気づきにくい甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は一般外来患者の2%程度に認められ、加齢とともに増加します。診断される年齢では30~40代が多く、その多くを占める橋本病(慢性甲状腺炎)の男女比は1:5で女性に多い疾患です。橋本病は女性の10~20人に1人の頻度で認められるといわれています。
自覚症状は無いか特異的な症状は無いため甲状腺の自己抗体が陽性化した時期が明確でない場合がほとんどです。
疲れやすい、冷え性、肌荒れ、更年期障害、認知症、うつ病、便秘症、自律神経障害などとして診療を受けていることもあります。他覚的症状のむくみは進行しないとわかりにくく頸部の甲状腺腫大も痛みは無いためかなり大きくならないと気づきにくいものです。びまん性の甲状腺腫を認めないものを含めると、成人女性の8.5%、成人男性の4.2%に認められるとの報告もあります。
最近は検診のオプションで甲状腺機能採血、エコー(10分程度:被ばく無し)を行うところもありますが、通常の職員検診の項目には入っていません。
橋本病で自己抗体が陽性の場合、不妊と流産と有意な関連があることが示されています。妊娠18~20週までは、脳神経の発達に必要な甲状腺ホルモン(T4)は母体由来であるため妊婦さんが甲状腺機能低下であれば、赤ちゃんの精神遅滞や認知機能への影響が考えられます。これは海外からの報告が多く、日本では海藻を好んで食べる食文化があるため、海外と比べると少ない可能性があるとも考えらえています。
☞☞ 特に思春期以降の女性は、少しでも疑えば甲状腺機能を測定することを推奨します。
『他覚症状』
むくみ(下肢やまぶた:進行しないとでない)
甲状腺腫大(前頚部下方の腫脹:腫大がわかりにくい)
『自覚症状』
初期には症状なし
寒がり
易疲労感(疲れやすい)
皮膚の乾燥
月経異常
肩こり
筋力低下
便秘
体重増加
抑うつ
忘れっぽい
声がれ
徐脈
慢性疲労
運動不足
冷え性
肌荒れ乾燥
更年期障害
うつ病
認知症の初期
声の病気
便秘症
肩こり症
自律神経失調
◆甲状腺機能低下の妊婦さんは
*赤ちゃんの精神遅滞
*流早産、妊娠高血圧のリスク
◆不妊
◆動脈硬化
◆コレステロールの上昇
◆冠動脈疾患
【診断】
スクリーニング
甲状腺機能採血(TSH,FT4, FT3、FT4は日内変動が少ない)と
甲状腺の腫れをエコーで確認します。
精査
疑わしい疾患に応じて
甲状腺自己抗体(TgAb, TPOAb、TRAbなど)
腫瘍マーカー(サイログロブリンなど)
を追加依頼します。
低下症の場合、総コレステロール、CPK,AST,ALTが上昇することもあり。
エコー検査で
びまん性(全体に大きい)結節性(腫瘤を疑う)
に応じて対応が違います。
結節性の場合は穿刺細胞診やTSH抑制あればシンチグラムなど専門病院紹介の可能性があります。
【治療】
低下症はチラージンの服用
それぞれの病態に応じて対応
【薬物やヨウ素欠乏又は過多の影響】
ヨウ素欠乏による甲状腺機能低下はアフリカ内陸部などのヨウ素欠乏地域で認められます。日本では海産物の摂取が多く、ヨウ素摂取量はむしろ必要以上のため稀です。
ヨード摂取過多の場合も一過性甲状腺機能低下症の可能性があります。
*ヨウ素を含んだ健康食品の過剰摂取
*炭酸リチウム(躁鬱、躁病の薬)
*インターフェロン
等の薬剤のため、低下症をきたすことがあります。
【潜在性甲状腺機能低下症:微妙な低下症】
甲状腺機能は正常、TSHが基準値以上に増加しています。3~6%程度で認め、女性に多く加齢とともに増加します。
治療方針は、各個人で異なります。通常は、定期のTSHの測定で経過観察です。
*血中TSH>10µlU/mL
*赤ちゃん希望
*50歳以上の女性
*80歳未満
*甲状腺自己抗体陽性
*甲状腺低下症の症状あり
*甲状腺術後、放射線治療の既往あり
など参考に対応します。
参考資料
甲状腺疾患を極める(伊藤病院) 新興医学出版