認知症と耳鼻咽喉科&補聴器
日の出・新年 吉野公園 2018年1月2日(クリックで拡大)
2018年・新年あけましておめでとうございます。
今回は、高齢化と共に社会問題にもなりつつある認知症と難聴の話です。
認知症といえば、病院での物忘れ外来など専門病院での治療のイメージがあると思います。
受診する科としては、神経内科や脳神経外科が連想されるでしょう。
世界的な権威ある医学誌に、意外にも最も重要な認知症の悪化因子が、
中年期の聴力低下であることが報告されました。
今後、認知症への耳鼻咽喉科医の貢献が多いに期待されます。
その内容とは:
2017年7月世界的な医学雑誌Lancetに、
教育レベルの低さ(15歳以降に教育を受けていない)に加え、
中年期(45歳以上65歳未満)の聴力低下、高齢期(65歳以上)の喫煙
高血圧、肥満、さらに、抑うつ、運動不足、社会的孤立、糖尿病の9つの因子について対策を講じることで、認知症の35%は予防できることが示されました。
特に認知症予防で重要なのは
◆中年期の聴力低下
◆教育レベルの低さ
◆高齢期の喫煙の3つであることも分かりました。
中年期の聴力低下例を全て治療することで9%
15歳以降も全ての人が教育を継続できるようにすることで8%
全ての高齢者が禁煙することで5%減らせると推定されました。
執筆者のLivingston氏は『認知症の危険因子は若い時から高齢になるまで生涯を通じてみられ、それらによって脳の変化は症状が出現する何年も前から始まる』と説明。
こうした危険因子を念頭に置いた広範なアプローチを認知症の予防策に取り入れることの必要性を示しています。
👉 一般の方は、認知症の言葉はよく聞くが、具体的にどういう病気かはわからない方も多いので、ここで少し認知症について勉強してみましょう。現在、世界の認知症患者数は約4700万人、2050年までにその3倍に相当する1億3100万人に増えると予測されています。
日本では、2012年の発症者は462万人で、2025年には約700万人と推計されています。65歳以上の高齢者の5人に1人は認知症発症者となります。
総じて認知症といっても、様々な病型があり、その混合型も多く、加齢変化と共に他の疾患も加わるため一層複雑になっていきます。
最も多いアルツハイマー病は認知症全体の35%で、亡くなるまでの自然経過は10年ほどです。2~3年程度で、初期、中期、後期となり、後期の最後は、全介助で無言・無動のまま亡くなることになります。
典型的な物忘れや時間・場所・人物がわからなくなるのは発症数年後の中期ごろとなり、
初期は、典型的な認知症状はわかりにくく日常生活は何とか自立しているため、加齢変化、高齢者うつ、パーキンソン病、
精神疾患、不眠症、自律神経症状などと鑑別が難しくなります。
最近、独居老人が多いこともあり、この初期の段階では、自己判断で認知症の診断がついていないまま、神経内科、脳神経外科、精神神経科、かかりつけ医だけでなく、整形外科、耳鼻咽喉科、眼科、泌尿器科など様々な科をわたりあるく可能性があります。
受診した科のどの医師・看護師も、認知症の正しい知識を持ち、早期の段階で専門医へ紹介し、しっかりした診断のもとかかりつけ医にて継続加療していくことが我々医療従事者の重要な役割となっています。
残念ながら、認知症を治す薬はなく、薬を内服しても経過を大きく変えることはできません。
医者が加療にてできることは、物忘れ、意欲低下、興奮、異常行動、徘徊、不眠など中核症状・周辺症状を少しでも和らげ遅らせることです。そして、家族・介護者の負担を少しでも軽くし、本人の生きがいやできることを少しでも長く続けられることが目的となります。
このように、10年近くの長い経過の中で、医者ができることはわずかしかなく、
ホームケアや看護・介助の役割がたいへん重要となります。
医師・看護師・薬剤師・介護士・看護助士・医療事務そして家族とのチーム医療での対応を考えることが最も大切なことです。
最近では、認知症患者の交通事故や徘徊は社会問題にもなっていて、一般の人、コンビニの店員の方々も含めた社会的見守りも必要になっています。
👉 2017年12月6日の『NHKのガッテン』にて認知症と難聴とその対策が紹介されました。
要点は:
●耳の毛(内耳の有毛細胞)が抜けることが難聴の原因で、高音から生じやすい。
●一度抜けると再生は難しい。
●脳が周囲の音の欠けた情報をカバーするので、中高年の難聴を本人は気づきにくい。
●音の脳への入力が減ると認知機能低下・うつ・意欲低下をまねく。
●難聴対策として、内耳の血流を減少させないことが大事。
●難聴放置による認知症発症危険度:難聴;軽度1.89倍 中度3倍 高度4.9倍
●具体的難聴対策は、有酸素運動、生活習慣病の改善、騒音対策、補聴器活用が重要。
●騒音対策として、ヘッドフォンで60分以上聴かない、ボリュームを60%にする。
●補聴器を活用することで難聴だけでなく、コミュニケーションが改善し、
うつ傾向や意欲低下を改善できる。
●補聴器に耳と脳が慣れるのに三ヶ月必要(フィッティング、脳の聴覚トレ)、
耳鼻咽喉科の補聴器相談医に相談。
まずは耳鼻咽喉科専門医とご相談することをお勧めいたします。
👉
今回のLancetの報告だけでなく、補聴器装用の認知機能への有効性が多数報告されています。
実際のところ、認知機能が低下した高齢者への補聴器装用に関して多くの問題が出てきます。
認知機能低下者では、補聴器試聴の半分が、補聴器購入行ない、その半分が安定的に補聴器装用可能であった報告もあります。つまり購入を考えた人の1/4しか補聴器がうまく使用できていないことになります。
認知機能正常な高齢者と認知機能が低下した高齢者は区別して対応していくことが求められています。
問題点:
■認知機能低下者は、言葉の聞き取りが悪く、難聴への補聴器の効果は限定的です。
■本人の難聴への自覚が乏しく、補聴器装用の意思が乏しいので買っても使わなくなる。
■補聴器操作が困難で、紛失のリスクが高い。家族の介助が必要となる。
■認知機能良好な高齢者とくらべ、補聴器適応のための聴力評価が難しい。
■両耳装用より片耳装用の方が、効果を認めることがあり、両耳装用の適応は慎重に行う。
■十分な試聴期間と耳鼻咽喉科医が介入した医学的聴覚トレーニングで認知機能への効果を期待。
■耳垢がたまりやすく、耳垢の上から補聴器装用することが多くなる。
補聴器店だけでの購入より、補聴器相談医と相談しての検討をお勧めいたします。
関連HP:
参考図書:
*Dementia prevention,intervention,and care.
Lancet (London, England). 2017 Jul 19; pii: S0140-6736(17)31363-6.
*日耳鼻会報 120:692-697、707-713; 2017.5