あなたの副鼻腔炎は何タイプ?
副鼻腔炎は、風邪をひき鼻症状が強ければ、急性鼻副鼻腔炎として日常的にみられる病気です。40~50年以上前までは、長引く鼻副鼻腔炎は、蓄膿と呼ばれる慢性化膿性副鼻腔炎がほとんどでした。衛生環境や生活習慣の変化からアレルギーを主とした疾患が増加し、ここ20~30年間に、新型副鼻腔炎とよばれる難治性の好酸球性副鼻腔炎が急に増えてきています。ステロイド、抗菌剤の使用、高齢化に伴い糖尿病・悪性腫瘍の増加、免疫の低下によるカビが原因の副鼻腔炎も問題となっています。副鼻腔炎は、子どもに多い病気でなく、子供から成人・老人までだれもが罹患する病気と考えてください。
副鼻腔炎は、長引く咳、中耳炎の悪化、喘息など下気道の症状の悪化をもたらします。アレルギー性鼻炎や好酸球性副鼻腔炎は、喘息と関連します。(one airway, one diseaseと呼ばれます)好中球中心の炎症は副鼻腔気管支症候群として注目されています。
一般に、発症から4週間以内の鼻副鼻腔炎感染症を『急性』3か月以上持続すれば『慢性』とされます。
*日本耳鼻咽喉科学会HPから、次のサイトで基本事項は確認して下さい
👉 副鼻腔炎には様々な病態が存在しています。
鼻が悪くて、耳鼻咽喉科を受診して副鼻腔炎または蓄膿と言われたら次のどれに該当するか(➊ ❷ ❸)、担当医に聞いてみてください。真菌や歯性は、CTや歯科受診が必要になります。それぞれの病態に応じて、治療方針が変わります。
➊急性鼻副鼻腔炎
❷成人慢性鼻副鼻腔炎
*慢性副鼻腔炎(蓄膿)
*好酸球性副鼻腔炎(新型鼻副鼻腔炎)
*アレルギー性鼻副鼻腔炎(またはアレルギー性鼻炎に副鼻腔炎の併発)
*副鼻腔真菌症
*歯性上顎洞炎
❸小児慢性鼻副鼻腔炎
➡実際の診療では、風邪に伴う急性副鼻腔炎の反復と慢性鼻副鼻腔炎の急性増悪(急性副鼻腔炎の合併)での病院受診が多くみられます。
『疾患解説』
➊急性鼻副鼻腔炎
急性鼻副鼻腔炎は、誰もが経験する最も多い疾患で、副鼻腔の中を外から見えませんので、感冒の鼻症状が強い場合を想定して下さい。
感冒の一般的な自然経過は、まず微熱や倦怠感、咽頭痛を生じ、続いて鼻汁や鼻閉、その後に咳や痰が出てくるようになり、発症から 3日目前後を症状のピークとして、7~10日間で軽快していきます。咳は3週間ほど持続することがあります。
海外の報告では、ウイルス性感冒のうち、2%未満が細菌性鼻副鼻腔炎を合併し、鼻汁の色だけでウイルス性か細菌性か区別できないとされています。急性ウイルス性鼻副鼻腔炎は10日以内に自然治癒すると考えられています。急性鼻副鼻腔炎に関しては、細菌性鼻副鼻腔炎が疑わしい場合でも、抗菌薬投与の有無に関わらず、1 週間後には約半数が、2 週間後には約7 割の患者が治癒することが報告されています。また、抗菌薬を服用すると7~14 日目に治癒する割合は高くなるものの、副作用(嘔吐、下痢、腹痛)の発生割合も高く、抗菌薬投与は欠点が利点を上回る可能性があることが報告されています。
2017年抗微生物薬適正使用の手引き 第一版 (厚労省)では、
◆成人急性鼻副鼻腔炎は、
2010年急性鼻副鼻腔炎ガイドライン(日本鼻科学会)の方針に基づき
軽症は抗菌薬投与しない
中等症~重症は抗生剤使用:まずはアモキシリン5~7日間服用
◆小児急性鼻副鼻腔炎(学童期以降)は、
抗菌薬の投与を行わない。
(但し、遷延性または重症の場合を除く)
遷延性または重症例とは
①10 日間以上続く鼻汁・後鼻漏や日中の咳を認めるもの。
②39℃以上の発熱と膿性鼻汁が少なくとも 3 日以上続き重症感のあるもの。
③感冒に引き続き、1 週間後に再度の発熱や日中の鼻汁・咳の増悪が見ら れるもの。
上記の場合は、アモキシリン7~10日間服用となっています。
*2010年急性鼻副鼻腔炎ガイドライン(日本鼻科学会)では、小児も成人同様に中等症~重症は抗生剤使用となっていますので、2017年抗微生物薬適正使用の手引き(厚労省)では、耐性菌対策を考慮した内容になっています。
❷成人慢性鼻副鼻腔炎
以下の疾患のすべてに共通することは、慢性炎症による副鼻腔自然口の狭窄または閉塞で生じますので、難治で高度な場合は、外科的には内視鏡下鼻内副鼻腔手術では自然口を開大して副鼻腔粘膜の正常化を期待することです。アレルギー鼻炎が合併する場合は、抗アレルギー薬、ステロイド点鼻、免疫療法などの保存的治療が中心になります。
☞ 慢性鼻副鼻腔炎(好中球の炎症が中心)
風邪から細菌感染を起こし慢性化すると発症します。
日本発症の非抗菌作用によるマクロライド抗生剤の少量長期療法(3ヶ月程度)を日本ではよく行われています。最近は欧米でも慢性鼻副鼻腔炎の治療としてガイドラインに紹介されてきています。日本ではマクロライドの使用が海外に比べ極端に多く、この治療は、耐性菌対策(AMR)に逆行する治療となりますので、適応を厳選することが重要です。急性増悪時は、抗菌作用を期待して通常の抗生剤を一時的に使用します。保存的加療で効果がない難治例は手術適応となります。
☞ 好酸球性副鼻腔炎
(新型鼻副鼻腔炎:好酸球の炎症が中心)
粘り気のある鼻水が特徴で、嗅覚障害、鼻ポリープが多発します。白血球の一種でアレルギーの病気を起こすと増える好酸球が副鼻腔粘膜に増加してきます。ダニ・スギアレルギーなどの獲得免疫とは違う、自然免疫の関与が考えられています。以前の慢性鼻副鼻腔炎より難治で、手術を行っても再発が多くみられます。
治療は、ステロイドや抗ロイコトリエン薬が主になります。一部の重症例は指定難病として認定されている病気です。難治性の好酸球性中耳炎、気管支喘息、アスピリン喘息などが、多くの症例で合併します。
☞ アレルギー性鼻副鼻腔炎
(アレルギー性鼻炎に合併した副鼻腔炎)
ステロイド点鼻や抗ヒスタミン薬による保存的治療が主となります。上顎洞陰影が、びまん性のタイプに抗ヒスタミン薬にマクロライド療法併用の効果を認める報告もあります。
☞ 副鼻腔真菌症
(CT精査が必要)
侵襲型と非侵襲型が存在し、骨破壊を伴い頭蓋内・眼窩内合併を伴う侵襲型は稀。
非侵襲型は、①真菌塊性と②アレルギー性があります、どちらも副鼻腔の片側発症がほとんどですので腫瘍との鑑別が必要になります。
①最も多いのは真菌塊性の副鼻腔炎で、服薬の効果は乏しく手術加療となります。無症状で偶然に画像診断で見つかることもあります。
②アレルギー性真菌性副鼻腔炎:通常は片側発症のアレルギー性真菌性副鼻腔炎が両側発症すると、前述の好酸球性副鼻腔炎との鑑別が難しくなります。手術加療が第一選択で、術後ステロイド使用します。欧米に多く20代の若い人に多い疾患です。アトピーや喘息の合併を多く認めます。最近の報告では、日本人の鼻茸の真菌を調べると、好酸球性副鼻腔炎の中で、多くのアレルギー性真菌性副鼻腔炎が混ざっていると言われています。
*疾患説明は次のサイトで確認を➡日本口腔外科学会:歯性上顎洞炎
歯根の慢性炎症が原因で、上顎洞炎を起こす病態です。最近は、コーンビームCTの導入で診断が容易になってきました。治療していない齲歯(虫歯)が原因となることは減り、歯科治療後の歯が原因となることが多くなっています。インプラント後の歯性上顎洞炎も認められます。
治療:
従来の歯科治療、原因歯の抜歯の他に、内視鏡下副鼻腔手術で、歯やインプラントを抜去せず症状を改善させる治療も選択肢になっています。
子どもは風邪をひきやすいため、自然変動が激しく、増悪と寛解を繰り返します。小児における慢性鼻副鼻腔炎の病態は、成人のそれとはかなり異なっているため,同一の疾患として取り扱うべきではないと考えられています。また、アレルギー性鼻炎の合併が多く同時に治療をすすめます。
8~10歳ごろから自然治癒傾向が認められ、以前の報告では、思春期ごろには約50%は自然治癒すると言われています。実際には、もっと多くの方が自然治癒しているように思われます。副鼻腔炎は改善しても、ダニなどによるアレルギー性鼻炎の改善は、思春期になってもあまり認めず、アレルギー性鼻炎や花粉症の治療が中心に変わっていきます。最近では、ダニ・スギの舌下免疫療法が、体質改善として注目されています。
このように小児の場合、保存的治療が主で、鼻茸による鼻閉が高度な場合などが手術適応になります。
小児へのマクロライド抗生剤の少量長期療法(2か月)も一定の効果を認めるようですが、子供はすぐに風邪をひき急性増悪を繰り返すため、鼻漏の消失や副鼻腔陰影の消失を目標にすると投薬終了の決定が困難になります。このため、抗生剤の長期服用に対して親御さんが心配されることも多く経験します。
👉 手術適応
中鼻道が狭く保存的治療で改善しないもの
中鼻道に大きな鼻茸(鼻ポリープ)
副鼻腔真菌症
難治な好酸球性副鼻腔炎(術後再発も多いと理解して下さい)
2016年から国を挙げて行われている薬剤耐性菌対策(AMR)は、
次のサイトで確認して下さい➡ AMR: かしこく治して、明日につなぐ(厚労省)
ガイドラインや指針は、作成者により変わってくるものです。
*2010年急性鼻副鼻腔炎ガイドライン(日本鼻科学会)は耳鼻咽喉科の専門医や教授が作成していて、
鼻かみ回数や鼻汁の量が、抗生剤の使用判断となる重症度に強く反映された内容です。
*2017年抗微生物薬適正使用の手引き 第一版 厚労省(急性鼻副鼻腔炎)は、感染症専門医が作成したもので、
発熱、症状の経過や持続時間が重要視された内容です。
2010年急性鼻副鼻腔炎ガイドライン(日本鼻科学会)では、軽症:1-3 中等症:4-6 重症:7-8となり、スコア4以上が抗生剤の適応となります。重症度分類スコアリングでは、臨床的に重要な発熱、症状持続、発症後5日程度での悪化のことは含まれていません。
鼻汁・後鼻漏が中等量あれば4点、頻回な鼻かみで2点、咳がある1点合計7点:重症となり、高用量の抗生剤の使用となります。鼻汁・後鼻漏が中等量で4点となり、疾患分類中等症では常用量の抗生剤の適応となります。
学童のお子さんでは、アレルギー性鼻炎の合併も多く、風邪をひけば上記3つはよくみられる症状ですので、2010年急性鼻副鼻腔炎ガイドライン(日本鼻科学会)の基準では、風邪の学童のほとんどに抗生剤を使用することになりかねません。
2017年抗微生物薬適正使用の手引き 第一版 厚労省(小児急性鼻副鼻腔炎)は発熱、症状の経過や持続時間が重要視された内容ですので、耐性菌対策として進んだ内容になっています。