耳鼻咽喉科医からみた片頭痛:関連めまい
片頭痛は国民の約800万人、子供も含めると1000万人程度の方がいると言われています。国民の10人に1人程度で非常に多い疾患です。
頭痛が主の訴えであれば、
不安になり脳外科や大きな病院でCTやMRIなど検査に行かれると思います。しかし片頭痛は、検査ではわかりません。医学的には一次性頭痛に分類され、筋緊張性頭痛(肩こり頭痛)、群発頭痛なども同様に、頭痛そのものが疾患であり、検査で異常をみとめません。命にかかわることもある二次性頭痛(クモ膜下出血、脳梗塞、脳出血、脳腫瘍、副鼻腔炎など)を除外するために検査を行っています。
経過や症状を確認して、必要があれば頭痛ダイアリーを記載してもらい、診断していきます。片頭痛の診断には、問診が最も重要になります。
頭痛ではなく、めまいの訴えが主であればどうでしょうか?
高齢者や最初のめまいであれば、脳を心配して病院でCTやMRIで精査をされることが多いと思います。しかし、めまいの半分はBPPV(良性発作性頭位めまい症)で、明らかな脳からの異常が認めるは、2~5%程度と考えられています。耳鼻咽喉科関連のめまいが60%程度で、他は体調・身体・循環・自律神経などからのめまいが考えられます(報告する医療機関で異なることあり)。めまいの場合は、脳梗塞や脳腫瘍が原因の可能性は低く、耳の奥の内耳の可能性が半分以上となります。
めまいで、片頭痛が原因と自分で判断できる方はいるでしょうか?
最近まで、医者の間でも片頭痛関連めまい(前庭性片頭痛)の認識は乏しく、メニエール病や原因不明のめまい症として対応されていることが多くありました。中には、メニエール病や良性発作性頭位めまい症と前庭性片頭痛が併存していることもあるため診断を難しくしています。近年まで、めまい患者さんが、頭痛を訴え、脳卒中や脳腫瘍を疑うことは当然のことですが、片頭痛との関連を疑うことはあまりありませんでした
前庭性片頭痛という疾患単位として診断基準が確立されたのは近年(2012年)のことです。
◆複雑な前庭性片頭痛の診断
特徴
*現在または過去に片頭痛症状がある
*頭痛と同時またはその後にめまいがある
*めまい症状は、自発性めまいや視覚刺激・頭部運動で誘発される回転性めまいや浮動感である
*5回以上の日常生活を妨げるめまい発作がある
*5分~72時間の間で持続する日常生活を妨げるめまいがある
*めまい発作の少なくとも50%に1つ以上の片頭痛兆候(頭痛、光・音過敏、視覚性前兆:前兆に前庭症状含めない)がある、頭痛が無いめまい発作のこともあり
*めまい発作時は、高度難聴はなく、耳鳴・耳閉感のあることは多い
*めまい発作が先に起こり、続発して片頭痛発作が起こった場合、メニエール病などの前庭疾患と片頭痛が別個に存在する可能性あり
前庭性片頭痛の診断は、非常に複雑です。診断するには前庭性片頭痛をについて熟知する必要があります。
片頭痛の診断には問診が重要で、前庭性片頭痛でも同様に問診が最も重要で、検査を参考にしながらの対応になります。
◆意外と多い前庭性片頭痛
*頭痛外来の片頭痛患者の61%に何らかのめまい症状があります。
*片頭痛は、外国の耳鼻咽喉科外来の高齢者のめまいの原因で13%の報告。
*日本の耳鼻咽喉科外来のめまい症例中、片頭痛合併例は13.6%と報告。
*肩こり頭痛(緊張性頭痛)もふらつきを認めることがあり、片頭痛におけるめまいの有病率は緊張性頭痛の約10倍です。
◆前庭性片頭痛の診断が難しい理由
*めまいが主の場合、自分が頭痛持ちの方は、頭痛はいつものことと思い、本人からの頭痛の訴えが無い。
*片頭痛は更年期以降改善する方も多くなるため、過去に片頭痛だったことを忘れている方も多い。
*頭痛がない前庭性片頭痛発作が存在するため、片頭痛を想定することが難しい
*前庭性片頭痛という疾患単位として診断基準が確立されたのは最近(2012年)のため、診察した医者の認識不足。
*前庭性片頭痛発作に耳鳴りや耳閉感の訴えがあり、しかも聴力検査でも実際に聴力低下も認めることもあるので、メニエール病との鑑別が難しい、またメニエール病や良性発作性頭位めまい症との併存例もあるため更に診断がむずかしくしています。
◆小児にも多い前庭性片頭痛
当院コラム:お子さんのめまい・ふらつき・立ちくらみを参考に
◆前庭性片頭痛への対応
治療
*めまい発作時は、トラベルミン、セファドール、ナウゼリンなど
トリプタンのめまい効果は認めないようですが、頭痛には屯用で使用。トリプタンは、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、重度高血圧、重度肝臓病では使えません。
*片頭痛の予防治療が発作の予防に有効
ミグシス、トリプタノール、インデラル、デパケン、SSRI(抗うつ薬)、呉茱萸湯など
*めまいのリハビリ:片頭痛症状も改善することが報告あり
*認知行動療法
*近年では、CGRP抗体やCGRP受容体抗体製剤が注目されています。
片頭痛そのものが、本質的に改善することは難しく、誘因があれば回避する生活を行い、頭痛やめまいの閾値をあげ起こしにくい状態を作ることが重要です。
生活で注意点と対策
*強い光、騒音、人混みを避ける
*空腹、水分不足、寝過ぎ寝不足を避け、休日も普段通り
*ストレス回避
*ワイン、チーズ、アルコール、チョコは避ける
*片頭痛発作時は、静かな暗い場所で安静または睡眠、冷たいタオルで痛む箇所を冷やします
*サプリ(Mg, ビタミン B2:リボフラビン , コエンザイムQなど)
➡ 注意すべき特殊な片頭痛関連めまい
脳底型片頭痛(脳幹前兆を伴う片頭痛)
前兆のある片頭痛の特殊型です。前庭性片頭痛との鑑別が必要になります。生命維持に大事な脳幹に関連した前兆がおこり30分以内に頭痛が発生します。トリプタン、エルゴタミンは使用禁止、頭痛治療の第一選択のトリプタンで脳梗塞発生の危険性があります。
前兆で最も多いのが、回転性めまい(60%以上)です、次に構音障害が多く、他に耳鳴り、難聴(耳閉感ではない)、意識低下、複視、運動失調など認めることがあるようです。少なくとも二つ以上の脳幹症状としての前兆があります。脱力、網膜症状は認めません。ミグシスやワソランで予防を行うようです。
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現在の耳鼻咽喉科専門医は、めまい相談医を中心に、片頭痛のことを理解してめまいが主症状の前庭性片頭痛の診断を行っています、必要な場合は脳外科・脳神経専門医や頭痛専門医と協力しながら対応しています。
運動・感覚まひや言語障害を伴う場合や、頭痛が主の片頭痛は脳外科・脳神経専門医や頭痛専門医での治療をお勧めいたします。