インフル関連Q&A2020
今年の冬は、新型コロナとインフルの同時流行が予測されるため、10月1日から高齢者(65歳以上)と60~65歳未満の心臓や腎臓、呼吸器に重い持病がある人からの早めの接種が呼びかけられ、高齢の方からの問い合わせが多くなっています。強制ではありませんが、厚労省は、それ以外の人は10月後半まで待つように呼びかけています。9月17日には、日本小児科医会から優先接種順にたいする問題点が指摘されました。
子どもの場合、①一ヶ月程度あけての2回接種のスケジュールのため早めの流行時には間に合わない恐れがあります ②乳幼児の脳症など子供も高齢者と同様に重症化することもあります ③インフル流行時は、子供の集団保育や学校での流行による家族内感染から高齢者への感染が多くみられます。子供のインフル流行を抑えることは高齢者のインフル対策にも重要です。
インフルワクチン効果出現まで2週間かかります。ワクチンの効果持続期間は約5か月と言われていていますが、添付文書では3ヶ月で有効予防水準が78.8%、5か月で50.8%に減少します。流行ウイルスとワクチンの抗原性が一致すれば3ヶ月維持され、インフルの基礎免疫を持っていれば3ヶ月過ぎても維持されとなっています。基礎免疫がなければ、効果の持続期間はさらに一ヶ月短縮されます。
10月初旬の1回接種では、インフルピークの1月中旬から3月末まで効果が十分期待できない可能性もあります。その年・地域によっては、早い場合は11~12月頃から流行することもあり、通常13歳以上は1回接種のため、各自判断して接種時期を決めないといけません。
*R1年度インフルQ&A厚労省(サイト)
*インフルワクチン予防接種(吉 耳鼻咽喉科アレルギー科;サイト)
*インフルエンザ出席停止早見表(学校関係)
【 インフルエンザワクチン関連Q&A】
➊インフルワクチン接種後効果が出るまでの期間は?
❷ワクチン効果の期間は?
❸妊婦や授乳婦の方にインフルエンザワクチンは接種可能か?
❹ワクチン効果はどの程度か?
❺卵アレルギーの人は接種可能か?
❻熱性けいれんやてんかんがあれば接種できるか?
【インフルウイルス・検査・薬・対応のQ&A】
➊妊婦や授乳婦の方に抗インフルエンザ薬は使用可能か?
❷インフルエンザの検査は発症すぐにできるのか?
❸抗インフルエンザ薬の予防投与は保険が効くのか?
❹希望があればだれでも予防投与できるのか?
❺新薬ゾフルーザの処方になぜ警鐘がならされるのか?
❻抗インフルエンザ薬による異常行動はどうなっているのか?
❼うがいでインフルエンザを予防できるか?
❽マスクでインフルエンザを予防できるか?
❾手洗いでインフルエンザを予防できるか?
❿部屋の換気は重要か?
👉 インフルエンザワクチン関連Q&A 解説
➊インフルワクチン接種後効果が出るまでの期間は?
2週間必要
❷ワクチン効果は?
約5か月
添付文書の【薬効薬理】では、3ヶ月で有効予防水準が78.8%、5か月で50.8%に減少します。流行ウイルスとワクチンの抗原性が一致すれば3ヶ月維持され、インフルの基礎免疫を持っていれば3ヶ月過ぎても維持されるとなっています。基礎免疫がなければ、効果の持続期間はさらに一ヶ月短縮されます。
❸妊婦や授乳婦の方にインフルエンザワクチンは接種可能か?
妊婦全時期および授乳婦で推奨される:
妊婦にインフルエンザワクチン接種することにより生後6ヶ月児のインフルエンザ罹患率を減少させます。
チメロサール含有インフルエンザワクチンのチメロサールは極少量のため胎児への影響はないとされています。懸念されていた自閉症との関連も否定されています。
~産科診療ガイドライン2017より~
❹ワクチン効果はどの程度か?
インフルワクチン効果は、重症化予防に効果があり、ウイルス侵入防御はなく、発病阻止効果は低い:
高齢者(65 歳以上)を対象に、インフルエンザワクチンの発病阻止効果は34〜55%、インフルエンザを契機 とした死亡阻止効果は82%と報告されています。乳幼児のインフエルエンザワクチンの有効性に関しては、報告によって多少幅がありますが、概ね20~60%の発病防止効果があったと報告されています。
現在のワクチン皮下注射では、分泌型IgAは誘導せず、血清IgG抗体を上昇させます。血清IgG抗体は、分泌型IgAのような鼻・口腔・気管での侵入を防ぐ効果や交差防御効果はありませんが、生体内でのウイルス活性を弱める効果がありますので感染後の症状発現予防や重症化予防は期待できます。
ワクチン製造に使用されたウイルス株と異なるウイルス株が流行すると、現在の不活化ワクチンの効果は期待できません。その年の流行インフルウイルスが製造ワクチンのウイルス株とすこし異なると、ワクチンを打っても効果があまり期待できない年があるのはそのためです。現在のインフルワクチンは重症化予防に効果が高いと考えて下さい。
日本のインフルエンザ予防接種ガイドライン2018年版では、『卵白抗体陽性でも、卵加工食品を食べても無症状である者では、接種後の鶏卵アレルギーによる重篤な副反応の報告はない』となっています。
米国では、米国アレルギー・喘息・免疫学会(ACAAI)は2017年12月19日、『卵アレルギーのある人でもインフルエンザワクチンの接種は安全であり、医療従事者が接種前に卵アレルギーの有無を確認する必要もない』とする診療指針を発表しています。これまでは、卵アレルギーの人への接種は、専門施設で行うことが推奨されていました。
卵アレルギーによるアナフィラキシーの経験があれば慎重な対応が望まれます。
1994年の予防接種法改正前までは、けいれん後一年は、予防接種は禁止でした。
現在は、過去にけいれん既往者は、接種要注意者として接種可能となりましたが、
添付文書には接種可能者の具体的記載はありません。
◆日本小児神経学会推奨基準(熱性けいれんを既往にもつ小児に対して)
接種基準
1) 熱性けいれんと診断された場合は 最終発作から 2~3カ月の観察期間をおけば
保護者に対し 個々の予防接種の有用性 副反応(発熱の時期やその頻度 他)などについての十分な説明と 同意に加え具体的な発熱時の対策(けいれん予防を中心に)や 万一けいれんが出現したときの対策を指導する条件のもとで接種が可能である。
2) 長時間けいれん(15分以上発作が持続)の既往例は 小児科専門医あるいは,小児神経専門医が診察し その指示のもとに施行する。
➊妊婦や授乳婦の方に抗インフルエンザ薬は使用可能か?
妊婦の人に対して、インフルエンザ薬のリレンザはアメリカFDAのカテゴリーB(ヒトでの危険性の証拠はない)タミフルはカテゴリーC(危険性を否定することが出来ない)吸入薬のイナビルも使用できます。妊婦さんは、重症化しやすく治療を優先した対応が望まれます。注射のラピアクタも使用可能ですが、添付文書で動物実験での流産・早産の記述あります。授乳婦に対しても問題なく使用可能。
~産科診療ガイドライン2017より~
*妊婦&授乳と薬:飲んで大丈夫?(当院コラム:サイト)も参照して下さい。
インフルエンザの迅速検査キットは、
- イムノクロマト法(従来法)と
- 銀増幅装置を使用した超高感度イムノクロマト法(富士ドライケム)
の二種類あります。
従来法は、発症12時間前は、症状があっても陰性と判定とされてしまうことがあります(偽陰性)。発熱直後は、一晩様子をみて明日以降の検査を勧められことがあるのも偽陰性が生じる可能性があるためです。富士ドライケムは、発症6時間以内では、従来法と較べ陽性率が高いことが報告されています。6時間以降は従来法と較べ差はありません。
*富士ドライケム:技術資料(サイト)
*施行医療機関検索(サイト)
発熱後6時間以内の発症すぐの検査は、富士ドライケムの方が従来法より陽性確率は高いようです。従来法のキットは、目視の判定のため、薄く出た場合の判定に迷うことがありますが、富士ドライケムは+または-で出ますので、迷うことはありません。
但し、検査の精度はキットの性能だけに依存するのではなく、検体の取り方も重要な要素です。発症6時間以内の従来法の検査でも、臨床および局所所見が強い方は、陽性確率は高いと思われます。
❸抗インフルエンザ薬の予防投与は保険が効くのか?
自費となります。費用はそれぞれの医療機関・薬局および抗ウイルス薬の種類でも異なります。
❹希望があればだれでも予防投与できるのか?
添付文書では:
予防に用いる場合には、
『原則として、インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者である下記の者を対象とする』となっています。
感染者に接触後、2日以内に投与を開始します。
*高齢者(65歳以上)
*慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者
*代謝性疾患患者(糖尿病等)
*腎機能障害患者
* 1歳未満の患児(低出生体重児、新生児、乳児)に対する安全性及び有効性は確立していない。
誰にでも投与すると耐性ウイルスを広げる危険性があります。
❺新薬ゾフルーザの処方になぜ警鐘がならされるのか?
2018年の抗インフルエンザ薬で最も投与されたのは新薬ゾフルーザのようです。1回の内服で治療が済むことがメリットの薬です。
➡日本感染症学会からは、12歳未満には耐性ウイルスの問題のため慎重投与が提言されています。
➡2018~2019年、ゾフルーザを処方した医師1580人のうち12.0%が,発熱などの症状が遷延した症例を経験しているようです。
~日経メディカル2019年9月3日から~
➡タミフルとゾフルーザの比較で、ゾフルーザ投与群は、二次性細菌性肺炎が多く、入院率も高率であった報告もあります。高リスク群でこの傾向が多く認めています。
~日経メディカル2019年10月4日から~
➡ゾフルーザの半減期は4日程あり、副作用が出たときは長期に体内に残るリスクがあります。
➡ゾフルーザは、タミフルが効かない場合や重症化が懸念される患者にも投与できるため、耐性ウイルスを広げないことが重要です。
❻抗インフルエンザ薬による異常行動はどうなっているのか?
抗インフルエンザウイルス薬の服用と異常行動との因果関係は不明
タミフルの10代への投与が原則中止されていましたが、2018年から投与再開の通知が、厚労省から出ています。
インフルエンザにかかった時には、抗インフルエンザウイルス薬を服用していない場合でも、同様の異常行動が現れること、 服用した抗インフルエンザウイルス薬の種類に関係なく、異常行動が現れること、が報告されています。以上のことから、インフルエンザにかかった際は、抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無や種類にかかわらず、異常行動に対して注意が必要です。
インフルエンザにかかり、自宅で療養する場合は、抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無や種類によらず、少なくとも発熱から2日間は、保護者等は転落等の事故に対する防止対策を講じて下さい。
<転落等の事故に対する防止対策の例>
(1)高層階の住居の場合
・ 玄関や全ての部屋の窓の施錠を確実に行う
(内鍵、補助錠がある場合はその活用を含む。)
・ ベランダに面していない部屋で寝かせる
・ 窓に格子のある部屋で寝かせる(窓に格子がある部屋がある場合)
(2)一戸建ての場合(1)に加え、できる限り1階で寝かせる
~H30年度インフルQ&A厚労省から~
❼うがいでインフルエンザを予防できるか?
風邪には、水うがいで、40%の予防効果が報告され、イソジンうがいでは、10%程度のようです。イソジンが、のど粘膜細胞や細菌叢に影響を与えることが原因と推測されています。インフルエンザは、20分以内に鼻・のどの粘膜から侵入するため、うがい効果はありません。
❽マスクでインフルエンザを予防できるか?
マスクの性能に依存します。不織布マスクは、保温、保湿効果で増殖予防とのどの保護効果あり。マスクはくしゃみ・咳による飛散予防効果(咳エチケット)がありますが、マスクによるウイルスの侵入予防は限られます
❾手洗いでインフルエンザを予防できるか?
手洗いは、接触感染予防の基本です。
石鹸と流水での手洗いによる物理的除去はすべてのウイルスに効果を認めます。インフルウイルスは、消毒用エタノールで効果を認めます。
❿部屋の換気は重要か?
部屋の換気は、飛沫核(空気)感染予防の基本です。
インフルエンザは、密閉、低温、乾燥の条件がそろうと、部屋にいるだけで感染します。いったん付近のものに付着した後、乾燥して水分を含まない微粒子(直径5/1000mm)の感染を飛沫核感染と言います。2µ以下の飛沫核は長時間空中をただよう事ができるため、同じ部屋に一緒にいるだけでも感染します。部屋の換気は重要です。
新型コロナ流行以降、エアロゾル感染と換気の重要性が、皆さんの感染対策の日常に浸透しています。