増え続ける咳の患者さんたち
昨日から、鹿児島市川上町は雪、今朝-2.5度、昨日朝は積雪2cm、今日は薄化粧程度でした。
『今回は、当院受診の患者さんの訴えで多い咳の話です』
米国のインターネットでの3000人対象の調査では、過去1年間に85%が年1回以上、風邪をひいています。咽頭違和感40%、鼻閉・鼻汁それぞれ10%、咳の頻度は70%と最も多く長く続き、患者さんが最も煩わしく感じる症状の一つになっています。社会が豊かになり寿命が長くなるにつれて、咳の患者さんが増えてきています。
100年前までは、日本人の寿命は、40歳前半で、戦後、医療水準の向上や衛生環境の改善と肉を食べる食習慣の変化もあり急に寿命が伸びだしました。70年前に50歳まで延び50年前には70歳を超え、2016年には男性81歳、女性87歳まで達しました。以前は咳の原因として結核や感染症が主でしたが、現在は、アレルギー、生活習慣病、加齢に伴う咳が増加しています。
会議や発表、接客など咳を白眼視される機会が増え以前より受診するようになったのも患者数増加の原因となります。
最近は、学校やオフィスでのストレスによる心因性咳嗽も多くなっています。
関連HP:咳(吉 耳鼻咽喉科アレルギー科)に咳の総論と当院の方針は記載していますので参考にしてください。
👉 普通感冒による急性咳嗽の持続期間
病院で加療受けても、すぐに治ることは少なく長期加療となることもよくあります。
普通感冒による急性咳嗽の持続期間は平均18日との報告があります。
咳のガイドラインでも、急性咳嗽は3週間となっています。
小児場合は2週以内を急性とすることもあります。
このことは、普通感冒による感染症による咳は、自然放置しても3週間すれば治ることを意味しています。
咳のピーク(1週間以内)が過ぎたあとは、薬を使わず自然経過をみることも考えましょう。
☞医者の立場からは、肺炎、結核、肺癌、重症喘息、間質性肺炎、COPDの感染、心不全など危険な咳を見逃さないことに注意を払います。
高熱、胸痛、呼吸困難、血痰を伴う咳は精査を急ぐ必要があります。原因療法で、咳を改善させることを考えます。
☞患者さんの立場からは、夜も眠れない煩わしい咳をできるだけ早く止めてほしいことにあります。ここで対症療法として咳止めを使用することになるでしょう。
👉 湿性か乾性咳嗽かの区別の重要性
患者さんの咳が、からむ程度ではなく、容易に痰を出すことが出来るような湿性咳嗽なのか、痰を伴わない乾性咳嗽なのか考えて下さい。湿性咳嗽の場合、気道内にたまった痰を排出するための生体防御の咳で、咳の止め方は、咳止め薬ではなく去痰による痰の減量になります。咳を止めてしまうと気道内に咳が貯留し、肺炎の原因になりかねません。
喀痰の排出力は弱っている高齢者の湿性咳嗽には、咳止めは禁忌とされています。乾性咳嗽は咳そのものが問題なので症状がひどければ適切な咳止め薬が求められます。
【中枢性咳止めの問題点】
風邪薬の医療用や一般用の咳止めには、中枢性鎮咳薬、抗コリン作用薬、交感神経作用薬などが使用されています。
具体的には、
*市販の風邪薬 PL アストフィリン配合剤 クロフェドリンS カフコデN ブラコデ配合 コデイン散、などは麻薬性中枢性鎮咳薬のコデインまたは抗コリン作用が強い鼻水止めまたは交感神経作用のエフェドリンなどが入っています。
*メジコン、アストミン、フラベリック、アスベリン、フスタゾール、レスプレンなども非麻薬性中枢性鎮咳薬に該当します。非麻薬性中枢性鎮咳薬の多数も、麻薬性中枢性鎮咳薬より軽い抗コリン作用を認めます。
抗コリン作用や交感神経作用薬が多いと、副作用も多くなります。フスタゾール、アスベリン、レスプレン、アストミンは副作用が弱い方に分類されていて、小児から使用されます。レスプレンは口渇の副作用記載を認めません。
➡ これら咳止めの具体的な問題点として
*咳は気道内の異物・痰を排出するために必要な生態防御反応です。咳止めにて咳を抑え過ぎると肺炎など感染症を助長することになります。
*2017年、小児12歳未満には、風邪薬の医療用や一般用の咳止めのコデインの使用制限が厚労省から公表され、2019年から禁忌となります。小児では呼吸抑制や稀に死亡例の報告があります。
*抗コリン作用による口渇・咽喉頭の乾燥が問題です。咽頭・気道上皮が乾燥すると粘膜防御能が低下して細菌感染を助長します。次第に乾燥による咳を悪化させることもあります。
*抗コリン作用は胃や腸の運動を抑制して、便秘や胃食道逆流症を助長させ、咳の悪化の原因にもなります。
*嚥下機能障害のリスクを抱える高齢者の場合、誤飲性肺炎を生じさせることもあります。
*抗コリン作用薬は高齢男性の排尿障害、緑内障の悪化の可能性もあります。
*咳止めとして交感神経作用薬が含有されている薬が多く、血圧や心疾患を悪化させる可能性があります。
*上記の市販の風邪薬、PL、コデイン、クロフェドリンS, メジコン、カフコデN、ブラコデ配合、アストフィリン配合剤などは、薬の添付文書では車の運転禁止薬となっています。フラベリック、アストミン、アスベリン、レスプレン、フスタゾールには車の運転禁止項目はありません。
☞ 漫然と咳止めを内服することは控えなければなりません。
👉 実際の診療で最も診断・治療が難しい時期は発症1~2週間から2か月以内の咳です。
受診する患者さんが多く、急性感染症の咳・感冒後遷延性咳嗽・非感染性咳など数多くの咳の原因が混在する時期です。
その上、すでに市販の風邪薬内服や前医での治療を受け、レントゲン、採血検査も行い、特に異常ないと言われても、咳・痰が持続する患者さんが多くいる時期となります。その中には、ステロイドの吸入療法も行っても改善しないと受診される方もいらっしゃいます。このような場合、薬の副作用(乾燥、胃食道逆流症)や、咳による腹圧からの胃食道逆流症悪化に伴う新たな咳などの治療過程で生じた咳の原因も含め、混在する多くの原因を見極めることが必要となります。
医師と患者さんとの共同作業が必要な時期です。
👉 2か月以上持続する咳について
2か月以上経つと結核、肺癌は別にして、感冒後遷延性咳嗽もなくなり、ウイルス性感冒、百日咳、マイコプラズマなどの感染症の原因は稀になってきます。2か月以上持続する慢性咳嗽の最も多い咳の原因は、非感染性の咳です。咳喘息、副鼻腔気管支症候群(後鼻漏の咳も含む)、アトピー咳嗽(喉頭アレルギーも含む)そして生活習慣病の増加で最近増えてきた胃食道逆流症となります。この中で最も多いのが咳喘息です。
『ポイント』
◆慢性咳嗽の治療で最も重要なことは、それぞれ単独の疾患でおこしていることもありますが、2~3疾患程度が相互に重なり合って咳の遷延化をまねいていることを考えた対応です。
◆診断的治療の必要性です:病歴・検査から治療前診断として疑い診断とし、特異的治療後の効果で治療後診断を行い、非特異的咳止めは控えます。
慢性咳嗽の原因を治療する場合、これまでの縦割りの診療科の考えでは
*副鼻腔気管支症候群(後鼻漏の咳も含む)は耳鼻咽喉科または呼吸器内科
*咳喘息は呼吸器内科
*アトピー咳嗽(喉頭アレルギーも含む)は耳鼻咽喉科または呼吸器内科
*胃食道逆流症は消化器内科
*小児の場合は小児科となります。
今後は、長引く難治性の慢性咳嗽に関して縦割りの診療科ごとの対応ではなく、鼻・喉頭・気管・肺・胃食道の相互作用を考慮して対応していくことが重要です。最近の診療科としては、アレルギー科があります、臓器別でなく臓器横断的対応することの必要性から出てきた診療科です。上・下気道をひと続きの気道疾患『One airway, one disease』としてとらえ、耳鼻咽喉科・呼吸器科のアレルギー疾患を一つの気道の病気として対応していきます。NHKのドクターGでも注目されている総合内科の視点や、全体を見て各臓器をとらえていく東洋医学的視点も必要と考えています。
参考図書:
危険な咳・そうでない咳の見分け方(文光堂)
喘息・アレルギーVol29,No1 2016:4 (メディカルレビュー社)
咳嗽に関するガイドライン2版 日本呼吸器学会
関連ブログ:鼻と秋の喘息、 よくわかる風邪の漢方
関連HP:咳、 かぜ症候群、 アレルギー、 漢方処方(吉 耳鼻咽喉科アレルギー科)