頸部痛の落とし穴:甲状腺疾患
発熱・咽頭痛・頸部痛は耳鼻咽喉科外来ではよくある訴えです。
扁桃炎、咽頭喉頭炎、リンパ節炎が最も多い原因ですが、見逃していけない緊急疾患の急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、喉頭浮腫など、咽頭所見、頸部触診、声の質の変化や開口障害、吸気性喘鳴などの有無を手掛かりに診断をすすめます。
前頚部圧痛があれば甲状腺疾患をみのがしてはいけません。
風邪症状と重なることもあり、頸部触診をしっかり行い甲状腺疾患を疑い頸部エコーを行うことが重要です。
『頸部痛を示す甲状腺疾患』
*亜急性甲状腺炎:
甲状腺の頸部痛の75%(今回のテーマ)
*甲状腺のう胞内出血
*急性化膿性甲状腺炎:
90%は左側発症 先天性下咽頭梨状窩ろうが原因の細菌感染です。
*無顆粒球症:
バセドウ病に対してメルカゾール服用時、特に3ヶ月以内に生じます。
*甲状腺癌(未分化癌、悪性リンパ腫):稀
*橋本病急性増悪: 稀
『亜急性甲状腺炎』
上記の中で最も多いのが亜急性甲状腺炎です。
頸部の自発痛・圧痛(頸部痛は移動することあり)に加え38度台の発熱、甲状腺の腫脹、甲状腺中毒症状(動悸、発汗過多、息切れ、倦怠感、体重減少など)認めます。
どんな人でも発症する可能性があります。
先行する咽頭炎、風邪症状の後に発症することが多いため、ウイルス感染の関与が疑われています。バセドウ病、無痛性甲状腺炎の次に多い甲状腺中毒症状(機能亢進)を呈する疾患です。
臨床で最も重要なのが
①丁寧な頸部触診と
②同時に頸部エコーにて疑います。
甲状腺エコー検査所見:疼痛部に一致して境界不明瞭な低エコー領域を認めます。
③血液検査(WBC CRP FT4 TSH)でほぼ診断が可能です。甲状腺抗体が強陽性例は橋本病急性増悪を疑います。
治療:
運動は避けてできるだけ安静、
軽症はNSAID(イブ、ロキソニンなど)
ステロイド゙内服の効果が高く数日中には痛みが軽減します。
ステロイド減量を急ぐと再燃しますのでゆっくり行います。通常プレドニン20mg程度から開始、1~2週間で5mgづつ減量10mg以降は4週ごとに5mg減量して中止します。永続的低下症の可能性や1.1%に甲状腺乳頭癌の合併の報告もあるため症状経過以後も半年程度は経過をみます。
経過:
頸部の自発痛・圧痛(頸部痛は移動することあり)に加え38度台の発熱、甲状腺の腫脹、甲状腺中毒症状(動悸、発汗過多、息切れ、倦怠感、体重減少など)で発症します。
初期にはこのように典型的な症状を確認できず、最初は発熱、咽頭頸部痛の症状しか気づかず、感冒の診断で抗菌薬や風邪薬を処方されることはよくあります。
20歳以上がほとんどで高齢者でも出現します。甲状腺専門病院では受診までの期間の平均は19日(0~87日)ですので最初はわからないことが多くあります。
参考資料
甲状腺疾患を極める 伊藤病院 新興医学出版社