自宅でできる心肺蘇生
最近では、人が急に倒れた時、AED(自動体外式除細動器)を使うと聞いたことがある方が多いと思います。
*心肺蘇生教育の重要性
AEDの歴史は浅く、以前は医師のみ使用可能だったものが、2003年に救急救命士、2004年に一般市民にも使えるようになりました。
価格も発売当初は100万円だったものが、現在は30万円を切るようになってきています。それに伴い、駅、学校、公共機関、クリニック、人が集まる施設はどこにでも設置されるようになっています。
心停止がおこると、15秒程度で意識が消失し、3~4分そのまま放置すると脳の回復が困難となります。
最近では、一般の人も関心が高く心肺蘇生の講習を受ける機会が増えていますが、
いまだに毎年7万人程度の方が心臓突然死で亡くなり、学校でも毎年100名程度の児童生徒の突然死が発生しています。
日本では、通報から救急車の到着まで平均8.5分かかります。
救急車到着までの質の高い心肺蘇生と致死的不整脈へのAEDの使用で、救命率が明らかに高くなります。
救急車到着までの間、心停止患者のそばにいる一般の人の教育が重要になります。
👉 お子さんがいるご家庭では、いつもそばにいるのは、ご両親となります。お子さんができたら、親の責任として心肺蘇生を習得することを考えましょう。
日本臨床救急医学会ならびに日本循環器学会は、2015年9月30日に「学校での心肺蘇生教育の普及並びに突然死ゼロを目指した危機管理体制整備の提言」を、下村博文 文部科学大臣に提出し、その後文部科学省記者会にて記者会見を実施しています。
*非医療従事者のAED使用の法的見解
『対象の身体に対する「急迫の危害」を回避するための「救命処置」であるAEDの利用により、救命対象を死亡や怪我、障害を与えた場合でも、悪意がなければ使用者は患者本人や遺族から責任を問われない』となっています。
*AEDの使用方法 赤十字のAED使用動画7:20から開始(you tube)
一般の人のAED使用法は、肩などたたいて問いかけて反応がなく、呼吸が無い場合に使用するとなっていますが、実際に使用するには、周りが安全であることを確認に上、意識がないことを確認したら、周囲の人にAED持参と119番通報など協力を迅速に依頼します。
ほぼ同時に脈と呼吸が無いとことを確認して、胸骨圧迫をすぐに開始し、AEDが到着したら患者の頭部の横に置き、すぐに使用の準備をします。脈の確認は一般の人には難しく、胸部と腹部の動きから呼吸が無いことを確認したら胸骨圧迫へ移ります。
意識、脈、呼吸が無いだけでAEDの適応とはならず、致死的不整脈:心室細動、無脈性の心室頻拍のみ適応となり、AED自身が解析し除細動の適応があるか教えてくれます。
我々は、傷病者の衣服を取り除き、AEDの電気を入れメッセージに従うだけです。パッドを貼り、コネクタをAEDに接続し、心リズム解析する前から救助者を患者から離れさせ、ショックが必要であればAEDは充電を行い、ショック(除細動)ボタンを押す直前にも、全員が傷病者から離れたことを確認してボタンを押します。
ショックが不要な場合、およびショックが施行された後は、ただちに胸骨圧迫を再開して質の高い心配蘇生を行います。
👉 講習を受けていない一般の人が心肺蘇生・AEDの使用を迅速に行うには、かなりハードルが高いと思います。
講習を受けたことがある人でも、時々実践練習しないと忘れてしまい、いざという時には、自信が持てず公衆の前ですすんで行うことは出来ません。
*胸骨圧迫&心肺蘇生の重要性
AEDは、魔法の医療器具ではありません。
AEDは、心停止で心室細動(VF)と無脈性心室頻拍(VT)だけ効果があります。
心室細動に対して、1分でAED使用すれば生存率90%、9分では10%の生存率となります。心肺蘇生を行えば、生還する可能性の低下を穏やかにします。
心停止で最も重要なのは質の高い心肺蘇生とVFとVTに対するAEDです。
AEDがすぐそばにあれば、VFとVTには心肺蘇生の前にAEDを施行してもかまいません。
以下の状態にはAEDの効果はありません。
●心静止(心停止で、心臓の電気活動がなく動いていない状態)
●無脈性電気活動(心停止で、心電図上波形はあるが拍出がない状態)
上記は原因治療が重要です。
以下の患者さんにも心室細動・無脈性心室頻拍が無ければAEDの効果はありません。
●酒に酔った酩酊状態で意識が無い人
●蜂に刺されアナフィラキシーショックで意識が無い人
●薬物中毒で意識が無い人
●立ちくらみで意識が無い人
●てんかんで意識が無い人
●脳疾患で意識が無い人
*自宅でできる心肺蘇生
病院外での心停止の70%は自宅で発生していると言われています。
AEDを自宅に持っている方はほとんどいません。
以下に成人の心肺蘇生について説明していますが、一般の人が自宅でできる心肺蘇生として簡略にまとめると
『肩をたたいて患者に、意識がないことを確認後、家族に119番依頼または自分で119番通報します。
呼吸が無いことを、胸部と腹部の動きで確認して、固い表面の上ですぐに100~120回/分で胸骨圧迫を開始して、救急車到着まで行います。
胸骨圧迫のやり方は下記の説明で理解して、胸骨圧迫動画(you tube)で実際を勉強して下さい。』
成人の場合、直後数分間は酸素残留があり、発症直後は人工呼吸は不要ですが、
講習を受けていれば、胸骨圧迫30回に人工呼吸2回(1回に1秒かける)を行ってください。
手際よく学びたい方は、you tube6分程度にまとまった心肺蘇生動画で全体の流れを勉強してみましょう。
成人の心肺蘇生(AEDがない自宅)
火事など危険が無ければ患者を動かしてはいけません。
◆肩をたたいて患者に、意識がないことを確認
◆家族に119番依頼または自分で119番通報
◆喉仏の横の頸動脈で脈を確認(5秒~10秒以内)、同時に鼻と口からの呼吸および胸の動きを、顔を近づけ確認します。頸動脈の触診は普段から確認していてください。一般の人は、頸動脈触診は難しく、呼吸が無いことを、胸部と腹部の動きで確認して、すぐに胸骨圧迫を開始します。10秒以内に上記を行います。
◆脈と呼吸が無い場合、すぐに胸骨圧迫を開始。このとき柔らかいベッド・ソファに横たわっていれば、固い表面に寝かせるか硬い板を下に敷きます。
酸素は、心停止当初は体に残留があり、数分間は身体の酸素需要を満たします、胸部圧迫をしないと心臓や脳への血流が大幅に減少するため、一般の人は胸骨圧迫のみを中断せず行います。
◆胸骨圧迫のやり方: 胸骨圧迫の動画(you tube)
片方の手のひらの付け根を、患者の胸骨の下半分に置き、置いた手の上に、もう片方の手のひらの付け根を置き、腕を真っすぐにし、手の真上に肩がくるようにします。
テンポ:100~120回/分
胸骨を5cm圧迫しその都度、胸骨を元に戻します。
しっかり胸骨を戻すことで、心臓内へ循環血液を戻すことができます。
◆気道確保と人工呼吸:(一般の人は、成人の場合、胸骨圧迫のみで救急車到着を待つ)
質の高い心肺蘇生では、頭部後屈・あご先挙上して気道確保を行い、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回のサイクルを行います。
頸部損傷が疑われる場合、気道確保に下顎挙上法を行います。一回の人工呼吸は1秒かけて行い、1回ごとに胸の上がりを確認します。
過剰な人工呼吸は過換気となり、蘇生に悪影響となります。
人工呼吸による中断は10秒以内で、胸骨圧迫を再開します。
家族内の親しい関係であれば、患者の鼻をつまみ直接口対口人工呼吸も可能です。
👉 成人の場合で意識・脈・呼吸が無い場合、一般の人は、救急車到着まで、人工呼吸は行わず胸骨圧迫のみで問題ありません。
◆死線期呼吸:
赤十字の心肺蘇生動画の4分から説明されています。
普通の呼吸ではなく、呼吸停止と判断して心肺蘇生を行います。
◆呼吸停止
脈はあるが、呼吸が停止している場合です。
119番通報します。
必要な酸素供給と二酸化炭素排出が出来なくなり、次第に脳損傷、心停止を引き起こします。
人工呼吸を5~6秒に1回1秒かけて行い、2分毎に脈拍を確認して、脈拍が無ければ、胸骨圧迫を開始します。
自宅でできる人工呼吸として、家族内の親しい関係であれば、頭部後屈あご先挙上で気道確保してから、患者の鼻をつまみ直接口対口人工呼吸も可能です。
自分用のポケットマスク(2000円前後)をネットで購入しておけば感染を心配せず行うことが出来ます。実際使用するには、前もって練習が必要です。
◆1人ポケットマスク使用手順 心肺蘇生ポケットマスク動画(you tube)
あご先挙上し、ポケットマスクを、鼻をガイドにして顔に密着して使用します。
頭頂部側の手の人差し指と親指をマスクの縁に沿って置き、もう一方の手の親指を体部側のマスクの縁に置きます。体部側の手の残りの指を下顎に当て挙上します。
下顎挙上と共にマスクの外側の縁を強く完全に押し当て顔に密着させます。
胸部が上がるように、1秒かけて息を吹き込みます
動画では、1回1秒かけて2回息を吹き込む説明があるのは、成人の心肺蘇生では、30回胸骨圧迫と2回の人工呼吸を組み合わせるための説明です。
呼吸停止のみで脈拍ありでは、人工呼吸を5~6秒に1回行い、2分毎に脈拍を確認となります。
子どもの心肺蘇生(AEDがない自宅)
小児(1歳から思春期未満 女子は乳房、男子は胸毛・腋毛で確認します)
乳児(1歳未満)
◆成人と小児・乳児への大きな対応の違いは、
〇心停止の過程の違い
成人:成人では心停止後の発症のため血中酸素含量があるため、胸骨圧迫を優先させます。
小児・乳児:心停止発症時に、呼吸不全やショックが認められ、心停止に至る前から、血中の酸素濃度が低下していることが多くなります。
乳児・小児の場合、胸骨圧迫と人工呼吸の両方を行うことが重要です。
〇意識の確認方法
成人:肩をたたき呼びかけ
小児:肩をたたき呼びかけ
乳児:足の裏をたたき呼びかけ
〇脈拍蝕知の場所
成人 頸動脈
小児 頸動脈または鼠径部の大腿動脈
乳児 腋窩上腕側の上腕動脈
〇呼吸無し、脈拍ありの場合
成人:
人工呼吸を5~6秒に1回1秒かけて行い、2分毎に脈拍を確認して、脈拍が無ければ、胸骨圧迫を開始します。
小児・乳児:
人工呼吸を3~5秒に1回1秒かけて行います。
脈拍蝕知しても脈拍60/分以下で、循環不良(顔色がわるい、唇が紫、四肢冷感、反応低下、脈拍弱いなど)あれば、胸骨圧迫を合わせて行います。
〇胸骨圧迫の深さと圧迫時の手の使い方
成人:少なくとも5cm 両手で行う
小児:胸部の厚みの少なくとも1/3(約5cm)
片手または両手で行う
乳児:胸部の厚みの少なくとも1/3(約4cm)
2本指法(1人救助)両拇指圧迫(2人救助)
〇質の高い心肺蘇生の回数
成人:胸骨圧迫30回 人工呼吸2回
小児・乳児:
救助者1人では、胸骨圧迫30回 人工呼吸2回
救助者2人では、胸骨圧迫15回 人工呼吸2回
👉 以上のように複雑で、乳児・小児の心肺蘇生を一般の人が覚えるのは大変で、いざという時に思い出し実践できません。
*自宅できる乳児・小児の心肺蘇生は、119番通報後、救急車到着まで次のことを行います。
『簡略すると、肩(小児)や足裏(乳児)をたたいて意識がなく、頸部損傷の可能性が無ければ、軽く頭部後屈・あご先挙上して、家族内のお子さんお孫さんに、直接、鼻をつまみ口対口(小児)、鼻も口で覆い口対鼻・口(乳児)人工呼吸2回(1回1秒)を胸骨圧迫30回に組入れることです。
胸骨圧迫は、小児では、両手または片手、乳児では2本指法で行います。圧迫箇所は乳頭を結んだ線の一横指下です。』心停止が呼吸不全より先で、すぐに意識が消失のに場合は、胸骨圧迫のみでかまいません。
乳児の頭部後屈は伸展過ぎると気道が塞がれることがあります。
乳児の心肺蘇生動画(you tube) 詳細な乳児・幼児の心肺蘇生(小児:口対口、乳児:口対口・鼻)(you tube)
自分用のポケットマスク(2000円前後)をネットで購入しておけば感染を心配せず行うことが出来ます。実際使用するには、前もって練習が必要です。
参考図書・資料
一次救命処置 AHAガイドライン2015準拠:シナジー 日本循環器学会HP 自動体外式除細動器:ウイキペディア