騒音と難聴:そのスマホの音量で大丈夫?
➡騒音と難聴の変遷
現在は、周囲に色々な音があふれる時代です。高度経済成長の時代には、工場・造船や建築現場の騒音と難聴が問題となっていました。
歴史的には、Bernardino Ramazziniが『パン職人と製粉職人の病気;1700年』『銅細工師の病気;1713年』で騒音性難聴を記載しています。
最近では、産業構造の変化や労働安全衛生法による職場管理がされるようになり、工場・造船や建築現場の騒音は減少していますが、『レジャー騒音』として、スポーツイベント、パチンコ店、カラオケ、ライブ音楽、コンサート、スマホなどの携帯音楽プレーヤーと難聴が問題となっています。
また、環境騒音は、脳卒中、心疾患、不眠、めまいなどさまざまな病気の原因となることがわかってきて、『埋もれた公害』と考えられています。
➡WHOの警告:スマホでの長時間・大音量の音楽で 若者の半数が難聴の危険性
2019年2月12日にWHOは、スマホなど携帯音楽プレーヤーを、長時間・大音量の音楽を聞き続けると回復不能な聴覚障害(騒音性難聴:慢性音響性聴覚障害)になる恐れがあると発表しました。若いときから長時間、大音量にさらされていると、ダメージが蓄積して30代や40代の早い時期に老人性難聴を発症することがあります。
現状では、12~35歳の若者の半数近い11億人が難聴になる危険性が高いと警告しました。
『スマホの安全利用の目安:WHOの提言』
◆成人80dB 小児75dB 週に40時間まで
◆大音量聴取で自動的に音量を下げる機能
◆コンサート会場やイベントでの耳栓利用や会場での音量規制
~周囲の音量の例~
50dB: 小さな声、静かな事務所
65dB:エアコン
70dB: 普通に大きな声、高速走行中の自動車内、騒々しい事務所、
80dB:かなり大きな声、大声で、30cm以内で会話可能
走行中の電車内、パチンコ店内 街頭騒音
90dB: 怒鳴り声、会話成り立たず、カラオケ店内、直近の犬の鳴き声
100dB: 地下鉄車内、電車が通るときのガード下、ドライヤー,コンサート会場
110dB: 直近のクラクションの音、コンサート会場
120dB: 飛行機のエンジンの近く、落雷 救急車のサイレン
👉 学生さんが、バスや電車の通学でスマホの音楽を聴いていて周囲から聞こえるようであれば90dB以上ありますので危険領域と考えて下さい。
~騒音難聴ガイドライン(1992年)および国際労働機関によると~
80dB以上の作業場では、音量の測定
85dB以上では、必要な場合は耳栓またはイヤーマフ
90dB以上では、耳栓またはイヤーマフを使用
115dB以上では、耳の音量保護具なしでは立ち入り禁止
140dB以上は、立ち入り禁止
となっています。
👉 騒音難聴ガイドラインでは、カラオケ店やコンサート会場、ライブ音楽会場は耳栓が必要となります。
音量と許容基準時間(日本産業衛生学会、Hearwell, Enjyoy life: 日本耳鼻咽喉科学会HP)
音量 dB | 許容基準時間 | 場所や物 |
60 | リスクなし | イヤホンの適音量 |
75 | リスクなし | 掃除機 |
85 | 8時間 | 街頭騒音 |
88 | 4時間 | カラオケ店内 |
91 | 2時間 | カラオケ店内 |
94 | 1時間 | |
100 | 15分 | ドライヤー コンサート |
110 | 28秒 | コンサート ライブ音楽 |
👉 カラオケ店内、コンサート会場、ライブハウスは音量の許容範囲を超えやすい場所です。長時間の滞在は控えましょう。耳傍でのドライヤー使用も注意です。
2018年10月WHO欧州支部は、欧州地域での環境騒音に対するガイドラインを打ち出しました。Hearwell, Enjyoy life: 日本耳鼻咽喉科学会HP
レジャー騒音(スポーツイベント、パチンコ店、カラオケ、ライブ音楽、コンサート、スマホなどの携帯音楽プレーヤーなど)に対する提言として70dB基準を推奨しています。
70dBというと1mの距離の相手となんとか会話ができるレベルの騒音です。つまり、隣の人の声が確認できないほどの大音量にさらされると、難聴のリスクが高まるとWHOは結論づけています。
➡音響性聴覚障害とHidden hearing loss
強大音による難聴には、聴力の回復が困難なものと(NIPTS)と一過性低下ですむもの(NITTS)があります。近年、回復可能なNITTSでも、内有毛細胞に関する50%程度の機能障害がわかってきました。80%のシナプス障害がでるまで、聴力は正常を示すため、隠れた難聴(hidden hearin loss)と呼ばれています。このhidden hearin lossは、加齢性難聴でも生じていると考えられています。
ロックコンサート(100~120dB)、ピストル、爆発音(130dB~)などのすごく大きな音で、急性に起こる感音性難聴を音響外傷(急性音響性聴覚障害)と呼び、スマホの音楽、パチンコ店、工場の機械音(85dB~)などの長時間・大音量で生じる慢性音響性聴覚障害を騒音性難聴と言います。
耳慣れない言葉で、剣道難聴があります。竹刀による打撃による衝撃で2000Hz、竹刀の打撃音で4000Hzあたりの聴覚低下を起こすことが報告されています。
(徳島大学耳鼻咽喉科HPより)
難聴は、骨導を通してチェーンソーなどの振動でも生じます。
急性の感音性難聴の音響外傷は、早期にステロイドなど治療をおこない一部は回復の可能性がありますが、慢性に生じる騒音性難聴は、不可逆的で一度起こすと回復しません。
騒音職場では、1日8時間労働を行い、5~15年の経過で徐々に難聴が発生し進行します。騒音性難聴は、最もよく知られた職業性疾病の一つです。
➡ 音で、どうして難聴が生じるのか?
声で相手のイメージをいだいたり、歌で励まされ感動を覚えたりもします。
音は大脳でとらえた人の感覚すなわち感覚量だから心に響きますが、感覚量だけなら物理的な耳の障害は引き起こしません。
音は感覚量で、物理的に存在するのは音波です。
音波は、空気の膨張と圧縮により発生する縦波で、力学的エネルギーを持つ物理量です。
慣習的に、人は『音を聞く』といっていますが、これは『音波を聞く』ということになります。物理量の音波は、内耳の蝸牛障害を起こします。
初期は耳鳴り(キー、ミーンなど高音)が出現しますので、耳鳴りが自覚するときは早めの耳鼻咽喉科受診を勧めます。耳鳴りは内耳損傷のサインです。
人間の可聴域は20~20000Hzと言われ、これ以上の音は超音波と呼ばれます。
高周波とは15000Hz~20000Hzの可聴域を指し、『キーン』という音として聞こえます。
40代では15000Hz、50代では12000Hz~の高周波は、ほとんど聞こえないと言われています。
◆高周波のモスキート音で聞こえ年齢をチェックしてみましょう。
会話域は500Hz~2000Hz、騒音性難聴の初期聴力低下の参考値は3000~6000Hzの聴力を参考にしています。
➡ 騒音と難聴対策
職場での難聴対策は、職場管理がされるようになり、産業構造の変化から騒音難聴は減少していて、騒音性難聴の労災申請では昭和62年がピークで平成25年では1/4まで減少しています。産業医がいない、小規模職場での騒音問題は、把握できていません。
職場では、腰痛を筆頭に整形外科疾患が増加、癌、うつ・精神障害、生活習慣病による疾患が増加しています。
今後はレジャー騒音と車・交通機関・飛行機などの環境騒音が、問題となります。
◆スマホ難聴対策には、前述のWHOの提言をもとに実行されことが望まれます
◆音楽は60%の音量で聞くこと
◆音楽や大きな音の楽器演奏を聴かない日を設ける
誰でも普通にかなり大きな音を長時間、耳元で聞けば軽度の難聴が出現しますが、一日もすれば回復することが殆どであまり自覚することはありません。毎日、長期間・大音量を聞くと障害が遷延しますので、音楽や大きな音の楽器演奏を聴かない日を設ける事です。
◆パチンコ店、コンサート、ライブ音楽、スポーツイベントでは、耳栓利用が望まれます
会話可能な耳栓(JIS二種)もあります。
◆お酒を飲んで長時間・大音量を聞かない事(内耳障害を起こしやすくなる報告あり)
~防音保護具の種類~
80dbの騒音に晒されている場所において、NRRが30dbの耳栓やイヤーマフを使用すれば、体感的には50dbの騒音に低減できるということです、NRRが30以上のものを選びましょう。NRR(noise reduction rating)
耳栓(プラスチック、ウレタン、シリコン、スポンジ)
一種 低音から高音まで遮音 騒音の大きい場所で使用
二種耳栓は、騒音職場で、会話が必要な場所またはコンサートやスポーツイベントで使用
耳覆い(イヤーマフ)
工場の現場では蒸せやすくなります。
*拾った音の音量制限するもの
*騒音下での、無線通話できるもの
*外部騒音を検出して逆位相で打ち消すもの
など開発されています。
➡ 騒音性難聴担当医の役割の変化
日本耳鼻咽喉科学会では、昭和の高度成長期に、職場の騒音難聴と労災申請対策として、騒音難聴担当医制度が発足されました。鹿児島県に10名、全国には900余名の耳鼻咽喉科専門医が騒音性難聴担当医の役割を担っています。
職場での聴覚管理がなされるようになり、また産業構造の変化から、騒音職場での騒音性難聴の労災申請は減少してきています。
今後は、さまざまな疾患の原因となる環境騒音や将来的に若者の難聴リスクとなるレジャー騒音対策が社会的問題となっています。
騒音性難聴担当医も毎日の診療の中で、レジャー騒音にたいしての啓発活動の取り組みが求められます。
参考資料
第23回日耳鼻産業・環境保健講習会 講演集