回転性めまいの話題&注意点
めまいを訴える患者さんは高齢社会を反映して増加の一途をたどっています。麻痺が無い短期のふらつきは風邪症状、不眠、疲れ、肩こり、脱水など日常生活に問題あることも多く、自己対応で済ませる方も多いと思いますが、ぐるぐる回る回転性のめまいは、びっくりして救急車を呼ばれる方も多くいらっしゃいます。
👉今回は、耳鼻咽喉科医が診察することが多い回転性のめまいの最近の話題と生命に関わるめまいを見分けるうえでの注意点の話です。
三つの話題
①良性発作性頭位めまい症(BPPV)と骨粗鬆症
②メニエール病の中耳加圧療法
③片頭痛とめまいの関係
◆めまいの注意点(危険なめまいを見分ける事)
ふらつきをめまいと考えてない方もいるので、ふらつきも含めてめまいと呼んでいます。
めまいを➊回転性のぐるぐる回るめまいと❷ふらつき(浮遊性めまい)に分けて考えています。
めまいの原因を考える時 ➊末梢前庭性(耳鼻咽喉科疾患に多い)❷中枢性(脳卒中、脳腫瘍など) ❸その他(不整脈、貧血、自律神経、薬剤性、筋力低下、肩こりなど)に分けます。回転性めまいは末梢前庭性に多く、良性発作性頭位めまい症、メニエール病、前庭神経炎、めまいを伴う突発性難聴、内耳炎が代表疾患です。中枢性では、脳卒中・脳腫瘍以外では、近年、片頭痛に関連するめまいが、前庭性片頭痛という疾患単位として確立され、症状として回転性めまいを多く認めます。
話題➊ 良性発作性頭位めまい症(BPPV)と骨粗鬆症
耳鼻咽喉科が扱うめまいには末梢前庭性が多く全めまいの60%を占めます。その中で最も多いのが良性発作性頭位めまい症です。回転性めまいの内耳疾患で、半分程度を占め、男性より3倍女性に多く、中高年の女性に多い疾患です。
内耳の耳石が何らかの理由で剥がれ落ち、それが動くことで三半規管を刺激してめまいが起こります。運動不足、長期臥床、外傷後に起こり易くなります。寝たきり・運動不足など動かないでいると、半器官へ耳石が溜まってしまったまま動かなくなります。それが原因となりBPPVを発症してきます。また耳石もカルシウムであるため、閉経後の女性に多い骨粗しょう症との関連も考えられています。
治療:
浮遊耳石置換法と自宅でのめまい体操です。発症機序から、薬で治す病気ではありません。対症療法として嘔気、めまいに対しての薬物療法は一時的に行う程度です。
通常は、2~3週間で自然治癒することも多い疾患ですが、再発例や難治例も多く認めます。再発率も高いため普段から運動を心がけ、動くことを意識する必要があります。難治例で、毎晩耳石が剥がれて三半規管を刺激して遷延・再発する方には、めまい体操や耳石置換法では間に合わず、上半身を少し高くしての就寝、枕を高くすると起こしにくくなると言われています。
☞ NHKガッテン20191023放送(サイト)上半身挙上の仕方が説明されています。
☞ BPPVの基本事項は次のサイトを見てください。
- メディカルノート BPPV(新潟大学耳鼻咽喉科 堀井教授 監修)
☞ NHK健康チャンネルの動画を参考にめまい体操にチャレンジしましょう。
Ⓐ 後半器官結石(右、左)BPPVのめまい体操(Epley)(動画)
Ⓑ BPPV全般の寝返り体操 BPPV全般のめまい体操(動画)(特に外側半規管結石)
Ⓒ 平衡感覚を鍛えてめまいを解消(動画)
Ⓒの動画は、BPPVだけでなく、前庭神経炎、メニエール病などの急性期後のリハビリとしてのめまい体操や加齢変化による平衡機能の低下予防にも応用できます。
BPPVの難治化要因としての骨粗鬆症との関係:
難治化や再発例は、長期臥床後、二次性(メニエール病後、外傷後)に多いと言われています。骨密度が低下した方に、再発例が多い報告があり、耳石が脆弱化している耳石粗鬆症とも考えられています。今後、若いころからから骨粗鬆症への対応がBPPV発症の予防につながる可能性があります。
骨粗鬆症での対応:
骨密度は20歳ごろがピークと言われ、若いときの過剰なダイエットや痩せすぎは、閉経後の骨粗鬆症の悪化が予測され、骨折予備軍と考えられています。
食事、運動、生活はどうするか?
ロコモ体操:兵庫県立尼崎総合医療センター(youtube)
運動は背筋運動、スクワット、壁で支え片足立ち、壁で支えヒールレイズ(かかと挙上)、水中歩行などのレジスタント運動を行います。食事は、バランスの良い3食を食べ、肉・魚・大豆・納豆・卵・牛乳・小魚・きのこ・鮭などタンパクやカルシウム・ビタミンD・ビタミンKをよく食べましょう。レジスタント運動で筋肉量を維持し、骨密度の減少に効果があります。ビタミンDを維持するには日光浴も大事です。肥満者は少しずつ減量を試みます。急な減量は、筋肉量の低下をもたらします。喫煙や過度の飲酒も骨粗鬆症を早めます。
*骨粗鬆症の運動療法:NHKの健康チャンネル(サイト)
*骨粗鬆症の食事療法:NHKの健康チャンネル(サイト)
*骨粗鬆症の薬物療法:NHKの健康チャンネル(サイト)
を参考にしてみてください。
話題❷メニエール病の中耳加圧療法
メニエール病の基本事項は次のサイトで確認して下さい。
*メニエール病:NHK健康チャンネル(サイト)
耳のめまいの病気のメニエール病は内耳のリンパ水腫でめまいを起こす疾患です。内リンパ水腫を起こす理由はまだわかっていません。メニエール病はストレス、睡眠不足、几帳面との関与が大きい疾患です。月経はメニエール病の誘発因子となり、更年期障害と合併しやすいと考えられています。急性期のめまいに対して、回転性めまいの持続時間は10分程度から数時間程度ですので、内服または点滴加療、急性の聴力低下はステロイド治療などを行います。
この疾患は反復するので予防が重要です。生活習慣の改善、睡眠指導、軽く汗を流す運動をすること、飲水指導を行います。難治例に対して外科的治療は後遺症を残す可能性が高く慎重に検討する必要があります。後遺症を残さない新しい中耳加圧療法が外科的治療の前段階治療と位置づけられます。
難治・再発するケースは多く、難治例(stage4)を対象に、2018年9月から中耳加圧療法が、保険収載されました。
詳細は、*日本めまい平衡医学会適正使用指針(サイト)で確認して下さい。
中耳加圧療法の治療対象は:
保存的治療に抵抗してめまい発作を繰り返し、外科的治療を考慮するメニエール病確実例および遅発性内リンパ水腫確実例(stage4)です。耳鼻咽喉科専門医のみが実施できます。
実施要領:
貸し出しの中耳加圧装置(シリコンゴムチューブを介して、圧波を外耳道を通して鼓膜に送る装置)を1回3分1日2回行い、月間の症状を日誌に記載してもらいます。月1回通院して1年後に評価を行います。2019年10月現在この装置の貸し出しは、一部の大きな病院に限定されています。2020年頃から開業医へも貸し出しが拡大されるようです。
話題❸ 片頭痛とめまいの関係(前庭性片頭痛、メニエール病との併存)
片頭痛の基礎知識は*日本頭痛学会:片頭痛(サイト)*NHK健康チャンネル:片頭痛(サイト)で確認して下さい。
日本では約840万人と推計、ほとんどは30歳までに発症し、6割程度は生理中に悪化、妊娠中は改善、更年期初期に悪化し年齢とともに罹患率は低下します。20台から50台の女性に多く、エストロゲンの関係が考えられています。
めまい患者さんが、頭痛を訴えても、脳卒中や脳腫瘍以外では片頭痛との関連を疑うことは今まではあまりありませんでした。最近では、頭痛外来の片頭痛患者の半数以上に何らかのめまい症状があり、片頭痛とメニエール病の共存率も高いと知られています。前庭性片頭痛という疾患単位として診断基準が確立されたのは近年のことです。片頭痛関連めまい(前庭性片頭痛)は、今まであまり知られていなかったため、難治性や原因不明のめまいの患者さんの中にかなりの割合で含まれていると考えられています。外国の耳鼻咽喉科外来の高齢者のめまいの原因で13%の報告があります。
◆診断
*過去も含め片頭痛症状がある
*めまい前後に頭痛がある
*めまい症状は、自発性めまいや視覚刺激・頭部運動で誘発されるめまいや浮動感(回転性めまいが多いが、一部に浮動感あり)
*少なくとも5回のめまい発作で、5分~72時間持続
*めまい発作の少なくとも50%に1つ以上の片頭痛兆候(頭痛、光・音過敏、前兆)がある
*めまい発作時は、高度難聴はなく、耳鳴・耳閉感のあることは多い
◆治療
*めまい発作時は、トラベルミン、セファドール、ナウゼリンなど
トリプタンのめまい効果は認めないようですが、頭痛には屯用で使用。トリプタンは、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、重度高血圧、重度肝臓病では使えません。
*片頭痛の予防治療が発作の予防に有効
ミグシス、トリプタノール、インデラル、デパケン、SSRI(抗うつ薬)、呉茱萸湯など
*めまいのリハビリ(片頭痛症状も改善することが報告あり)
◆生活で注意点と対策
*強い光、騒音、人混みを避ける
*寝過ぎ寝不足を避け、休日も普段通り
*ストレス回避
*ワイン、チーズ、アルコール、チョコは避ける
*赤系サングラスを選ぶ
*片頭痛発作時は、静かな暗い場所で安静または睡眠、冷たいタオルで痛む箇所を冷やします。
◆めまいの注意点(危険なめまいを見分ける事)
*糖尿病・高血圧・脂質異常症・肥満など動脈硬化の合併を疑わせる既往や発作性心房細動があるときは特に中枢性のめまいの注意が必要です。
*めまい以外に、運動・感覚障害や呂律異常、頭痛、顔面麻痺しびれ、目の焦点が合わない、二つに見えるなどあれば、中枢性をすぐ疑います。
まっすぐ歩けない、突然の肩こり、急に力が入らない、一瞬で消えるしびれのときも脳梗塞の前兆のこともあります。
めまいの他に、耳鳴り・難聴があれば末梢前庭性(耳鼻咽喉科疾患)の可能性が高くなります。
*ACT-FAST(脳卒中の症状と緊急性の標語)
アメリカ脳卒中協会の標語にACT-FASTがあります。
日本心臓財団:ACT-FAST(サイト)を参考に!
- Face:顔がゆがむ➡笑顔を作りゆがみの左右差を確認
- Arm:手の脱力➡閉眼し、手のひらを上にして両腕を伸ばし5秒保持。手の落ち方の左右差をみます
- Speech:言葉が出ない➡簡単な言葉を言う、パタカ発声。滑舌、ろれつが回るかを確認します。
- Time:急いで行動➡症状が出始めた時間を記録し救急車を呼ぶ。治療は早ければその後の経過がよくなります。
血栓溶解療法は、発症4.5時間以内の治療、脳カテーテル治療は、発症8時間以内の治療
👉突然の回転性のめまいがあれば、既に脳外科などでMRIなど画像診断を行い、異常なく耳鼻咽喉科受診を勧められすぐに来院される場合は多くあります。
経過を見る事の重要性:稀ではありますが、最初はめまいだけ、又はめまい・難聴だけの症状が、後で顔面麻痺しびれ・呂律異常・上下肢の協調運動障害の出現や開眼で側方転倒傾向を示すめまいが持続するときは、以下の理由により再度早めに頭部精査が必要になります。
*梗塞の早期MRI診断の問題点
発症24時間以内(特に早期6時間以内は)急性期脳梗塞の5.8~17%に、症状は明らかにもかかわらず、画像所見は異常を認めない偽陰性例があります。
経過観察の上、早めのMRI再検が必要となります。椎骨脳底動脈系は梗塞巣(小脳・脳幹)のサイズが小さく、MRIでの所見出現が遅くなります。
*小脳・脳幹障害の特徴
脳幹障害:めまい以外の神経症状を伴うことが多い
例:ワレンベルグ症候群(延髄外側症候群)動脈の解離性病変により若年層でも発症、めまい・ふらつき・頭痛・嚥下や発声障害が出現。特徴的な感覚障害が出現します(同側の顔面、反対側の上下や体感の感覚障害)
上小脳動脈(SCA)領域の症状:めまい以外に滑舌呂律異常、患側上下肢の協調運動障害
前下小脳動脈(AICA)領域の症状:めまい難聴以外に顔面麻痺、滑舌呂律異常、患側上下肢の協調運動障害、
AICAから分岐した迷路動脈の虚血が生じ、内耳障害と同じ症状が出ます。最初、耳からのめまいに思えても顔面麻痺・しびれや呂律異常の出現に注意します。
後下小脳動脈(PICA)領域の症状:起立や歩行機能障害、開眼で側方転倒傾向を示すめまいです。
ある報告では、小脳梗塞でめまいのみは11%、その96%が後下小脳動脈領域の梗塞です。
👉 後遺症を残すことがあるHunt 症状群も最初はめまいや耳痛、その後高度な顔面神経麻痺が出現
脳からの場合は、額の左右は対称、顔の片側下半分の麻痺は認め手足まひしびれを伴います。脳外科 神経内科で入院加療となります。
脳からではないHunt症候群は、額の皺寄せで非対称になる点で鑑別します。
Hunt症候群は、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性で起きます。水ぼうそうの再発という現象なので、その人の体力が弱ると出てきます。
子どもの頃の水ぼうそうのウイルスが、脊髄の神経の根元や三叉神経や顔面神経の神経節に潜んでしまい、ウイルスの抗体が弱ったり、過労やストレスで免疫が低下したタイミングで症状として発症してきます。顔面麻痺 疱疹 耳痛 めまい 難聴が出現。年間1万人発症。20歳台と50歳台に発症のピークあり。3~4月と6~7月に発症が増加します。三分の一は耳帯状疱疹後、2日以上して顔面麻痺が出現しますので、気を付けなければいけません。顔面神経麻痺は1週間程度症状が進行することもあります。
参考資料
めまいの検査改定3版 診断と治療社
メニエール病の診断と治療 将積 日出夫 日耳鼻会報122:1191-1197、2019
BPPVと骨粗鬆症の臨床的関係 山中 敏影などEquilibrium Res Vol.71(1) 33-39,2012