よくわかる子供の漢方:アトピー・蕁麻疹・よだれ皮膚炎・水いぼ
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『皮膚は内臓の鏡』
日光による紫外線・乾燥・加齢・化粧・洗顔・入浴石鹸などの外因により皮膚は様々なダメージを受けています。皮膚の手入れをして、表面だけきれいにしても、皮膚の創傷治癒力や皮膚を維持するタンパク・ビタミン・鉄などから構成維持される皮膚の組織が健康でなければ、自然と肌が荒れてきます。
不眠、体調不良、便秘・下痢、食欲低下などあれば、肌の状態も悪くなる経験が、特に女性にはあると思います。加齢によるバリア機能や創傷治癒力の低下も大きな要因です。
昔から皮膚は内臓の鏡といわれ、内面や内臓の健康状態を保つことはきれいな皮膚を維持するにはとても大切です。
皮膚科領域では、内臓の悪性疾患、肝疾患、皮膚筋炎などの内臓や体内の病気が皮膚や体表面にあらわれることをデルマドロームと言います。
古来から、皮膚は内臓の鏡と言われ、すべての人体の機能を中医学の五臓論では、
以下のように述べられています。
肝:ストレス・自律神経・目の疲れ・情動・爪のもろさ・皮膚の艶と関連し、筋膜や腱を主る。
心:精神・こころ・動悸や心臓の駆血・不眠・顔面や舌の色つやと関連あり。
脾:気力・食欲・味覚・消化機能・後天の気と関連、四肢肌肉を主る。
肺:嗅覚・呼吸機能・水分代謝と痰と関連、心拍動と呼吸を推進、皮毛を主り、皮膚や体表面の免疫と関係あり。
腎:成長発育生殖を主り、骨・加齢・水分代謝や腎機能と関連あり。
これら五臓は、現代医学の臓器の考えと違いますが、中医学ではすべての機能と五臓との関係を重視しています。
五臓論と皮膚との関連では、現代の考えも参考にすると、以下のように考えます。
肝:ストレスによる肌荒れ、艶がない、爪がもろい、脱毛、筋肉けいれんと関連あり。
心:不安や不眠による肌への影響あり。
脾:皮膚を維持する栄養成分を吸収し、消化機能は筋肉や皮下組織の維持に重要な役割あり。
肺:五臓論では、皮毛をつかさどり汗腺や体温調整に影響を与えます。
腎:加齢による皮膚の老化と関連あり。
👉 子どものアトピー性皮膚炎などの皮膚病では、脾(消化機能)を整え、腸内細菌叢を改善させ、肝(ストレスや過剰な自律神経)の関与を抑え、皮膚のバリア機能障害を改善していくことが重要です。
『標治と本治』
皮膚表面に出現している症状に対する治療を標治療法
身体内部の根本原因に対する治療を本治療法の2つに分けて考えます。
標治で皮膚の状態を整え、本治に移る場合と標治と本治を同時に行う場合があります。
西洋医学での適切な外用療法とスキンケアを継続することは、皮膚のバリア機能を改善させ、スキンケアの標治が、本治につながっていく場合もあります。
近年、生後早期からの保湿を含むスキンケアなどの外用療法は、その後の食物アレルギーなどのアレルギーマーチの予防においても大切な要素であると考えられています。
『アトピー性皮膚炎』
標治として、紅斑・熱感あれば黄連解毒湯、白虎加人参湯、
むくみや湿潤・丘疹が強ければ越婢加朮湯、皮疹の初期では桂枝加黄耆湯、
水泡・膿疱には十味敗毒湯、柴苓湯、排膿散及湯を検討し、本治の方剤と併用することもあります。
子どもの本治の基本方剤は桂枝加黄耆湯または黄耆建中湯がよく使われます。
◆桂枝加黄耆湯は上半身に汗をかき易く、胸から上、頸部顔面に症状がある場合を目標に使用し、発表剤として急性初期の皮疹にも使用します。虚弱児には桂枝加黄耆湯と補中益気湯の合方を考えます。
◆黄耆建中湯は、消化機能を立てなおし、気を補い、発汗異常をやわらげ浮腫をとり創傷治癒促進作用を期待して使用します。皮膚に重要な黄耆を含んだ方剤は、脾虚(胃弱)と衛気(皮膚の発汗調整・免疫)の改善を期待できます。
黄耆を含んだ補中益気湯や十全大補湯も応用可能です。
気虚(元気がない)を伴う場合は、補中益気湯を用い生体側の治癒機構を促し、皮膚炎の増悪回数を減らします。
肝・心の異常では、痒みのため不眠や激しい搔痒行動につながるなど、さらなる皮疹の悪化を招きます。このように、不安や痒みのストレスが強い場合は、抗ヒスタミン薬の内服と
外用療法をしっかり行い、甘い甘麦大棗湯を使用します。
小麦アレルギーの方には使えません。
年長児には、抑肝散、柴胡桂枝湯を、思春期以降は、四逆散、加味逍遥散を用いる場合もあります。
夏に汗をかき易く悪化する場合、風(変化する痒み)湿(湿潤性)熱(発赤・熱感)
燥(乾燥皮疹)などが混在する場合は、消風散を使用します。
苦味があり飲ませるにはコツが必要です。胡麻アレルギーの方には使えません。
痒みと発赤が強ければ、消風散と黄連解毒湯、本治と併用する場合は、消風散と黄耆建中湯または桂枝加黄耆湯を併用します。
秋から冬にかけて燥(乾燥皮疹)が強くなると、清熱・滋潤作用を期待して
温清飲(黄連解毒湯+四物湯)関連方剤を使用します。
慢性期に入る青少年のアトピーは、燥が強く、温清飲関連方剤で、扁桃炎あれば柴胡清肝湯、
鼻・副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎あれば荊芥連翹湯を考えます。
慢性期では、局所の所見も参考にしますが、全身的な証を重要視した方剤を組み立てます。
お血(皮膚が浅黒い、皮膚血管拡張、血行不良、苔癬化、色素沈着)あれば桂枝茯苓丸、通導散、桃核承気湯を併用します。
『蕁麻疹』
食事、薬品、温熱、寒冷、疲れ、日光、ストレス、生活環境因子などが原因として生じます。急性期の大半は抗ヒスタミン薬内服で解決します。
急性期で、風邪に合併した場合は、葛根湯や熱感・痒み・汗が出にくいときは桂麻各半湯を使用します。
温熱蕁麻疹や発赤・浮腫が強ければ、清熱剤の越婢加朮湯、白虎加人参湯、
いんちん五苓散、消風散、風呂上がりや痒みが強い場合は黄連解毒湯を使用します。
発疹が激しければ、越婢加朮湯と消風散、浮腫が強ければ越婢加朮湯といんちん五苓散を併用します。
急性期の化膿から慢性期まで証を気にせず、体質改善も兼ねて十味敗毒湯を使用する場合もあります。
慢性化すれば柴胡剤や六君子湯・補中益気湯・建中湯類の補脾剤を併用していきます。
ストレス過敏なお子さんは柴胡桂枝湯、
寒冷蕁麻疹には麻黄附子細辛湯、当帰芍薬散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用います。
食事性蕁麻疹は香蘇散を使います。
蕁麻疹は数時間から半日ほどで消失し反復するものです。
消退せず24時間以上持続する皮疹は、通常の蕁麻疹ではない場合があり、注意が必要です。
まずは西洋薬の抗ヒスタミンを優先し、漢方は補完的に使用していきます。
稀にアナフィラキシーに進展する場合があり、発症早期は注意が必要となります。
『よだれ皮膚炎』
乳児のよだれによる口周囲から頬・頸部にかけてのよだれ皮膚炎は、食物の付着による皮膚感作からの食物アレルギーへの進展の可能性があり、スキンケアによる保湿が重要です。
漢方では裏寒・脾虚と水の偏在ととらえ、甘草乾姜湯の方位の人参湯がよく使われ、水の偏在に対して五苓散、小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯も検討します。
『水いぼ』
小丘疹・結節を主徴をとする、小児に多くみられるウイルス感染症です。
アトピー性皮膚炎に多発し、プールなどで感染する場合が多くあります。
1~2年で自然治癒する疾患ですが、細菌2次感染を生じることもあります。
ヨクイニンは、ハトムギの成熟種子を乾燥したもので、イボの妙薬として古くから知られており、尋常性疣贅や扁平性疣贅に応用されてきました。
ヨクイニン単独ではやや多めの量を用います。ヨクイニンとヨクイニンを含む麻杏よく甘湯との合方や、虚弱児には、ヨクイニンと補中益気湯または黄耆建中湯の合方を考えます。
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参考図書:
中医学入門 神戸中医学研究会:東洋学術出版社 小児科診療2018:2 実践 小児漢方 診断と治療社
医療用漢方製剤の使い方 南山堂 漢方薬の考え方、使い方 中学医学社