自宅でできる誤嚥性肺炎予防
『誤嚥性肺炎とは』
日本は超高齢化社会に突入しいて、今後さらに高齢化率は上昇します。
加齢とともに嚥下機能は低下し、75歳以上の3割に誤嚥を認めたと報告があります。誤嚥とは、何らかの理由で飲食物などが、誤って喉頭と気管に行ってしまう状態を呼びます。夜間の唾液、食物や胃の内容物の逆流による誤嚥の影響で、体力や咳反射の低下とともに誤嚥性肺炎が発症する場合もあります。
日本人の全死亡原因(28年)の第3位になった肺炎の多くが、誤嚥性の関与が考えられています。
下記の症状があれば、誤嚥性肺炎を疑って下さい。
●飲み込みにくさ 飲み込み時のむせ、咳
●食後の残留感、痰、違和感
●食事時間が長くなる、食事量の減少、体重減少、咳痰の持続
●反復する肺炎
『誤嚥性肺炎の大きな原因は三つ』
➊嚥下がうまくできない事
❷口腔内細菌の増加
❸抵抗力・咳反射の低下
➊嚥下がうまくいくには
➡脳が食べ物を認識し口腔咽頭や手などへ嚥下命令をうまく伝達(神経内科、脳外科、リハビリ科)
➡口腔と舌の機能(歯科、耳鼻咽喉科)
➡咽喉頭の機能(耳鼻咽喉科)
➡食道の機能(消化器科)
➡全身の管理(内科、在宅医)
のすべての機能がうまくいって、上手に食べることが可能になり、認知症・脳卒中・パーキンソン病など中枢疾患があれば、嚥下全体の統合がうまく機能しなくなります。さらに、摂食・嚥下機能障害の対応には医師・歯科医師だけで十分とは言えず、栄養士、言語聴覚士、看護師、歯科衛生士、理学療法士、ケアマネージャーなどチーム医療として対応が必要です。
➡ドライマウス(口腔乾燥症)があれば、口腔・喉の潤滑液がなく、飲み込みが悪くなります。
ドライマウスは、当院HP(コラム)自宅でできるドライマス対策を参照して下さい。
👉誤嚥性肺炎より怖いのは、窒息です。高齢化に伴い増加しています。
【窒息:もち・こんにゃくなど】
意識が無い時は、すぐに救急車と心臓マッサージ
意識があり呼吸ができない、話せない、手で首をわしづかみ(チョークサイン)あれば
◇背部叩打法
◇ハイムリッヒ法youtube(乳児や妊婦は禁)
を直ちに行いましょう。背部叩打は、通常のむせや咳では行わず、背中をさすり本人の咳を促してください。
👉 まず食物を使わない
安全に自宅でできる口腔ケアや間接訓練から紹介します。
【口腔】
口腔ケアは、唾液分泌促し口腔内細菌を抑制して、不顕性誤嚥(症状がない知らないうちに進行する誤飲と肺炎)対策に重要です。入れ歯の調整を行い、自宅でできることは、入れ歯清掃、歯磨き、唾液分泌刺激となる唾液腺マッサージ、うがい、アイスマッサージなどあります。夜間に細菌が繁殖するため朝食前の口腔ケアが重要です。不顕性誤嚥とは、食事中以外の夜間などに起こる誤嚥のとこです。
口腔の健口体操少し長め動画で、口腔・喉頭・口唇の訓練がうまくできるように作られています。
【咽喉頭】
シャキア訓練 youtube エビデンスが高い手技です。
【鼻咽腔閉鎖】
軟口蓋の挙上(口蓋帆挙筋)を促し、後鼻咽腔の閉鎖を促進します。鼻から息を吸い、ストローで口からペットボトルの水に息を吐き、泡立てて下さい。腹式呼吸・呼吸機能・喉詰め発声の改善にも効果があります。
【喉頭・気管・呼吸器】
咳・痰をうまくだすには ハフィングyoutubeを行います。
むせている時の対応youtubeやさしく背中をなでて、大きく咳を促します。強く背中はたたきません。
*自宅でできる食事時の姿勢はyoutube、背もたれによりかからず、体をまっすぐにし、顎をひいた、やや前屈みの姿勢が理想です。
*誤飲を防ぐ飲み込み習慣 動画(サイト)東京医療センター:感覚器センター
必ず顎を引きます。ペットボトルは、顎を上げる事になりますので誤飲しやすくなります。
👉 食べ物を食べる直接方法(誤嚥のリスクがでてきます)
鼻で息を吸い、少し口に食べ物をいれ、飲み込み、そして口から息を吐きます:腹式呼吸が大事
*複数回嚥下:何度か嚥下して飲み込みます、食事を嚥下後、空嚥下を促します。
*交互嚥下:飲み込みやすい物と通常の物を交互に嚥下します。水分誤飲がない場合は最後に水やお茶を嚥下します。水は汚染につながりにくいためです。
*食事中は、時々声を出してもらい誤嚥が無いか確認します。
自宅でできることは:
☆1回で飲み込める量を、ゆっくり噛んで食べ、食べ物を口に詰め込み過ぎないことです。TVをつけながらの“ながら 食い”は止めて 食事に集中します。
☆煮たり蒸したり適度に軟らかく、べとつかず、まとまりやすく、適度に水分含み、トロミがある食品を選びます。
☆普段から会話を楽しみ、歌ったり、カラオケを勧めます。
☆会話をする機会が少ない方は、新聞の朗読、外国語の勉強、グループ活動、ボランティアなど社会参加を積極的に行いましょう。
❷口腔内細菌の対策
誤嚥した唾液や食物に細菌が少数ならば、誤嚥性肺炎は生じにくくなります。
口腔ケアでの、丁寧な歯磨きとうがいで、歯垢除去をしっかり行い、原因となる嫌気性菌の増殖を抑えます。
唾液は、抗菌作用があり、嚥下に必要な潤滑液となるため、前述の口腔乾燥症の対策を行います。
❸抵抗力・咳反射を保つには
気管や肺に細菌が入ってしまっても、感染を起こす前に排除できれば、肺炎を予防できます。
*睡眠・休息をよくとり、1日5000歩き、体力を維持します。
*過労・ストレスあれば抵抗力を弱め肺炎のリスクを高めます。
*肉、魚、卵、牛乳を積極的に食べ筋肉や免疫の衰えを防ぎましょう。
*肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチンを接種し肺炎の重症化を防ぎましょう。
*喫煙者は、非喫煙者の4倍肺炎になり易く、禁煙が最も効果的な誤嚥性肺炎予防となります。
『栄養管理について』
7日以上経口摂取で安定した栄養が摂取できない場合は、経管栄養(短期は経鼻胃管、4週間以上PEG;胃ろう)を行います。 胃ろうは嚥下には有利に働きますが、重度嚥下機能患者では、胃ろうを行っても経口摂取が確立できない場合、予後は2年以内のようです。嚥下機能が低下すると、胃ろうを行っても、自身の唾液や口腔内細菌を無症状で誤嚥して肺炎を起こす可能性(不顕性誤嚥)は常にあります。経鼻胃管の場合、10Fr以下のチューブで、鼻孔と同側の食道入口部に挿入します。経鼻胃管そのものにも肺炎のリスクがあるため、食事の時だけ行う間欠的口腔食道経管栄養法もありますが、管理・技術面で難しいことがあります。静脈栄養は、腸を使わないため免疫力が低下しやすく、ビタミン不足に陥りやすくなります。2週間使わないと腸上皮が萎縮して栄養再開時の吸収がが極端に低下します。
『誤嚥性肺炎を予防するための避けるべき薬』
*抗精神病薬
*ベンゾジアゼピン系睡眠薬
*抗不安薬
上記は、中枢に働き、食べ物を認識し口腔咽頭や手などへ嚥下命令を伝達することに影響を与え、口腔乾燥や咳反射低下をもたらすことがあります。
その他には
*咳止め(咳反射低下、口腔乾燥)
*風邪薬(口腔乾燥、咳反射低下)
*利尿薬(口腔乾燥)
*抗ヒスタミン薬(口腔乾燥)
*抗コリン薬(口腔乾燥)
*抗癌薬(味覚障害を生じる)など避けるべき薬となり、
本当に必要な薬なのか、減らせる薬はないか担当医と相談することです。
『老人と胃食道逆流』
高齢者の女性に多く、胃食道逆流症は、腰椎後弯による前屈み姿勢や、骨粗鬆症による円背、食道裂孔ヘルニアの合併が原因となります。嚥下困難、嚥下時痛、誤嚥が問題となります。寝たきりの患者で食後2時間座位を保つと発熱の患者さんの割合が減る報告があり、胃食道逆流症と嚥下性肺炎の関連が推測されます。
自宅でできることは、
*食後2~3時間は横にならない、
*夕食やその後のデザートに甘い者、脂もの、刺激もの(コーヒー、酒は)控えめにします。