで詳細記載)
*運動器機能低下・筋量低下のサルコペニア
今までの対策
【動的持久的運動】(有酸素運動:脂肪と糖を消費、心拍予備能60%を超えない程度が望ましい)
動的有酸素運動は血圧変動の程度が少なく、代謝・循環系の改善効果から今まで静的筋トレより適応な運動として勧められてきました。
最近は筋力維持、強化という点から、高齢者にも適切な強度の筋抵抗性運動(静的運動:スローな運動)であれば、動的運動と平行して指導することが求められています。
心拍予備能60%を超える運動は、血圧や血糖をあげるホルモンが上昇します。乳酸が蓄積して、二酸化炭素が過剰排泄となります。静的運動は血圧をあげますので息を止めないで行います。
これからは、有酸素運動に平行して
【静的運動(スローな運動)】
欠点は血圧をあげますので、レジスタンス運動時に力発揮が強まるときには、息を吐き、弱まるときには息を吸うことが基本です。
具体的には
スロースクワット(腰痛、糖尿病対策にも効果)
NHKガッテンピントレ糖尿病対策(スロースクワット:サイト)
スロー腹筋
スロー片足引き上げ
スロー腕立て伏せ など
メリットとして
ゆっくりであっても筋肉が動き続けていると乳酸が分泌します。
乳酸が成長ホルモンの分泌を促します。成長ホルモンが筋肉肥大、骨や腱の代謝を促進し、また体脂肪の分解も促進します。
*骨粗鬆症
骨を強くし転倒を予防する運動
骨粗鬆症と運動 NHK(サイト)
背筋運動
片足立ち
スクワット など行います。
運動は背筋運動、スクワット、壁で支え片足立ち、壁で支えヒールレイズ(かかと挙上)、水中歩行などのレジスタント運動を行います。食事は、バランスの良い3食を食べ、肉・魚・大豆・納豆・卵・牛乳・小魚・きのこ・鮭などタンパクやカルシウム・ビタミンD・ビタミンKをよく食べましょう。レジスタント運動で筋肉量を維持し、骨密度の減少に効果があります。ビタミンDを維持するには日光浴も大事です。肥満者は少しずつ減量を試みます。急な減量は、筋肉量の低下をもたらします。喫煙や過度の飲酒も骨粗鬆症を早めます。
➡日常生活での注意点
*急な立ち上がりや急に振り向くことを避ける
*階段の降りる時は手すりを使い慎重に
*両手フリーで歩行、荷物は背中に背負うか手押し車に入れる
*戸外では杖や手押し車を使用
*室内の障害物の整理、バリアフリー、トイレや廊下を明るく
高齢者の急性期は、脳血管障害によるめまいに注意した対応が必要です!!
頭部CTでは急性の脳出血は有無を知ることは出来ても、急性期(6時間以内)の脳梗塞は、MRIが必要です。超急性期は偽陰性(当初の検査は正常)となる事もあり経過観察が重要で経過中の他の神経症状の出現に注意します。
*加齢性平衡障害
いままで高齢者で原因不明のふらつき・めまいに対して診断していた概念ですが、2019年に国際基準ができました。軽度の両側前庭機能障害が出現します。
通常歩行では加齢性平衡障害の両側前庭機能障害者と健常者では差はみられず、歩行速度が速くなるほど歩行中枢が中心になり不安定歩行が出やすくなります。ゆっくり歩行は、視覚など感覚情報を利用して対応しています。暗所や起伏のあるところで転倒しやすくなります。
➡2019年に国際学会のバラニー学会で診断基準が示されたばかりです。
A: 3ヶ月以上持続する前庭症状(めまい・ふらつき)少なくとも以下の二つを認める
- 姿勢のバランスあるいは不安定感
- 歩行障害
- 慢性の浮遊感
- 繰り返す転倒
B: 軽度の両側前庭機能低下の指標、以下の検査の少なくとも一つを満たす
- vHIT検査前庭動眼反射の利得が両側0.6~0.83(保険適応ではない)
- 振子様回転検査による前庭動眼反射の利得測定
- 冷温交互の温度眼振検査の最大緩徐相速度の測定
C: 60歳以上
D: 他の疾患で説明できない
加齢性平衡障害を通常のクリニックで、このB基準に沿って診断することは容易ではありません。
加齢性平衡障害を診断しても、確立した治療法や予防法があるわけでなく今後の研究課題となっています。各施設での診断の統計は標準化されます。
☞ 実地診療では、従来通りの前庭リハビリ、サルコペニア対策(ウーキング、下肢の筋トレ)が重要と思われます。
前庭リハビリは耳鼻咽喉科専門医またはめまい相談医(全国673名、鹿児島では6名認定:サイト)にご相談下さい。
めまい・ふらつきでお悩みの方へ(当院:疾患案内)
*BPPV(良性発作性頭位性めまい)高齢でも最も多い内耳からの眩暈です。60歳以上では20~40歳の7倍高い発症率です。頭部外傷、メニエール病、前庭神経炎などの二次性に発症しやすく、骨粗鬆症との関連、全身疾患との合併が指摘されています。変形性頚椎症や腰痛の合併も多く検査や耳石置換療法が出来ないこともあります。高齢者ではBPPVを感知する感覚が衰えているため発見が遅れることがあります。
*メニエール病:中年で発症することが多い疾患ですが、最近、元気な高齢者が多くなり以前より高齢者で増加しています。若い人のように回転性ではなく、持続的浮遊感の訴えが多くなります。BPPVの併存のこともあり頭部挙上での就寝も考えます。
*前庭神経炎:30~60歳に好発
『心因性めまい』
長い人生の中、心身の不調、身近な人との離別・死別、生活環境の変化に対応できないなどの理由から、ストレスを感じる高齢者が増えています。ストレスは、心因性のめまいの引き金になりあらゆる病気に進展します。。
*不安症・うつ病・精神疾患に合併するめまい
*当初は内耳のめまいが、反復するうち心因性めまいへ変化することも多くあります
*若いときに前庭神経炎やめまいを伴う突発性難聴に罹患して70歳過ぎて脱代償(加齢で小脳のコントロールが低下)してめまいが出現するようになり、それに不安・抑うつなどの心因が合併して難治化している場合もあります。この場合、前庭リハビリを主に薬物療法を考えます。
参考資料
高齢者のめまいを治す:耳鼻咽喉科・頭頸部外科 2020:5
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