吉耳鼻咽喉科アレルギー科 -鹿児島市 川上町

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女性とめまい・ふらつき:漢方編

2019-08-17

貧血や全身状態を把握するため

女性のライフステージは、思春期、成熟期、更年期、老年期と女性ホルモンの影響をうけて年を重ねます。短期的には、月経、ホルモンの変化の影響を月単位でうけます。

女性の一生を通して男女差を意識した女性医学と外来はここ20年で広がりつつあります。

性差医療について詳しくは、当院の次のコラムを参照して下さい

女性とめまい・ふらつき・転倒サイト

 

漢方の女性医学の歴史は長く、約2000年前の漢方・中医学の古典黄帝内経には婦人病が独立して記載されています。

現在の総合病院の報告でも、女性特有の更年期障害や様々な訴えに対して漢方が第一選択になっているようです。女性の社会進出、晩婚、ストレスの関与が考えられる女性の月経異常が、2000年から2014年にかけて約3倍に産婦人科外来で増加の報告があります。今後ますます、女性特有の訴えに対して漢方治療の役割が増えると考えられます

 

👉 今回は女性に多いめまい・ふらつきに対して、ライフステージを考慮した漢方の話(随証治療を含めて)になります

 

病名処方と証を考えた随証治療

漢方を処方するとき、西洋医学の疾患名や症状から処方を選ぶこと病名処方と言います。日本の医学教育と西洋医学を中心に勉強した医師が漢方を処方するときに行っています。

心身を含めたその人の全体像を漢方の物差しで把握し、その人の証にあわせて対応すること随証治療(証にあわせて治療)といいます。日本の西洋医学を主体とした医学教育以外に自主的に日本漢方や中医を勉強した医師が行う処方です。

産婦人科の先生は、漢方を自主的に勉強された方が多いと思います。医師・歯科医・薬剤師・針きゅう師も参加できる日本で最も大きな東洋医学の組織である日本東洋医学会の漢方専門医サイ)は、随証治療を行うように努力しています。鹿児島県の漢方専門医は前述のサイトから確認できます。

当院の漢方処方の方針サイト当院HP

同病異治とは?

めまいの代表例のメニエール病の西洋医学的治療は、急性期は服出来ないとき点滴加療、内服可能なら吐き気止め、イソバイド、トラベルミン、アデホス、メリスロン、セファドールが一般的に使用され、その疾患に対して処方されます。漢方のめまい・メニエール病の病名処方では、五苓散または苓桂朮甘湯がよく処方されます。これも疾患や症状に対して病名処方になります。

随証治療では、望聞問切の診断の所見を参考に、口渇、天候の変化、自汗、尿不利に、五苓散, 立ちくらみ、動悸、神経質をあれば苓桂朮甘湯、胃弱、嘔気、冷えがあれば半夏白朮天麻湯、高齢、冷え、ふらつきには真武湯、生理前のふらつき・めまいには当帰芍薬散などその人の全体像を把握してめまい・メニエール病の疾患や症状ではなくその人に対して処方を選択します。

同じ病名・症状であっても、その人の全体像が違えば処方選択が異なるのが同病異治の意味です。随証治療で行うやり方です。

 

証を決定する漢方の物差し

陰陽五行論 肝・心・脾・肺・腎 などの臓腑のバランスを重視して対応、女性には肝(精神安定、蔵血、規則的月経)と腎(生殖、骨、思考、水分代謝)が重要です(中医学

気・血・水 気は体を巡る目に見えない生命活動のエネルギーとしてとらえます(日本漢方で重要視)

八綱:陰陽・虚実・表裏・寒熱  虚実・寒熱の判断は臨床では重要です

六病位:太陽病・少陽病・陽明病・太陰病・少陰病・厥陰病 傷寒論の急性発熱疾患への対応がもとになった考え方です

口訣:日本漢方での経験の蓄積

これらの漢方の物差しをもとに証を判断していきます

前述を見ての通り、漢方で、証を考えて対応しようとすると、一般の医師にとって難解なものになります。随証治療を行うには勉強と経験が必要になり多くの時間が必要です。私もですが漢方医学は、勉強すればするほど膨大な古典の理解も必要となり、難解なものになってきます。ゴールが見えず、大海原で宝さがしをする心境になることもあります。2000年の歴史の東洋医学を学ぶのは容易ではありません。

理想は随証治療ですが、けっして病名処方が悪いわけではありません

日本では、煎じ薬ではなく、エキス剤が普及しているため、どの医師も漢方を処方できます。煎じ薬では、オーダーメイドでその個人に合わせた生薬の選択や量を調整可能です。エキス剤は煎じ薬の70%程度の効果と考えられています。

日本では、機能的月経異常を例にとると第一選択は漢方となっています。これまでの報告では、病名処方的に当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸を用いても60~70%に有用とされています。うまくいかないときの次の一手や、もっと有効率を高めたければ随証治療を学ぶ必要があります

 

女性の成長発達老化と漢方

黄帝内経より

中国の古典 黄帝内経素問での7歳ごとの身体変化

7歳腎気活発、永久歯が生え、髪が伸びる

14歳腎気旺盛、生殖能力が備わる

21歳腎気が全身を巡り、歯がそろう

28歳身体がもっとも充実

35歳腎気が衰え始め、肌の乾燥、爪が割れやすくなり顔に皺が生じ、髪が抜け始め

42歳皺が増え、白髪が出現

49歳閉経

月経は五臓の肝の影響を強く受けます。規則的な月経で経血を輩出してお血を改善し、気の巡りをよくすると考えます。月経異常は気が巡らなくなり体のバランスを崩す原因となります

女性の7歳ごとの身体変化では腎気(生殖、骨、思考、内耳機能、水分代謝、呼吸)に強く影響うけ、(精神安定、蔵血、規則的月経)の働きも重要です。

 

思春期:女性ホルモンの急激な変化により心身のバランスが崩れやすくなります。

漢方の考えでは、肝の機能が不十分で、心身の乱れを生じやすく脾虚・気虚(倦怠感や胃腸障害)と血虚・お血(貧血、生理痛など)をベースに、水滞(立ちくらみ)・気逆(イライラ)・気うつ(落ち込み)の症状を合併することも少なくありません。

この時期、めまい・ふらつきで問題になるのは貧血起立性調節障害です。

漢方で立ちくらみ、ふらつきには苓桂朮甘湯、ふらつきと胃弱あれば半夏白朮天麻湯、月経異常を伴えば当帰芍薬散。片頭痛とめまいを伴えば苓桂朮甘湯呉茱萸湯を、ストレス・緊張・手のひら発汗あれば四逆散を、ストレスや月経異常には加味逍遥散を、抑うつで元気なければ補中益気湯を、それぞれプラスすることを考えます。動悸強く感情コントロール不良には甘麦大棗湯を追加。

詳細は当院コラム:よくわかる子供の漢方:起立性調節障害;ふらつき・頭痛・腹痛サイト)で確認を。

貧血のふらつきは鉄剤の服用を優先します。

 

成熟期:ホルモン周期としては安定していて、妊娠・出産・不妊・子宮内膜症・子宮筋腫に関連した症状や、社会参加・仕事からくるストレスから心身のバランスを崩すことになります。漢方の考えでは、血虚・お血(月経異常、肌荒れなど)や気の異常に配慮した対応をします。冷えによる不妊、生理痛、月経不順をきたしやすくなります

月経とめまい・ふらつきの関係は、月経前症候群PMS)、月経困難症、妊娠が関係します。

詳しくは、当院コラム:女性とめまい・ふらつき・頭痛サイト)で確認して下さい。

妊娠中のふらつきはつわりに関係して起こるこることが多く、妊娠中の安胎薬として古くから当帰芍薬散が使用されます。嘔気や嘔吐には小半夏茯苓湯、嘔気・気鬱には半夏厚朴湯、胃の調子を改善するには二陳湯が使われます。

妊娠時控える漢方

妊娠の時も漢方は使いやすい薬として認知されていますが、妊娠初期の過敏期はどの薬も控えた方が望ましく、大黄、牡丹皮、桃仁、紅花、牛膝、芒硝を含む桂枝茯苓丸桃核承気湯、通導散などの強い駆お血剤は控えた方がよいといわれています。

月経困難症の下腹部痛には当帰建中湯、不正出血には、きゅう帰膠がい湯、ふらつきには貧血の改善を優先します。

PMSのふらつきには水滞の関与があり当帰芍薬散、効果無ければ苓桂朮甘湯または半夏白朮天麻湯をプラス、PMSの精神症状に対してストレスと内に向けた怒りあれば抑肝散または抑肝散加陳皮半夏、訴えが変わり肩こりイライラや生理痛あれば加味逍遥散、感情的で傷つきやすい場合は甘麦大棗湯、実証で便秘あれば桃核承気湯など使用。

片頭痛は30代女性の5人に1人の割合で認めます。成熟期の片頭痛関連めまいも多いと推測されます。西洋薬では片頭痛の予防薬、めまいへはトラベルミン、セファドールが使われ、めまいリハを行います。めまいや頭痛に対して、漢方では、冷え性や心下の膨満があれば苓桂朮甘湯呉茱萸湯合方、気候と関係あれば五苓散を考えます。貧血、月経異常や肌荒れ強ければ連珠飲苓桂朮甘湯+四物湯)も候補です。

 

更年期:エストロゲンの低下による症状や女性特有の色々な訴えがでてきます。

漢方の考えでは、先天の本の腎気(生殖、骨、思考、内耳機能、水分代謝、呼吸)の衰え、うるおいがなくなり血虚(肌荒れ)、陰虚(水不足 ほてり)が問題となります。

五臓(肝、心、脾、肺、腎)の老化と密接に関連してきます。

中医学では陰は寒と水を意味し、陰虚とは、水が不足し火が興り、熱(虚熱)が生じ、

血虚+熱を意味します。

更年期の対しての3大処方(当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸)を中心に組み立てます。

めまい・ふらつきあれば、苓桂朮甘湯または半夏白朮天麻湯をプラスします。自律神経症状が強ければ苓桂朮甘湯+加味逍遥散、虚弱と冷えが強ければ半夏白朮天麻湯+当帰芍薬散とします。口渇、皮膚口唇乾燥、手足のほてりあれば陰虚の進行を意味し、四物湯加減(連珠飲など)、温経湯、滋陰至宝湯六味丸など補腎剤を検討します。訴えが変わり易い肩こりめまいには加味逍遥散、いつも訴えが同じののぼせ・めまいに女神散も考えます。倦怠感(気虚)を兼ねる場合は補中益気湯を兼用します。

 

老年期:60歳を過ぎればエストロゲンは男性より低下します。骨量や記銘力の低下、脳血管・心疾患の罹患率に上昇、筋肉量が低下し低栄養をきたします。身体の虚弱化(フレイル)への対応が必要です。詳細は当院コラム(女性とめまい・ふらつき・転倒サイト)で確認して下さい。

漢方的には、五臓の老化、特に腎・脾(消化機能)の衰えと密接に関係してきます。エネルギーの生成が不十分で気血両虚を生じます。冷えふらつきには真武湯、倦怠感強ければプラス人参湯茯苓四逆湯)、下肢冷え夜間頻尿ふらつきには、胃が丈夫なら牛車腎気丸(利水あり)または八味丸。フレイル(栄養悪化、筋力低下)のふらつきには、気血両虚として十全大補湯、遠志が入った人参養栄湯を考えます。

めまい発作が強ければ苓桂朮甘湯または五苓散、その後の脾虚・気虚を補うため半夏白朮天麻湯。補腎薬を入れて牛車腎気丸プラス苓桂朮甘湯または半夏白朮天麻湯として対応することもあります。

 

メニエール氏病の漢方治療

耳のめまいの病気のメニエール病は内耳のリンパ水腫でめまいを起こす疾患です。内リンパ水腫を起こす理由はまだわかっていません。メニエール病はストレス、睡眠不足、几帳面との関与が大きい疾患です。月経はメニエール病の誘発因子となり、更年期障害と合併しやすいと考えられています。メニエール病の誘因や背景から、最初から内リンパ水腫、水滞に陥るのではなく、睡眠障害、交感神経の緊張、それによる項頚部の筋の緊張、局所の微小循環の悪化、ホルモンのバランスの乱れが背景にあると思われます。

メニエール病の誘因や背景から、漢方的には、発作は水滞誘因と慢性化因子はお血と気の異常とも考えられます。

中医学では、気には推動作用があり、血の流れを良くします。気の異常があれば血の流れが悪くなりお血になると考えます。

急性期のめまいに対して、回転性のめまい持続時間10分程度から数時間程度ですので、西洋的治療を優先させ、点滴加療などを行い、漢方で、初期は利水剤の五苓散苓桂朮甘湯、柴苓湯、沢瀉湯(エキス剤はありません)など使用し、嘔気やめまい・ふらつきが持続すると虚証に変化していき、利水と補気を兼ねた半夏白朮天麻湯などに変更することもあります。気の異常が強い方は、補気も兼ねる抑肝散加陳皮半夏補中益気湯・六君子湯も変更の候補です。

この疾患は反復するので予防が重要です。生活習慣の改善、睡眠指導、軽く汗を流す運動をすること、飲水指導を行います。めまいの誘因と考えられる睡眠障害、交感神経の緊張、それによる項頚部の筋の緊張、局所の微小循環の悪化、ホルモンのバランスの乱れや年齢などの背景を考え、前述の漢方の物差しを参考に、お血と気の異常を中心に、その人の証に合わせた漢方的対応を考えます。めまいは長引けば予期不安やめまい恐怖症をおこしやく不眠対策や心因性のめまいへの対応も必要です。心因性のめまいへの漢方的対応は、五臓の心・肝・脾、冷え・裏寒、気血水のお血、気虚・気鬱・気逆などから証を見極め対応します。

 

緊張性頭痛のふらつき・めまいの漢方治療

肩こりのため頭部の位置情報が、視覚前庭に入る情報とのミスマッチが生じ、肩こりでふらつきが出現すると考えられています。

頭痛・肩こり改善のため、運動・頭痛体操・正しい姿勢・こまめな休憩・入浴など生活習慣の改善を指導します。

肩こりや緊張性頭痛に対しての漢方治療では、急性期は葛根湯関連(葛根湯、桂枝加葛根湯、葛根加朮附湯)や川きゅう茶調散、胃弱には桂枝人参湯、朝の頭痛・結膜充血・高血圧には釣藤散、口渇・気候の変化や水滞の関与の頭痛には五苓散、頭痛、冷え・陰証・心下の膨満感あれば呉茱萸湯、胃弱・嘔気なく冷えが無い肩こりは半夏瀉心湯を使用します。側頸部にかけての頭痛・肩こりには柴胡剤含有漢方薬や駆お血剤で対応します。

反復すれば証にあわせて、気虚には補中益気湯、お血には桂枝茯苓丸、血虚には四物湯、神経質で更年期には加味逍遥散などの兼用も考えます。

女性で肩こり関連のふらつき・眩暈にも前述の対応が適応されます。

漢方的には水滞の関与が強くなるので、苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯、真武湯、五苓散などの利水剤を加えた対応を考えます。

ENTONI 2019年3月号に、群馬県の竹越耳鼻咽喉科院長から肩こり関連めまいへの西洋医学的病態を考慮した病名処方が報告されています。改善率も高く興味深い内容でした。

内容(竹越の報告から)

肩こり関連めまいは

  • 肩こり
  • 低血圧
  • 血行動態性椎骨脳底動脈循環不全(H-VBI)

の3者が合併

女性は筋肉量が少なく肩こりと低血圧が起こり易く、診療所では8割が女性(20~60代)。

肩こりによる交感神経過緊張から血管収縮による循環障害(H-VBI)が生じ、低血圧がH-VBIを悪化させめまいが生じる。

ストレス疲れやスマホ・パソコン業務が悪化要因

漢方的対応

桂枝加苓朮附湯が基本処方

収縮期血圧110mmHg以下や立ちくらみあれば

昇圧を期待して補中益気湯を併用(生薬の柴胡・升麻は升提作用あり)

血圧正常で頭痛・肩こりが強い場合はH-VBIの要因と考え釣藤散を併用

ストレスなら釣藤散、よりストレスが高度な時は抑肝散加陳皮半夏併用、疲れには補中益気湯を併用

上記の方法で14日以内の改善例が87% (47例/54例)

 

参考資料

女性の漢方 小川 中外医学社

耳鼻咽喉科と漢方薬 ENTONI 2019年3月 全日本病院出版社

医療用漢方製剤の使い方 菊谷 南山堂

女性疾患を支える漢方薬 漢方医学2018 Vol.42 No.1 株式会社協和企画

耳鼻咽喉科編 漢方と診療 Vol.1 No.4 東洋学術出版社

中医臨床 耳鼻咽喉科疾患 2012年12月 東洋学術出版社

はじめての漢方診療 三潴 医学書院