吉耳鼻咽喉科アレルギー科 -鹿児島市 川上町

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よくわかる子供の漢方:中耳炎・鼻・のど・肺

2018-05-16

 

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👉今回は、小児の外来にて抗生剤を頻回に使用する耳鼻咽喉科・呼吸器領域での漢方の使用法についての話です。

薬剤耐性菌について:薬剤耐性対策アクションプラン(AMR)と有害事象
抗生剤の不適正使用による薬剤耐性菌の増加とそれに伴う感染症の増加が、国際社会の大きな課題の一つに挙げられています。不適正な抗生剤使用に対して対策が講じられなければ、2050年には全世界で年間1000万人が、薬剤耐性菌により死亡することが推測されています。2016年4月日本では薬剤耐性対策アクションプラン(AMR)が策定され、2020年の人口千人あたりの 一日抗菌薬使用量 2013年の水準の 3分の 2減少させること等が設定され手引き書も作成されています。手引書は成人および学童以上が対象で、乳幼児は特殊な病態の配慮が必要となっています。

また抗生剤には、効率に有害事象や副作用が存在します。
子供さんによく使われるセフェム系抗生剤の副作用は皮疹1~3%、下痢1~19%、
アナフィラキシー0.01%と決して安全とは言えません。
普通の風邪には抗生剤は必要ありません。

 

細菌感染と普通の風邪との見極め漢方適応
子どもの感染症で、患者数が多く抗生剤を頻回に使用するのは、耳、鼻、のど、呼吸器の急性気道感染症と急性下痢で、特に風邪症状の耳痛・鼻水・咽頭痛・咳・発熱に対して抗生剤を最小限にすることは耐性菌対策に最も有効です。

小児急性中耳炎ガイドライン2018では、中耳炎の軽症例は経過観察を優先し、学童以上対象の抗微生物薬適正使用の手引き厚労省2017では、成人軽症の鼻・副鼻腔炎、小児の鼻・副鼻腔炎、小児の溶連菌以外の咽頭炎、小児のマイコプラズマや小児と成人の百日咳以外の気管支炎は、抗生剤を使わないで経過をみていくことが推奨されています。

受診当日に、普通の風邪と細菌感染やインフルエンザとの見極めは、症状とその時間経過、身体所見のほかには、採血以外では侵襲が少ない迅速検査で行います。膿性の鼻汁や痰では、ウイルスと細菌感染の区別は出来ません。特定の症状所見で、迅速検査にて陽性反応があれば方針がつきやすくなりますが、陰性の場合や不特定の症状所見では、重症でない限り初期の段階では、ウイルスと細菌感染の見極めは、わからないことが殆どです。初期で、細菌感染やインフルエンザかわからない時期には、風邪薬や解熱鎮痛剤が通常使用され、その個人の病歴や基礎疾患によっては抗生剤が使用されます。

皆さんご存知の葛根湯は、ゾクゾクとした風邪の初期や発熱に使用されます。
漢方薬を使用することで、副作用は少なく西洋の風邪薬以上の効果が期待でき、細菌感染が疑われても抗生剤を使用せずとも軽快することを中には経験します

本来、3歳以上では、中耳炎・鼻副鼻腔炎・気管支炎は数週間で自然治癒することが多い疾患ですので、細菌感染が疑われても、慎重な経過観察を行い急な悪化(抗生剤の必要性など)に備えながら経過を見ることが勧められます。漢方は、その自然治癒力のサポートとしての位置づけと考えましょう。

肺炎球菌・ヒブ・インフルエンザワクチンなどを接種して予防することで中耳炎や感染症の軽症化が期待でき、自然治癒力を高めます。

中耳炎・鼻・のど・呼吸器への漢方薬のメリット

抗生剤・抗インフルエンザ薬は、細菌・ウイルスに対して作用し耐性を生じますが、漢方は患者さんの生体に作用し、生体反応の調整で、ゆっくりのこともありますが、作用を発揮するので耐性を生じませ
耐性菌や副作用を生じやすい抗生剤使用回数最小限に抑える可能性
病気になり易い虚弱児には、反復する感染を最小限に抑える。
(扁桃炎、副鼻腔炎、中耳炎、気管支炎、喘息、嘔吐・胃腸炎など)
確立された西洋医学的治療との併用での相乗・相加効果
ステロイド以外では西洋薬の治療で対応が難しい炎症への対応が、マイルドな効果だが可能。

子どもの感染症への漢方使用の特徴
子どもは実証で抗病反応が強く、水毒体質です。消化機能が弱く(脾気虚)、呼吸器症状が出やすく(肺気虚)、口腔・扁桃から気管・肺にかけての漢方でいう半表半裏に症状を多く認めます。幼児から10歳ごろまでは、頸部リンパ腺体質柴胡清肝湯の適応)になり易い特徴があります。生薬では子供は麻黄剤に強く、嘔吐・下痢など頻回な罹患のため五苓散など水をさばく方剤を用い、半表半裏少陽病期(こじれた風邪の時期)によく使う柴胡剤の適応が多くなります。中耳炎

中耳炎
急性中耳炎

急性中耳炎ガイドラインでは、軽症では最初3日間は抗生剤を使用せず経過観察。中等症は抗生剤、重度は抗生剤と鼓膜切開 担当医師により対応が異なることがあります。

遷延性中耳炎(耳痛・発熱はなく、急性中耳炎と同様の鼓膜所見が3週間以上持続): ガイドラインでの規定はなし

➊耳痛・発熱なく睡眠もとれ機嫌もよければ、抗生剤を使用せず経過観察、補完療法として葛根湯、葛根湯加川きゅう辛夷、柴胡剤、補中益気湯、建中湯類など 再発・再燃を慎重に観察しながら対応 

臨床症状が落ち着いていても、急性中耳炎と同様の鼓膜所見を重視すれば、抗生剤の頻回な使用、頻回な鼓膜切開や早急な鼓膜チューブ挿入の考えもあります。

反復性急性中耳炎:急性悪化時は、その都度、急性中耳炎ガイドラインに沿う治療
反復する中耳炎漢方薬で再発を抑制
十全大補湯:これは西洋医学的エビデンスあり、他には補中益気湯、建中湯類など使用します。
IgG2低下で免疫グロブリンの適応や鼓膜チューブ挿入を考えます。
積極的に鼻吸い、鼻洗、鼻かみを行いましょう。

滲出性中耳炎:

3ヶ月以上遷延し40dB以上の難聴の場合や、鼓膜接着が強く病的鼓膜の時は、鼓膜チューブ挿入、
発症3ヶ月を目安に、アレルギー性鼻炎や鼻副鼻腔炎の治療します。

柴胡剤、柴苓湯、五苓散、小青竜湯、葛根湯加川きゅう辛夷、柴胡清肝湯、荊芥連翹湯など使用。
西洋薬の内服では明らかなエビデンスがある薬はなく、日本ではカルボシステインの内服が保険適応あり。
鼻副鼻腔炎合併では鼻の治療とマクロライド療法、アレルギー性鼻炎では点鼻ステロイドや抗アレルギー薬使用します。

慢性中耳炎:抗生剤や点耳で加療、一定年齢での手術加療を考え、合併する鼻副鼻腔炎の加療を行います。
漢方は補完療法として使用、葛根湯加川きゅう辛夷、補中益気湯、建中湯類、
十味敗毒湯、排膿散及湯、柴胡剤、柴胡清肝湯、荊芥連翹湯など使用します。

鼻・副鼻腔炎
急性期:

抗生剤の使用について、2010年日本鼻科学会のガイドラインでは、軽症以外すぐに抗生物質の対象(小児・成人共に)となっています。

最近の厚労省の薬剤耐性対策アクションプラン(AMR)では、学童以上対象の厚労省の2017年抗微生物薬的使用の手引きは、米国小児科学会の基準に従い、

10日以上持続する鼻汁・後鼻漏と日中の咳

3日以上持続する39度以上の発熱と膿性鼻汁

感冒に引き続き、一週間後の再度の発熱や日中の咳・鼻汁の悪化

小児の鼻・副鼻腔炎への抗生剤の適応となっています。

当初の鼻・副鼻腔炎の鼻症状に対して、自宅鼻洗や鼻かみ指導、抗生剤を使わない西洋薬による対症療法および漢方による対応を考えていきます。

熱性(濃い鼻水、頭痛):辛夷清肺湯、五虎湯、麻杏甘石湯 子供の感染症・免疫力に

寒性(薄い鼻水、悪寒やゾクゾク感):鼻閉と白い粘性鼻汁、後頭部痛は葛根湯、葛根湯加川きゅう辛夷、膿性鼻汁と発熱、顔面紅潮あれば黄連解毒湯を併用、眼の充血や鼻粘膜発赤や口渇、咽頭痛あれば桔梗石膏を併用、水様鼻汁は小青竜湯、胃弱には苓甘姜味辛夏仁湯

寒熱中間は、葛根湯加川きゅう辛夷辛夷清肺湯または小柴胡湯加桔梗石膏を併用。

乳幼児の鼻閉には麻黄湯の屯用

慢性期:内熱(口渇、乾燥感が強い)に変化 脾虚が出現
辛夷清肺湯、またはこれに粘性が強いとき麦門冬湯を追加。
排膿を期待すれば排膿散及湯を併用、皮膚症状あれば、荊芥連翹湯
薄い鼻汁が多いときは半夏白朮天麻湯苓桂朮甘湯を併用。鼻閉と手が冷え、抑うつには四逆散。痰湿の後鼻漏には、小半夏加茯苓湯

肺脾気虚(呼吸器や消化器が弱い)では、建中湯類補中益気湯、十全大補湯、六君子湯を使用または辛夷清肺湯荊芥連翹に併用。胃弱と鼻閉には補中益気湯または六君子湯香蘇散を併用。冷えて悪化して、なかなかよくならない場合は桂枝湯麻黄附子細辛湯を併用。

アレルギー性副鼻腔炎には、辛夷清肺湯黄耆建中湯を併用

アレルギー性鼻炎
寒性(悪寒やゾクゾク感、冷え性)では小青竜湯、寒冷刺激で悪化あれば麻黄附子細辛湯、冷えや症状が強ければ小青竜湯麻黄附子細辛湯の併用。

胃弱には麻黄附子細辛湯と六君子湯を併用、風邪を引き易く水様鼻汁は苓甘姜味辛夏仁湯当院のアレルギーの対応についてまたは補中益気湯と併用。
頭痛粘性鼻汁・鼻閉あれば葛根湯加川きゅう辛夷、咳や花粉症で症状が強いときは五虎湯小青竜湯の併用。

花粉症とアレルギー性結膜炎の合併には、越婢加朮湯、花粉症後の4~5月頃で内熱(口渇、乾燥感が強い)が強いとき、荊芥連翹湯竜胆しゃ肝湯、効果悪ければ五虎湯を併用。

体質改善(本治)として建中湯類補中益気湯を使用します。冷えが強ければ人参湯を使用。花粉症では緩解期に使用して腸内フローラを整えます。血虚・水毒(むくみ易い)、生理不順あれば当帰芍薬散補中益気湯を併用。

 

咽頭・扁桃炎
急性期:
傷寒(悪寒、ゾクゾクあり)
太陽病期(頭痛、発熱、悪寒あり)であれば、のどチクには桂麻各半湯口渇には桂枝二越婢一湯桂枝湯越婢加朮湯の合方)、肩こりあれば葛根湯のどチクで、冷えが強いとき少陰病期麻黄附子細辛湯
上記に咽頭痛が強くなれば桔梗湯、口渇あれば桔梗石膏を追加、強い咽頭痛、咳・痰が出現すれば小柴胡湯加桔梗石膏追加。
溶連菌感染や扁桃周囲膿瘍を疑えば積極的に抗生剤を併用。

小柴胡湯加桔梗石膏や桔梗湯、桔梗石膏は暑いお湯に溶かして冷ましながらゆっくり含んで飲むと効果を高めます。ゆっくり含みながら服用するときは、オブラートは用いません。

単独の扁桃炎には桔梗湯や炎症が強ければ小柴胡湯加桔梗石膏、化膿が強ければ排膿散及湯併用します。

慢性・反復:
鼻副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎による口呼吸があれば鼻の治療を積極的に対応します。
柴胡清肝湯をベースに、悪化時には小柴胡湯加桔梗石膏追加、副鼻腔炎合併時は辛夷清肺湯または葛根湯加川きゅう辛夷を追加、
食が細く腹診でくすぐったがり腹部緊張が強ければ建中湯類を使用。
扁桃肥大や頸部リンパ腺の炎症を反復すれば、苦いが柴胡清肝湯が望ましい。
胃弱の時は、柴胡清肝湯六君子湯を併用します。

温病(悪寒なし):
悪寒はほとんどなく咽頭痛が強く梅雨から夏にかけて悪化するときは、傷寒ではなく温病の考え方で市販薬の銀しょう散、医療用エキス剤では代替として清上防風湯、口渇あれば小柴胡湯加桔梗石膏を使用します

👉反復性扁桃炎の新たな展開
PFAPA症候群
(periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis, and adenitis症候群)
5歳以下に出現する扁桃炎、口内炎、頸部リンパ節炎の一つ以上を伴いながら発熱を反復する疾患。
治療は発熱時のステロイド投与と予防に扁桃摘出術。
小柴胡湯黄耆建中湯の併用で効果を認める報告がある。

気管支炎
一次的な発熱やゼーゼーが無く咳・痰のみの症状が出現し、肺炎との鑑別が
重要となります。
漢方は病名に対しての治療ではなく漢方的病態(証)による治療を行いますので、
治療は下記の喘息の要領とほとんど変わりません
成人の咳・痰については、よくわかる風邪の漢方を参照してください。

痰の性状によって

粘膿性:五虎湯、麻杏甘石湯

水溶性:小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯、麻黄附子細辛湯

乾性:麦門冬湯、ストレス・自律神経失調あれば四逆散併用

副鼻腔炎合併気管支炎(後鼻漏を含む)
 小柴胡湯または竹じょ温胆湯に、鼻・副鼻腔炎で使用する葛根湯加川きゅう辛夷辛夷清肺湯など併用。

気管支拡張症には、小柴胡湯清肺湯を併用。

胃食道逆流症合併気管支炎
肥満対策と食事生活指導
六君子湯と茯苓飲半夏厚朴湯、半夏瀉心湯など併用

喘息咳
2017年11月17日発行の小児気管支喘息治療・管理ガイドライン(GL)2017には、
漢方薬の使用についての記載はありません
まずはGLに沿う治療を行うことで相当の効果が期待されます。
漢方薬は、これに補完的に行われます

鼻副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎あればone way one diseaseとして鼻を積極的に治療します。鼻と秋の喘息を参照して下さい。

急性期:
熱性(口渇、黄色粘性痰、顔面・舌・咽頭発赤など)
麻杏甘石湯、越婢加朮湯、五虎湯に咳が強ければ半夏厚朴湯合方、
痰が多く胃弱者は二陳湯六君子湯を合方。
痰の切れが悪い乾性の咳の時は麦門冬湯を合方、発作と緩解期の両者を兼ねて小柴胡湯を合方します。
寒性(くしゃみ、透明な鼻汁や痰、冷えると悪化、青白い顔など)
小青竜湯に、必要によっては上記熱性と同様に他剤を併用
冷えが強ければ苓甘姜味辛夏仁湯や生理が始まっていれば当帰芍薬散を追加
寒熱中間(夾雑)
水様鼻汁、粘性痰、口渇、顔色は青白いなどの時は、五虎湯と小青竜湯を半分ずつ混合
肝うつ(ストレスの関与)
神秘、必要によっては半夏厚朴湯の合方、

気管支痙攣を想定すれば、建中湯類芍薬甘草湯

緩解期:脾虚以外、体質改善も兼ねて柴胡剤の適応が多い
肺気虚(易感冒 易疲労 疲労で悪化)
補中益気湯、胃弱でなく皮膚が乾燥傾向あれば人参養栄湯
脾気虚(食が細い、食欲低下、食後の痰が多い)
六君子湯または六君子湯半夏厚朴湯の合方、茯苓飲半夏厚朴湯
食が細く腹痛下痢など反復すれば建中湯類、冷えが強ければ人参湯
肝うつや少陽病期(遷延するのど呼吸器症状)
柴朴湯、腹痛や関節痛あれば柴胡桂枝湯や虚弱者では補中益気湯半夏厚朴湯の合方、遷延する粘性痰や発作性の咳には柴胡桂枝湯小柴胡湯麦門冬湯を併用。
少陽病期(鼻副鼻腔炎や扁桃炎を反復)
学童まで柴胡清肝湯、思春期以降は荊芥連翹湯
お血(生理不順など)
当帰芍薬散

臨床では、症状経過に沿いながら
急性期の漢方急性期緩解期の漢方併用緩解期の漢方へと変更していきます。

急性期で頻回に使用する麻黄含有製剤(越婢加朮湯、小青竜湯、麻杏甘石湯、五虎湯、神秘湯など)とβ2刺激剤(メプチンやホクナリンなど)やキサンチン製剤(テオドールなど)
との併用は、動悸・震えや不眠など交感神経興奮作用が強く出るため、十分注意を払う必要があります。

関連ブログ:よくわかる風邪の漢方 よくわかる子供の漢方:服用法、子供の漢方の総論 よくわかる子供の漢方:感覚過敏/夜泣き/夜驚症
関連HP: 漢方処方
参考図書: 漢方診療のレッスン(金原出版)  医療用漢方製剤の用い方(南山堂)
小児科診療:特集 実践!小児漢方2018:2(診療と治療社) 漢方薬の考え方、使い方(中外医学社)

小児気管支喘息 治療・管理ガイドライン2017(協和企画)  中医臨床2012年12月 特別連載:耳鼻咽喉科疾患